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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第90話

Last-modified: 2013-03-25 (月) 22:11:34
 

戦端を開いたのは、この戦場で最長の射程を持つバスターだった。
狙撃ライフルが火を吹き、アークエンジェルを狙う。
艦船にとってこれ以上怖い存在は無い。しかし、それを阻む者がいた。
「ちっ、またアイツか」
『連合め、ジンだけでも飽き足らず!』
これだけ離れているにも関わらず、ディアッカはビームを
防ぐ者――蒼い奴――からの突き刺さる様な視線を感じた。
如何に長距離用の火器とはいえ、大気内でビームは減衰する。
グゥルに乗ったジンオーガーは、それを確実にシールドで受け止めていた。
「くそ、着弾位置は変えてるのに・・・エスパーかよアイツは!」
グゥルは本格的な戦闘機などに比べれば速度が落ちる。
その機体で逐一着弾位置を変える狙撃を防ぐのは、単純な操縦の腕だけでは不可能だ。
着弾地点を的確に予測されるのは、ディアッカにとって遭遇した事の無い恐怖だった。
『ディアッカ、あまり無駄弾を使うな。俺達が隙を作るまで待て』
「ちっ、了解・・・!」
アスランの制止と同時に、バスター以外の三機が速度を上げた。
今回バスターに護衛は付かない。ブリッツを失ったザラ隊に、そんな余裕は無かった。
「へっ、来いよナチュラル。今日こそ全員叩き落としてやる」
ディアッカに、最早自らの身を案ずる気持ちは無い。
今はただ、狙撃スコープに映る敵機を全て葬る事に全力を注ぐだけだった。

 
 

「来るか」
接近してくる三つの光点を認めて、刹那は左手に保持していたシールドを放棄する。
減衰しているとはいえ、対艦用のビーム砲を何発も受けたシールドは、
最早使い物にならなかった。
「キラ、大丈夫だな」
『・・・足手纏いになるつもりはありません』
強気な発言を返すキラだが、甲板に佇むストライクは何時もより動きが重い。
『キラはアークエンジェルに取付いた奴の相手をしろ。それ以外は俺達でやる』
『そっそんな、僕は・・・!』
『たまには大人が良い所見せないとな。いくぜ曹長!』
ムウがキラにアークエンジェルの直衛を指示すると、
刹那はそれに頷いてグゥルのスラスターを吹かした。
「大尉はバスターを。後は俺が相手する」
『はぁ!?お前また何言って・・・』
「バスターに撃たせる訳にはいかない。無理は承知でも、やってみせる」
迫る三つの敵影に向かって、ジンオーガーが躍り出る。
ディンを除けば、グゥルに乗っている条件は同じだ。
つまり、新型と機動性では互角という事。
これは今まで機体性能で劣っていた刹那にとって大きな意味を持っていた。
『ちっ、分かった。無理な様ならすぐ言えよ!アークエンジェルだって少しは保つんだ』
「了解した」
ジンオーガーとスカイグラスパーが二手に分かれる。
スカイグラスパーは急上昇して、三機を飛び越えてバスターを攻撃するのだ。
勿論それを許す敵ではなく、スカイグラスパーと同様
空戦機であるディンが迎撃に向かおうとする。
「させるか」
近接信管弾頭を装填したバズーカが火を吹き、ディンの行く手を遮った。
スカイグラスパーが三機の頭を飛び越える。
その間に、デュエルがジンオーガーに接近した。
何時もの様に格闘戦を挑んでくると思われたが、
デュエルは迂闊に格闘の間合いには近付かず、シヴァとミサイルで牽制をかけてきた。
それを躱すと、間髪入れずにイージスの放ったビームが飛んでくる。
「ちっ」
牽制の中で放たれる正確無比な射撃は、シールドで防ぐしかない。
その隙に、デュエルが更に接近。ビームサーベルを一閃する。
横薙ぎに来たそれを、小型スラスターを用いた急制動で躱した。
次に来る二撃目に合せてカウンターを入れる。
何時ものパターンなら、それでデュエルは墜ちる。
しかし、腰のアーマーシュナイダーを掴もうとした手が寸前で止まった。
背筋が粟立つのを感じ、すぐに別の操作に切り替る。
機体をその場から離脱させると、次の瞬間、ビームの閃光がその場を通過した。
デュエルも射撃の邪魔にならない様すぐに離脱した様だ。
「・・・一筋縄ではいかないな」
これまでとの違いに、刹那は静かに驚愕した。
スタンドプレイ、猪突猛進だったデュエルが、イージスと連携を取っている。
新型の中で、この二機のパイロットは間違い無く2トップだ。
それが正確に連携してくるとなっては、これまでの様にはいかない。
「復讐か」
デュエルはパイロットの性格から付け入る隙が多かったのだが、
それが今は全く感じられなかった。
あるのは、ブリッツを、戦友を殺された復讐心、それだけだった。
敵全体に言える事だったが、戦友を失った悲しみ、怒り、
自責の念が、彼らを一つにしている。
「だが・・・」
少年兵として戦場を駆けていた頃から、嫌になる程慣れ親しんだ負の感情。
向けられる事も、自分が抱く事もあった。
「その感情は何も生まない!」
通信は繋がっていない。それでも、刹那は声を張った。
この世界には、まだこんなにも憎しみに溢れている。
今はただ、そんな感情で戦う戦士を少しでも救う為に―――。
「カマル・マジリフ、目標を破壊する!」

 
 

近い様で遠い空中戦が繰り広げられている戦場を、
キラは一人アークエンジェルの甲板上で見詰めていた。
皆に心配されていた通り、今のキラは操縦桿を握っている事すら億劫だ。だがそれでも。
「やれる事が、ある筈だ」
弱気になる自分に首を振り、自分のやるべき事を考える。
エールストライクは跳ぶ事は出来ても飛ぶ事は出来ない。
あの戦場に介入していく術が無いなら、やれる事は自然と限られていた。
「マリューさん、アグニを下さい!後電源コネクターも」
『分かったわ。今そちらに上げる』
やれる事といえば、アグニによる狙撃。
初めから用意していたのか、キラの要請から幾分も経たずに
甲板上へアグニがエレベーターを使って上がって来た。
ストライクにそれを構えさせ、エネルギー供給ケーブルをアークエンジェルと直結させる。
「よし、これで・・・」
狙撃用スコープを覗き込むと、目まぐるしく空中戦を繰り広げるMS達が映る。
刹那のジンオーガーが、イージス、デュエル、ディンの三機を同時に相手している。
卓越した技量があっての事だが、それでも負担が大きい事に代わりは無い。
「そうやって何時も一人で背負い込んで・・・」
キラは刹那のそんな所が嫌いだった。何時でも、最も過酷な役割に自分を充てる。
その役割を成し遂げられるだけの技量が刹那にはあるし、キラが未熟な事もある。
それでも、歯痒さは降り積もっていく。彼の背中は一見頼もしい。
しかし良く見れば、その中に危うさが潜んでいる。
「せめて援護を」
ストライクに片膝を着かせ、狙撃体勢を取る。攪乱役のディンとデュエルは問題では無い。
真っ先に倒すべきは、正確にジンオーガーを狙撃している紅い機体だ。
イージスは刹那の動きを追うのに集中する為か、射撃の直前に動きを止める。
そこを狙えば―――。息を殺し、スコープの中のイージスに集中する。
その間にも、ジンオーガーの苦戦の色は濃くなっていく。
「早く・・・早く・・・!」
焦れる心を抑え、手の力が抜けそうになるのを必死に堪えて、その刻を待った。
ディンの散弾砲とデュエルのミサイルでジンオーガーの動きが鈍った瞬間、その刻は来た。
イージスがグゥルの脚を止め、両手でビームライフルを構える。
パイロット――アスラン――の思惟も完全に刹那に向いていた。今なら墜とせる。
「これで!」
トリガーを引く。迷いは無かった、それなのに―――。
直前、無常にも操縦桿を握っていた手が大きくブレる。
疲れ切った体で、力み過ぎた結果だった。
発射されたアグニは大きく狙いを外し、イージス手前の海面に大きな水柱を作る。
「ああ・・・」
それを眺め、愕然とするキラ。
しかし無力感に苛まれる余裕も無く、背筋に冷たい物が走った。
その源は、探すまでも無く紅いガンダム。
抑え切れない憎悪に全身を貫かれ、キラは無意識にストライクを半歩後退させた。
今までの冷静な動きとは一転、イージスがキラ目掛けて突進してくる。
ムウはバスター、刹那はデュエルとディンを相手にしている為援護は期待出来ない。
アークエンジェルから対空砲火が上がり始めるが、
そんな物はアスランの前に通じる筈も無かった。
「僕がやるんだ、僕が・・・フレイを守るんだ。僕が・・・」
呪詛の様に呟いて、アグニを捨て去る。アスランに、大きな獲物は意味を為さない。
イージスは既にアークエンジェルに肉迫する程接近し、ビームライフルを構えた。
「フレイを・・・!」
ストライクもビームライフルを構え、接近してくるイージスを狙う。
ビームが飛んでくると思っていたキラだが、
その直後に飛んできたのはグゥルのミサイルだった。
「くっくそ」
アスランの憎悪があまりに強くて、思考が全く読み取れない。
それでも、一拍反応が遅れたもののイーゲルシュテルンで迎撃を試みる。
それで半分は撃ち落とせた。後の半分は何とか回避するしかない。
何時もに比べると頼りない動きだが、
この程度のミサイルを回避するだけならなんとかなる。
一発目をギリギリで回避、近接信管でない事に胸を撫で下ろした直後。
―――甘い!―――
聞こえる筈の無いアスランの声と共に、着弾直前のミサイルが次々と火球に変わる。
破片の殺傷圏内にいないストライクにダメージは無い。
だが、爆発により視界が塞がり、衝撃がキラを襲う。
「あうっ!」
キラは咄嗟に何をされたかは分からなかったが、
イージスがミサイルをビームライフルで狙撃したのだ。
目的は、ストライクの動きを封じ、目を潰す事。そして―――。
『キラ、上だ!』
刹那の通信が届いた時には既に手遅れだった。
グゥルから跳び、暗雲を背負ったイージスがストライクの直上で変形する。
禍々しいMA形態が姿を現すと、
機体中心部から大口径のビーム砲、スキュラが発射された。
咄嗟にシールドを構えたキラだったが、構えた角度が悪かった。
ストライクのシールドにはビームコーティングがされているが、
ビームに対してしっかりと角度を取らなければ効果は半減する。
それが高出力のスキュラとなれば尚の事だった。
「ああっ!?」
スキュラの出力に耐え切れず、シールドが爆発する。
ミサイルを躱す為に甲板端に寄っていたストライクは、
爆風によって為す術も無くアークエンジェルから落下を開始した。

 
 

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