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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第98話

Last-modified: 2013-08-26 (月) 20:38:26
 
 

MSのコクピットで見ていたのとは違う、目が眩む様な強い日差しにアスランは目を細めた。
調整された人工的な光しか無いプラントでは、この様な肌を焼く程の日差しは体験出来ない。
そういう意味では希少な体験をしているのだが、
今のアスランにとっては親友を殺した罪を晒し出されている様で気が滅入った。
「アスラン、連絡が取れたぞ。迎えが来る」
船室から金髪の少女、カガリが顔を覗かせた。
先程見せた涙は、今はその跡を目じりに残すのみとなっていた。
「連絡・・・?」
「ザフトとのだ。他に何があるんだ?・・・お前ホントに大丈夫か」
呆けた様子のアスラン心配するカガリ。
心外だな、と口にするものの、色々な事が有り過ぎて一杯一杯なのは事実だった。
「・・・・でもやっぱりお前、あのパトリック・ザラの息子だったんだな」
「気付いていたのか」
予想外の発言に、アスランはさっきに増して呆けた顔になる。
その反応に、馬鹿にするなとカガリは頬を膨らませた。
「当然だろう?ザラって性で、育ちも良さそうだしな。しかもザフトの赤服だ」
施されたコーディネートレベルも高そうだ、とは言わなかった。
カガリ自身、そういう人の見方は嫌いだ。
こう見えて、カガリは各主要国の内情は大体把握している。
勿論、プラント最高評議会議員、パトリック・ザラの名も頭に入っていた。
「それに連絡したらすぐ迎えを寄越すと来たもんだ。
それも、お偉いさんの御曹司だからだろう?」
何か思う節があるのか、彼女は口をへの字にして顔を顰めた。
しかしアスランはそれに対して首を振った。
「そんな事は有り得ない。父上は、そういう事をする人じゃない」
「お前・・・」
行方不明になった息子が見つかったのだ。親なら早く無事を確かめたいのが当たり前で、
寧ろそうで無い方がおかしいくらいなのに、アスランはそれを否定した。
母が死んだあの日から、アスランは父とまともな親子としての会話をした事が無い。
以前に増して仕事に没頭する様になった父の背中を幻視し、アスランは悲しげに言った。
子を子として見てくれない父が悲しいのか、
それを仕方ないとどこかで諦めてしまっている自分が悲しいのか。
「きっと迎えが早いのは・・・アイツのせいだ」
アスランが水面の向こうを指す。
釣られて視線を向けると、連絡であったザフトの船が近付いてきていた。
その船上にいる人間の姿がハッキリするより先に、
波の音に負けない大声がカガリの耳を突いた。
良く見ると、大声を出しているのは船から乗り出している銀髪の男だ。
凄まじい形相でアスランを睨んでいる。
「・・・お前の知り合いか?」
「まぁ、そんな所だ」
戦友なのだろう。少しばかりの嬉しさを滲ませるアスラン。
ただその声とは裏腹に、その横顔は今すぐにでも壊れてしまいそうなくらい歪んで見えた。
「ちょっと待て」
ザフトの船に移る準備を始めようとするアスランを呼び止めて、
カガリは自分の胸元に光っていた首飾りを外した。
「ハウメアの護り石だ。お前、自分で思ってるよりずっと危なっかしいからな。
これに守って貰え」
「・・・キラを殺したのにか?」
投げられた冷めた視線に、一瞬怯んでしまう。
しかし、まるでアスラン自身に向けている様なその視線に、
カガリは護り石をぐいっと突き出した。
「もう誰にも死んで欲しくない。それだけだ」
「・・・・・・」
ほら頭下げろ、と護り石を自分に掛けようとする彼女に、アスランは素直に従った。
記憶が正しければ、この石はかなり貴重で付けられる人間自体限られる代物だった筈だ。
その場の勢いで譲り受けて良い物では無い。しかしアスランは断れなかった。
それを突き出す彼女の顔が、瞳だけで泣いていたから。

 
 

「貴様、どのツラ下げて帰っていた!」
ザフトの船に移ったアスランに向けられた第一声は、戦友の怒声だった。
「ストライクは討ったぞ」
「ふっ」
慣れた調子で怒声を流したアスランに、イザークは頬を緩ます。失ったモノは数多い。
それでも、常に自分の先を奔る男は健在だ。
イザークにとって、これ以上嬉しい事は無かった。
「だが、」
「ん?」
「なんださっきのは!貴様、クライン嬢というものがありながら・・・!」
「・・・・・・」
一瞬の間の後、胸に提げた護り石を摘まんでアスランは首を振った。
「お前の思う様な話は無いぞ。
大体、イザークは女性経験が無いから簡単にそういう想像をする」
「なっ・・・!」
的確な指摘に、イザークの顔が固まる。
彼はアスランより一つ年上であったが、堅物なその性格が災いしてか女性経験が無い。
その容姿、家柄、士官学校での成績、どれをとってもモテそう、
実際女子人気はあったのだが、浮いた話は一つも無かった。
一時期はディアッカとのホモ疑惑が流れた事もあった程だ。
ディアッカの軟派具合を知っていた身近な仲間達は反応に困ったものである。
「おっ、俺はまだまだ修行中の身だ。
プラントの、コーディネーターの未来を憂いれば、女遊びなどしている暇は無い」
「分かった分かった」
アスランにとっても、この状況でイザークの真っ直ぐさは救いだった。
キラの死、ニコルの死、考えなければ、悲しまなければならない事はいくらでもある。
でも今は、戦友に甘えるとしよう。
今まで張り詰めていた体からホッと一息抜いて振り返れば、
カガリの乗ったオーブ船は既に波間の向こうへと消えてしまっていた。

 
 

戦闘機の編隊に誘導され、アークエンジェルは海上を進んでいた。
既にザフトの制空圏を脱出して、アサスカの防空隊と合流していた。
艦内は戦闘の事後処理が一先ず済み、警報も解除された事で静けさを取り戻していた。
その通路を、何時もに増して背筋を伸ばして歩く女性が一人。
「アーガイル二等兵」
「どうしたんですか艦長?」
警報が解除されて非番に入ろうとしていたサイに、女性―――ナタルが声を掛ける。
手には両手に収まるサイズの黒い箱が三つ。
続く言葉は、サイには信じられないものだった。
「ヤマト少尉とケーニッヒ二等兵の遺品整理をしろ」
「えっ、だってまだ死んだと決まった訳じゃ・・・」
「MIAだ。そういう決まりだからな」
三つの内の二つの箱を一方的に渡されたサイは、無言のまま立ち尽くす。
黒い箱を渡されて、実感の無かった友人達の死が、じわじわと実感を帯びていく。
「返事は」
「はっ・・・はい・・・」
依然呆けたままのサイの姿に、ナタルの心が不愉快な軋みを立てた。
ここで謝ってしまうのは容易い。自分の指揮で、自分の命令で死なせてしまったと。
しかしそれは傲慢だ。自分の力不足を棚に上げて散々使いまわした結果の彼らの死だ。
謝るなど言語道断だった。ただその事実を確認し、身に刻む為に、
ナタルは本来なら部下に任せれば良いだけの仕事を自分で行っているのだ。
「・・・後は、マジリフ曹長の分か」
トボトボと歩いて行くサイを見送り、ナタルは残り一つの箱を見やる。
遺品整理は、基本的に死んだ者と親しかった者が行う。
単に部屋にある私物を回収するだけなのだが、
箱に入り切らないモノも余す事無く持って行ける様に、
という古くからのシキタリの様なものだ。しかし刹那と親しかった者が思い付かない。
口数少なくとも誰にでも分け隔てなく接していた彼は、
逆に言えば特別親しい者もいなかった。
「・・・どうするべきか」
一瞬ムウにでも頼もうかと考えたが、今彼は戦友を一気に失って怒りに身を焦がしている。
親しい者を失った喪失感を、悲しみではなく痛みに変換出来るのは
戦士として優れた特性といえる。
しかし、当の刹那達を置いてきた張本人である自分が
彼の前に立つ事は流石に避けたかった。
今ムウがこの黒い箱を見たら、本当にスカイグラスパーに飛び乗って捜索に出かねない。
「仕方ない、自分でやるか」
それが一番厄介事が少ない。ナタルは陰鬱な気分のまま、黒い箱を見詰めていた。

 

カギの部分に穴が開いたドアを潜ると、その先には殺風景な部屋が広がっていた。
どこを眺めても、軍の備品以外の物が見当たらない。
ベットもしっかりとメイキングされているせいで、
カマル・マジリフなど初めから存在しなかったと言われても信じてしまいそうだ。
「あったのは・・・これだけか」
唯一あった私物と言えば、ナタルが今握っている端末である。
見た事の無い型だったが、恐らく映像端末の類だろう。
黒い箱にそれだけ入れると、素手で開けたというドアの穴以外、
本当に何も、刹那の存在を感じさせる物は無くなってしまった。
さっぱりとし過ぎていて、悲しみも、罪の意識すら湧きづらい。
ディンを足止めする為に、最期に見せたジンオーガーの後ろ姿が、
あまりに潔過ぎたせいかもしれない。まるで大空を翔る風の様な人だった。
ナタルが一人感傷に浸っていると、艦内放送から自分を呼ぶ声が聞こえた。
どうやらそろそろアラスカに着く様だ。
部屋の電気を消し、ナタルは感傷を振り払う様にその場を後にした。

 
 
 

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