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機動戦士ガンダムSEED  閃光のハサウェイ 第10話

Last-modified: 2007-11-29 (木) 21:07:52

彼女の先導でアテナイの英雄テセウスのように俺達は迷路のような廊下を歩く。
十字の廊下が幾つもありそこを何度か曲がり歩きベルトーチカの先導で進む。

俺はひょいと反対側の通路の方に体を伸ばすと……

「……ハサウェイさま、そちらは違います。道から外れないよう――」

ベルトーチカに柔らかく注意された。

「すまない。でもこれは……迷ってしまいそうだね」

俺は彼女に謝ると迷宮のような廊下を見る。

「侵入者防止策の一つだ。このように複雑に通路を張り巡らせて招かれざる客を拒むのだよ」

ラウが言う。毎回、通路は内部で移動し。会場にたどり着く正しい道を知るものはベルトーチカを含め僅かだそうだ。
間違った道を通った者はどうなるのだろう?

「こちらへ――既に、先に会場に到着なされた方々もいます」

案内された俺は部屋というか会場の様子に息を呑んだ。

そこは全体が巨大な水槽――アクアリウムの中にフロアが広がっていたのだ。
幻想的な光の元で、様々な種類の魚が泳ぐ光景に思わず圧倒されてしまう。

そして中央に幾つかの卓が用意され、高級なタキシードで身を固めたフロアスタッフが接待の為に忙しく働いていた。
彼らは一見して高級酒とわかりそうな酒をグラスに満たし客に対して恭しく応対している。
奥の方には小さな舞台も用意され、舞台中央には何か奇妙な形のオブジェがある。

変わった形なので思わず見ているとギルバートが俺の視線に頷く。

「古代の楽器の一つでハープ (Harp)というものだ」

「ふぅん?」

ハープ (Harp) は、西洋音楽で用いられる弦鳴楽器ということだ
竪琴(たてごと)と呼ばれる楽器群に含まれらしい。

「では――デュランダルさま。クルーゼさま。ハサウェイさま」

ベルトーチカはここで俺達と別れてホストとしての義務を果たすようだ。

俺達が案内された時にはフロアに既に先客が幾人かいて思い思いに談笑をしていた。
談話をしていたグループの一人が俺達が部屋に入ってきたの見て挨拶をしてくる。

「おぉっ、これはデュランダル殿」

「アマルフィ博士もお元気そうでなによりです」

「クルーゼ殿もお久しぶりですな」

「お久しぶりです議員」

手馴れたものだ。ここではギルバートもラウも名士のようだ。

「デュランダル殿、こちらの方は?」

その紳士は俺に話題を振ってきた。ギルバートは俺の方に向かってその紳士を紹介する。
こちらも端正な顔付きの壮年の紳士だ。物腰も洗練されている。

「こちらはプラント最高評議会のユーリ・アマルフィ議員だ。こちらは私の友人の――」

俺も儀礼の真似事は心得ている。母がその手の出身だったのだから。でもハイソはやはり苦手だ。
その紳士に向かい丁寧に一礼し握手する。

「ハサウェイ・ノアと申します。お目にかかれて光栄です」

「これは、ご丁寧に。ユーリ・アマルフィです」

別の客の一人が目敏くギルバートに質問をする。

「ほぅ? あの方とデュランダル殿とはどうのようなお関係で?」

「彼は東アジア出身のコーディネイターです。そして所謂(いわゆる)、『サムライ』の出身です」

ちょっと待て!と俺は慌てる。確かに母方は良家だったが……

「母方の方に関連がある出身かもしれませんが、父は……」

つい、口篭もってしまう。もう二度と会えない人たちなのだ。

ギルバートと応対してた客は真に受けたらしい。大袈裟に感歎する。

「それは、素晴らしい!」

ラウが揶揄を入れる。

「そして天才的なパイロットなのですよ彼は。連合の圧制に対抗し、幾多の実戦を潜り抜けてきたのです。
  『サムライ・ソード』を手に。今、現在はMSという剣で連合と戦っています」

何しろ訓練とはいえ私が後一歩まで追いつめられましたから、とラウがスラスラとその後を付け加える。
周りからワッと歓声が上がる。

「なんと、あのクルーゼ隊長が! それは凄い!」

「気品のある物腰と思いましたが……どうりで」

周りの紳士淑女たちにも大げさに伝わったようだ。
そして俺の話を聞こうと群がって来る。勘弁してくれ……

俺は周りを囲む男女の質問攻めの返事に困る。そして笑いながらこちらを見ているギルバートとラウを睨む。
しどろもどろになりながら俺は何とか質問に受け答えしていると、

ポロン

その音と同時に音楽が聞こえる。
舞台の方で演奏と歌が始まっていたのだ。

周りの人達の関心が俺ではなく舞台に行き彼らの会話が俺の耳に入る。

「あら? ベルトーチカさまですわ」

「これだけでも来た甲斐がありましたな?」

「デュランダルさまがいらっしゃいますし」

ハープを爪弾きながら透明なソプラノで歌われるその音楽は
幻想的でありときには呪術的でもある。

俺も聞き惚れた。戦い、戦いの連続だった日々。
優しい音楽があることをやっと思い出した。

――パチパチパチパチパチ――

多くの拍手とともに彼女はステージで優雅に一礼し降りてくる。
たくさんの人に囲まれながら話しかけてくる人々に対応し微笑する。
俺もグラスを片手に軽くあげ彼女に賞賛の意を贈る。
目敏く俺を見つけてくれこちらに来てくれた。

「……お耳汚しでした」

「いや素晴らしかったよ」

彼女は俺の方をじっと見る。吸い込まれそうな蒼い瞳だな。
もう少し彼女と話を続けたかったが周りに彼女目当ての人たちが集まり始め、そのような訳にはいかなくなった。
何か言いかけたが、

「では、ごゆっくり……」

「そうさせてもらうよ」

無難な返事をし彼女と別れた俺はギルバート達のグループに戻ることにした。
彼らはアマルフィ議員達のグループと話し込んでいた。

「ジンに……MSにシールドを標準装備ですか?」

「ええ、かなり有効だと思います」

「クルーゼ殿もそうおっしゃっていたが機動性に問題が出ないのか?」

「ですがパイロットの生命の確保が先決と思います。ジンの脱出機構は余りにもお粗末です。ですからMS本体の被弾を抑える事が前提かと」

「その件に関しては既に国防省で検討され、マイウスの工場にも申請して、即座に生産体制入っています」

「アマルフィ議員……それは」

「ザラ国防委員長が許可を出されたのだ。シールド自体の生産は容易い。1週間後には全部隊とはいかないが連合の月基地攻略の実働部隊に配備されるジンに装備が可能だろう」

「連合がMSを開発し実戦に投入することも視野に入れておいた方が良いでしょう」

「馬鹿な! ナチュラルにMSが扱えるはずがない!」

ここにいる。俺はそれは声に出さずに話を続ける。

「味方が持つ新兵器はいずれ敵も必ず手にしてきます。それは歴史的観点から見ても明らかです。
 連合との戦いに対MS戦を視野に入れた方が良いでしょう。被害が大きくなる前に手を打つ事が肝要です」

アマルフィ博士が唸る。

「今まで、誰もそのような話をしたことが無かったな……MSの開発に関しては私も専門家だと自負してきたつもりだ。
 が、やはり理論にすぎない部分もある。実戦を培ってきた者の言葉は違うな」

「連合がMSを? そんなはずは……」

「いや、考えられるぞ。我々はMSで数の優位を覆したが……ナチュラル用のMSが開発され数で来られたら劣勢の我々ではひとたまりも無い」

「いつの時代でも数こそが質を凌いできたのです。『戦いは数です』」

「それに対抗するには機体に量産性を無視した極端な超高性能を備える……か。だがそれではな……」

「もともとプラントは、国力の劣勢をMSという新兵器のアドバンテージでカバーしてきた背景があります。ですがそれは近日中に覆い返される可能性も高い」

「『単機で戦局を左右し得る』究極のMS……」

「その「量より質」の方針を変えることは我がプラントでは厳しいな」

「……核エンジンの搭載機を視野に入れるか――みなさん、申し訳ありませんが、今日のところはこれで失礼する」 

他の人々との会話を遮りアマルフィ議員は自分の随行員を呼ぶと慌しく会場を出て行く。

アマルフィ博士の最後の言葉に俺は些か疑問が出た。
俺の世界では核動力はMSに標準搭載だった。この世界ではNJ(ニュートロンジャマー)によって使用不能のはず。
この疑問について俺はギルバートに囁いてみた。

「『核』は使用できないのだろう?」

「さて? どうなるのだろうね。何か目処があるのかも知れない。元々、『NJ』は我々が開発したものだ」

何らかの抜け道があるのだろう、と彼は締めくくった。
ギルバートは何か秘め事を匂わせていた。

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