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機動戦士ガンダムSEED  閃光のハサウェイ 第29話

Last-modified: 2007-11-29 (木) 21:19:31

「ラウ・ル・クルーゼ! ジン・ハイマニューバ出るぞ!!」

メインスラスターである『MMI-M730試作型エンジン』は抜群の加速力を発揮し、
強烈なGが体に圧し掛かる。

「グッ!」

思わず声を出してしまったが、直ぐに加速のGに体が慣れる。
戦艦『ガルバーニ』のMSカタパルトから射出された私は、無重力の戦場へと踊り出たのだ。

改良型ジン・ハイマニューバの調子は上々だ。整備班は私の癖や動きを良く呑み込んでいる。
後で、金一封モノだ。

前方のメインモニターから視界に映るのは殺風景な『月の世界』だ。
それは確かに、地球という緑豊かな星に比べ、まるで凍りついた『死の世界』だろう。

だが、皮肉な事にこれから未来に向かい発展すべき星こそ、この月の大地にこそ間違いないのだ。

いつの日か、月は人の手によって緑溢れる大地へと変貌し、そして地球のように喰い潰されるのだろうか?
私が生まれて初めて得た同志ともいうべき男の気持ちが、何となくだか分かる気がした。

人は地球という大地に魂を縛り付けられずに、無限の大宇宙へと旅立ち、広がり、
そして種として終りを告げ、自然に消滅しゆくべき存在であると。

――生あるものはいつか滅びる――

それが自然であり、変えようのない時の流れなのだろう。
人の種など、他の『生命』を滅ぼしてまで生き残る価値はあるまい。

――滅びるべきして滅びればいいのだ。

人類の興亡など、無限に広がる宇宙に比べれば砂の一粒にも満たない。

今まで一度たりともなかった感慨に身を浸っている。
『宇宙』とは私にとってただの戦場に過ぎなかったが……今はどうやら違うようだ。

ピー!・ピー!・ピー!

感慨は一瞬で終了する。
我が愛機が敵が至近距離で接近しつつある事を察知し警告してくれる。

「いかんな……戦場でこの低堕落とは、私にも男の『浪漫』とやらが移ったか?」

苦笑してしまう。
ここは戦場だそ。『ラウ』!

改めて自分の名を認識すると……何故か新鮮な響きがある。
私はあの『下劣な男』とは、根本的に違うのだということに驚く。
私は奴とは完全に別の存在なのだ、そして『レイ』も……

自分自身と同様に不運な『弟』にも思いを馳せる。
彼も私と同じように『モノ』を手に入れることができればいいのだがな……

――これらの脳裏の思考は、僅か数秒の事だ。

『彼』と出会い『ニュータイプ能力』に目覚めてから私は確かに変わったのだ。

精神の面では、知覚が急速に拡大し、全てに方向に存在や意思そして、『宇宙』を感じる事が出来る。
肉体的にもだ。最近になって身体的不調は無く、今は絶好調だ。

たとえ、一万の大軍と単身で戦えと命令されても喜んでやるだろう。

ギュゥゥン!

――私はハイマニューバの制御バーニアの噴射しつつ、姿勢制御を行う。
体の一部になったかのように、機体が答えてくれる。
かつて無い事だ。

後方表示用モニターを見ると、後方からジンがそれぞれの戦艦から飛び出して来る。

今回の編成はそれぞれ、3機を1小隊とし私を含め合計18機、6小隊の構成となる。
私の斜め後方の両隣の位置に、私の小隊直属のジンが並ぶ。

私の両脇に付く、彼等の役割は他の小隊のジンとはやや違う。
あくまで私が撃ち漏らした敵機の撃破と自分たちの防御を中心の役割を演じてもらう。

私自身も今回は改良型ハイマニューバの性能をフルに発揮させ、自分の撃墜数のスコアを稼ぐよりも、部下達の援護に回るつもりだ。
そう、今回の作戦の根本的な所は『手柄』を挙げるな、だ。

『個人の勇』よりも、隊全体の規律と行動を優先させる。
個人の『手柄』など作戦が完了すれば勝手に付いて来るのだ。

あくまで、自分たちの防御を優先しつつ、敵に有利な位置を占め、撃破する。
極端に言えば、総勢18機のジンで1機のMAを袋叩きにする事が最高に理想の戦法なのだ。

無論、部下の中には反発する者もいたが……黙らせた。
先頃に手に入れた『ネビュラ勲章』もそうだが、この仮面がモノを言った。
無言で見つめていたら勝手に向うが折れた。

その日は、初めて仮面に感謝した記念すべき日となったのだ。

……戦場に話を戻そう。

先程、ハイマニューバの索敵にも引っ掛かったがMAが群れを成して接近して来る。
部下から緊張した報告が入る。

『前方よりMA郡接近! 数およそ30!!』

倍近い敵戦力に対して緊張しているのだろう。如何にMAとはいえ数は脅威だ。

私は部下達をリラックスさせる為に、慣れない冗談を言う。

「クルーゼより各小隊へ。作戦通りにいくぞ!! いいか相手は動く的に過ぎん! 肩の力を抜いてぶち抜いてやれ!!」

『『了解!!』』

「なに、こちらは頑健なシールドもある。MAの豆鉄砲など、めったな事にはならないさ!」

通信機から複数の笑い声が聞こえた。よし! 頃合だな。
 
「よし! ゆくぞ! 続け!」

『『了解!!!』』

――笑止な事に敵MA郡は無秩序に固まったまま、突っ込んでくる。
しかも、奴等は旧式の『ミストラル』と呼ばれる作業ポットに毛が生えた程度の代物で来るのだ。

このMS・『ジン』に対して何と無謀な……『ジン』――『魔神』の名は伊達ではない事を思い知らせてやろう!

私は口元に冷笑を浮かべつつ、部隊全機に作戦のあるパスワードを送る。

予め幾つかの戦術をキー操作一つで部隊全体に伝わるようにしておいたのだ。
これならばNJの障害など何のそのだ。

私は心から『近代MS戦術講座』試験用対策の『カンニングペーパー』をくれた『友』に感謝する。

私のハイマニューバが先頭になり突撃の攻勢をかける。
まるで、テレパシーで繋がったかのように一切の乱れも無く、18機のジン達は一つの生き物のように、
孫子で言う鋒矢(ほうし)の陣形というべき形態となる。

『ミストラル』の群れは我々のその速攻行動に、まるでついて行けずに右往左往する。

グォォンン!!

一気にMAの群れを貫き、突き破る!!

ズガガガガガッ!!

ハイマニューバのJDP2-MMX22 試製27mm機甲突撃銃が火を吹き、先頭へ飛び出たMAを見事に貫通する!

ドガァァァァァァン!!

爆散すると同時に、もう1機の『ミストラル』が加速し機銃を掃射しながら迫ってきた!

ギュィィン!!

機体を捻り、上手くかわすと同時に私は一気に加速し、相手との距離を詰めて、銃身下部に装着した特注の重斬刀で相手を一気に斬り裂いた!!

グァシャン!!ザシュュッンンッ!!

刺突用の銃剣としての役割を十二分に果たしてれた重斬刀によって、
その哀れな『ミストラル』は完全に両断されてしまった。

先陣を一番乗りし、MA2機を撃破して爆散する機体の光景を横目に、意識を広げ、周囲の状況を感知する。
部下達もそれぞれMAを撃破している。それを視覚によらずに確認できた。

「ククッ……皆やるではないか」

このような時にも便利だな、『ニュータイプ』とは……。

目を使わずして、お前達の戦功をちゃんと見届けているぞ!
後で私の名で勲章の申請をしよう。

思わず笑い、自分の能力にも満足する。
同時に部下達の戦果にも満悦だ。

基本的に3機の内1機が近接、1機が中距離、1機が小隊の死角の防御を重点的に置くようにする。

我々が『ミストラル』の群れを貫いた後、敵MAの数は半数近くが撃破されていた。
こちらの被害はゼロ。完璧だ――

すぐさま、陣形を建て直し、さらに混乱の拍車をかける残りの無秩序なMAどもを殲滅すべく襲い掛かる!!

ズガガガガガッン!!ザシュュッンンッ!!

ドゴォォォン!!

私を含めたジン各機が、容赦なく『ミストラル』どもに攻撃をしかける。
改めて私はMA3機を片付け、他の者も残りの敗残兵の始末をする。

最後は、撃ち、斬り裂き、爆発する。
この単純労働の繰り返しだ。
連合側のMA部隊は、まともな応戦も出来ずに、最初の一撃より呆気なく勝負は着いてしまった。

MA『ミストラル』32機は僅か数分で宇宙の藻屑となった。
こちらの被害は装甲に軽微の損傷を受けたジンが2機のみ。
それも戦闘継続には全く支障が無いレベルのものばかりだ。

私は余りの敵の呆気なさに、思わず、

「こういうのは何と言ったかな?そう……」

『一頭の獅子に率いられし羊群は、一頭の羊に率いられし獅子群を駆逐する』
か?と思い浮かべてしまう。

優秀なMS指揮官の育成。個人の勇ではなく、全体の戦局が見れる者。
これは我々ザフトが、連合に勝利する為の重要な要素になるのでは?と先の事へ想いを馳せる。

ピー!・ピー!

警告音が入る。敵連合宇宙軍所属第3艦隊が接近中のようだ。
艦隊を確認した。

アガメムノン級大型戦艦を始め、ネルソン級(250m級宇宙戦艦) ドレイク級(130m級護衛艦)など。
御大のご登場という訳か……

『クルーゼ隊長……』

部下の不安な声が入る。

「慌てるな。本隊も直ぐに合流する。それに、もうじき我等にとっての『福音』が鳴るのだ」

『はぁ?……! MAの先鋒隊が戦艦より出撃し始めました! 『メビウス』です! 数およそ20!!』

私は一瞬、考え込むが決断した。敵の最初の勢いを潰すのが先決だろう。意気を挫くのだ。

「――よし迎撃するぞ! 先程の連中と違い、連中は直線距離の脚だけは早い! 回り込みながら潰すぞ!!」

『『ハッ!!!』』

ついでに、私は彼らに対する信頼の証として一言付け加えておいた。

「――大丈夫だ。この程度の連中に我等がやられる訳がなかろう?
 ……いざとなれば、私が囮になってでもお前達の血路を切り開いてやる」

『隊長……いえ失礼しました。……我等はご命令通りに動きます』

彼はやや上ずった声を出すが、私への態度を改めた。
どうやら全員、私と命運を共にしてくれるようだ。

「ならば、いくぞ!! 連合の奴等を一兵たりとも『ここ』から生きて帰すな!!」

『『応!!』』

私は『メビウス』の群れを迎撃すべく先頭に立ち最前線へと向かう。
後に続くのは私の意を汲む部下達だ。

この直後に『エンディミオン殲滅戦』は佳境へと移る事となる。
ザフト・連合軍両軍に『エンディミオン』基地壊滅の急報が入るのだから。

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