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機動戦士ガンダムSEED  閃光のハサウェイ 第32話

Last-modified: 2007-11-29 (木) 21:21:11

私の目には、愛機であるハイマニューバの整備担当班長である、むさい髭面が大きく手を振る様子が目に映っていた。

――私自身は現在、ハイマニューバのコックピットに収まっている。

実際にその光景は、私の肉眼では無くハイマニューバの目とも言うべきモノアイのメインカメラから、
転送される映像をコックピット内の正面メインモニターから見ているに過ぎないのだ。

現在のMSのコックピットは人間のように頭部のカメラが映る方向にしか認識されない。

MSのカメラは生産コストの効率をも考慮して一つ目の『モノアイ』と呼ばれるものが主流である。
実際には『ジン』以外のMSは存在しないのだから。建前上は。

『クルーゼ隊長! どうでしょうか!!』

「ああ。メインシステム及びファイヤーコントロール、オールグリーン。いつでも行けるぞ!」

『そいつは良かったぁ!!』

整備班長が整備した私の愛機の状態について、最終確認をしてきた。
私は、補給と若干の修理を終えたハイマニューバに乗り込み、武装のチェックと動作確認を行っているのだ。

そこへ急な警告音と共に、
コックピットの通信計器から艦内からの緊急通信が入る。

「――何か?」

私が答えると聞き慣れたオペレータ嬢の声ではなく、副官のレオノークから直接通信が入って来た。

『クルーゼ艦長!!』

「……『隊長』だ。それで何か?」

やはり、この男を左遷にするか……資料整理室の下っ端にでも……

だが、心優しく寛大な私は些かも不快や怒りを表情に露にせず微笑を浮かべて、
彼の緊急報告とやらを聞いてやろう。私は寛大だからな。

――さっさと報告したまえ。報告が終った瞬間、君の次の職場先をゆっくりと話してあげよう……と思っていたのだが、
次の報告内容が耳に入った瞬間に不埒な考えは消し飛んでしまった。

『……失礼しました!前線で後続部隊が大苦戦してるとの連絡が入りました。
 既に部隊のジンが6機撃破されたそうです』

「なんだと!?」

レオノークの報告によると、私達の先鋒部隊が補給と修理、一時の休息を取る為に後退した直後に、
交代した後続部隊が、あのメビウス<ゼロ>の部隊と接触し激しい戦闘に突入したとの事だ。

後続部隊の構成員は、先の『世界樹攻防戦』の終結の折に補充された兵士達であり、
彼らの殆どは、新兵に近い状態だ。

正面から、まともに連合のメビウス<ゼロ>の猛者どもとやり合うだけの技量はない。

――今、その連合の猛者達を凌駕し渡り合えるのは、我々だけであろう……

現在、私の部隊指揮に耐えうる連中は17名だが、
彼等の内3名のジンは中破し、短時間での戦闘復帰は不可能なのだ。

これらの事も頭の中で素早く計算し、私は、自分を合わせて15名のジンで戦線の突入を決意した。

――これならば勝てる。

そう確信がある。
冷静に敵味方の現有戦力を比較すれば明らかだ。

だが、私は大きく舌打ちをしていた。

――甘かった。

自分の状況判断のミスがまだ苛烈な戦闘を経験した事の無い兵士達を死に追い込んだのだ。
あの時、無理をしてでも自分だけは残るべきだったのだろうか?

いいや、と頭を振る。
どちらにしても帰還は正しい判断だったであろう。
今更、過ぎた事を後悔しても仕方があるまい。今は一秒の時間が金の粒一つよりも貴重だ。

「――レオノーク! 私が出る!! 後続部隊の援護に回るぞ!」

『ですが――』

彼の言いたいことは理解できるが、答えは”ノー”だ。

我々、先鋒部隊は任務として敵中突破を果たし敵軍の士気を挫いたのだ。
今の私は1部隊の指揮官に過ぎない。
これ以上の行動は総司令部の意向に反する上に後続部隊の指揮官達の面子を潰す事になりかねない。
下手したら、命令違反の為に軍法会議ものになる可能性もある。

この時期、ザフト全軍には厭戦気分が蔓延していた。
地球連合軍=ナチュラルなど恐れるに足らず!という悪しき風潮が大きく広まっていたのだ。

MS『ジン』の登場がその事に大きく拍車を掛けている。

だが……

私からすると大甘も大甘、激甘すぎて呆れてしまう。
この程度の優位性など、深い渓谷の崖っ淵を一本の細いロープで対岸に綱渡りするかのような危ういものだ。

何れ、連合がMSを開発し実戦に投入する日が遠くない将来に訪れるだろう。
今はまだ何の備えもしていないプラントの為にも時間を稼がねばならない……

その日が来る前になるべく此方の被害を減らし、連合に致命傷を与えておかねばならないのだ。
そして、来るべき日に備えて精鋭を鍛えるのと、新型MSの開発の為の実戦データの収集も急がねば。

私は目まぐるしく頭を渦巻く思考を一旦中断すると、
レオノークに言葉を続けた。

「――後続部隊の崩壊は全軍の戦線の崩壊に繋がりかねない。その事は理解できよう?」

『――ハッ!』

「ならば、艦の指揮は任せる!全て貴様の自由采配でかまわん。責任は全て私が取るので安心しろ」

『……ハッ! ですが! 全てクルーゼ『艦長』に責任を擦り付けるのは私の男が廃ります!
 『艦長』が罪に問われるのならば、自分も共に軍法会議の場に出頭致します!!』

「……ありがとう」

感激する彼の言葉を、些か釈然としないが礼を言っておく。

――MSが登場にした事により時代は宇宙で運行する戦闘用艦艇の役割を大きく様変わりさせていた。
今までの戦闘艦の戦法は対艦戦闘を中心とし、艦載機の役割は艦隊戦の側面を支える補助的役割が強かったのだ。

それが現在、MSの運用母艦としての機能が濃くなり、MS搭載能力が重視され、攻撃力や制圧力が二の次となった。
艦隊戦による大型巨砲の撃ち合いによる戦争時代はプラントでは終りを告げた。

代わりに、『MS』という個人を表に色濃く出すことが可能な、機動兵器が時代の主役として踊り出てきたのだ。
今までと違い、パイロットの一人一人が『兵士』ではなく、『戦士』として『騎士』として誇りを持つことができる時代となった訳だ。
戦闘のやり方も様変わりしてしまった。

そして、戦艦は時代の主役から転落した。
戦艦は母艦としての機能のみ要求される事となったのだ。

――戦艦が陥落(おと)されると、もはやMSには戦闘継続能力を失ってしまう。
そして、MSが可動せねば負け。
従って母艦の保持と運用は指揮官の重要な要となっている。

母艦が落ちたら即、敗北なのだ。

その点、レオノークやアデスは優れているのだ。
MSを駆って戦うだけが優秀な兵士の資質ではない、が

私には性に合わないのだ。無論、私は『天才』だから戦艦の完璧な運用もできる。

「――クルーゼより各機へ。聞いての通りだ。悪いが、味方の後続部隊が苦戦を強いられている。
 我々は直ちに出撃し、友軍を援護せねばならない――」

そこで一旦、言葉を切る。

「聞いての通り、この行動は総司令部への命令違反の上に、後続部隊指揮官の面子を潰す事になりかねない。これは軍法会議ものだ!
 営倉入りは確実だろう。だが、敢えて私は出撃する!! 味方の危急を見逃す事はできん!!――共に来てくれるか?」

『水臭いですよ!』

『俺らも隊長と臭いメシを一緒に食います!』

『はい!! 急ぎましょう!』

『腕が鳴りますな隊長!!』

『ナチュラルなど叩き落としてやりましょう!』

味方を見捨てる指揮官になど誰も付いて来ないだろう。部下達から頼もしい言葉が返ってきた。
士気が高まったようだ。よし!いけるぞ。

「――すまん」

鼻を啜って私は一言、皆に礼を言うと、

『よし、メビウス<ゼロ>に対する訓練もしてきたお前達だ。私は心配など何一つしない。散っていった仲間の為にも!
 よいか!勝利ではなく全滅させろ!一人として生きて返すな!! 皆殺しにせよ!!」

『『オオオオオォォ!!!!』』

「よし!出撃す――!」

だが、直後に異変がきたのだ。艦全体を大きな揺れが襲った。

――グラッ!グラグラッ!!

「なにィ!?」

思わず大声を上げる。
コックピット内部が大きく振動する。これはハイマニューバが……いいや、艦全体が揺れているのか?

揺れの為に、外にいる整備員の何人かが転倒する様子がメインモニターから確認できた。
私自身はコックピットのシートで身体を固定されたいたお陰で被害はないのだが、
コックピットの外の様子はちょっとした地震の被害ような有様に陥っていた。

地球の自然を知らないプラントの生まれの人間には、
このような揺れを急に、対応しきれないところがあるようだ。

『敵の奇襲による攻撃か?!』

『どういうことだ?!』

皆、かなり混乱している様子だ。
その混乱振りを冷静に観察しそして、

「落ち着け!!奇襲などありえん!!」

私は皆の混乱を静める為に大きく一喝した。

ゴゴゴゴォォォォォ……

遠くから響くような振動が『エンディミオン』の方面から聞こえてくるようだ。

「くっ、これは?……!」

『何だ?』

『隊長!これは?』

私もそうだが、部下達もこのイレギュラーな事態に一時、恐慌状態になりかけた。
だが、その瞬間に私の脳裏に一筋の閃光が駆け抜けた。

――ピキィィィィィィィィン

「グッ!!……これは?」

私の脳裏に思考のシンパシーが伝わる――

それは明確な言葉ではなく、多分に抽象的なモノだ。
しかし、この感じ慣れた『プレッシャー』は誰のなのかは、直ぐにわかった。

私は混乱から、落ち着きを取り戻すと、

「……そうか……それで? クククッ――ははははははッ!!」

私は独り言を口にしながら、知らずに高らかに笑い出していた、
他人が傍から今の私を見たら、危ない人として即刻、頭の病院へ連れて行こうとするだろう。

――基地内に渦巻く破壊衝動……サイクロプスの消滅。エンディミオン基地の最後――

実祭にその光景が目に見えたわけではないが、それが抽象画のように頭の中にイメージとして浮かび上がる。
当然、『彼』とのシンパシーと同時に脳裏に浮かんだのは私の想像が入り混じった光景なのだろう。

『ニュータイプ能力』が如何に超常的な能力でもそこまで便利なものでもないのだ。
私が直感的な『彼』の感応に触れただけに過ぎない。

だが……

「そうか、ハハハッ――あっはははははははははははっ!!」

コックピット内で高笑いをする。
一連の出来事は私の心を爽快へと導いてくれたのだ。

「やった! やってくれたなハサ!! いや『マフティー』!!」

私の心を歓喜の感情が支配する。やってくれたのだ『彼』は!
『エンディミオン』は滅んだ今こそが、完全な勝利の時なのだ!
喜びながら私は指示を出す!

「全軍出るぞ! MS部隊! 全機出撃せよ!!』

『『……』』

ん……?

不思議な事だが、いつもなら皆が一斉に気合の入った声が返されるはずなのだ。
しかし、部下達は何故か無言だった……

「ん? 皆、どうした?」

その反応を訝しく思い、私が皆に問い質そうとしてみると
一斉に歯切れの悪い返事が返って来た。

『――いえ……我々は何があろうとクルーゼ隊長に付いて行きます! 心配無用です……多分』

『隊長、頭の……病……?』

『シッ!! 黙れ! 馬鹿!……隊長、ご命令をどうぞ――!』

??……わからん。
皆は、一体何が言いたいのだ?
――よく分からんが今は、出撃の絶好のタイミングなのだ。

後で話を聞いいておけばよいか……
些か疑問があったが、私は無理矢理に納得した。

「レオノーク!! 私達が出撃したと同時に、艦を全速前進させよ!! 今こそ勝利の女神が我々に微笑んだぞ!!」

一応は有能な、副官にも同じく指示を出してみたのだが――

『……はっ!――はい! 了解致しました!』

レオノークの声が上ずっていた……なんだ?そのおかしな眼差しは……?
我が精鋭を誇る『クルーゼ隊』のジン部隊の部下同様に挙動不審を感じる。
――おかしい。

『……その、なんでもありません』

「……そうか」

……後で、締め上げよう。

気を取り直し、私はハイマニューバのシステムを起動させ、
発進シークエンスに入った。

ガチュャン!ガチャンン!

軽快な足音と共にハイマニューバは私の意思通りにゆっくりと歩きだし、カタパルトに両脚を乗せる。
武装のJDP2-MMX22 試製27mm機甲突撃銃は、前回の出撃時に撃ち過ぎた為に砲身が焼けついてしまい新品へと交換した。

『シールド』の方も自身の防御には然程、使用しなかったが、
味方機の援護と防御に使用したので完全に半壊したのでこれも新品に交換だ。

交換品は通常のシールドなので、私のパーソナルカラーである白とは違い鈍い色をしているのが僅かに不満でもある。
これは、仕方が無い事だろう。
そこまで贅沢を言う程、私は傲慢ではないのだ。

害した気分を一新した私は、部隊に号令をかける。

「クルーゼ隊出るぞ!」

『『了解!!』』

――好し!!やっと、いつもの雰囲気に戻ったようだ。

『――クッ……クルーゼ機発進シークエンスへ……』

――笑いを噛み殺すかのように、微妙なオペレーター嬢の声が耳に入る。

……わからん。
立派な結論である。

今、考えてもわからない事は、今は特に意味のない事なのだろう。
釈然とせんが、まぁいい……今はな。

――だが甘かった。

それは別の機会の話になるのだが……
後に、この事は大きな後悔と苦悶と共に完璧な私のステータスの汚点として苦い記憶を呼び覚ます事となる。

『クルーゼ機発進どうぞ!』

「……ラウ・ル・クルーゼ。ジン・ハイマニューバ出るぞ――!」

ドォォォン!!

カタパルトの射出で、急速な加速とGを身体に受けながら、私は再び戦場へと踊り出る。
勝利が約束された戦場へと――

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