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機動戦士ガンダムSEED  閃光のハサウェイ 第45話

Last-modified: 2008-06-09 (月) 18:11:49

 ――C.E.70年6月3日 23:56 アプリリウス市郊外デュランダル邸執務室にて――

 

 ――ニュータイプとは、宇宙に適応進化した新人類の概念である。

 

 勃発した異世界の一年戦争と呼ばれた大戦の最中に、英雄として名を馳せた
赤い彗星や伝説のニュータイプ戦士等によって現実の存在となったという。

 

 しかし、その能力が戦時下で発現した結果は最悪なものであった。
お互いに判りあい、理解しあい、戦争や争いから開放される新しい人類の姿とは縁遠い、
人殺しの道具として能力が用いられる結果となってしまったのだ。

 

 ――嘆かわしいことだ。

 

 私は自分の執務室でパソコンの画面を開き、厳重なセキュリティシステムを組み込んだ、
専用フォルダからデータを呼び出す。 画面には鮮明な文字で次のような単語が並んでいた。

 

 ”一年戦争記”と”ニュータイプ理論”。

 

 もう内容を諳んじるほど熟読し、憶えていたが、再び目を通し始める。
 改めて思うのだが、このように新たな存在を受け容れようとしない社会や体制に対して怒りが込み上げて来る。
 私自身、科学という名の宗教と遺伝子工学と呼ばれる宗派を絶対視していた時期があった。
 そう、コーディネイターこそが、新たな種だと考えていたのだ。より良く人類を新たな道標に足らんとする存在かと。
 ジョージ・グレンが唱えた人類の調整者。

 

 ――だが、今は違う。

 

 人は、そんなことをせずとも進化するのだ。逆にコーディネイタ―という存在そのものが、
人類の可能性を閉ざし、袋小路に嵌った絶滅寸前の種だと感じてならない。

 

 だが、同時にナチュラルとコーディネイタ―の溝の深さというものは、容易には埋まらないことも理解しているつもりだ。
 これを打開する道の一つとして、私が新たな可能性の道を示唆できると感じている。いや、確信しているのだ。
 その理由の最たるたが、人類の革新たる”ニュータイプ”という存在だ。
 人類が宇宙時代に適応する為に進化した種。人と人が、心と心を共有することが可能な存在。

 

 ――ナチュラル、コーディネイタ―を問わずに、”ニュータイプ”を中心とした宇宙市民社会の構築。

 

 この夢というべきか?或いは理想が頭の中で明確に形作られたときに、歴史が私に対して使命を与えたのだと確信した。
 そう、私自身が人類を導く指標を打ち立てることができるのだ。
 ――この私、ギルバート・デュランダルこそが、この世界で”ニュータイプ”が活躍できる
新たな時代と社会を創り上げる先駆けとなるのだ、と。

 

 人は新しい存在や異質なものを受け入れ難いものである。そして、歴史の常として異質なものは社会から排除される。
 ――だが、同時にこう考えることはできないだろうか?
 その社会の中で、新たな者に対して理解と共感を示す者がいたならば?
 そして、その者が社会の頂点に立ち、権力を握っているのならば?
 ――彼等、新たな存在の権利を守護できる立場にあるとしたら……?

 

 古きものは淘汰されるべきだし、歴史の可能性である新しい潮流を妨げてはならない。
 ――自分は所詮、オールドタイプに所属するだろうが、同時に新しい存在に理解を示せるし、
その時代を建設する為の犠牲と礎となる覚悟もある。

 

 ――古きに執着し、抗う存在を滅ぼせばいい。
 ――UC世界の地球政府の凡人や屑どものように、”地球の重力に魂を縛られた存在”。

 

 新たな存在を認めず、可能性を潰そうとする蒙昧な輩。
 私が、そのような存在を淘汰すべき存在となれないだろうか?
 そして地球は、人類発祥の地ということだけの存在となり保全されるべきなのだ。  
 そう、あの美しい蒼い星は、地球から人類を一掃することによって、静かな終焉を迎えればよいのだ……。

 

 ==============================

 

 ――翌日、デュランダル邸執務室にて。

 

 「……それは、とても危険なお考えですわね」
 「……そうかな?」

 

 執務の合間に、この素晴らしい理想を真っ先にベルトーチカに話してみた。
 私が熟読していたUC世界の資料の多くは、彼女が私蔵していたものである。
 そして、当の資料保有者でもある彼女の意見を真っ先に聞いてみたかった。
 実のところ本当は、ハサウェイの意見を真っ先に聞きたかったのだが、この場にいないのだから、まぁ仕方が無いだろう。
 そうすると、必然的に彼女の意見を先に聞きたくなった。

 

 昨晩のことを私は話してみると、彼女は眉をしかめて反対したと言う訳である。
 そして早速と言うべきか、彼女は逆に私に向って問い掛けてきた。

 

 「ギルバート様、――ではお伺い致しますが、あの”赤い彗星”と御自身とをお比べになって、どちらが優れているとお考えでしょうか?」

 

 唐突な質問ではあったが、熟慮の末に私は素直に答えることにした。

 

 「それは……聞くまでも無いだろう。私は”彼”に遠く及ばないだろうね」

 

 そう、正直に私は応えるしかない。
 ――”赤い彗星”
 UC世界の宇宙市民の代表とも云うべき男。あらゆる英雄の資質を兼ね備えたカリスマ的な存在。
 その彼と自分とを比べてみれば、哀しいほど自分との器の格の差というものを思い知ることになるだろう。
 実際に、自分に無い全てのものを兼ね備えているからだ。  
 ……だが最近になって私は、それこそが彼の最大の弱点であったのではないかと、疑うようになっていた。

 

 「はい、私もそう思います。ギルバート様はあらゆる点で、あの御方の足元にも及ばないでしょう」
 「……」

 

 ……だが私のその思案を他所に彼女は、キッパリ、アッサリと断言された。
 目の前で断言されるとさすがにムカついてくるが、理性を総動員して何とか我慢する。
 私は今までそれなりのエリート道を歩んできた。そう、一応は人生の勝ち組の端に引っ掛かってる程度は自負していたつもりだ。
 確かに私は、あの”英雄”の足元にも及ばないだろうが……私にはできる。いや、”私達”と言い換えた方が良いかもしれない。
 そう、異世界の宇宙市民の全てが望んだ偉大な英雄ですら、それ等を成し遂げる事はできなかった。
 どんなに優れた英雄といえども、信頼にも値する同士ともいうべき”男”が最大の敵として立ち塞がったのならば、無理もないことだろう。
 それに、一人では何も成し遂げる事はできないのだ。

 

 そして、彼は一人だったが……しかし、幸いなことに私は一人ではない。心強い同志がいる。
 私一人で不可能だが、三人ならば不可能ではあるまい。 
 ――これこそがこの世界の歴史が”私達”に与えた使命だろう。
 その夢を思い浮かべるだけで、私の心は恍惚と至福へと満ちてゆく。明確な目標ができた”私達”は、今、その夢に向って邁進しているのだ。
 ――あの日、私達三人だけで誓いあった時に飲み干した酒のなんと美味なことだったろう。
 生涯であれほど、美味い酒を飲むことは恐らくは、もうあるまい。夢とは共有してこそ価値がある、
とそう知ったのもあの時だった。
 そう、一人でだけ抱くよりも遥かに世界は、拡がってゆく。
 その為にも……。この戦争をプラントの有利で終結させねばならない。
 美しく、甘美な夢から厳しい現実へと私は帰る。

 

 ……しかし、目の前の彼女は私の内心の葛藤など全く考慮せずに、動じずにこやかに微笑み浮かべていた。

 

 「御理解なさいましたか?先程のお話の内容を実行するには、ギルバート様ではとうてい不可能ということですわ」

 

 ……そこまではっきり云われていまい、私は結構、傷ついていた。
 ……ああ、そうだ。確かに私は凡人であろうよ。  
 内心で罵詈雑言を吐くが、表に出すことは出来ない。ここで激すればただの負け犬だ。
 しかし、ベルトーチカは容赦なく私の傷口を抉る。

 

 「それに今は、そのような状況ではないでしょう?ご自由に妄想に浸るのはよろしいですが、現実に目を向けてくださいね?」
 「……はい」

 

 女に口で勝つのは男には、不可能だというのは人類の歴史が始まって以来の不文律である。
 それに……所詮、女には男の浪漫が理解できないのだろう、とそう納得することにした。  
 ――後でラウとハサウェイに愚痴ればいい。――私は自分をそう慰めることにするのだった。
 気持ちを切り替え、話は本題へと戻る。地球連合が遂行している例の計画のことだ。

 

 ――『G計画』――

 

 何としても計画の全容を知らねばならない。もしも、ナチュラル用MS開発計画ならば、
ここで何としても潰しておかねば。

 

 「……金や労力が幾ら掛かろうが、構わない。何としてもこの『G計画』を調べ上げるのだ」  
 私は断固とした態度をみせた。その私の態度にベルトーチカが柔らか気にと問い掛けてきた。

 

 「調査の結果、ギルバート様のご想像通りのものでしたら、どうなさいます?」
 「――潰す」

 

 私はそう言い切った。私はこの計画推進者であり、責任者でもあるデュエイン・ハルバートンの
暗殺をも視野に入れていた。この男が死ねば、計画は一時的にも頓挫することだろう。

 

 「……ですが、『G計画』を潰したところ、すぐに新たな計画が立ち上がるのではないでしょうか?」
 「……わかっている。いずれは地球連合がMSを実戦に投入してくるのは目に見えている」

 

 戦争で片方の陣営の実戦に有用な兵器を投入すれば、もう片方の陣営が新たにその兵器を
投入してくるのは常識だ。ナチュラルだから、コーディネイターだからという壁は殆ど意味がない。

 

 「……しかし、投入を遅らせる事は可能だ。一年いや、半年。いや、三ヶ月でもいい」

 

 何としても時間を稼ぐ。今のプラントは時間こそが金の粒より貴重なのだから。
 ――ラウもハサウェイもその為に戦っているのだ。
 そして、戦うことができない私が彼等にしてやれることは、彼等の戦える選択範囲を広げて、後方を護り支援することなのだ。
 何としても応えてみせよう。書類や資料が重なり、狭くなった執務机を見回す。
 ――”此処”が今の私の戦場だ。
 今、戦場で戦っている『友』よ。私もこの戦場を戦い抜いて見せる。
 そう、口の中で呟いていた。

 

 ――トントン。

 

 執務室は重苦しい雰囲気に包まれていたが、それを振り払うかのように扉を叩く音がした。
 私は、表情を和らげると、

 

 「――どうぞ」

 

 と、入室を許可した。案の定、見慣れた執事の顔、それに――。

 

 「――失礼致します。旦那様、ベルトーチカ様」
 「――ギル、こんばんわ。それにベルも」

 

 金髪の少年が執事と共にワゴンを運んできた。
 私はおや?と意外な軽い驚きを感じたが、特に気にしなかった。この少年は私の”家族”だからだ・

 

 「どうしたんだい、レイ?」  
 私のその質問に執事の方が恐縮の態を取った。
 「……申し訳ありません旦那様。お坊ちゃまにこのような使用人のような真似を」
 「ヴァーンズを叱らないでギル。僕が強引にやったことだから」

 

 その少年の態度が逆に微笑ましくなってくる。ラウの『弟』であるレイ・ザ・バレルは現在、我が屋敷の若様である。
妻子がいない私にとって、彼は大切な家族であり、恐らく”私達”の後を継ぐ後継者の一人となろう。

 

 「いいタイミングだ。丁度休憩をを入れようと思っていたのだよ」

 

 我が家の一切の家事を取り仕切る執事ヴァーンズが隙の無い仕草で丁寧に3人分のカップを置いてゆく。
 そこからは、薫り高いコーヒーの香りが立ち上っていた。
 ベルトーチカは、しなやかの動きで優雅にカップを受け取ると、一口含んだ。

 

 「――相変わらず、ヴァーンズ殿の淹れるお茶は名人芸ですわね」
 「いえいえ、この程度の事でベルトーチカお嬢様からお褒めの言葉を頂かれるとは面映いものです」

 

 執事がわざとらしくベルに向かって慇懃に一礼すると、室内を穏やかな寛いだ時間が流れていった。  
 その中でふと、私はレイに問てみたくなった。彼自身の未来の可能性への展望の鍵になるのでは――。
という、ほんの思いつきだったのだが。

 

 「そうだ、レイは……ニュータイプをどう思う?」

 

 突然の私の質問にレイは、驚いたようだが、数秒ほど思案に耽る様子を見せると、賢しげな表情で答えてくる。

 

 「ニュータイプ……。ラウやハサウェイから聞きました。人の革新。宇宙に出た人間が進化した存在……ですよね?」
 「――そうだね。その通りだね」
 レイの解答は、模範的だ。だが、私が望む解答はもう少し先にあるので、先を促してみる。

 

 「言葉など使わずとも、ニュータイプ同士は、互いに感じ逢う能力がある聞きましたが」
 「だからこそ――人類全体がニュータイプに、そのような存在となったら素晴らしいと思わないかな?」
 進化という言葉が私の心を擽る。元学者としての性だろうか?このような人類の可能性を示唆する存在が、
この世にあるという事が奇跡なのだから。  
 「ギル……?」
 「ギルバート様?! 」
 「旦那様?」

 

 訝しげな周りの様子を見て、しまったと思った。
 ……私もまだまだ、だ。

 

 「まぁ……人類がそう理解し合える存在になれるといいねレイ……」
 「はい……?」

 

 取り繕うようにして、私は話を締める。レイの方は一瞬だけ目を丸くしたが、彼にとっても、
まだあまりに、荒唐無稽な内容なので、 特に疑問や不自然な質問とは感じていないようだ。
 それにこの事は、まだ机上の空論に過ぎないのだから。
 実際に実現する為にはまだまだ、山のような困難が待ち受けていることだろう。

 

 ――無理をする必要は無いのだ。今は……まだ。

 

 =================================

 

 私はそのギルバート卿の様子を横目で見守りながらも、

 

 「……男の方は」

 

 と、思わず小声で呟いていた。実際に今、この方の頭の大半を占めているのは既に過去ではなく、
これから創り上げようとしている未来についてだろう。
 過去、遺伝子こそが全てであり、運命を決める彼の絶対的価値観であった。
なぜそれ程、彼が執着したかというと、プラントという、この社会そのものが”それ”で成り立っていたからだ。
 その為の理想の一環として実現への展望に夢中となった”運命計画”。

 

 だが、今のこの方の脳裏には、その人ことなど片鱗も残っていないだろう。
 もっと夢中になる存在が目の前へと現れたのだから。

 

 ――夢・野心・理想。

 

 ……様々な言葉で表せるが、私には理解し難いものである。
 男の方はそんな儚い幻のような不確かなものに平気で自分の命を賭けることができる。

 

 tee……Rrr……rr。

 

 チリチリと頭の中の何かがで無理矢理、足掻こうともがいている。
 頭の中に鮮明な映像と音声が木霊する。それはまるで他人の記憶が脳内に無理に展開するような違和感。

 

 ”これによって、地球圏の戦争の源である地球に居続ける人々を粛清する!!”

 

 ――鮮明な音声と共に、赤い軍服を纏った金髪の壮年の男映像が脳裏に浮かび上がってくる。

 

 ”諸君、自らの道を開くため、難民のための政治を手に入れるために、あと一息、諸君らの力を私に貸して頂きたい!
そして私は、父ジオンのもとに召されるであろう!!”

 

 ”私”と隣にもう一人、その映像と音声を見ている。外から見ているような感覚のはずなのに、
自分がまるで、その場で居合わせているような既視感。

 

 ――私でない私の記憶。

 

 ――宇宙に浮かぶ青い地球。

 

 落下する巨大な隕石が地球の軌道が逸れ、遥か虚空へと消えてゆくヴィジョン。

 

 ハッと気が付くと私は慌てて頭を振った。

 

 ――気持ちが悪い……。

 

 これは……この世界に存在しない妄執だ。一人の女の狂った情愛。その残骸なのだ。頭の中で繰り返し囁いてくる。

 

 ――そんなの、私には関係がない。

 

 そう必死に言い聞かせようとも、脳裏に映画のスクリーンが早送りするかのように別の記憶が鮮明に割り込んでくる。

 

 ===========================

 

 ――どこか、セピア色の記憶と風景。

 

 もう人生の晩年を迎えようとしている”私”。

 

 その私が、屋敷の長い廊下を一歩一歩進んでゆく。最近とみに感じる、もう若くはないと。体力的にも下り坂となっている。
 だが、心はあの当時からまるで変わっていないと信じていた。

 

 ”私”が趣味の良い調度品で整えられた広い応接室に入ると、そこには立派な風貌の紳士が待っている。
 彼は年齢を感じさせない、しなやかな動きとその年輪を刻んだ顔に、穏やかな微笑をたたえながら”私”を出迎えてくれた。

 

 『――お久しぶりです――ミズ』
 『――卿もご壮健そうで何よりですわ』

 

 ”私”も最大級の好感と親しみを感じながら、”彼”に対し微笑みながら敬意を込めて挨拶を返す。

 

 ……この方とは、もう何十年来の付き合いになるのだろうか?

 

 当時、彼の”ニュータイプが活躍できる組織”を立ち上げるという理念と志を耳にした”私”は、
一にも二にも賛同し、彼に全面的な協力と援助を申し出た。
 そして彼は私以外にも、その傑出した実力と人望とによって様々な人々から援助と支持を取り付け、
事業や組織の支援や立ち上げをしていたのだ。

 

 私達の会話は差し障りがない世間話から始まり、何時の間にか話題を巧みに誘導しつつ、
卿はさり気なく例の話題へと振ってきた。

 

 『……ミズは、やはり”あの計画”には賛同なのですか?強く推進しているお聞きしましたが』
 『――はい』

 

 困惑したような卿の顔に、”私”は不思議さを感じていた。

 

 確かに”私”は計画に対して、多額の出資と援助及び、その計画の推進を強く勧めている一派に属している。
 今更そのようなことを聞くまでもないではないか?

 

 『私は逆に不思議に思います。これは……”組織”の重鎮たる卿のお言葉とも思えませんが?』

 

 卿は”私”の疑問に苦笑しながら、

 

 『……これは、確かに個人の嗜好の問題だと思いますが……私としては”過去の英雄”を呼び戻すよりも、
その時代ごとに登場する”英雄”の活躍を期待し、手を差し伸べて支持したい、と考えています』

 

 そして、卿のその答えに”私”の心は強く反発している。それでは意味が無い……と。

 

 『……ですが、そのような希望的で不確実な要素よりも、わたくし達はもっと確実な方法をとるべきではないでしょうか?』

 

 崇高な目的で開始された”組織”とその理想を護る為には卓絶した指導者が必要であろう。
そして、この計画こそが確実にその指導者を誕生させるものなのだ。
 それを強く推し進めている私としては”組織”の理念を後世に受け継がせる為にも必要な計画であって、
私心は無い事を吐露したつもりだった。

 

 ……だがその答えを訊くと、卿は悲しげな目で”私”を見つめ返した。
それに私は居たたまれなくなって、我知らずに視線を逸らしていた。

 

 『――残念ですが、人とはそのような単純なものではないと、私は考えます』

 

 そうして、物憂げに天窓の方へと顔を向ける。……卿は”私”の本心など、とっくに見抜いていたのだ。

 

 『――ミズ。私は男ですが、貴女の想いもある程度は理解しているつもりです。私とて、できればもう一度”彼”に逢ってみたい』

 

 卿が今、語っている……”彼”の正体を知った時、私も愕然とした。まさかあの彼が……と。
 しかし、私は実際に戦ったという卿から直接に話をを聞いたのだ。
 卿と”彼”とは敵味方に別れて戦ったが、互いの立場の垣根を越えて理解し合う、良き友人であったと言う。

 

 ――互いに理解し逢えた者同士が戦う。――運命とはやはり、なんと皮肉で残酷なものなのだろうか、と感じたものだ。

 

 そして、卿は、現実に奇跡が起きて、そのような”時と場”が巡ったとしても、その時その場に居合わせるのは
”貴女”であって貴女ではないのだ、と言う。
 ……理解しているつもりだが、一縷の望みがあれば、それでも縋ってみたくなるのが人間なのだ。

 

 ……この計画のメリットは、元の記憶を持つ者の情報をそのまま引き継ぐ事が出来る。
 だが、デメリットとして一方 アイデンティティーの確立に障害を及ぼす危険性があるという。
 そして、まだまだ試行錯誤の段階だが、肝心の”記憶情報”の保全は成功していた。

 

 確かに計画自体に”私”は興味がある訳ではなかった。”私”はその成果にこそ無上の関心があるからだ。
 何故なら……。

 

 『……ですが、私は何としても――』

 

 ――そう、何としてももう一度……。

 

 =========================

 

 ――ここで場面映像が暗転した。

 

 これは、もう正気ではない。……ここまで来ると、”私”はもう狂っているのだろうか?

 

 ――叫びたくなる。

 

 ――忘れない記憶、キオク、きおく。
 ――やめて!止めて!ヤメテ!

 

 ――私には関係ないことだ。そんな妄執を私に押付けないで!

 

 「……ベル?」

 

 私を呼ぶ声にハッと我に返ると、目の前でレイが私を不思議そうな顔で見上げていた。

 

 「ごめんなさいレイ。……大丈夫、何でもありません」
 「……本当に大丈夫?」

 

 レイが訝しげな様子をみせるが、私は慌てて否定した。そして改めて内心、ホッとする。ここは現実なのだ、と。

 

 「……本当に何でもありませんからっ……!」

 

 その私の取り乱した様子に、ギルバート様はフム、と頷いている。そして、もしかしたらと続ける。

 

 「もしかしたらベル、ハサウェイ……”マフティー”のことが気になるのかな?」
 「ハサウェイさま……?」
 「”Ξガンダム”も万全とは云えないが、その戦闘力は絶大だ。地球連合の基地を一つや二つ潰すのに造作もないだろうね」

 

 その上、ハサウェイさまは優れたニュータイプの戦士。戦いに素人の私たちが口に出して心配する必要はないと仰る。

 

 「……はい」

 

 私としては、そう答えるしか術はない。
 あの方は今、地球連合軍の月基地殲滅の為に出撃している。ガンダムと共に。

 

 「ガンダム……」

 

 ――UC世界では白い悪魔と恐れられ、最強を謳われ、多くの伝説を残したニュータイプ戦士達が駆ったモビルスーツ。
 ガンダムという名を口にすると、私の胸を熱いものが込み上げて来た。

 

 ハサウェイさまが駆るあれは正真正銘、本物の『ガンダム』なのだ――”ν”の後継者。

 

 ――”真紅のユニコーン”を受け継ぐに相応しい存在……!
 ――ああ、きっとあの真紅のエンブレムが映えるに違いない。
 ――あの方こそ、誰よりもそれに相応しい。本物のガンダムを駆る”ニュータイプ戦士”なのだから。

 

 そう、私がうっとりとしていると申し訳なさそうな声が、耳に入ってきた。

 

 「……楽しそうだね」
 「――こ、これは、その……あの、申し訳ありません!ギルバート様!」

 

 我に返って赤面すると、狼狽しきった私は、何も考える事も出来ずに、ただ慌ててギルバート卿に謝るしかなかった。
 ――こんな時にこんな妄想に浸るなんて……何たる不覚!

 

 視線を横目にすると、彼は笑いを噛み締めるような表情をしているのが分る。
 ……相変わらず、である。だからなるべくこの方に、弱みを見せたくないのだ。

 

 「いいさ。それよりも休憩に致しますかレディ?」
 「……はい」

 

 気を遣ってくれたのか、或いはからかったかは分らないが、その言葉に私は素直に従う事にした。

 
 

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