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機動戦士ガンダムSeed Destiny -An Encounter with the Trailblazer-_15話

Last-modified: 2014-06-01 (日) 12:22:55
 

ユニウスセブンの大地に、強い光が差し込んだ。
色とりどりの光が宇宙の闇を切り裂く。所属不明艦、ボギーワンが撤退信号を打ち上げたのだ。
信号弾が上がるよりも早く、先の大戦の英雄たちによるコンビネーションで戦闘不能になったアビス
とカオスが後退していた。
執拗にルナマリアのザクを追いかけていたガイアもまた、信号弾の指示に従い後退していく。
戦場を駆けていたシンは言いようの無い苛立ちさいなまれた。
引っ掻き回すだけ引っ掻き回し、涼しげな顔をして去っていく正体不明の敵。

 

「クソ。なんなんだ、アイツら!」

 

苛立ち気に毒を吐き、シンは機体を翻す。
未だに抵抗しているもうひとつの正体不明の敵を撃退し、ジュール隊の工作作業を支援するためだ。
メテオブレイカーを打ち込むゲイツを攻撃していたMSを、シンはビームサーベルで切り裂く。
地球に落ちようとしているユニウスセブンを破砕しているというのに、なんで邪魔ばかり……。
シンは怒り任せに操縦桿を動かす。

 
 

信号弾の上がった直後、ザフト最新鋭艦ミネルバでもその様子を捉えていた。
再三にわたり正体不明の戦艦、ボギーワンに向け国際救助チャンネルにてザフトが地球に落下する
ユニウスセブンを破砕すべく、工作活動をしているのだと伝える。
正体不明の敵がジンを使用しているせいで、事態に当たっていたザフトも一緒くたに攻撃を受けていた。
せめて工作作業の邪魔をしないでくれればと、コンタクトを取り続けていたがようやく実った。

 

「ようやく信じてくれたか」

 

デュランダルがシートに深く身体を預け、疲れたように呟いた。
これで所属不明のMS部隊とユニウスセブンの破砕に集中することが出来る。微かな希望が見えたとき、
キャプテンシートに座っている艦長が首を緩やかに振り、冷ややかに答えた。

 

「いえ、別の理由かも知れません」
「別の理由?」
「高度です」

 

デュランダルとカガリがハッとしたように計器類のほうに視線を向ける。
ユニウスセブンは地球の重力に引かれ、ミネルバもこの場から撤退出来るかどうかの位置に来ていた。
もう時間が無い。一刻も早く破砕しなければ、大気圏を抜けた巨大な質量が地表を破壊する。
カガリは背筋に冷たい汗が流れていくのを感じた。
タリアが小さく俯き、そして己に言い聞かせるようにつぶやく。

 

「我々も、命を選ばねばなりませんわね……助けられるものと助けられないものを」

 

タリアの意味深な言葉に、ブリッジにいるものは指揮官である彼女のほうに視線を向ける。
プラント議長デュランダルとオーブ代表カガリもまた、彼女に真意を問いかけるように視線を向けた。

 

「こんな状況に申し訳ありませんが、議長方は"ボルテール"へお移りいただけますか?」
「なに?」

 

その言葉の真意を掴めず、険しい表情になったデュランダルが問い返す。
カガリもまた同じ想いであった。いったいタリア艦長は何をしようと考えているのだろうか。
二人が思索するよりも前に彼女はあっさりと答えた。

 

「ミネルバはこれより大気圏に突入し、限界まで艦首砲による対象の破砕を行いたいと思います」
「ええ!!?」
「艦長、それは!!」

 

アーサー・トライン副官以下、ミネルバのブリッジにいる者たちに不穏な空気が奔った。
この場にいる誰一人として、地球に降下するなど想定していなかった事態である。
ブリッジに不安や不満が吹き荒れそうになる。躊躇している部下たちに構うことなくタリアは告げる。

 

「どこまで出来るかわかりませんが、未だユニウスセブンの破砕作業は不十分です」
「タリア艦長…しかし」
「できるだけの力を持っているのに、やらずに見ているだけ奈度、後味悪いですわ」

 

力強く、そして冷静に現状を把握しているタリアとは裏腹に、デュランダルが渋面を浮かべている。
ミネルバは確かに大気圏突入スペックを備え、大気圏での飛行も行えるように設計、建造されている。
だが、この艦は先ほどボギーワンとの戦闘により痛手をこうむっているのだ。カタログスペックの能力が
当てには出来ない。もし、耐熱能力が予定値より下回れば、この艦はすぐに摩擦熱で燃え尽きてしまう。
議長の慮っていることを理解しているかのように、タリアが力強く頷き朗らかに笑った。

 

「私はこれでも運の強い女です。おませ下さい」
「−−わかった」

 

議長が小さく微笑む。
そのやり取りを見ていたカガリは、タリア・グラディスを強い女性だと感じ、また何か議長と彼女の間には
言葉に出来ない絆のようなものがあるのでと感じた。

 

「すまない、艦長。……頼む」
「いえ、議長もお急ぎください。ボルテールにデュランダル議長、およびアスハ代表の移乗を通達!
MSに帰還信号!」

 

鋭くタリアが指示を下す。すぐさま帰艦信号を打ち上げ、テキスト通信でミネルバが艦首砲による破砕
作業を開始する胸をシンたちMS隊に通達。同時に艦内の乗員らにも備えるように通達していた。
デュランダルがスッと立ち上がり、カガリに手を差し伸べた。

 

「では、代表」
「私はここに残る」

 

議長が差し出した手を取ることなく、カガリはゆっくりとかぶりを振る。

 

「アレックスが未だに戻らない……それに」

 

間を空けるようにカガリは瞳を閉じた。
数瞬、彼女はある考えをまとめていた。そう、タリア艦長が命掛けで地球を救おうとしていてくれている。
ならば、自分が彼女たちに報いるにはどうすれば良いのか。

 

「ミネルバは、これから大気圏突入シークエンス中に艦首砲による破砕作業を始めるのであろう?」
「ええ…それがなにか?」
「ならば、私が乗っているほうがこの艦にとって利となる」

 

声こそ上がらなかったが、ブリッジに言いようの無い空気が流れた。
いったい何をいようとしているのだろうか、オーブ代表は。そんな感じであった。
ざわついた空気の中、ただ一人デュランダルの表情だけは楽しげであった。

 

「整備も補給もままならぬまま、カーペンタリアやジブラルタル基地までたどり着けるだろうか?」
「ッ!」
「あまつさえ、この艦は先のボギーワンとの戦闘により装甲やスラスターに深刻な痛手をこうむっている」
「私がいれば、少なくともオーブに入国することは可能だ。そして、条件次第によっては整備や補給も」

 

大気圏突入予測地点よりやや離れた位置に、ブリッジクルー全員の視線が集まった。
オーブ首長国連合。カガリ・ユラ・アスハが代表を務める国がそこにはあった。
艦長のタリアの視線が険しくなる。彼女の表情は、艦の弱さを失念していた己に、腹を立てているように見えた。

 

一方のカガリはというと手にじわりと汗をかき、推移を見守っていた。
なにぶん駆け引きに疎い彼女が、精一杯考え持ちかけたことである。
最新鋭艦を建造するのにも、その人員もプラントとしては惜しいはずだ。さらにはこれをきっかけに、
プラントと少しでも友好関係を維持するためのカードを手にしておきたい。
胸に秘めた想いを悟られぬよう、カガリは口元を真一文字に引き締め、傍らにいる議長を見上げた。

 

「ハハッ!これは一本とられたな、艦長」
「議長!」

 

議長が快活に笑う。
冷えたブリッジの空気にそぐわぬその声色は、カガリの提案を愉快に感じているように見受けられる。
クルーの表情に困惑の色が浮かぶ。差してそれを気にした様子も無く、もう一度カガリに手を差し出す。
カガリはそれに答えるように立ち上がり、握り返した。

 

「アスハ代表、ミネルバのことをお任せしてもよろしいですかな?」
「議長…」
「ブリッジにいる諸君。君たちには無事、この任務を成し遂げてもらいたい。
そして、プラントのために君たちにはまだまだ働いてもらわねばならない……分かるかね」

 

カガリの細い手を力強く握り返しながら、デュランダルはミネルバのクルーに告げる。
起立できるものはすぐさま立ち上がり、議長に向かい敬礼を取った。
議長が、国が、自分たちのことを必要としている。軍人としてこれほどの誉れ高きことは無い。
そんな想いが、ミネルバクルーの一人一人の敬礼から見て取れた。
デュランダルはその光景を満足そうに微笑み、長い黒髪をなびかせブリッジから去った。

 
 

−−本艦はMS収容後、大気圏突入しつつ、艦首砲による破砕作業を行う。速やかに帰投せよ−−

 

ミネルバからの帰艦信号が上がった直後、入ってきたテキスト通信にシンは目を通す。
カオスたちやジンによって破砕作業は妨害され、思ったほど作業は進んでいなかった。
半分に砕いた後も、メテオブレイカーを打ち込み破砕作業をおこなったが、未だ大きいものでまだ一辺
数キロ以上のものがある。タンホイザーでどこまで細分化できるか分からないが、少しでも地表への
被害を抑えるための英断だと、シンはタリア艦長のことを誇らしく思った。
命令に従い、インパルスを翻し帰艦しようとした矢先、彼の視界に未だ作業を続けるMSを発見する。
今回に限り特別に協力をしてきた民間人、アレックス・ディノのザクであった。
シンは彼のザクにインパルスを寄せ、苛立ち混じりに声を掛ける。

 

「なにをやってんです!帰艦命令が出ていたでしょう!?死にたいんですか!」
『ああ、分かっている。君は早く戻れ』
「一緒に吹っ飛ばされますよ、いいんですか!?」

 

命令無視もそうだが、この場にとどまり続ければミネルバの艦首砲により命を落とす危険性がある。
最悪ミネルバが破砕作業を行うことが出来ず、地球への被害を抑えることが出来なくなる恐れがあった。
シンの口調が荒いものになる。何を考えているんだ、コイツ。
そんなシンとは裏腹に、アレックスは黙々と作業を進め、くぐもった声で返事をした。

 

『ミネルバの艦首砲といっても、外からの攻撃では確実とはいえない。これだけでも…打ち込めれば』

 

その言葉を聞くと、シンは操縦桿を素早く正確に動かす。
ユニウスセブンに対し、メテオブレイカーを垂直に取り付ける作業を手伝う。
アレックスが一瞬驚いた表情をしたが、シンがそれを知る由も無い。
あとはメテオブレイカー起動させるだけ。シンとアレックスが気が抜けた瞬間、けたたましくアラートが鳴り響く。

 

「こいつら、まだ」

 

急接近してきたジンに対してシンはサーベルで応戦する。
ビームコーティングされた斬機刀と鍔迫り合いになると、不意にノイズ交じりの通信が聞こえてきた。

 

『我が娘の墓標、落として焼かねば世界は変わらぬ!』

 

憎しみを纏った怒声に、シンは一瞬顔をしかめた。
娘、墓標。キーワードの意味を理解しようとするが、一瞬でも気を抜けばこちらがやられる。
奥歯をギリギリとかみ締め、シンは剣戟を繰り広げた。敵パイロットの怨嗟の言葉が続く。

 

『ここで無残に散った命の嘆きを忘れ、撃った者らと何故偽りの世界で笑うか!貴様らは!!?』

 

ノイズ交じりに聞こえてきたその言葉に、アレックスは一瞬ひるんだ。
なにを−−−−なにを言っているんだ。
息苦しい思いに駆られながらも、アレックスは自分を襲ってきた敵を一機屠った。
押されているシンをサポートしようとするが、それを阻むように敵の呪詛がアレックスのコックピットに響く。

 

『軟弱なクラインの後継者どもに騙され、ザフトは変わってしまった!何故分からぬか!
我らコーディネイターにとって、パトリック・ザラのとった道こそが、唯一正しきものと!』

 

アレックスはシンをフォローしようとしたが、思わぬ言葉に手が震えて動けなくなる。
後頭部をしたたかに殴りつけられたかのような衝撃が、彼を襲う。
ここに、父の言葉に囚われた者たちがいる……嘆きと怒りに飲まれ、他者を許すことが出来ず
むやみに悪意をばら撒くものたちが。アレックスの胸に鈍い痛みが疼く。

 

動きの鈍ったアレックスのザクに向け、ジンがライフルを放った。
右腕が被弾し、戦闘能力を奪われた。続けざまにザクを襲おうとするが、サーベルで切りかかってきた
インパルスにより阻まれる。シンは怒りを抑えきれず、ジンのパイロットに怒鳴り返した。

 

「だから、なんだ!!」
『シン!』
「自分の子供を殺されたのは悲しいよな、悔しいよな、憎いよな!
分かるよ、その気持ち!オレだって父さんと母さんが殺された。連合が攻めてきて、オーブのやつらは
国を守れるだけの力も無いのに守れるふりして!! ああ、憎いさオレだって。オーブが!地球軍が!」
『ならば、何故我らの邪魔をするッ!!?』

 

再びビームサーベルと斬機刀で鍔迫り合いが起こる。
両機ともに後に引けない。スラスターを全開にして機体ごとぶつけ合うような状態になった。
接触回線がつながった状態で、シンは吼えた。

 

「でもな、地球に住んでる全ての人がコーディネイターを迫害したわけじゃない!
静かに暮らしてる人がいるんだ。穏やかに暮らしてる人がいるんだ。そんな人たちまで巻きこむなぁあああ」

 

シンの気迫が勝ったのか、インパルスが斬機刀を押し上げた。
無防備になった胴に吸い込まれるようにビームサーベルが斬撃の軌道を描く。
撃墜した瞬間、シンはなんともいえない後味の悪さと、言いようの無い寒気を感じた。
もし、マユという守るべき存在が居なかったら、自分もあのテロリストたちと同じになったのではないか。
背筋を伝う冷たい汗を振り払うように、シンは頭を振って後ろ暗い想いを振り払う。
そのときだ。亀裂が奔っていたユニウスセブンの大地が大きく震えた。
不安定になった大地から、シンとアレックスの機体が放り出される。重力の底に引きずり込まれた二機は
ミネルバへと帰投することが出来なかった

 
 

「彼のザクとインパルスは!!?」
「だめです、未だ帰投していません」

 

タリアの怒声が響く。ミネルバのブリッジでは、未だ戻らないシンとアレックスに肝を冷やしていた。
メイリンが声を震わせながらも懸命に艦長に答えた。シンとはアカデミーからの付き合いである。
少女の複雑な思いをよそに、ほかのクルーは淡々と状況の変化を捉えていた。

 

「降下シークエンス、フェイズ・ツー」

 

操舵主のマリクがタリアに告げる。灼熱により赤化したユニウスセブンがモニターに映っている。
もう、こうなってはMSを収容することなど出来ない。手をこまねいていれば、大気圏を突き破った破片が
地上へと落下してしまう。だが、インパルスとザクがどこに居るかも分からない……。

 

「間もなくフェイズ・スリー」

 

マリクが呻くように進行状況を伝えてくれる。
タリアは英断を迫られていた。ギリギリと歯軋りを立てながら考えをめぐらせている彼女をよそに、副官の
アーサーが「砲を撃つにも限界です、艦長!」とはやし立てる。
シンたちのMSがどこに居るのか分からない…最悪、斜線上に居る可能性だってある。決断を迫られた。
部下の命をとるか、地球を救うための取るか−−−−そんなの決まっている。
決然とした表情になった彼女はうつむいていた顔を上げ、素早くブリッジクルーに号令を掛けた。

 

「タンホイザー、起動!目標、右舷前方、構造体!!」

 

ブリッジに居る全員が息を呑んだ。成し遂げなければならない任務。そう、自分たちの行動に
数十億もの人命の運命がかかっている。
艦首が開き、陽電子砲QZX-1タンホイザーの砲口があらわになる。
ジリジリとエネルギーがチャージされ始めたその瞬間、メイリンが悲鳴を上げるように叫んだ。

 

「高エネルギー体、急速に接近!!」
「何ですって!!?」

 

反射的にタリアが叫んだ。突如として現れたエネルギーの奔流。
それは、まるで惑星すら切り裂きそうなほど巨大なものであった。ユニウスセブンがじりじりと巨大な
エネルギーに削り取られる。あれほどザフトが手をこまねいていたものが、徐々にその形を失っていく。
突然の事態に呆気に取られていたタリアがハッと我に返り、すぐさまメイリンに指示を出す。

 

「あのエネルギーを発しているポイントには何があるか調べなさい!」
「ダメです、艦長。センサーに障害発生!最大望遠映像にしても何があるのか映しきれません!」

 

もともと大気圏の摩擦熱と、砕けたユニウスセブンの破片のせいで、レーダーが当てに出来ない。
メイリンの報告に、タリアは歯噛みをする。無理なことをやれといってもどうしようもない。
それよりも問題なのは、こんなことが出来るのはいったい何者だ?組織である可能性がある。
後ろのシートに座っているオーブ代表のほうをちらりとのぞき見る。
彼女もこの突然の事態についていけないのか、呆然とした様子である。この様子から、オーブでは
無いだろうとタリアは考えた。無論、かの国が一枚岩ではない可能性も考慮に入れる必要はあったが。

 

では、地球軍なのだろうか?でも、何故このタイミングで?
もし地球軍ならば、もっと早い段階で実行すればいいはず。そうであれば、ユニウスセブンで破砕作業を
行っていたジュール隊とミネルバを消し去ることも出来き、ザフトの力を削ぐことも出来たのだ。
むしろ、ギリギリまでひきつけたのでは、地球に住む市民の反発心を育てるだけである。

 

彼女がフル回転で思考していると、ユニウスセブンは消滅していた。
そう、文字通りに消滅である。あれだけの巨大な構造物をだ。跡形も無く破壊することが不可能な
ために、ザフトはメテオブレイカーによる破砕を決定した。
だが、それを嘲笑うかのように消滅させる何かが存在する……。
何か大きなうねりが生まれたように、彼女には感じられた。

 
 

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