Top > 機動戦士ガンダムSeed Destiny -An Encounter with the Trailblazer-_3話
HTML convert time to 0.009 sec.


機動戦士ガンダムSeed Destiny -An Encounter with the Trailblazer-_3話

Last-modified: 2013-04-18 (木) 22:02:21
 

「綺麗ね、アレルヤ」
「そうだね、マリー。こんなに穏やかな気持ちで地球を眺めたのは、初めてかもしれない」

 

トレミーの展望室で無重力に抱かれ、二人は飽きることなく外に映る景色を――――
青と白のコントラストの美しい地球を眺め続けていた。

 

ダブルオークアンタの創る量子ゲートを越え、何の因果か分からぬが訪れてしまった
異なる世界の地球。何処までも深い海の青、流れ続ける雲の隙間から垣間見える新緑の
深い山々、多くの人が暮らしているであろう平地の都市部。

 

それらすべてが愛しく、マリー・パーファシーは満ち足りた微笑を浮かべ、傍らに寄り
添う最愛の男の肩に頭を乗せ『ほぅっ』と艶かしい吐息をついた。
彼女の隣にいるアレルヤは、体を預けるように寄りかかるマリーの温もりに癒されながら、同じく地球を眺める。

 

この異世界に訪れて早一週間。
スメラギの指示の下、トレミーの前クルーが自らの成すべきことに取り組んでいた。
ガンダム各機の修復、及びGNドライブの付替え作業。この世界に関する調査と情報収集。
貨幣を手に入れるためデブリベルトに浮かぶ物の物色。非常事態の時のための待機行動。
炊き出しの準備などなど。

 

それらの合間を縫って、アレルヤとマリーはただ穏やかな気持ちで蒼い地球を眺め続けた。
ソレスタルビーイングの武力介入時には、周りのことを見ている余裕など無く。アロウズと戦っていたときなど、
追われ続け皆疲弊しきって周りを見る余裕すらなかった。
今、この世界に訪れたのは神が与えてくれたひと時の安らぎなのではないか。
隣に寄り添う彼に、『アレルヤ』と洗礼を与えた銀髪の彼女は、そう思わずにいられなかった。

 

だが、アレルヤは――――

 

『この世界は一体何なんだ』

 

訪れた瞬間に瞳に飛び込んできた壮大で、豊かな自然を思わせる地球。
その光景に目を奪われたのもつかの間、トレミーを外部から見つけられないよう
スペースデブリに身を潜めようと移動した際に見えた砂時計のような物体。
それらが幾つも並び固まっているさまはまるでコロニーのようだとアレルヤは感じた。

 

では、この世界の人たちは宇宙に移住するだけの技術力があるというのか?
自分たちの住んでいた世界、西暦では小型のバナール球型のコロニーが開発を進められ
細々と宇宙進出を行っているのが現状だ。
こちらでは西暦とは比べ物にならないほどの大規模な宇宙移民が進められているのか?

 

また、地球に見とれているマリーには悪いが、アレルヤにはもうひとつ不安があった。
この世界の貨幣を入手するため、デブリベルト帯に存在するものの物色。ロックオンと
アレルヤ、イアンの三人で行っている時に見つけてしまったもの。

 

無数に存在しているMSと思わしき機体の残骸。
手足のもげたもの、頭部を壊されたもの、コックピットが破壊されたもの。
ティエレンに似たモノアイの機体に、西暦では見たことも無いシンプルなデザインの機体。
アレルヤの胸中には不安という名の靄が掛かっていた。

 

この世界にもMSが存在する。
デブリベルトに存在する残骸の数から、大規模な戦闘が頻発していたのではないか。
スメラギほどの先見の明がアレルヤに無くとも辿り着く答え。回収作業をしていた後、
パイロットスーツから着替える際にロックオンと交わした会話を思い出した。

 

『俺たちは相当厄介なところに来ちまったのかもな、アレルヤ』
『キミもそう思うかい、ロックオン』
『ああ――――だが、まだこのことは誰にも言わないほうがいい。下手に不安を煽ってもしかなねぇからな』
『僕たちは良いとして、イアンさんは?』
『ああ、大丈夫だろう。機体の解析だの解体だのに大忙しだからな』
『…………そうだね』

 

二人でやれやれと言いたげに首をすくめた。
もしかすれば、この世界は自分たちがいた世界よりも――――

 

「アレルヤ…………アレルヤ?」
「え、あ――――どうしたんだい、マリー」
「どうした、じゃないわ。あなたの端末、鳴っていない?」

 

間近でマリー・パーファシーが心配そうにアレルヤの顔を覗き込んでいた。
雪のように透き通る白い肌に、自分のことを心配そうに覗き込む潤んだ瞳。アレルヤは美しい彼女を間近で感じ、思わず頬が熱くなった。
物思いにふけっていて、自分でセットしておいた携帯端末のアラームに気が付かなかった。
いつもらしからぬ彼の様子に、マリーの表情が不安そうに揺れる。

 

「なにかあった、アレルヤ」
「大丈夫。僕は大丈夫だよ、マリー」
「そんな――――あなたにとって、私ってそんなに頼りにならない?」
「いつも頼りにしているよ。ただ、まだよく分かっていないことだから、君を困らせたく
ないんだ。だから、もう少しだけ待ってくれるかな、マリー」
「あなたがそう言うのなら――――」

 

困ったように目尻をたれ下げて笑う彼を見ると、マリーはそれ以上追及が出来なかった。
炊き出しやMSでの待機行動しかしていない自分では、彼の感じている何かを知ることが出来ない。
歯がゆい思いに駆られながら引き下がるマリー。そんな彼女を見ていると、アレルヤは胸がちくりと痛んだ。

 

アレルヤは、不意に頭の片隅に小さな疼きを感じた。

 

『いいじゃねぇか、教えてやってもよ。そんなことくらいでへこたれるようなタマか?』
(……ハレルヤ!)
『ま、好きにしろよ。下手な隠し事して、愛しのマリーに愛想尽かれるのはお前なんだからよ』
(マリーに言えるわけがない。もしかすると、この世界では僕たちが想像出来ないほどの争いに満ちているなんて。
地球を見て嬉しそうにしているマリーに――――)
『戦うことしかできねぇバカが、あのおっぱいねぇちゃんみてぇに頭使ったりするから
そうなるんだよ。バカはバカなりに動くしかねぇだろ』
(キミのそういうところが、羨ましいよ)
『ケッ、言ってろ。いいか、てめぇがヘマこいて死にそうになったら、俺が動く。
いいな、よく覚えとけぇアレルヤ』
(頼りにしてるよ、ハレルヤ)

 

突然脳内で響くハレルヤとの会話が終わると、不意に手を引かれる感覚が訪れる。
視線を向けると、マリーがやや不満そうな表情で手を引っ張っていた。

 

「もう、休み時間はおしまい。行きましょうアレルヤ」
「そうだね、マリー」

 

『マリーに愛想尽かされる』
――――ハレルヤのつぶやいた一言に不安になったアレルヤは、とある行動に移る。
生命の神秘で満ち溢れ、美しい地球。それを見ていられる時間が終わり、不満そうにしているマリーの細い体を抱き寄せたのだ。
彼女が握っている手を自分の体のほうに引き寄せ、胸元で抱き締める。
唐突に引っ張られたため、彼女の艶やかな白銀の髪がふわりと広がった。

 

「ちょ、ちょっとアレルヤ!」
「ごめん、マリー」

 

泣きそうに震えるアレルヤの声。
謝っているのは、先ほどの話すことの出来ない『何か』のことだろうか?
気にしていないといえばウソになる。でも、彼女としてはそれよりもアレルヤに無理をして欲しくない。
辛いことがあれば、自分を頼って欲しい。ただその一心で言ったことなのに。
キュッと抱き寄せる彼の背中に自分の腕をまわす。
ふわり、彼の無駄なく鍛え上げられた逞しい体をただただ優しく包み込むように抱き返す。

 

「もう、いい歳した大人なのに甘えん坊ね、アレルヤ」
「こんな風にみっともなく甘えるのは君にだけだよ、マリー」

 

胸元から顔を離し、アレルヤの顔を見上げるマリー。
彼女の瞳に映るのは、照れくさそうに顔を赤らめている彼の姿が映る。
最愛の人が自分を頼ってくれる。それだけで胸のうちが満たされたマリーは少女のようにはにかんだ微笑を浮かべ、ギュッと抱き返した。
『もう、仕方ないわねこの人は』そんな想いを乗せて。
互いの心のわだかまりの溶けた二人は、展望室を後にする。
自分が出来る最大限のことをするために。

 
 
 

ほんの少し前まで、新婚夫婦のように初々しい二人のやり取りがあった展望室に入れ 替わるようにやってきた人物がいた。
展望室のガラスに手を当て、壮大に広がる蒼い地球を睨むように見つめ続ける青年。
先駆者、イノベイターに変革したガンダムマイスター、刹那・F・セイエイ。

 

「――――異なる世界の地球」

 

イノベイターの直感が囁いている。この世界を訪れたのは、偶然かもしれない。
だが、何かをなさなければならない。そう、彼には確信があった。

 

『プシュッ』

 

ひとり、ただ黙々と彼が思考し続けていると、誰かが訪れた気配があった。
ゆっくりと刹那は振り返る。訪れた人物を確認するために。
振り返った先には、淡い桜色の前髪で表情を隠した女性が立っていた。
どんな時でも明るく、変革に戸惑う刹那のことを気にかけ続けてくれていた彼女。
そんな彼女らしからぬ何処か落ち込んだ様子に、刹那は気に掛かった。

 

「フェルト、どうした…………何かあったのか」

 

抑揚の抑えられた声で、刹那は尋ねる。
彼の声色を知らぬものであれば、形式的に尋ねているように聞こえたかもしれない。
だが、彼女――――フェルト・グレイスは知っている。
刹那が自分のことを本当に心配しているからこそ、声を掛けてくれたのだと。
鬱々とした思いと、刹那が掛けてくれる暖かな想いに感極まり、彼女は涙を零した。

 

「なっ!!」

 

刹那が珍しく慌てる。気丈な女性であるフェルトがこのように泣いている姿など、彼は今まで一度しか知らない。
ELSとの最終決戦の最中、彼らと分かり合おうと無茶をしてトランザムバーストを使用、脳に損傷を受け目覚めたときだけだ。

 

あのときの――――生きたい。変わりたい。未来を見たい――――そんな想いのない混ぜになって手を差し伸べた一輪の花。
目覚めたときには大粒の涙に囲まれたフェルトが手を握っていて、そして抱きしめられた。
あのときの彼女は、刹那が目覚めることを信じ、また彼が目覚めた喜びで涙を溢れさせた。
だが、今の彼女はあの時とは異なる雰囲気を醸し出している。
暗く深い闇に引きずり込まれ、悲しみで泣いている。そんな印象を彼は受けたから焦った。
『何故泣いているんだ、フェルト』声に出すことの出来ない想いが、刹那の胸によぎった。

 

『トンッ』――軽く床を蹴り、無重力に身を任せ、ゆっくりと刹那のほうに身を寄せる。
泣き顔を見られたくないのか、フェルトは俯いたまま刹那に胸板に額をつけた。

 

「ッ!!」
「ごめん、刹那。でも、今は…………今だけはこうさせて」
「――――フェルト」

 

力なく悲しみにくれた声で囁くフェルト。彼女の華奢な身体が小さく震え、それが刹那の胸元に届く。
凛とした強さを持っていたフェルトのこんな一面を見て、刹那は小さく息を呑んだ。
優しい一言でも。否、何かに傷ついているフェルトを、励ますことの出来る器用な一言 すら言えぬ自分が恨めしい。

 

(ロックオン、あんたならこんな時、どうする)

 

頼れる兄貴分であり、自分やフェルトに多くのものを遺して行った隻眼のガンダムマイスターを思い出す。
あの男なら、今のフェルトを癒すことが出来るだろうか。
だが、自分はそんな器用なことなど出来ない。自らの不器用さを理解しているからこそ、 刹那は己のできる最大限のことを行おうと意を決する。

 

「フェルト、何があった?」

 

先ほどよりも幾分声色に優しさが宿る。
刹那の問いかけにようやく応えられるようになったのか、フェルトがノロノロと彼の胸板から額を離し、顔を上げる。

 

「この世界のことを調べていたら、痛感させられたの」
「なにを?」

 

フェルトの悩みに短く応対する刹那。
彼らしい応え方にホッとしたのか、フェルトは苦笑を浮かべながら――――彼に次の
一言を言っていいのか迷いながらも、思わず胸のうちを彼女は零してしまった。

 

「ひととひとは、分かり合えないのかなって」
「なっ!!」

 

フェルトの口からもたらされたのは、刹那にとって衝撃的な一言であった。
ひととひとは分かり合うことが出来る。運命のいたずらで出会った彼女を知り、触れ合いイノベイターに変革したことで確信に変わったこと。
分かり合うことは決して不可能ではない。そのことはフェルトも知っているはず。なのに何故そんな風にフェルトは思ってしまったのか。

 

刹那の驚愕でゆれる表情を見ると、フェルトはいたたまれなくなった。
やはり言うべきではなかった、刹那を困らせてしまうだけだった。
そんな想いが胸のうちを占めると、彼女はすぐに申し訳なさそうに謝ってしまう。

 

「ごめんなさい、刹那。あなたを困らせるようなことを言って」
「いや、俺は大丈夫だ。それよりも、フェルト――――本当にキミはそう思っているのか?ひととひとが分かり合えないと」
「…………この世界の情報に感化されたのかしら。思わずそう感じちゃった」

 

瞳に溢れる涙をそっと拭い、フェルトは困ったように笑ってみせる。
その少女のように儚い佇まいに、刹那の胸中に言葉に出来ない想いが小さく宿った。

 

ゆっくりとフェルトのか細い肩に、刹那は手をそっと乗せる。
幼少期より戦場を渡り歩いてきた彼の固く無骨な手が、柔らかく彼女に触れる。
突然のことに、思わずフェルトは驚いた。刹那が誰かに自分から誰かに触れる――――
それも自分に触れてくることなんてなかった。

 

思わぬ事態に、フェルトは頬が熱くなった。

 

「俺たちは分かり合えている。戦争がなくなることを願い、ひととひとが分かり合えると信じている。そう――――だな、フェルト」
「あッ…………うん、刹那」

 

真摯に見つめてくる刹那の瞳に吸い込まれそうになる。フェルトは頬が熱くなるだけで なく、自分の鼓動が高鳴る想いを抑えきれず思わず頷いた。
刹那の言葉もまた、フェルトに言うというより自分に言い聞かせている節がある。
だが、それでも言葉の端々に、彼女の心が少しでも軽くなるような彼の想いが乗っていた。

 

フェルトが頷いてくれるのが分かると、刹那の表情が微かに変わる。
仲間だけがごく稀に見ることが出来る刹那の微笑み。
フェルトは久しぶりに見せるそれに嬉しくなった。ELSとの対話以降、彼は少しずつ昔のような柔らかさを取り戻している。そう、思えたから。

 

『トレミーの全クルーに通達します。これより緊急ミーティングを行うため、ブリッジに
至急集合してください。繰り返します、トレミーの……』

 

スメラギの館内放送が響き渡る。
フェルトと刹那は互いの顔を見合わせ頷く。

 

おそらく、今後のCBの方針を決めるためだろうミーティング。
しかし、刹那は知ることになる。フェルトが何を見て、ひとが分かり合えないのかと呟いてしまったのかを。それを知ったとき、彼は――――

 
 

】【戻る】【