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機動戦士ガンダムSeed Destiny -An Encounter with the Trailblazer-_4話

Last-modified: 2013-04-18 (木) 21:06:41
 

秋に実る稲穂のように輝かしい金の髪を短髪に切りそろえた女性が、宇宙港の係官に誘導
されガイドレバーを握り移動していた。女性――――否、少女は濃紫の簡素な上下を身に
纏っており、髪型と相まって中性的ないでたちに見受けられた。

 

少女の後ろをぴたりと付いていく少年がいる。おそらく彼女の随員なのだろう。
少年はよほど顔を見られたくないのか、不釣合いなほど大きなサングラスを掛けている。
彼――――アレックス・ディノは少女だけに聞こえるように声を掛けた。

 

「服は、それでいいのか?ドレスも一応持ってきていただろう?」
「な、何だっていいだろう」

 

少女はアレックスの言葉が癪に触ったのか、小声ながら怒気の篭った返答をする。
アレックスはそんな勝気な彼女の姿に内心苦笑しながら続ける。

 

「必要なんだよ、演出みたいなことも。わかるだろう?馬鹿みたいに気取ることもないが、
軽く見れてもダメなんだ。非公式な訪問とはいえ、キミは今、オーブの国家元首なんだ」

 

アレックスの言葉を聞くと、少女の表情が――――カガリ・ユラ・アスハは暗く落ち込み
翳りの差した表情をした。今もこの世界、CEは怒りと憎悪に満ち溢れ、いつ戦争になるか
分かったものではなかった。
宇宙港を移動する間、市民たちから零れ落ちる会話の端々からも、それは聞き取れた。

 

「パパ、艦は?」「軍艦なの?空母?」
「やはり必要ですものね」「ああ、ナチュラルどもに見せ付けてやるともさ」

 

宇宙港から居住区へと移動する高速エレベータに着くと、係官はカガリをエレベータ内に
設置されたソファーに腰を下ろすよう勧める。
彼女は勧められたまま腰掛け、愛想良く笑って対応している係官を見上げ尋ねた。

 

「三日後には最新鋭艦…………ミネルバだったか、それの進水式と伺っているが?」
「はい。式典準備のため騒がしくあり、アスハ代表にはご迷惑をお掛けしております」

 

少女の言葉遣いはやや男性的に聞こえる。
謙り丁寧な対応をする係官に対し、彼女は苛立ちを隠すことなく言い放った。

 
 

「こちらの用件はすでにご存知のはず。それなのにこのような場所でとは、恐れ入る」

 

あまりの事態に係官は表情を固くし、どうしたら良いのか困り果てていた。
子供とはいえ相手は一国の代表。下士官でしかないものが口を挟める問題ではない。
だというのに、こうもあからさまに言われようとは。
すぐそばに控えていたアレックスが彼女の物言いに焦り、慌ててフォローを入れる。

 

「内々、かつ緊急にと会見を申し入れたのはこちらなのです、アスハ代表」
「…………ッ!」
「プラント本国・アプリリウスへ赴かれるよりも目立たぬだろう。デュランダル議長の
ご配慮もあってのことと思われますが」

 

そんなこと、お前に言われずとも分かっている。そう言いたげな彼女の睨んだ視線を
少年は感じた。『分かっているのなら、下手なことを言わないでくれ』
オーブの代表であり、自分の言葉の重みを考えていない少女に、彼は内心ひやひやする。
そのとき――――

 

「あっ」

 

カガリの短く感嘆の声が上がった。
声が上がった瞬間、エレベータは透明シャフトに移動していたのだ。
視界に映ったのはまるでヨーロッパの海沿いの街並みのように美しい光景であった。
少女は感動を覚え、少年は郷愁に駆られていた。
そう――――彼、アレックス・ディノはプラント生まれ、プラント育ちのアスラン・ザラ
なのだから。

 

係官のギクシャクした雰囲気を彼女は気にすることなく、アポイントをとった人物と
会合するために移動を続ける。
案内されるままに着いた場所、執務室の扉を開くとその先には、長い黒髪を無造作に流し
裾の長い服を着た30代に入ったばかりと思われる男性がいた。
周りに居るのは評議会の議員とその秘書官たちだろうか。数人の人物に囲まれ話している
様は確かに一国のトップに立つだけのオーラを身に纏っている。

 

鋭利な顔立ちを崩し、柔和な笑みでカガリたちを向かえる男性。
彼こそカガリたちが今日会談を行うために約束をしていた人物、プラント最高評議会議長
ギルバート・デュランダルその人であった。

 

「やあ、これは姫。遠路遥々お越しいただき、誠に申し訳ありません」
「いや、議長もご多忙なところお時間を頂き、ありがたく思う」

 

下に見られたくないのか、少女の言葉の端々にはどうにも棘と硬さが感じられる。
彼女の態度を気にすることなくデュランダルは手を差し出し、カガリと握手を交わす。
『どうぞこちらへ』彼女を用意しておいたテーブルへ誘導し、向かい合うように座った。

 

「お国のほうはいかがですか? 姫が代表になられてからは、実に多くの問題も解決されて
……私も盟友として、大変嬉しく、また羨ましくもあります」

 

やんわりとした言葉で話しかけるデュランダル。
対して、カガリの表情からは硬さと刺々しさは抜けるどころか、増しているように
見受けられる。その証拠に――――

 

「まだまだ至らぬことばかりだ」

 

交渉の基本、謙る、相手を立てるといったことを一切せず、鼻息荒く話す様は見ていて
気持ちの良いものではなかった。周りにいる数人の議員たちも彼女のそんな姿に思う
ところがあったのか、表情が次第に曇ってゆく。

 

「――――このような情勢下のなか代表がお忍びで、しかも火急なご用件とは。いったい
どうしたことでしょうか? わが方の大使の伝えるところでは、だいぶ複雑な案件のご相談
と伺っておりますが」

 

目の前にいる少女の態度など気にした風でもなく、デュランダルはにこやかな雰囲気を
崩さず、相手の真意を慎重に探るように尋ねる。
恭しい彼の態度が癪に障ったのか、カガリの瞳に一瞬怒りがともった。

 

(白々しいことを言う、再三再四に渡ってこちらの用件は伝えていたはずだろう!)

 

「私にはそう複雑とも思えぬのだがな」
「だが、未だにこの案件に対する帰国の明確なご返答が得られないということは、
やはり複雑な問題なのか?」
「…………ほう」

 

あまりの喧嘩腰の態度に、随員のアレックスは血の気が引いた。顔を青ざめさせカガリ
ことを窘めたく思った。思ったことを素直に表現するのは彼女の美徳だが、交渉の場で
取っていいものではない。
彼の亡くなった父、パトリック・ザラも高圧的な態度をとることが多々あったが、それは
あくまで最後の手段である。
巧みな話術で議会の主導権を握り、その上で皆の気持ちを一体とすべく凛とした声で叫び
己の意見を強調していた。少年の瞳に哀愁の思いが浮かぶ。

 

このような態度をとられても、デュランダルは気にした風でもなく――――むしろ彼女の
力強い意思を秘めた瞳に感心したように頷いた。

 

「再三再四に渡り、かのオーブ戦の折に流出したわが国の技術と人的資源のそちらでの
軍事利用を即座にやめて頂きたいと申し入れている」

 

イスに身を預けながら、デュランダルは思考する。彼女の言いたいことは何度も外交官を
通じて把握していたことだ。だが、このような場を設けわざわざストレートに言うとは。

 

(まるで、子供の遣いだな)

 

顔色を変えることなくカガリ・ユラ・アスハに失望した彼は、小さく頷いて見せた。
その仕草の意味は。

 

「わかりました、姫。私の一存では確約はできませんが、善処しましょう」
「ほ、本当か、議長!!」

 

少女の顔に喜色が走る。
『――――強すぎる力は争いを生む』 常々彼女が口にし、皆に説いている言葉。
前大戦の終局、連合軍は核ミサイルを。ザフトはジェネシスを。互いに大量破壊兵器を
打ち合い、滅亡寸前まで争い続けた戦場を見てきた彼女の出した答え。
その信念の下、交渉を重ねたものが実を結んだ。

 

初めは大西洋連合の圧力に屈した形で始めた交渉だったが、プラント側も了承してくれた。
自分の考えが広がればきっと世界から争いが無くなる。プラントに移住した技術者たちも
きっと戻ってきてくれる。
少女の脳裏には明るい未来が待ち受けていた。

 

反対に、周りに控えている議員たちが議長に対して不満と焦りをあらわにする。
議長は確かに国の舵取りを任されているが、本来自分たちが対話を重ね、答えを
出すべき案件。それに対し横槍を入れてきたのだ。これでは面白くないのは当然のこと。
憮然としている議員たちを他所に、デュランダルは懐から携帯端末を取り出し、とある所
へ連絡を入れていた。

 

「ああ、デュランダルだ。大至急司令部へレイ・ザ・バレルを出頭させるよう命令して
くれたまえ。ひとつ簡単な仕事を頼みたく思っているのでね」

 

通話しているデュランダルの口元に、今まで応対していたときとは違う柔らかさがあった。
自慢の息子を呼び出そうとしている父親のような――――そんな顔。
アレックスには、どうしてもその表情が気になった。
父も、もしかしたら自分を誰かに紹介する際、こんな顔をしていたのだろうか。
戦時下の最中、憎しみの炎に身を焦がし変わってしまった父の顔が、彼の脳裏をよぎる。

 

「これは提案なのですが、軍事工廠にて働いているものを訪問してはいかがですか?
姫が訪れたと知れば、オーブ国民だった技術者も喜ぶことでしょう」
「そ、そうだな。ぜひお願いしたい!」
「それでは、しばしお待ちを。今案内をさせるものを呼びましたので」

 

デュランダルの声に意識を引き戻されたアレックスは興奮で頬を赤らめ、居ても立っても
居られない様子のカガリを他所に彼には不安があった。
『オーブの技術と人員を今後使わぬ――――そんなことが果たして可能なのか?』
アレックスの、アスランの胸に言いようの無い不安が募った。

 

幾ばくかすると、明るい金髪の少年がやってきた。
ザフトのエリートのみが着ることを許された赤服。それを身に纏ったことから、少年が
ザフト軍兵士を養成する施設『アカデミー』で優秀な成績を収めていることが分かる。

 

「お呼びでしょうか、議長」
「忙しい中すまないね。こちらの要人の方たちを案内してあげて欲しい。
行き先はこの中に入っている、後は任せるよ、レイ・ザ・バレル」

 

データの入っている端末を手渡し、柔らかく微笑む議長に敬礼で返事をする金髪の少年。
アスランの瞳には、二人がなんだか特別な繋がりがあるように思えた。

 

「では、ご案内させていただきます、アスハ代表」
「あ、ああ……よろしく頼む」

 

敬礼を持って迎えるレイに、カガリはやや気おされたように頷いた。
何故だろう、この少年は自分に対してなにか思うところでもあるのだろうか。
冷ややかな面差しの陰に隠れた少年の何かを感じてか、カガリはやや身構えるように彼の
案内についていく。無論、アレックスも彼女の随員なので当然着いていくのだが…………
議長の思惑が気になった彼は部屋から出て行く前に、もう一度彼の方に視線を向けた。

 

アレックスの視線の先には、朗らかな微笑で送り出すデュランダル議長が居るだけだった。

 

「議長、よろしいのですか!」
「なにかな?」

 

深々とイスに腰掛けたデュランダルが、鼻息荒くした議員の言葉に答える。
肘掛に腕を乗せ、鋭利な表情をしている議長はまさに上に立つ者のカリスマに溢れていた。
彼のその佇まいに気圧されながらも、議員は喰い下がるように話しかける。

 

「オーブの技術と人員の話です。あれでは……ッ」

 

自分たちの仕事のはずである。プラントに利益と繁栄をもたらすため、誇りを持って
あたっている仕事を議長の一言で進められてしまった。議員の胸のうちには苦い思いが
溢れた。デュランダルはゆっくりと周りを見渡す。
目の前に居る若い議員以外の者も、大なり小なり彼と同じような雰囲気を醸し出している。

 

(ふむ、また悪い癖が出てしまったか)

 

デュランダルは独りごちる。どんな問題も自分で解決しなければならない気性と、
自分の考えていることを周囲に分かりやすく伝えることを苦手としている彼は、時として
このような空気を生んでしまう。
若手議員の気持ちを汲み、なおかつ自らの非を内心認めた彼は、ゆっくりとイスから
立ち上がり頭を下げた。

 

「すまない、勝手なことをしてしまった」
「ぎ、議長!頭を下げたりしないでください。私は――――!」

 

国の最高責任者に頭を下げられ、今度は噛み付いていた議員が慌てる。
周りに居るほかの者たちにも動揺が走った。自分たちの気持ちを汲み、謝ってみせる。
それだけの度量を、果たして逆に自分たちに出来るだろうか。
議員に促されるままに頭を上げるギルバートの顔は、すっきりと晴れやかなものであった。
ゆっくりと周りを見渡す。少なくとも先ほどまで抱えていた不満や焦りを顔に浮かべて
いるものは一人たりともいない。
彼は満足げに頷き、大仰に先ほどカガリ・ユラ・アスハとのやり取りに含めていたものを
語りはじめた。

 
 

「だが、安心してくれていい。彼女たちは明日には我々に泣きついてくる。
『昨日言った件は無にして欲しい』、とね」
「議長、それは一体…………?」

 

議長の頭の中に思い浮かべられている絵の形の見えぬものたちは、一様に首を傾げる。
あれほどの時間と労力を費やし、やっと形になったものを自分たちのほうから破棄を願い
出るなどあるのだろうか?

 

「彼女たちは知らぬのだよ。世界というものを…………人というものを。これを機に、
断片であっていいから知ってもらいたいものだ」

 

何処か遠くを見つめるように語るギルバート・デュランダルの表情には哀愁が漂っていた。

 
 

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