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機動戦士ガンダムSeed Destiny -An Encounter with the Trailblazer-_9話

Last-modified: 2013-08-25 (日) 06:26:09
 

刹那の発した一言、凍りついたトレミーのブリッジ。
皆思うことはひとつであった。大出力衛星軌道兵器−−−−メメントモリ。
それに類する兵器、『ジェネシス』がこの世界にはすでに存在していた。
ならば、それに似た兵器が開発され、一方的な虐殺が行われようとしているのか?

刹那はブリッジに居る仲間の考えていることがわかっていたのか、ゆっくりと頭を振り話を続ける。

 

「焦燥感がある。何か行動を起こさなければならない。
 さもなければ、取り返しの付かない事態になる。そう、感じるんだ」
「イノベイターの直感?」
「分からない」

 

フェルトの問いかけに短く答える刹那。
そっと胸の上に手を当て微かに表情をゆがめている刹那のことを、フェルトは心配そうな瞳で見守っている。

 

今、彼らの置かれている状況はあの当時と違う。
あの時はメメントモリを破壊すれば、目前にある問題はひとまずクリアしたといえた。
だが、CEの収集できた情報は限られていて、一体これから何が起こるのかすら皆目見当が付かない。
刹那の話してくれたことを踏まえ、スメラギはイアンに状況確認をしつつ思考を奔らせる。

 

「イアンさん、ガンダム各機の状況はどうなっていますか?」

 

問いかけられたイアンは、携帯端末に上げられている情報を読み上げながら自分の意見を加え報告する。

 

「ダブルオークアンタに関しては、量子ワープ以外問題ない。
 サバーニャ、ハルートについては現在急ピッチで修復を進めている。
 だが、如何せん損傷箇所が多すぎる。まだまだ時間がかかりそうだ。
 二機に搭載してあったGNドライブはすでにケルディムとアリオスに装着済。
 また、一から建造しているラファエルは当初の予定より早く終わりそうだ」
「そうですか。戦力に関しては一応整っている。

 

 あとは刹那の言うこれから起こる『なにか』が気になるところね」

 

スメラギは己の考えたことをまとめるようにつぶやくと、オペレーター席にいるフェルトの傍に寄る。
幾つか情報収集について確認しているのか、途切れ途切に会話の切れ端が聞こえる。
おそらく、情報収集ルーチンの構成について議論しているのだろう。

 

画面越しに存在しているティエリアも、電子情報をトレミーの処理能力を使いある程度独自に構築していた。
ゆえにその会話の輪に入ろうとしたが、一瞬にして表情を険しくし仲間に警告を発する。

 

『皆、緊急事態が起こった。モニターに映像を回す』

 

簡潔に伝えるティエリアの声色に、焦りの色が見える。
いったい何が起こったのか。全員が固唾を呑む中、切り替わった映像には巨大な物体が映し出された。

 

「これは」

 

つい先ほど見たばかりのものだ。
この世界の悲劇の始まりと言える建造物、コロニー・ユニウスセブン。
死者の無念を思うと、黙祷を捧げたくはある。だが、そうではない。

 

『フェルト、ユニウスセブンの軌道をシミュレートしてみてくれ』

 

ティエリアの言葉と、映し出されたユニウスセブンの動き。
ハッと何かに気が付いたフェルトがすぐさまキーボードを操作し軌道のシュミレーションを行う。
コンピューターがはじき出した結果に、フェルトは顔を青ざめさせながら結論を告げた。

「ユニウスセブンは現在本来の軌道から反れ、地球の重力に引かれていますッ」
「そんな、どうして…」

 

全員が息を呑む中、マリーが唇を震わせながらつぶやいた。
100年の単位で安定軌道に乗っていたはずのユニウスセブン。
直径10キロ近くになるそれが地球に落下すれば、あの美しい水の星は死の星と化してしまう。
多くの自然を残し、美しい営みを見せるあの星が死んでしまう。
マリーの胸に言いようのない痛みが走った。

 

「フェルト、軌道修正は可能か!」

 

矢継ぎ早に刹那が問いただす。焦りのためか口調が荒く、問うというより詰問するかのようだった。
苛立ちを含む彼の声色に怯えもせず、フェルトはすぐさまキーボードをタッチし計算をする。

 

「…………あれだけの質量のものを再び安定軌道に戻すのは、現状では不可能です」

 

フェルトの答えを聞くと、刹那は苦虫を噛み締めたように顔をしかめる。
一瞬の空白。何をすればいいのか、どうすればいいのか。
思考が追い付かず明確な答えを出せずにいるなか、スメラギに、全員に問いかけるように彼がつぶやいた。

 

「スメラギさんよ、今俺たちは分岐点に立たされてるんじゃねぇのか」
「分岐点?」

 

いつもの軽さ消え去り、真剣な面立ちで頷きロックオンが続ける。
言葉に出来ずに居る自分たちの想いを聞くかのように、クルー全員が彼の言葉に耳を傾けた。

 

「ああ。このままこの世界のやつらに任せておけば、俺らには波風立たない。
 だが、助けられる命を見捨てることになるかもしれねぇ。
 それを良しとするのか、しないのか。そういうことじゃねぇのか、今の俺たちの立ち位置は」
「それは……」

 

スメラギが思い詰めたように翳りが見える。
自分たちの存在が明るみになれば、無用の争いを生む可能性がある。それによって失われる命がある。
だが、同時に現状この世界ではあれだけの質量のものを完全に消滅させるだけの手立てがない。
フェルトに調べてもらっているが、現在遺伝子調整を受けたもの、コーディネーターの軍隊・ザフトが
破砕作業をすべくメテオブレイカーを準備しているとの情報が入っている。
だが、それにしてもあくまで出来るのは砕くことだけだ。

小さくなった破片が、都市部や都市周辺の海などに落下すれば、どれだけの被害をもたらすか……。
直感的に語ったロックオンの言葉は、まさに的を射ていた。
このまま見過ごせば、民間人がシェルターに避難していたとしても、尋常ではない被害をもたらす。
思わずスメラギは自分の唇を噛み締める。

 

「スメラギさん、僕たちに戦術予報をください」
「−−アレルヤ?」

 

不意に掛けられた言葉に、スメラギは顔を上げる。
視線の先には、確信に満ちた顔をするアレルヤがいた。
彼が小さく頷き、考えていたことをゆっくりと語る。

 

「偽善だ、エゴだと誰かに後ろ指を差されてもかまいません。
 それでも、僕は……助けられる命を見捨てたくないんです」

 

アレルヤの言葉はとても不器用で、でも自らが苦しみに抜いた先にたどり着いた答え。
その想いに従った言葉はとても重く、価値あるものであった。
『そう思ってるのは、あなただけじゃない』
そんな想いをのせ、マリーがそっとアレルヤの大きな手を握る。
言葉にしなくても伝わる想い。アレルヤは胸のうちで火がともるように熱いものが込み上げた。

 

ティエリアが小さく微笑む。アレルヤの言葉を受け、胸のうちに響いた懐かしい言葉を口にする。

 

『僕たちソレスタルビーイングに沈黙は許されない。そうだろう、みんな』
「そうね、そうだったわね。私はソレスタルビーイングの戦術予報士、スメラギ・李・ノリエガ。
 立ち止まることは許されないわね」

 

ティエリアの継げた言葉に息を呑み、そしてスメラギは決心した。
晴れやかな表情となったスメラギは、メンバー全員の顔をゆっくりと見ていく。
ラッセ、イアン、リンダ、ミレイナ、ティエリア、マリー、アレルヤ、ロックオン。
そして懐かしさに涙ぐむフェルトと、決然とした表情を崩さない刹那。

数瞬、瞳を閉じスメラギは思考を奔らせる。
以前から考えていたプランも合わせ、思い描く姿が見えるとスメラギは小さく微笑みを浮かべ告げる。

 

「刹那。現状稼動できるMSでユニウスセブンを破壊できるのはダブルオークアンタのみ。
 あなたに行ってもらうわ、いいわね?」
「了解」
「ミレイナ、フェルトと交代して情報収集に当たって頂戴」
「わかったです!」
「あの、スメラギさん?」

 

突然交代を命じられたフェルトは釈然としなかった。何か、不手際でもあっただろうか。
フェルトが感じているであろう感情を先読みし、スメラギは小さく笑みを零しながら指示を下す。

 

「フェルト、あなたには他にやってもらうことがあるわ」
「やってもらうこと?」

 

フェルトが小首を傾げる。
オペレーター以外の仕事などした事のない自分に、出来ることなどあるだろうか。
鎌首もたげる不安に顔を曇らせる。彼女のことを慮ってかスメラギが
頭の中で思い描いていたミッションプランを提示する。

 

「フェルト、あなたには刹那のサポートをしてもらいます」
「サポート、ですか?」
「まだ細かいところまで詰めてないけど、今回のミッションについて説明します」

 

ゆっくりと語るように説明を始めるスメラギ。
淡々と語る大まかなミッション内容。だが、次第に自分の置かれた立場を理解すると
フェルトは頬を朱色に染め困惑した。
刹那のサポート。それは文字通り、彼の半身として過ごす日々の始まりを告げた。

 
 

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