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機動戦士ザクレロSEED_第03話

Last-modified: 2008-01-22 (火) 13:50:45

ザクレロのコックピットの中、マリュー・ラミアスは慎重に操縦桿を傾け、それこそ舞い降りる雪片のようにそっとフットペダルに足を落とす。
 ザクレロは、マリューでも制御できる速度でゆっくりと動き出し、その進行方向をヘリオポリスに定めた。
 前方、ヘリオポリスから脱出する光点を、ザクレロの複合センサーが確認。
 内5機を連合機と判断したが、それが奪取されたMSで有る事は確実だった。
 一瞬、マリューは戦う事を考えたが、このまともに動かせないザクレロで6機のMSを相手にするのは分が悪すぎると判断する。
 そして次には、敵がこちらに来ない事を祈った。
「・・・・そんだけ分捕ったんだから、これくらいは見逃しなさいよね。欲張りは嫌われるわよ?」

 

 

『敵がいるのだぞ! みすみす逃すのか!』
 通信機の向こうで騒ぐイザーク・ジュールに辟易としながら、ミゲル・アイマンは答えを返した。
「俺達の任務は、MSの奪取。それを完璧にこなす事が第一なんだよ」
『臆病風に吹かれたか! クルーゼ隊長の仇だぞ!』
 そう言う問題じゃないだろうイノシシめ。そんな感想が、思わず口から漏れそうになるミゲルだったが、言っても自分の立場を悪くするだけだ。
 ミゲルの役目は、要するに実戦経験のない若造共のお守り役。それでも、ここで任務を果たせば、明日の食事に繋がる。
 お守り役はお守り役で、ちゃんとその役目を果たさないと。
「だから・・・・」
『イザーク、俺は死にたくないぜ?』
 茶々を入れるかのように、ディアッカ・エルスマンの声が通信に割り込む。
『こんな、マニュアル読みながら動かしてるようなMSで戦えるかっての』
「ディアッカの言うとおり。初めて乗った連合製MSで、クルーゼ隊長を落とした新型MAに勝てると思うのか? 無理無理」
 ラウ隊長が、連合の新型MAに落とされたとの連絡は、ついさっき届いていた。
 エースである隊長・・・・しかも新型のシグーを一蹴した新型MA。それは確かにこの宙域に存在している。
 幸い、こちらに攻撃を仕掛ける意図はなさそうで、遠く離れた位置からこちらを監視しているようだった。
 この際、敵の気が変わって襲撃してくる前に、母艦と合流したい。
 こちらは、連合の新型MS5機を持っているとはいえ、乗ったばかりで操作に慣熟しておらず、戦力としてはとても評価できない。
 こちらから仕掛けるなら、少しばかり整備したり、機種転換訓練をしたりしてからでも遅くないだろう。
「とにかく、ここの先任は俺だ。まずは指示に従ってくれ。勝手な行動をしても、支援はしないぞ」
『ちっ・・・・腰抜けめ!』
 通信が切れる。幸い、イザークも勝手に敵に攻撃をかける事はしなかった。
 ミゲルは天を仰ぎながら呟く。
「はいはい、腰抜けですよ。俺は、死ぬわけにはいかないからな」

 

 

「行ってくれたわね」
 遠ざかるZAFTのMSを見送り、マリューは安堵の息をついた。
 そして、操縦席にモニターにヘルプ画面を表示させて機能を確認しつつ、マリューは機体設定の変更をする。
「巡航モード・・・・これ?」 
 設定を変えると、暴れ馬のようだったザクレロの反応が、ずっと穏やかになったのが実感できた。
 流石に戦闘モードの加速力ではコロニー内は飛べないと判断して、より穏やかな加速と低速度での安定した飛行をする為の巡航モードにしたのである。
 巡航モードでは低速度故に戦えないが、敵も退いた様なので、戦闘はもう無いと判断したのだ。
 ザクレロは、ヘリオポリスの港湾部からコロニー内へと入り、そして強襲機動特装艦アークエンジェルが潜む軍用のドックへと進路をとる。
「こちら、マリュー・ラミアス技術大尉です。ザクレロ、ドックに入りました。着艦許可を」
『了解、ラミアス大尉。シャトル用のデッキに着艦してください』
 アークエンジェルに送った通信に、ナタルの声が答える。
 本来なら通信士が答えるはずで、これはおかしいのだが、マリューはそこまでは気付かなかった。着艦に備え、緊張していたのだ。
 ザクレロは大きすぎて、MSや通常のMAが出入りするデッキからでは入る事が出来ない。
 そこで、シャトルやランチを出入りさせるデッキに入る。
 見れば、アークエンジェルの船腹の一部が開放され、そこから発光信号が送られていた。
 確認すると、ガイドビームも出されている。これなら、自動操縦で着艦が可能だ。
 ザクレロが自動で着艦するように操作し、あとはコンピューターに任せて、マリューは操縦席に身を任せて深く息をついた。
 なにか、凄く疲れた気分だった。

 

 

 ややあって、コックピットが揺れる。ザクレロが、デッキに着艦した衝撃。
 じゃあコックピットハッチを開けて外に出るか・・・・と、考えたところで、マリューは自分の格好を思い出した。
「あ・・・・どうしよう」
 作業服の股間に広がる染み。Gに潰されかけた時に失禁して、そのままになっていた。
 さすがに、このままでは出られない。しかし、この中にこもったままでは、どうする事も出来ない。
「でも、ずっとこもってたら、乾くかも」
 情けない解決策を思いつき、マリューは苦笑する。
 と、その時、何の前触れもなくコックピットハッチが開いた。
 外からの明るい光がマリューを照らす。そして、のぞき込むコジロー・マードック曹長。
「大尉! 初陣って奴はどうでした?」
 コジローの笑顔を呆然と見上げた後、マリューは顔を赤く染めて股の辺りを手で隠した。
「あ、ちょっと! ちょっと・・・・待って・・・・」
 慌てるマリューを見て、コジローはちょっと驚いた表情を見せた後、何か悟った様子で目をそらした。
「あの・・・・見た?」
 マリューに問われ、コジローは着ていたジャケットを脱いだ。
「ああ、新兵はたいていやらかすんです。こいつを腰に巻くと良いですよ。下りたら、整備の更衣室へ行って、自分のロッカーから予備のツナギを持って行って良いですから」
「あ・・・・ありがと」
 差し出されたジャケットを素直に受け取り、それを腰に巻く。
 そうしてからやっとコックピットで立ち上がるマリューに、コジローは後は任せろとでも言うかのような目線を向けつつ笑顔を見せる。
「掃除をして、臭い消しもまいときます。なに、痕跡が消えるまで、ここには他の誰も入れませんよ」
 シートも汚れている。これを内緒で掃除すれば、マリューの粗相はバレる事はないだろう。
「ありがとう、曹長」
「いや、良くある事ですんで」
 気にする必要はないと笑うコジローを背後に、マリューはザクレロのコックピットを出る。
 入れ替わりにコジローがコックピットに入ったのを見送ってから、マリューは昇降リフトを動かして高所に位置するザクレロのコックピットから、ドックの床へと下りた。
 そして、そのまま急いで更衣室に行こうとする。
 だが・・・・その時。

 

 

 ドックに無遠慮な声が響いた。
「うっわ、格好悪! こいつに比べたら、俺のメビウスのが百兆倍は格好いいぜ!」
 ドックの中、一人のパイロット・・・・ムゥ・ラ・フラガ大尉が、格納庫に置かれたザクレロを指さして笑っていた。
 戦闘が終わり、メビウス・ゼロでアークエンジェルに着艦した後、ザクレロの着艦を聞きつけてわざわざやって来ての行動だった。
「そこのパイロット! ザクレロを笑ったわね!? 時代遅れの役立たずに乗ってるくせに!」
 脊椎反射的に怒りを表し、マリューはムゥを指さして怒鳴った。
 それを聞き、ムゥも愛機をけなされて怒りを覚え、マリューに歩み寄る。
 しかし、マリューにある程度近寄って、彼女の体の一部・・・・正直に言うと、はち切れんばかりの胸を見た時、マリューと諍いを起すのは損だと考えを改めた。
「怒ったなら謝るよ。君がパイロットなのかい?」
「ええそうよ。正規パイロットじゃないし、初搭乗だけど」
 怒りを保ったまま、マリューはムゥをにらみつけて答える。
 ムゥは、最初の接触を間違った事を少々後悔しながら、挽回を目指して言う。
「そうか。でも、初搭乗でMS1機撃墜・・・・しかも、あの、ラウ・ル・クルーゼをだなんて凄いじゃないか」
「えぇっ!? アレ、ラウ・ル・クルーゼだったの!?」
 いきなり出てきたZAFTのエースの名に、マリューは驚きの声を上げる。
「ん? まあ、確実だね。あの、嫌らしい気配は他にない」
 答えて・・・・ムゥは不幸な事にマリューからかすかな臭いを嗅ぎ取った。そして、不用意にも何も考えず言葉を続けた。
「凄い戦果だった。初めてでそれだけやったんだ。漏らしたって気にする事無いさ」
 そのムゥの声に、廻りで働いていた整備員が手を止めた。
 そして、マリューを一斉に見て、それぞれに無言のまま反応を示し、そして作業に戻る。
 直後、マリューは、容赦なくムゥのその頭をぶん殴った。
「バっカじゃないのあんた!!」

 

 

 しばらくの後、アークエンジェルのブリッジ。そこに、マリューとムゥの姿があった。
 マリューの中でムゥの評価は、「私の可愛いザクレロを嗤って、わざわざお漏らしを皆にばらしたバカ男」という所まで落ちている。
 一方のムゥも、マリューの評価を「胸はでかいが、メビウス・ゼロを時代遅れのゴミ扱いしたクソ女」という所で落ち着かせていた。
 要するにあの後、喧嘩になり、お互いが乗った機体の貶しあいになったのである。
 感情にまかせての言い合いは、呆れて下りてきたコジローに止められるまで続いた。
 そして今、二人はナタル・バジルール少尉に呼ばれてブリッジにいる。
 ちなみに、マリューは新しい作業服に着替えを終えていた。
 ふたりはブリッジで、ナタルから現状を聞いている。ナタルは、僅かに疲れた様子で、それでも毅然とした態度を崩さずに言った。
「艦長も、基地指令も、他の士官も全員が戦死。残ったのは下士官と兵だけで、それも足りない状態です」
 状況は最悪。それだけは理解した。
「艦は動かせるの?」
 少なくとも、通信士は居ないらしい。マリューは、だからナタルが直接通信に出たのだと理解した。
 マリューの問いに、ナタルは頷く。
「最低限の人員は居ます。本当に最低限ですが。ただ、艦を統率する者が居ません」
「艦長か・・・・」
 ムゥが唸る。艦長を欠いては、戦艦はまともには動かない。
「最高階級は、ラミアス大尉かフラガ大尉ですが」
 ナタルは、マリューとムゥを見ながら言った。
 それに、ムゥは即答する。
「俺はこの艦を知らない。艦長なんて出来ないぜ?」
「私は・・・・」
 艦長、やっても良いかなとか、マリューは考える。しかし、
「ラミアス大尉。実は、アークエンジェルには戦力がありません。大尉には、MAパイロットとして、これからも戦って欲しいのですが」
「え? 何で!? MAパイロットぐらい、他にも・・・・」
 マリューの問いに、ナタルは首を横に振った。
「敵の襲撃により、MAパイロットは全員が戦死しました。乗れると言うだけなら、他にも居るかも知れませんが、実戦経験があるのはラミアス大尉だけです」
「こいつ、MAパイロットなんじゃないの?」
 マリューは、ムゥを指さして聞いた。だが、直後にムゥは鼻でせせら笑って答える。
「俺は、あんな顔のでかい奴に乗るのはゴメンだ」
「何ですってぇ!?」
「フラガ大尉は、メビウス・ゼロがありますから。ラミアス大尉が、ザクレロに乗っていただけるなら、戦力はメビウスゼロとザクレロの2機を保有できます」
 激昂しかけたマリューを無視して、ナタルは戦力についての話をする。
 1よりも2の方が多い。単純な話だ。

 

 

「じゃあ、艦長はどうするの?」
 少々ふてながらマリューは聞いた。ナタルは、最初から決めていた言葉を返す。
「暫定的に、私が指揮を執ります。お二人には、それを認めてもらいたいのです。何分、私の指示に従っていただく事になりますので」
 階級が低いナタルが、この場でより高い階級の二人を差し置いて、勝手に艦長を名乗る事は出来ない。
 だから、承認が欲しいという。
「俺はそれで良い」
「・・・・良いわ。ナタルなら、きっとやれる」
 ムゥは何でもかまわないからと承認し、マリューはナタルを信じてその職務を任した。
 というか、マリューは技術士官なので、艦の運用は門外漢なのだ。階級が高いという理由だけでは、人も物も動かせない。
 その点、ナタルはブリッジ勤め。マリューよりは艦長に近い。
「ありがとうございます。艦長としての任務、つとめさせていただきます」
 ナタルは二人に、軽く敬礼して答えた。そして、
「では、早速、失礼して・・・・」
 言いながらナタルは、艦長席に歩み寄り、通信機を手に取った。
 そして、基地及び艦内に向けて放送を行う。
「総員聞け! ナタル・バジルール少尉だ! ムゥ・ラ・フラガ大尉およびマリュー・ラミアス大尉の承認を受け、アークエンジェル艦長として命令を下す!
 技術関係者は、重要情報の回収。機密に関係有る物で、運び出せない物は全て破壊!
 陸戦隊はコロニー内の避難壕をまわり、連合国籍の者を全員集め、アークエンジェルに避難させなさい!
 残る全兵は基地内の物資を、洗いざらいアークエンジェルに運び込みなさい!
 作業完了後、速やかに全員がアークエンジェルに乗艦。脱出する。 総員かかれ!」

 

 

 キラ・ヤマト。そして、彼の友人であるミリアリア・ハウ 、サイ・アーガイル 、トール・ケーニヒ 、カズイ・バスカーク。
 工業カレッジの学生一同は、シェルターを出てカレッジに戻っていた。
 戦闘の巻き添えを食って崩壊した建物を眺めながら、校庭に腰を下ろして話し合う。
「戦争、始まるのかな?」
 カズイが、不安そうに呟いた。
 戦闘は一段落ついて、ZAFTは今はコロニーの外にいる。しかし、いつまた攻めてくるかも判らない。
「オーブは戦争に関係ないのに」
 ミリアリアが言う。
 実際にはMSを開発していたわけで、少なくともヘリオポリスだけは戦争に関係がある。
 だが、それを知っているのはこの場ではただ一人で、そのただ一人であるキラは思考にふけって話を聞いていなかった。
 戦場で出会ったアスラン・ザラ。かつての親友の事で、頭がいっぱいだったのだ。
「これからどうなるんだろ」
 カズイのぼやきがまた漏れる。
 と・・・・そこに、遠くから車の音が聞こえてきた。
 トールが立ち上がって、音のする方を見る。
「連合のジープ? あれ、フレイじゃないか?」
「フレイだって?」
 その名を聞いて、サイが立ち上がる。
 その時には、ジープはかなり接近してきており、助手席で手を振るフレイ・アルスターの姿がよく見えた。

 

 

 ジープはそのまま走ってきて、一同の前で止まる。
 直後、ドアを開け放って、フレイはジープから飛び出した。
「サイ!」
 フレイはそのまま、婚約者のサイの胸へと飛び込む。
「・・・・どうしたのフレイ?」
 フレイを受け止め、彼女の背中をそっと撫でながら、サイは聞いた。
 フレイは少しの間、サイの胸に身を預け震えていたが、ややあって口を開く。
「サイ・・・・お別れなの・・・・連合の市民は、連合の戦艦でヘリオポリスを脱出するって」
 ヘリオポリスはオーブ領だが、フレイを始め連合国籍の市民はそれなりにいる。
 彼らには、アークエンジェルに乗ってヘリオポリスを脱出するよう、命令が出されたのだ。
 それを聞き、トールはジープに残っていた連合兵士に詰め寄った。
「連合の人だけが逃げるんですか!?」
 オーブ国民を見捨てて逃げるのかというニュアンスの問いに、連合兵は強く言い返す。
「オーブ国民は、ここに居た方が安全なんですよ!」
「どういう事ですか? 説明してください」
 ミリアリアがトールを抑えて割って入り、連合兵に聞く。
 連合兵は、言い聞かせる口調で、説明を始めた。 
「ヘリオポリス行政府は、連合軍の撤退と同時に無防備都市宣言を出します。
 これ以上、このコロニーを戦場とさせないために、外のZAFTに降伏するんです。
 プラントとオーブは戦争をしてませんから、市民の安全は保障されます」
 まあ、オーブ領内であるヘリオポリスで連合のMS開発が行われていたのだから、オーブが政治的にZAFTから締め上げられる事は避けられないだろう。
 しかし、それはオーブ政府が責任を取る事であって、オーブ国民には罪がない。危害を加えられる事はないだろう。
「ZAFTの兵士に逢わないよう、しばらくは家に隠れている方が良いかも知れません。
 不安でも、武器は絶対に持たない事です。ゲリラと間違われると殺されても文句は言えません。良いですね?」
 連合兵は、アドバイスを付してトールとミリアリアを諭した。そして、付け加える。

 

 

「脱出と言えば逃げられるとお思いかもしれませんが、実際には軍艦への同乗ですから、敵に艦を沈められる危険がつきまといます。とても、安全とは言えませんよ」
「そんな危険なら、どうして連合の市民を脱出させるんです?」
 聞いたのはサイだった。フレイを抱きしめながら、思い詰めたように連合兵を見据えている。
「連合市民の場合、虐殺は無いにしても、収容所送りは確実です。政治的に利用される可能性もあります。連合軍として、保護しなければなりません」
 連合市民の場合は、オーブ国民の場合とは状況が違う。プラントの厚遇は全く期待できないのだ。
 説明を終えて、連合兵士はフレイに声をかけた。
「アルスターさん。そろそろ良いですか? 時間がありません」
「はい・・・・」
 促され、フレイは名残惜しそうにサイから身を離した。
「サイ、待っててね? 戦争が終わったら、必ずヘリオポリスに戻るから。必ずよ?」
「・・・・でも・・・・いや、わかったよ・・・・・・・・」
 サイは答えに詰まり、いくつもの言葉を飲み込んで、やっとそれだけを言う。
 そのまま、どうする事も出来なくて俯くサイ。
「サイ」
 フレイは名を呼ぶ。直後、サイの口に、フレイは唇を押しつけた。
「さよなら」
 そしてフレイは、泣き顔を隠す為にサイに背を向けジープに駆け乗る。
「行ってください!」
「・・・・・・・・」
 連合兵は、フレイの気持ちを思いやって、無言のまま車を走り出させた。
「フレイ!」
 後を追って走ったサイだったが、その足は数歩で止まる。ジープに追いつくすべはない。
 そしてサイは肩を落とし、大地に膝をついた。
「サイ・・・・」
 トールが、サイの肩を叩き、そして言葉に詰まる。なんと言ってやればいいのかわからない。
 かわりに、ミリアリアが気遣わしげに声をかける。
「大丈夫よ。フレイも言ってたでしょ? しばらく経てば、またここで逢えるわよ」
「でも、外にプラントの軍艦が居るんだろ? 逃げられるかな?」
 カズイが空気を読まず、余計な事を言った。
 直後、トールとミリアリアに睨まれ、カズイは黙り込む。そして・・・・
「・・・・フレイ」
 その名を呼び、サイの顔が苦悩に歪む・・・・・・・・

 

 

 一方。
 サイとフレイの愁嘆劇を横目で眺めながら、キラはフレイの事を心配しつつも、他の事を考えていた。
「アスラン・・・・」
 横恋慕の美少女なんていう浮ついた事より、かつての親友の方が大事だと・・・・
 しかしキラは気付いていなかった。サイを見るとイラつく自分と、だからこそ無意識にサイとフレイの事を考えず、アスランの事を考えている自分に。
 だが、悩んだにせよ、どうせキラに出来る事なんて何もないのだ。
 フレイを守って戦える訳じゃなし。アスランの真意を問い質しにZAFTまでいけるわけじゃなし。
 何せ、MSに乗ってる訳じゃないのだから。

 
 
 

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