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機動戦士ザクレロSEED_第08話

Last-modified: 2008-01-22 (火) 13:59:17

今朝、家族一緒に朝食を食べたテーブルの上に、重い音を鳴らして自動小銃が置かれる。
 銃の向こう、テーブルに並んで座る両親は、にこやかに微笑みながら言った。
「父さんと母さん、話し合って決めたんだ」
 トール・ケーニヒは、その話を妙に冷静な気持ちで聞く。
 トールの両親は英雄志向なところがあった。それはトールにも引き継がれている。何か戦う理由があって、戦う事が出来るなら、戦う事に躊躇はしない。
 性格は親譲りだとトールにも自覚がある。なら、戦うという選択も有りだろう。トールも、あのカガリ・ユラ・アスハの演説を聴いて、考えてはいたのだから。
 しかし、トールは決断に踏み切る事は出来なかった。フレイとの別れの時、連合兵に聞いた話が引っかかっていたのだ。
 連合兵は、“へリオポリスは降伏する”と言い、“武器を持たず隠れていれば安全”と言った。そして、カガリは“オーブの理念を守る為に武器を取って戦おう”と言った。
 それは、オーブの理念を守る為に、本来なら安全な筈の市民の命を危険にさらそうとしているのでは……と、そんな疑念が湧いたのだ。
 トールは、オーブの理念を守る事は正しいと教えられてきた。ウズミ・ナラ・アスハの政権下、オーブの国民なら誰しもがそうだろう。だから、オーブの理念を守る事は、疑いの余地がないほどに正しい事の筈。
 しかし……トールは、そんな常識的な正義に対し、疑問を持ってしまっていたのだ。
 オーブの姫様であるカガリと、一連合兵の言葉を比べれば、カガリの言葉の方が絶対に信頼がおける筈だというのに。
「危ないよ! 殺されるかもしれない! それに……」
「だからこそ、今こそ、オーブの理念の為に戦う時なんだ」
 トールは、話の組み方を間違えた。本当に言いたい事を言う前に、父親に反論をされてしまったのだ。
 本当は……もっと言いたい事があった。疑問をぶつけたかった。しかし、トール自身も何を言って良いのかわからない。
「でも……!」
「もう、覚悟は決めたんだよ。わかりなさい、トール」
 もっと言葉を尽くそうとしたトールを、父親は穏便な言葉で制する。
 母親は、トールを安心させるように言った。
「私達は大丈夫だから、トールは避難しなさいね」
「本当は、お前も戦うと言い出すのじゃないかと心配していたんだ。でも、そうじゃなくてかえって安心したよ。お前は、避難するんだ」
 父親はそう言って、自動小銃を手に取ると立ち上がった。母親も同じように銃をとって立ち上がる。
 テーブルの上に、一丁の拳銃が残されていた。父親は、トールに真顔で言う。
「危なくなったら使いなさい」

 

 

 ミゲル・アイマンは、ジンに搭乗して宇宙に居た。
 今回の装備は、MA-M3 重斬刀とMMI-M8A3 76mm重突撃機銃だけだが、予備弾倉は多めに持ってきている。重機銃の弾は榴弾が選ばれていた。敵が艦船やMAではないのと、コロニーの外壁まで破壊しては困るという事情から、貫通力が不要と判断された事がその理由。
 ミゲルと共にガモフを発した、陸戦隊を詰め込んだシャトルは、ヘリオポリスの港湾部へと迂回しつつ接近する。まっすぐ行かないのは、港口の真正面に行けば、内部に設置されたミサイル砲台に攻撃されかねないからだ。
 ガモフからの観測により、外壁には武装の設置がされていない事がわかっている。
 おそらく、露出した場所に設置しても、攻撃されて破壊されるだけだと考えたのだろう。実際、そうなるだろうから、その判断は正解だ。
 邪魔をする者がいないので、ジンとシャトルは容易く港湾部近くの外壁にまでたどり着く。
 そこで、シャトルは停止。中から、パーソナルジェットを装備した陸戦隊が飛び出し、次々にコロニー外壁へと取り付く。
 通常の出入り口は、敵の待ち伏せか罠がある確率が高い。そして、わざわざ、そんなところに飛び込む必要はない。
 ミゲルのジンは重斬刀を構え、外壁に突き立てた。そして、捻るようにしながら抜き取る。
 直後、開いた破口から、猛烈な勢いで空気が噴出する。その空気の流れに巻き込まれて、民間用宇宙服を着た人間が宇宙へと吐き出された。
 しばらく、宙でもがいているのが見えていたが、見る間に遠く離れ宇宙の闇に消えていく……そして、宇宙服が小さく見えなくなった頃、破口からの空気の噴出が弱まった。
 陸戦隊は、破口よりコロニー内へと突入する。これで、有る程度はオーブ軍の不意を突けるだろう。
 ミゲルは、陸戦隊がコロニー内に突入するのを確認した後、ジンを動かした。陸戦隊の突入を支援した後は、コロニー内へと入り、内部の敵を殲滅する。
 目指したのは、先の戦闘でザクレロがコロニーのガラス面に開けた穴だった。
 それほど時間をかけず、ミゲルのジンは目指した場所に到着する。ザクレロが開けたガラス面の穴は既に応急修理がされており、穴を塞ぐようにゴム状の膜が張られていた。
 ミゲルは、その膜をジンで破る。途端にコロニー内から空気が漏れて、突風となってジンを押すが、かまわず強引に機体をコロニー内に入れる。
「……あまり、空気が薄くなるのも悪いしな」
 通り抜けた後、ミゲルはジンに積んできたコロニー補修用のトリモチを用意した。
 ジンの手の平にはいるくらいの金属筒。側面についたスイッチを押し込むと、筒の先端から風船ガムのような物が膨らみ始める。
 それが通り抜けた穴よりも大きくなったところで、さらにスイッチを押し込む。
 巨大な風船ガムは金属筒から切り離され、吸い出される空気の流れに乗って穴を目指して漂う。そして、穴に触れた所で破裂して、穴をべったりと覆って塞いだ。
 これで少し経てば、さきほど穴を覆っていたのと同じゴム状の膜となる。膜はかなり丈夫で、空気漏れはほぼ防ぐ事が可能だ。
「さて……後は」
 ミゲルは、眼下に広がる都市部を目指し、ジンを降下させていく。
 下りるにつれて、ジンは重力に引かれて速度を増していった。

 

 

 トールは、住宅地を縫う路地を走っていた。
 辺りに鳴り響く警報がトールを急き立てる。それは他の市民も同様で、逃げまどう人々が当てもなく駆け回っていた。
 ヘリオポリスの中は混乱の極みにあった。先の襲撃の時よりも酷い。
 混乱の原因となったのは、都市部に布陣した軍隊。そして、オーブの理念を守る為に武装した市民達。彼らはそこかしこで道路を閉鎖して陣地をもうけており、避難経路をズタズタに引き裂いている。
 完全に道が塞がれた訳では決してないのだが、敵襲という混乱状況の中で道を探すのは困難きわまりなく、パニックが広まりつつあった。
 そんな中、トールはようやく目的の場所へとたどり着く。
 住宅地の公園の片隅、地下への口を開けた、シェルターへの入り口。それが、この辺りの住人が避難するシェルター。
 シェルターの周りには、避難してきたのだろう住人達が、困惑の面持ちで人垣を作っていた。
 そして、その人垣の中心では、何人もが怒鳴りあう怒号が聞こえる。
「どうしてみんなシェルターに入らないんだ?」
 トールは疑問をつぶやきながら、ここまで来た目的の相手を探して頭を回らせた。
 ややあってトールは、住人達の中にミリアリア・ハウの姿を見つける。
「ミリィ!」
「トール!?」
 駆け寄って肩をつかんだトールに、ミリアリアは振り返って驚きの声を上げる。
「どうして? トールの家は、ここのシェルターじゃないでしょ?」
「ミリィが心配で見に来たんだ」
 トールが真顔で言った答えに、ミリアリアは少しだけ嬉しそうにはにかんだが、すぐに表情を半ば無理矢理に怒りへと変えた。
「ば……馬鹿! 危ないじゃないの! 早く避難しなきゃ……」
「それなんだけど、どうしてみんなシェルターに入らないんだ?」
 シェルターの周りの住人達は、諦めたように他へと向かう者を除けば、減って行く様子が見えない。つまり、シェルターへの収容がされてないのだ。
 シェルターが満員になった可能性もあるが、住宅地のシェルターはかなり大きく、周辺住民を収容してまだ余りある容量があった筈。
 その疑問に、ミリアリアは困った様子で顔をしかめ、騒ぎの中心となっているシェルター入り口を振り返った。トールもそれに倣って、同じ方を見る。
 その時、注視の先から、男の声が上がるのが聞こえた。
「ここは、オーブの理念の為、戦う者が集う場所だ! 戦わない者は他のシェルターに行け!」
 シェルターの入り口には、自動小銃を持って声を張り上げる中年男の姿。彼に従う若い男と中年女も手には銃を持っている。
 3人は、周りを囲う住人達に銃を向け、威嚇していた。
「オーブの理念の為に武器を取る同志は、シェルターに入れ! 一緒に戦おう!」
 中年男は上機嫌で声を上げているが、周りを囲む住人達はその声に対して不満をあらわにしていた。
 当たり前だろう。シェルターはあくまでも避難する場所。確かに強固な防御力を持つが、それは避難民を守る為のものだ。
 それを勝手に占拠して、避難民を閉め出すような事をして良い筈がない。
「ここは俺たちのシェルターだ! 勝手に占拠してどういうつもりだ!」
「他へって……何処へ行けばいいのよ!」
 口々に非難しながら、詰め寄る住人達。彼らも命がかかっている。押しのけてでも、シェルターに入ろうとしていた。
 しかし、空に向けて撃ち放たれた銃の音が住人の足を止める。
「オーブの理念が破られようとしている時に、勝手な事を言うな! お前達は、オーブの理念が破られても良いのか!?」
「オーブの理念を脅かす人は、誰であろうとオーブの敵よ!」
 銃を撃った若い男と、中年女が殺気だった声を上げる。銃は、住民達に向けられていた。

 
 

 トールはその騒ぎを遠巻きに眺めながら小さく呟く。
「……おかしいだろこんなの」
 オーブの理念が大事だとは、トールも思ってはいた。オーブの理念があるからオーブは平和なのだと、日常的に言い聞かせられてきたのだから。
 しかし、今の状況は常軌を逸して見えた。
 オーブの理念を守るのだと叫ぶ人々の声は何処かおかしい。だが、何がおかしいのか、どうしても思い浮かばない。
 オーブの理念を守る事は、とても正しい事の筈なのだ。そう教えられてきた。
 正しい筈の事が行われている。正しい筈なのに。
 トールが答えを出せないままでいる内に、その思考を止める声がかけられた。
「ミリアリア、それにトール君」
 トールとミリアリアに歩み寄り、声をかけたのはミリアリアの父親。彼は、ミリアリアの母親と共に、この人垣の中を出ようとしていた。
「別のシェルターへ行こう。さあ、急いで」
「え、でも……町の中は何処に逃げたらいいかわからない人であふれてるんですよ? 今から、他のシェルターを探すなんて……」
 混乱した住宅地の中を抜けてきたトールにはわかっていた。他のシェルターを探す事が、非常に危険な試みであるという事が。
 もし、途中で敵襲があれば、確実に巻き込まれる。
 しかし、ミリアリアの父親は、諦めた様子で言った。
「オーブの理念を守る為に戦ってくれるんだ。仕方ない」
「そうね、仕方ないわ。オーブの理念の為ですもの」
 母親もまた、父親に同調して頷く。オーブの理念を守る為だから仕方がない。オーブの理念の為なのだから。
 トールは納得しかけたが、胸の奥で何かに引っかかった。それが何かわからないまま、逃げ出すミリアリアの両親とミリアリアに合わせて足を動かす。
 と……その時、頭上が陰り、人々の悲鳴が聞こえた。
 とっさに頭上を見上げる。トールはそこに、空から落ちてくる巨人……市街地に降下しつつあるMSジンの姿を見つけた。
 ジンは、あろう事かトールの頭上に降りてくる。ジンの足の裏が、どんどんその大きさを増しながら迫ってくる……恐怖に体を強張らせたトールは、それを見守るより他なかった。
「……っ!!」
 誰かが何か叫んだように思えた。直後、トールを突然に襲う衝撃。何か重くて柔らかい物が体に当たって、トールを押し倒す。
 ジンを注視していたトールの視線がそれ、路上で両腕を突き出した姿のミリアリアの父親をとらえる。
 母親は、父親の傍らで、顔を恐怖にゆがめて空を見上げている。先ほどまでのトールと同じように。
 ミリアリアの姿はない。いや、トールの体にぶつかってきた物が……
 激しい振動。トールの視線がまた揺らぐ。
 トールは、この場から少し離れた道路上にジンが落着したのを見た。ジンは、落ちた勢いを殺さないまま、路面を削りながら道の上を滑ってくる。
 その進路上にいた人々が、ジンの足に触れるや砕け散って赤い破片をまき散らした。
 そして、ミリアリアの両親の姿は……
 気づいた時、トールが視界はコロニーの空だった。道路上に倒れて、空を見ている。凍ったように動かない世界の中で、胸の上に暖かい重さを感じていた。

 

 

 地上から散発的な銃撃が行われている中、ミゲルのジンは降下していた。
 とりあえず、大半を占める小火器類は無視して良いが、対空機関砲の類が少数混じっており、機体に結構な衝撃がある。
 ミゲルは、銃撃の方向から敵の姿を探してジンのカメラアイを動かす。
 ややあって、平屋の民家の中から天井に開けた穴を通して撃ってきているのを確認した。
 すかさず、その民家に重機銃を撃ち込む。榴弾が天井を突き破ってから民家の中で炸裂し、風船のように民家を中から破裂させる。
「一つ!」
 ミゲルは次の対空機関砲を探す。
 公園の木々の合間。そこから火線は伸びていた。姿を確認したわけではないが、ミゲルはそこに重機銃を撃ち込む。
「二つ!」
 まだ、機関砲は残っているが、もう地上が間近になっており、空で迎撃できる時間は無かった。その事を警報で知ったミゲルは、何の気なしに着地点を地上をカメラで確認する。
「……な? 避難が終わってないのか!?」
 ミゲルは言葉を失った。
 着地点となる道路上に、たくさんの人がいる。まさかこの全てがレジスタンスだという事もないだろう。
 しかし、もはや他の場所に着地する余裕はない。
「恨むなよ!」
 ミゲルが声を上げた直後に、ジンは道路の上に足をおろした。
 警報。ジンの足下が滑り、バランスを崩している。何で足を滑らせたのかは、ミゲルは考えない事にした。
 ミゲルはただ、バランスをとる為にバーニアを噴かす。ジンは路上を滑るように進んでからバランスを回復し、そこからは普通に歩き始めた。
 そうなってからミゲルが改めて周りを見てみると、少なくない数の人が逃げまどっているのに気づく。そして、ジンに向けて銃を撃ってくる者も。
「……おいおい、冗談かよ」
 見た目、完全に民間人である。手に銃を持っているだけだ。老若男女関係なく、無駄な銃撃を続けている。
 MSにとっては何の脅威でもないが、今後のへリオポリス占領に当たっては、いろいろと障害となる。故に、任務にはレジスタンスの掃討も含まれていた。
 しかし……だ。
「くそ! 民間人とレジスタンスの区別がつかない!」
 違いといえば銃を持ってるかそうでないかで、見分けなどつくはずもない。
 しかも、レジスタンスは、避難民の群れの中に紛れて攻撃を行っている。
「そんな手を通用させてたまるかよ!」
 ミゲルにわいたのは怒りだった。レジスタンスが、民間人を盾にして戦いを有利にしようとしているかのように思われて。
 だから、ミゲルは容赦なく重機銃を撃った。榴弾の爆発の中に、次々に人影が飲まれては砕かれていく。

 

 

 トールは身を起こす。
 辺りには血の臭いが満ちていた。
 ジンはもう居ない。辺りを見回すと、ここから少し離れた場所で銃を撃っている後ろ姿が見えた。ここはただの通り道だったらしい。
 その通り道の上にいたミリアリアの両親の姿はなかった。ただ、さっきまで二人がいた場所……というよりも辺り一面がそうなのだが、路面に磨り潰されたような赤い物がこびりついているだけだった。
 ミリアリアはと……ぼんやりと考えた後、胸の上にいるのがミリアリアだと気づく。
「ミリィ!?」
 胸の上から抱え起こしたミリアリアは、小さく呻いた後に目を開いた。
「……何……が、あったの?」
「近くにMSが降りたんだ。でも、もう大丈夫」
 トールはミリアリアを助けながら、一緒に立ち上がる。
「……パパとママは?」
 ミリアリアの続けての問いに、トールは答えを迷った。
 血と肉で舗装されなおした道路。そこに、ミリアリアの両親は居たはずである。いや、今も居るのか……
 トールは、現実を忘れる為にわざと明るい声で言った。
「べ……別のシェルターを探してくるって、先に行ったよ! ほら、ミリィは少し気絶してたから。だから……そうだ、僕らも逃げよう。あ、あのシェルターが開いたみたいだし」
 言いながら、助けを求めるように辺りを見回していたトールは、先ほどまでオーブの理念を守ると言っていた連中が居なくなっているのに気づいた。
 きっと、MSが来たので戦いに行ったのだろうと……なら、シェルターに入れる筈だ。
 そう考えて、トールはミリアリアの手を引いて、シェルターに向かって歩こうとした。
 他にも、同じ考えなのか、シェルターに向かう人がいる。MSの落着で何か巻き込まれたのか、足を引きずった男の人。その人の方がシェルターにかなり近く、先に到着した。
 が……銃声が響く。
 男の人はシェルターの入り口から弾けるように飛び、仰向けになって倒れた。
 トールは目を見開いて足を止める。
「中から……撃たれた?」
 トールは気づく。シェルターの前に、かなりの数の人が倒れている事を。
 MSが蹴り散らしたのではなく、シェルターの中からの銃撃で倒れている。
 シェルターの中、オーブの理念の為に戦うと言っていた者達がいた。彼らは、恐怖におびえながら、手に持った銃をシェルターの外へと向けている。
 恐怖でパニック陥った彼らは、オーブの理念の為に戦っていた。弾は全て、敵ではなく無力な同胞に撃ち込まれるだけだったが。
「……あそこは駄目だミリィ。逃げよう」
「う……うん。そうね。それに、パパとママに追いつかないと」
 ミリアリアの言葉にトールは奥歯を噛みしめる。
 それでも今、本当の事を言うわけにもいかない。
 トールは無言で、ミリアリアの手を引いて走り出した。まずは、MSから遠く離れる為に、MSに背を向けて、道を選んで……

 

 

「く……これは正規軍の攻撃か」
 ビルが立ち並ぶ一角を見つけ、そこに向かったミゲルのジンは、ビルの内外に布陣したオーブ軍による真正面からの攻撃を受けていた。
 機関砲、ミサイルやロケット弾などが、ジンに対して撃ち放たれている。
 ビルの中や、ビルの陰に機関砲が据え置かれ、あるいはロケットランチャーや携行ミサイルランチャーを装備した兵士、装甲車などが隠れ、撃ってきているのだ。
 MSに対して威力不足は否めないが、相応に威力のある兵器が多く、至近距離でまともに浴び続ければ危険だったろう。
 MSの接近を十分に待ち、半包囲するようにして火線を集中させ、一斉に攻撃を開始すれば戦況は違ったものになったかもしれない。
 しかしオーブ軍は、MSが射程内に入るか入らないかの内に攻撃を開始してしまっていた。
 誇りあるオーブ軍は正面から敵と戦う。包囲とか、挟撃とか、迂回とか、そういった戦術とすら呼べないような事すら、しないのである。
 戦力を並べて撃ってくるだけのオーブ軍に対し、ミゲルは少し距離をとって真正面から撃ち返した。
 連射される榴弾が建ち並ぶビルに当たっては次々に炸裂し、ビルの壁面を砕き、ガラスを粉砕し、破片を路面へとばらまく。
 カメラでとらえた映像では、ここにも民間人が居るように見えた。
 レジスタンスか、それとも民間人かはわからない。何にせよ、榴弾の炸裂と、降り注ぐ破片、舞い散る土煙に紛れてそれらはすぐに見えなくなる。
 ミゲルは、重機銃の弾倉交換しながら撃ち続けた。
 しかし、思ったよりもオーブ軍からの攻撃は弱まらない。曲がりなりにも軍隊だけあって、しっかりと防御を固めている為だろう。
 それに、どうもやられる度に別の場所に温存していた戦力を投入しているようだった。
 潰した筈の場所から、新たに弱々しい火線が引かれるのを度々見ている。
 こういった戦力の逐次投入は、オーブ軍の用兵の基本だった。もてる全戦力で一斉にかかるのではなく、少しずつ小出しに敵に当てていくのだ。
「うっとうしいな」
 ミゲルは、この単調な戦闘にうんざりしていた。
 ビルをの壁面が無くなるぐらいに榴弾を撃ち込んでも、支柱が破壊されない限りはビルはそのまま立ち続けている。そして、ビルにこもるオーブ軍は、前の兵が倒れるたびに後から後から兵が湧いて出て、攻撃をかけてくる。
「ビルがあるから、いつまでも戦闘が続くんだろう!」
 ミゲルは、重機銃をラッチに戻し、代わりに重斬刀を抜くと、ジンを走らせた。
 装甲表面で、次々に砲弾やミサイルが弾ける。それをものともせずに、ジンはバーニアをも併用しながら高速で街を走り抜け、一番近いビルに肉薄する。
 ちょうど目の前のフロアに数人のオーブ兵がいるのが、モニター越しにミゲルに見えた。
 すでに崩壊した壁の向こう。オーブ兵は恐怖に取り乱す事もなく、冷静にロケットランチャーを構えている。彼らが何かを叫んだのをミゲルは見たが、声は聞こえなかった。
 直後、発射されたロケット弾がジンの顔面で炸裂する。同時に、ジンは重斬刀を振った。
 支柱を断たれ、ビルが崩壊する。断線の上がまず崩れ、それに巻き込まれて下側が一気に崩壊していく。
 ミゲルは、その崩壊に巻き込まれないようジンを動かし、新たなビルへと向かう。
 前面のメインモニターが砂嵐へと変わっていた。オーブ兵の最後の一撃は、メインカメラを割ったのだ。
 ミゲルは、ジンを操縦しながら、OSを呼び出してカメラ設定の変更を行った。サブカメラの映像がメインモニターに映され、若干画像が荒いものの映像がほぼ回復する。
 次のビルを断ち割るには、何の支障も無かった。

 

 

 戦場より遙か後方、シェルター内に設営された司令部。
 カガリ・ユラ・アスハとオーブ軍へリオポリス駐屯地の部隊指揮官であった一尉、一尉の部下である数名の兵士、通信機にとりついている通信兵、それ以外に人はいない。
 部屋に置かれた通信機からは最初、ひっきりなしに通信が来ていたが、今はだいぶ沈黙の時間が多くなってきていた。
「二中隊から通信。『我、最後の突撃をせり。オーブの悠久たるを願う』」
「一中隊返信有りません。繰り返し呼び出します」
「三中隊移動中。ZAFTのMSの前に回り込み、攻撃をかけます」
 通信機間近に用意されたテーブルにつき、通信士達の報告を何一つ動じずに聞いては、テーブル上に広げられた地図の上の駒を動かしている一尉。
 カガリは通信機から遠く離れた椅子に座して、一尉の背中を眺めている。他に役目は与えられなかったのだ。
「なあ、戦況はどうなっている?」
 何度繰り返されたかもわからないカガリの質問に、一尉は全く同じ答えを返す。
「オーブ軍、市民、一丸となってオーブの理念を守る為に奮闘中です」
「さっきから、同じ事しか言わないじゃないか! 敵は倒したのか!? 味方の被害は無いのか!? もっと詳しく教えろ!」
 さすがに痺れを切らして怒鳴りつけるカガリに、一尉は戦いが始まってから初めて振り返った。

 
 

「カガリ様、ご安心を。皆、オーブの理念を守る為、勇敢に命を賭して戦っております」
「それはわかっている!」
 苛立ちを見せるカガリ。それに対して、一尉は丁重に敬礼して見せた。
「ご聡明なるカガリ様ならば、必ずやご理解いただけるものと考えておりました。では、自分は指揮に戻らせていただきます」
「待て! 話は終わっていない!」
 カガリは、席を降りて一尉に詰め寄る。その時、通信兵が新たな報告を聞かせた。
「一中隊、二中隊、通信途絶。三中隊、交戦開始」
 戦いは終局に入っている。そう……もう終わりだ。
 一尉は、カガリに改めて体を向け、口を開いた。
「カガリ様。カガリ様には証人となって頂きます。へリオポリスの将兵と民衆が、オーブの理念を守る為、如何に戦ったのかを……」
「私も戦うと言った筈だ! お前も戦わせると約束しただろ!」
 身を拘束する兵士に抗いながら、一尉に怒りにまかせた抗議をするカガリ。そんな彼女の前、一尉は微笑んでいた。
「オーブ将兵は、オーブの理念を守る為、最後の一兵まで戦い、玉砕いたします。そのオーブの理念への献身と忠誠を、オーブ本国へとお届けください」
 玉砕……いわば全滅。だが、犬死にではない。オーブに今日の戦いが伝えられれば。
「オーブの理念を守る為に戦った者の事を知れば、オーブ国民はオーブの理念の尊さを改めて知るでしょう。オーブの理念を守る為に散った命の記憶と共にオーブの理念は永遠に語り継がれ、永遠にオーブを守り続けるのです。それは、カガリ様にしかできない事なのです」
「それが……オーブの理念を守る為になるのか? でも、お前達が犠牲になるなんて!」
 カガリは、自分に与えられた使命の大きさに惑う。
「まさか、最初からこの犠牲を出す為に戦ったのか!?」
 一尉は、カガリに諭すように言った。
「カガリ様。本当に正しい事の為の戦いで、犠牲を恐れてはなりません。ここで最後まで戦う事がオーブ軍、そしてオーブ国民の戦い。そして、その戦いをオーブ本国に伝える事こそが、カガリ様の戦いなのです。オーブの理念を守る為に」
 カガリは、理想に殉じる姿を見せる一尉に素直に感銘して、自信もそうなろうと気負って身を震わせた。
「……わかった。その戦い、私も全うしてみせるぞ。オーブの理念は、必ず守ろう」
 理想に殉じた者達の事を、オーブの全ての民に語り、オーブの理念を守る事の大切さを知らせる。
 MSを作るなどというオーブの理念への裏切りをしていた父ウズミも、きっと心を入れ替えるだろう。
 そしてオーブは、オーブの理念に守られた理想的な平和の国となるのだ。
「さすがはカガリ様です。オーブの理念を守る為、カガリ様も戦いに勝利を」
 使命に燃えて陶然とするカガリに満足げに頷き、一尉は部下に命じる。
「カガリ様を脱出シャトルへとご案内してくれ。道中の警護は頼んだ」
「了解です! ではカガリ様、こちらへ」
 案内を命じられた兵士は、カガリを導いてシェルターの奥へと歩き出す。カガリは、素直にその導きに従って歩き出した。
 その背を見送って一尉は表情を引き締めると、その場に残った者に予言者のように告げる。
「出撃だ。我々の名は、オーブの理念と共に永遠に輝く」

 
 

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