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機動戦士ザクレロSEED_第31話

Last-modified: 2013-07-11 (木) 17:32:55

 ムゥ・ラ・フラガは一人、連合軍海兵隊基地アイランドオブスカルに上陸していた。
 カモフラージュの為に無作為を装って宇宙ステーションやコロニーの残骸を連結した基地である為、内部は非常に入り組んでいる。
 慣れないムゥでは案内図があっても正しい道を辿るのが難しい。その辺りが、ムゥがこれまで勤務してきた基地との違いか。
 内部の構造に目をつぶれば、あとは普通の宇宙基地と変わる物ではない。
 訓練中の装甲宇宙服を着た一団が、凄い勢いで通路を飛んでいくのとすれ違ったくらいで、目につくものはなかった。
 しかし、居住スペースに入ると、通路は一気に混沌の色を増す。
 部屋の中だけではなくそこかしこで、非番らしき兵士達がゴロゴロと転がり……というか無重力の中で漂い、勝手気ままに休んでいる。
 銃を持ち装甲宇宙服を着たままの兵士まで居る始末だ。部屋の中に鮨詰めで設置された、誰かと使い回しているベッドに寝るより、その方が快適なのだろうか?
 通路の中には、よくわからない細かなゴミが無数に浮かんでおり、それらは空気の流れに乗ってゆっくり対流している。
 そして、最後にはそこに辿り着くのだろう通風口の所で穴を塞がんばかりに溜まっていた。
 通路の壁は薄汚れ、奇妙で卑猥な落書きが色を添えている。
 こういうのは、宙軍の基地では見ない。海兵隊の基地でも、ここまで酷いのにはそうそうお目にかかれないだろう。
「キルロイ参上ねぇ。何処に居やがるんだな」
 壁の向こうから長鼻を垂らす男の落書きに苦笑し、ムゥは先を急ごうとする。
 居住区に入ったなら、目的の酒保まではもう少しの筈だ。壁に書かれていた落書き、「HEAVEN→」の矢印が最後の道順を教えてくれた。
 やがて辿り着く居住区の深奥。そこに、元は宇宙に直置きするタイプの倉庫かドックか何かだと思われる部品が、継ぎ接ぎまるわかりの不細工さで通路の脇に溶接されていた。
 開け放たれた入り口から漏れる喧噪と騒々しい音楽。
 入り口の周囲に申し訳程度に飾られたモールやカラー電球などの安っぽい飾り。
 そして、入り口の脇に乱暴に書き殴られた「BAR」の文字。
 同じように落書きされた後で何かで削られて消えかかっている「No Minors Allowed(未成年お断り)」の文字が、そこが目的地と教えてくれた。
 ムゥは、本来の酒保とのあまりの違いに苦笑しつつ、また一方でこの猥雑さを好ましいと感じながら、その入り口をくぐる。
 中は薄暗く、だが無駄に飛び交う色とりどりのサーチライトが眩しい。
 目を差したサーチライトの焼き付きになれると、ダンスホール程の広さの内部がよく見えてきた。
 床や壁や天井……いや、無重力なのでその区別はないのだが、ともかく部屋の外周に手すりが張り巡らせてある。
  客達は皆その手すりに止まって、ドリンクパックの中身を飲み、トレーに塗られたジャムみたいに粘りがある料理を食べ、各々勝手に浮かれ騒いでいる。
 奇妙な光景ではあったが、重力ブロックがない以上、酒場はこんな形になるのだろう。ムゥはその事には驚きはしなかった。
 ムゥが注目したのは、部屋の内側。何も無い空間を飛ぶように行き来する女達の姿。
 ムゥは、適当に近くの手すりに空席を見つけると、移動用の手すりを伝ってそこに行き、他の客と同じように手すりに止まってから、改めて女達を観察してから呟いた。
「驚いたな。コーディネーターじゃないか」
 連合軍の制服を改造したらしい衣装……袖を切り落としてベストにしたらしい上着と、足の始まり間際まで切り詰められたスカート。
 扇情的なその姿は、彼女達がホステスである事をこれ以上無くアピールしている。
 そのスカートから伸びる脚や、大きく開かれた胸元から覗く谷間にも注目せざるを得なかったが、ムゥを驚かせたのは彼女たちの髪だ。
 最初はサーチライトの光の加減かと思った。だが、すぐにその髪の色が地色だと悟る。
 自然には有り得ない、色とりどりの髪の色。すなわちそれは、コーディネーターである事を示している。
 注文を取りに来たホステスにビールと食事を頼んでから、ムゥがその姿を目で追っていると、同じ手すりで横並びになってドリンクパックを舐める様に飲んでいた男が話しかけてきた。
「コーディネーターが珍しいのかい? と……大尉殿でしたか」
 少尉の階級章をつけた彼は、ムゥの階級章に気付くと少しだけ姿勢を正す。ムゥはそれを見て、気にせずかまわないと手を上げて示した。
「酒場で堅苦しいのは止そう。それより、あれはやっぱりコーディネーターなのか?」
「そりゃどうも大尉殿。大尉殿の言う通り、コーディ共さ」
 少尉は、ムゥの配慮に感謝して、砕けた口調で話す。
 ムゥは、一人酒よりは面白そうだと、少尉の側に寄って問いを投げた。
「コーディネーターは敵じゃないのか?」
「人間は、紀元前から敵国の女を奪って抱いて来たんだ。コーディネーターぐらいは余裕ってわけさ。あそこに牙があるわけじゃなしってね」
 少尉は股間の前で、手を鰐口みたいに動かしてアピールする。ムゥはその仕草に笑いながら重ねて聞いた。
「でも、どうしてここにコーディネーターが居る?」
 コーディネーター=プラントのイメージが強いが、地球にもコーディネーターは居る。中には、連合軍で働いている者も。
 だが、少尉の話しぶりからしても、きっとここのは違うだろう。そのムゥの考え通り、少尉は軽い口調で答えた。
「生粋のプラントっ娘ですぜ。戦場で獲れたピチピチの捕虜だ」
 通常、ナチュラル同士の戦争では、戦争のルールが決められているので、捕虜への虐待や民間人を狙った攻撃を行う事は出来ない。すくなくとも、おおっぴらには。
 しかし、この戦争では、それら取り決めの一切がなされなかった。
 故に、捕虜を取らずに皆殺しにする事や、民間人を巻き込む攻撃が公然と行われている。
 そして当然の事ながら、こういう事も起こりえるという事なのだろう。
 これを野蛮と言うか……なら、並べて撃ち殺すコーディネーター共のやり口はどうか?
 嫌な話だと思いつつも、ムゥは気の向くままに問う。
「捕虜と言ったが、これは徴労かい?」
 捕虜に労働をさせる事は、普通の戦争でも認められているが、酒場で働かせるのは有り得ない。だが、少尉の答えは、ムゥの予想以上に有り得なかった。
「志願だよ」
「志願だって!? コーディネーターが、ナチュラル相手のホステスにか? 捕虜ってからには、プラントのコーディネーターなんだろう?」
 ムゥは驚きに声を大きくする。
 プラントのコーディネーターはナチュラルを見下しているものだ。それが、ナチュラルの為に酒汲みをするような事は無いと思っていたのだ。
 それに対して少尉は、何でも無い事のように言った。
「敵の酒場で愛想笑いするだけで、兵士と同じ飯が食えて、酒が飲めて、清潔な服と化粧品が貰える。男と寝れば、金だって稼ぐ事も出来る。金があれば、嗜好品も手に入る。
 やる奴はやるのさ。生き物なんだから、それが普通の事なんだと思うぜ? 生きたい、辛いのは嫌、楽がしたい、美味い物を食って、綺麗な服を着て……
 俺達兵隊だって、戦うのは飯を食う為だ。お偉いさんは違うのかも知れないがね。
 だから……“ああいいうの”は違うんだよ。生きる事以外の為に動くなら、そいつは生きちゃいない。ゾンビだ」
 少尉の最後の言葉には、重く苦いものが感じられた。
 戦場でのトラウマか? それを洗い流すように、少尉はドリンクパックの酒を胃に流し込む。
 それから、嫌な事は振り払った様に明るく続けた。
「ま、難しい事はさておき、ここの女共はまだわかりやすいって事さ。腹の中で舌を出しながら俺達に媚びる、可愛い奴らだよ。
 ああ、忠告するが、この酒場の女には暴力を振るわんことだ。紳士協定に基づいて、俺達みんなから袋叩きにされるから。
 そして、ここの女共を抱きたいなら、女に頼んで、金を払う。それがルールだ」
「へぇ。扱いが随分と優しいな」
 一応、女を保護するルールがある。その事もムゥには意外に感じられた。
 海兵隊に対する色眼鏡かもしれないが、そこまで紳士的な連中とは思えなかったのだ。
 だが、少尉が言うには、そこにもちゃんと理由があるらしい。
「女を殴りながら酒を飲みたいって奴は、そんなに多くないって事だよ。楽しく飲むには、笑顔を向けてくれる女が必要だ。
 金を取るのは、女の数が足りないからさ。奪い合いになっちまうだろ? 金も出せない甲斐性無しは女を抱けないってのは、なかなか良いルールなんだぜ?
 女に選択権を認めるのも同じ理由だな。なに、そうそう断られたりはしない。断られる奴は、女に嫌われる何かがある奴だ」
 そこまで説明した後、少尉は下衆な笑みを浮かべる。
「ただ、あんたが女を殴りながら酒を飲みたいとかいう趣味なら、ちょっと別を当たってもらう事になるな」
「やっぱり、そういう所もあるのか」
 やはりか……と、ムゥは暗澹たる気分になる。
 単純だ。この酒場での勤務を志願しなかった女、志願する事も許されなかった女はどうなるか? 平穏無事に檻の中って事はあるまい。
 少尉は、ムゥのその反応を見て、ムゥの趣味とは違うと悟ったが、それでも与太話として話は続けた。
「あるにはあるが、コーディが嫌いだからとか、レイプに興味があるからなんて理由ならお薦めしないね。
 大概、ここに来たばかりの奴はやりたがるんだが、一回か多くて数回で嫌になる。悪けりゃ、二度と起たなくなるなんて奴も……な。
 悲鳴と罵声が耳を突く中、殴られ蹴られで外見からして悲惨な女に、サービスなんて期待できないからただただ突っ込んで腰を振るんだ。
 酒か薬か戦闘で頭がいっちまってないと楽しめないね。もちろん、それが病み付きになる奴もいるけどな」
 少尉の話では、そういうのは人気が無いらしい。彼らの中でも、そこに行くのはド変態だと相場が決まっているようだ。
 まあ、普通の感性だと、泣き叫ぶ女を殴りながら抱くなど出来はしない。
 異常だからこそ、それが出来る。とは言え、人が異常性を帯びる事は、ちょっとしたきっかけで起こってしまう事でもあるのだが……
 少なくとも、悔いたり恥じたりする様子も無く、酒の肴にそんな話をしている時点で、この少尉も異常の中に足先くらいは突っ込んでいると言えよう。
 この場では異邦人であるムゥは、どう言葉を返したものかと苦々しく思い惑う。止めるも無粋だが、あまり続けたい話題でも無く、かといって自分から振る話題も無い。
 そんなムゥには構わず、調子が出てきたか少尉は話を続けた。
「女を抱きたいだけなら、もっと気軽に楽しめる所もあるぜ。敵に媚びを売ってもって気概は無いが、抵抗は諦めた奴らが相手で……まあ、金がない連中が行く所さ。
 士官なら遊ぶ金はあるだろ? なら、ここの女共には他はかなわないよ。普通に楽しみたいなら、ここで十分だしな。
 よければ、俺が用立ててやろうか? 俺の紹介なら、どの娘も断ったりは……」
 と、少尉の名調子の狭間、ムゥの横の席にピンク色がスッと滑り込んだ。
 ホステスかと、ムゥは何の気なしにそちらを見る。
 そこに居たのは、ホステスにしては幼い容貌の、あどけない笑みを浮かべた少女だった。
「こちら、よろしいですか? 他に席が空いていませんの」
「え? あ、ああ、良いんじゃないか?」
 少女は、ピンク色の長い髪を無重力の中にたなびかせながら席に着く。
「驚かせてしまったのならすいません。私、喉が渇いて……それに笑わないでくださいね。大分お腹も空いてしまいましたの。
 こちらは食堂ですか? 何かいただけると嬉しいのですけど……」
 少女は、面食らった様子のムゥを見て丁寧に頭を下げる。
 その髪色から見て、コーディネーターである事は間違いないだろう。
 だとすると、やはり彼女もまたホステスなのか? 立ち居振る舞いの柔らかさは、人を持て成すには適しているような気がする。
 しかし、服装は普通のドレスだ。ホステスのような露出度の高い物では無い。
 その幼い外見にはホステスは似合わないが……ここに居るホステス達の素性を考えると有り得なくも無いのか? 彼女たちに選択の余地は無いのだろうし。
 だが、ホステスが客席について飯を食うのだろうか?
 浮かんでくる疑問の答を求めようと、ムゥは先程まで話していた少尉の方に向き直る。
 と、彼はちょうど手摺りを蹴ってその場を離れていく所だった。
 彼の酒や料理は置き去りになっている。急用が出来たのか? 何にしても、ムゥが覚えた疑問の答えは得られそうにもない。
 ムゥは少しの落胆を覚えつつ、また少女の方へと注意を戻す。
 とりあえず、少女をホステスだと考えても良いだろう。客席での食事は……まあ、客へのおねだりだとでも思えば納得できる。
 ならばどうするか?
 まあ、優しくしてやっても良いんじゃないだろうか? 一人で酒を飲むより、女の子が隣に居る方が楽しいのだから。
 先の少尉の話によれば、そうやって自分を売り込む事で、一緒に酒を飲むだけじゃなく、他の事も色々と楽しめる様にもなるのだろうが……ムゥにそのつもりは無い。
 特に、少女の胸の辺りを見て、その思いを更に固くする。
 ともかくそう結論づけたムゥは、メニュー表を手にとって少女に聞いた。
「腹が減ったのかい? じゃ、好きな物を選んで頼みな。ここには宇宙食しかないけどな」
「まあ。ご親切に、ありがとうございます」
 少女はムゥの手の中のメニューを覗き込み、しばし迷った後に笑顔で告げる。
「では、紅茶とハニートーストをお願いします」
「了解だ。お嬢さん」
 答えてからムゥは、先程まで少尉が居た席を掃除しに来たホステスに声を掛ける。
「すまない、注文良いかい?」
「はい、よろこんで……!?」
 ムゥの方を振り返り見たホステスは、ムゥの横の少女を見て驚いた様子で息を呑んだ。しかし、すぐに諦めの色を目に宿し、自嘲めいた笑みを浮かべてムゥに聞く。
「何になさいますか?」
「紅茶とハニートーストを彼女に」
 そう注文してから、ムゥはホステスに聞いた。
「彼女が何かしたかい?」
「あ、いえ……何でもありません。ご注文の品、確認させてもらいます。紅茶が一つ。ハニートーストが一つ。以上ですね?」
 ムゥの問いには答えず、早口でそう言って、まるで逃げる様にその場を離れるホステス。彼女の目は、そこに居てはならない者を見たかの様な惑いを見せていた。
 それは少なくとも同僚に向ける目では無い。
 では、少女はいったい何なのか……わき上がって尽きない疑問に、ムゥは面白さを感じる。
 酒の席の遊びに、謎の少女の正体を探るというのは楽しそうだ。
 かといって、いきなり根掘り葉掘り聞き出そうとするのも無粋だろう。楽しみながら、じっくりと聞き出すとするか。
 そんな考えをしてる間に、ホステスは頼んだ料理を持って来た。
「お待たせしました。紅茶一つ、ハニートースト一つ、以上で注文はおそろいですか?」
「ああ」
「では失礼いたします」
 ホステスは、少女を気にした様子をありありと見せながらも務めて無視して、料理を置くと去って行った。
 料理はムゥの前に置かれたので、それをそのまま少女へと渡す。
「さあどうぞ召し上がれ」
「はい、御馳走になります」
 ドリンクパック入りの紅茶は、粉末紅茶をお湯で戻した物。
 ハニートーストは一口サイズのクラッカーの様な物で、トーストと名が付いているが工場で出荷されてからは、焼かれた事など一度たりとも有りはしない。
 それが一食に必要なカロリー分だけ袋に詰められている。
 ご丁寧にも、ハニートーストには、フリーズドライアイスクリームが付いていた。
 これも一口サイズの四角い固形物。アイスと名は付くが冷たくない。凍結乾燥させられている為、常温でも溶けないのだ。
 少女は、出てきたそれらが想像していた物と違ったようで、面食らった様子でそれらを受け取ったまま手を止める。
 ややあってそれに挑戦する勇気が出たのか、まず紅茶パックを手に取った。
 恐る恐るという感じで一口含み、苦かったのか渋かったのかちょっと顔を歪める。
 それから、無言のままハニートーストの袋を破り、一つ取り出して口に含む。カリリと固い物が砕ける音。
 そして、フリーズドライアイスクリームを訝しげにしながら取り出し、それも口に入れ……甘すぎたのだろう、慌てて紅茶パックを吸って、口の中の物を流し込んだ。
「変わった味ですのね」
 困った様な笑顔で控えめな感想を言う少女に、ムゥはニヤリと笑いかける。
「たいへん評判の、連合軍のレーションだからな」
「そうなんですの?」
 たいへん評判という所が信じられなかったのだろう。聞き返してきた少女に、ムゥは釣れたとばかりに返す。
「ああ、大変な評判だから、連合軍以外では、こんなレーションは食べられないのさ」
「まあ、つまり……大変なお味なのですね」
 ムゥの言った事が冗談だと分かった様で少女は追従めいて微笑む。それから、空腹には勝てないのか、もう一つハニートーストを食べ、紅茶を飲み、溜息を吐きながら言った。
「皆さん、もっと美味しい物を食べればよろしいのに」
「そうもいかないもんさ」
 諦めきった口振りでムゥは肩をすくめる。
 予算、保存、輸送、栄養、そして最後に味という順番で軍の食事は採用されるというのは戦場の兵士が常にぼやく話の一つだ。
 予算内で十分な量を仕入れられなければダメだし、すぐに腐る様では何日も何週間も続く軍務に使えない。
 戦地へ運ぶ都合上輸送が困難であっては困るし、食べて十分な栄養がとれなければ兵士が働けなくなる。
 実際の所、味をないがしろにしてる訳では無いのだが、他の要素も大事なので、結果として味は“食えない事もない”といった程度に止まる事になる。
 それでも常に改善の努力は続けられているのだが、轟く悪評は消えそうにも無い。
 地上のレーションですらその有様なのだから、更に条件が厳しい宇宙用レーションなど推して知れようという物だ。
 話のネタとして、その辺りをムゥ自身の経験とあわせて面白おかしく語る。
 少女は、軍のハニートーストはお気に召さなかった様だが、至極楽しげにその話を聞いて、鈴を転がす音の様にころころと笑った。
 それを見ていると、少女はやはり普通に幸福な少女にしか見えず、こんな基地に居る身とは思えない。やはり気になる。
 ムゥは一計を案じ、少々の演技力を発揮して、失態を取り繕う為の慌てた声を上げた。
「そうだ、せっかく知り合えたのに自己紹介もまだだったな。失礼、お嬢さん。
 自分はムゥ・ラ・フラガ。連合軍大尉であります」
「ご丁寧にどうも。こちらこそ、名乗りもせずに失礼いたしました。
 私、ラクス・クラインと申します。よろしくお願いしますね」
 少女……ラクスは、ムゥの計った通り、素直に自らの名を名乗る。
 一計と自称するとか、おこがましい様な手だったが、上手くいった。
 しかし……ラクス・クラインだと?
「ははは、まさか歌手のラクスかい?」
「あら、私をご存じでらしたのですね? 私、プラントでは歌姫と呼ばれておりました」
 酒場に歌手なら合いそうだと、あくまでも冗談のつもりでムゥは聞いた。が、あっけらかんとそれを認めてしまうラクスに、ムゥの表情が強ばる。
「おいおいおい……待て待て待て……」
 ラクス・クライン。
 プラントで大人気だが地球では見向きもされない事が嘲笑の種として方々で有名な歌手。曰く「コーディネートすると耳が腐る。ラクスは、その証明」。
 しかし、彼女はそれだけではない。プラントの議長、シーゲル・クラインの娘でもある。
 それも、親の七光りで売れた気になっている歌手として、また一つの嘲笑の種ではあるのだが……ともかく。
 重要なのは、プラントの議長の娘と言う事だ。その重要さは言うまでも無い。
 そしてそれ故に、こんな所に居るはずの無い人物でもある。
 それほど社会的地位のある人物なら、軍は何かしらに利用しようとするはずだ。間違っても、ホステスとして使い潰そうとなんかしない。絶対に。
 先程のホステスの反応も理解できる。彼女は、ここにラクスが居ると考え、自らそれを否定したのだろう。そんな事があるはずが無いと。
 ムゥだってそれを信じようとは思いたくない。「不幸な境遇で、自分をラクスだと思い込んだ可哀想な少女」なんて存在である方がよっぽど現実味がありそうだ。
 もっとも、それは都合の良い想像というものでしか無いが。
「どうして歌姫のラクス嬢が、この基地に?」
 思わず聞いてしまってから、ムゥは酷な質問だったと気付く。プラントの歌姫が、連合軍の秘密基地で興行と言う事もありえまい。
 考えるまでも無い。彼女は捕まったのだ
「ええ……と、良くは覚えていないのです。
 私、ユニウス7の追悼慰霊の為に来ておりましたの。そうしましたら、地球軍の船と、私どもの船が出会ってしまいまして……」
 ラクスの表情が曇る。
「それで……どうなったのでしょう? 気付いたら、脱出ポッドで地球軍の船の中に居ましたの。あの時は……何か……」
 答える途中、不意にラクスから表情が消えた。そして、何事かを口の中で呟く。言葉にもならない言葉だが、断片には「獣」という単語が混じっていた。
 そんな反応を、ムゥは見逃してしまう。
 ラクスの話に思い当たる所があり、それについて思考していた為だ。
「……君の船の名は?」
 ムゥの問いに、ラクスは普通に答える。垣間見せた空虚な姿は既に掻き消えていた。
「シルバーウィンドですわ」
 ああ、やはりあの船かと……ムゥは、先日襲撃した船こそがラクスの船だったと知る。
 そして、ラクスの今の境遇に自分が関わった事を悟り、そはムゥの胸を痛めた。
 正義の味方を気取るつもりも無いのだが……いや、それでも冷酷になりきれない事は認めざるを得ないのか? 少なくとも、「任務だから」の一言で済ます事は出来ない。
 ましてや、ラクスの様な少女を戦利品として貪る気にはならなかった。
 だが、ラクスがここに居るという事は、そういう運命に落とされたという事なのか? そうだとしたら、随分と彼女の運命を歪めてしまったものだ……
 考え込み、黙り込んだムゥにラクスが、心配そうに声を掛けた。
「あの、大丈夫ですか? 辛そうなお顔をされてます」
「あ? あ、いや……なんでもない」
 ラクスの声に、ムゥは巡る思考を切り上げた。
 ラクスの運命を歪めた責任の所在や、自らが行うべき償いなどを考えても答など出ない。
 自分の責任だと全てを被るのは気負いすぎというものだし、かといって軍事の建前通りに命令を下した上官に丸投げするのも無責任だと感じてしまう。
 ラクスに対して何か償えるかといっても、彼女をこの状況から救い出すなど出来る筈も無いし、かといって気にせずおくといった事も心が咎める。
 せめて、この場だけでも良い客であろうか……
 ムゥは物憂げな表情を笑顔に変えてみせると、ラクスに言った。
「それより、何か他に欲しい物はあるかい? ここは俺が何でも奢ってやるぜ?」
「ありがとうございます。でも、お腹はもういっぱいですし……」
 ラクスは、まだ中身が半分以上残っているハニートーストの袋に目を落とす。
 軍人用の一袋は、少女の胃には多すぎた様だ。それ以前に、味の問題でこれ以上はという可能性もあるが。
 ともあれラクスは、追加注文をする事は無く、小首を傾げて考える。
「…………そうですわ」
 ややあってラクスは一つ素敵なアイディア考えついた様子で、ポンと手を打ち鳴らした。
「一つ、約束をしていただいてよろしいでしょうか?」
「約束?」
 思わぬ提案だったが、興味を引かれてムゥは問いを返す。
「はい、約束です」
 ラクスは笑顔で答えた。
「またあ私とお食事をご一緒してください。一人ぼっちだと、つまらないですから」
「ああ、いいとも」
 まだしばらく、アークエンジェルはこの基地に留まるだろう。機会はまたある筈だ。
 ムゥは軽い気持ちでラクスと約束を結ぶ。
 そして……その時だった。
 酒場の入り口の方で、大きなどよめきが起こる。
 ムゥはとっさにそちらを見て、今、入り口から内部に突入してきた連合軍海兵隊の装甲宇宙服の一団を見た。
 ざっと数えて、規模は一個小隊くらい。
 訓練か? 一瞬、そう思う。
 だが、兵にとっての憩いの場である酒場を巻き込んで訓練をするか……いや、しかねないのが軍隊ではあるが。
 「まさか?」との思いが、ムゥの反応を遅らせた。
 その間に、突入してきた海兵達は、まさにムゥをめがけて殺到する。
「動くな!」
 警告の声。そして海兵達は、ムゥの方に向けて銃を構える。
「動けば撃つ! 口を開いても撃つ!」
 その声から、ムゥは兵達の本気を感じた。同時に、彼等の意識が、ムゥから僅かにずれた場所へと集中している事にも気付く。
 海兵達が銃を向けているのは、ムゥの隣にいるラクスだった。
「…………」
 戸惑いと驚きから呆然と海兵達を見ていたラクスの口元が僅かに動く。
 とっさにムゥは腕を伸ばしラクスの体を抱え込むと、掌で彼女の口を塞いだ。
「言う通りにするんだ」
 ムゥに理由は分からないが、海兵達の警告は本気だ。ラクスが何か一言でも喋れば、そのまま撃たれてしまうだろう。
 ムゥに制されてそれを察したか、ラクスはムゥに口を押さえられたまま小さく頷く。
 その動作を感じ、ラクスが素直に従ってくれた事に安堵してから、ムゥは海兵達に向き直った。
「事情を聞いても良いかな?」
「脱走であります。大尉」
 軍務の事であり、ムゥには直接関係のない事でもある。答えを得られるとはムゥも期待していなかったが、少尉の階級章がついた装甲宇宙服が銃を構えたまま答えた。
 その声にムゥは聞き覚えがある。ついさっきまで一緒にいた、あの少尉だ。
 任務中だからか、少尉の言葉使いは堅い。
「その女は、拘禁してあった牢から逃亡したんです」
「拘禁……やはり、議長の娘だからか?」
「はい、それもありますが……」
 政治的な利用価値は計り知れないのだから、そういう処置は当たり前か。そう納得しつつ聞いたムゥに、少尉の返答には何か含むものがあった。
「ともかく、その女は至急、隔離しなければなりません。身柄を確保します」
 少尉は答えなかったと言うより、事を急いたが故に答えを先延ばしにした様子で言って、ラクスに手を伸ばす。
 ムゥの腕の中で、ラクスの体が強ばった。恐怖を感じているのか?
 一瞬だけ迷い、それからムゥはラクスの体をしっかり抱くように拘束し直して言った。
「乗りかかった船だ。協力させてくれ。とりあえず、お嬢さんのエスコート役は任せてくれないか? 少しの間だが、一緒に飯を食った仲なんだ」
「……了解です。お願いします」
 ムゥの腕の中で大人しくしているラクスを確認し、少尉は頷く。それから少尉は、かなり厳しい口調で言葉を繋げる。
「くれぐれも口を開かせないように。何もないとは思いますが……もし“何か”あった時には、味方を巻き込んでも撃てと命令されてます」
「……了解した」
 ムゥは頷き、ラクスの口を押さえる手に僅かに力を込めた。
 何故か、海兵達はラクスが言葉を発するのを恐れている。それはムゥにとって疑問であったが、その理由を聞ける場面ではないだろう。
「と、言うわけだ。ちょっと窮屈だろうが、部屋に戻ってもらうよ。良いね?」
 問いかけの形ではあるものの、有無を言わせぬ調子でラクスに言う。
 ラクスは小さく頷く事でそれを了承した事を示した。
 ムゥはラクスを抱えたまま、留まっていた手摺りを蹴って飛び上がり、酒場の出入り口を目指して飛んだ。
 周囲を、動きを止めて一連の騒動に注視する非番の海兵とホステス達の姿が流れる。
 ムゥに追従して周囲を固める武装した海兵達は、ムゥとラクスだけではなく、周囲にいる者達にまで警戒をしている様子だった。
 いつどんな反応があっても撃てるように。
 コーディネーターであるホステス達だけならまだしも、味方の海兵まで警戒しているのは何故か? ムゥの中で疑問が大きくなる。
 自分の腕の中にいるラクスという少女は、いったい何なのか……
 考えたところで答など出るはずのない疑問を頭の中で転がしながら、ムゥは酒場を後にし、海兵達の誘導を受けながら進んだ。
 長々とした入り組んだ通路を無言の一行は進み、やがて通路を遮断する無骨なドアで隔てられた区画へと入り込む。
 そこは監房の区画なのだろう。通路の脇にはやはり同じく無骨で頑丈そうなドアが、左右両方の壁に等間隔で並んでいる。
 驚く事に、中には非番らしい海兵達の姿があった。
 海兵達は監房の前にたむろし、時折中から出てくる者と入れ替わるように中に入る。
 ……これが、“志願しなかった女”の仕事場か。
 監房の中で何をしているのか想像はついたが、ムゥはそれを口に出す事はなかった。
 一行は、それら海兵達がいる方向とは別の、人気がない方向へと向かう。どうやら、目的の監房はずっと奥にある様だ。
 つまり、それだけ厳重に収監されていたと言う事なのだろうが……ならば何故、ラクスは出てこられたのか?
 そして、脱走したのなら逃げようとするのが普通だろうに、何故、酒保になど来たのか?
 色々とラクスには聞いてみたかったが、現状でそれは許されそうにもない。神経を尖らせた海兵達に囲まれた今の状況では。
 謎と言えば、海兵達の警戒ぶりも過剰に過ぎるのだが……
 ムゥが思考をめぐらせている内に、一行は目的の監房へとついた様だった。
 監房のドアは、ラクスが出てきた時のままなのか、開け放たれている。
 監房の中は非常に簡素ではあるもののベッドなどの一通りの調度は揃っているのが見えた。
 無為に過酷な扱いではなさそうだと、ムゥは少しだけ安堵する。
 と、その時に足を止めたムゥに、急かすように少尉がその背を押した。
 ムゥはラクスの体を押しやって、監房の中へと送り込む。
 押しやられて宙を漂いながら振り返ったラクスが仄かな笑みで手を振ったのをムゥは見た。
 だが、そんな光景もつかの間、無骨なドアがスライドし、ムゥとラクスを隔てる。
 ドアが完全にロックされたのを確認し、海兵達の緊張が解けた。
「一応、任務完了か」
 少尉がそう言いながらヘルメットを取る。それから少尉は、他の海兵達に命じた。
「非番だった者は解散。後は予めの指示の通りに。そうじゃない者は、正規の警備シフトが組まれるまで、ここで歩哨に立て」
 その命令を受けて、海兵達の7割程がそれぞれにくつろいだ様子を見せ、この場を去っていく。残りはその場で、ある程度の緊張と警戒を取り戻し、監房のドアの前に移動した。
 ムゥは、去っていく海兵達の群れに混ざり、少尉の横に並ぶ。
 と、少尉はムゥに向かって大いにぼやいて見せた。
「ああ、ああ、面倒臭え。せっかくの非番がパァだ。しかも、酒飲んだ状態で実戦なんて冗談じゃないな」
 任務が終わったからか、口調は砕けたものに戻っている。
 その方が話を聞きやすいと、ムゥは敢えて軽い口調で聞いた。
「姿を消したと思っていたら、ずいぶん派手に戻ってきたじゃないか」
「酒場であの女を見て驚いたったらねぇ。肝が冷えたぜ。
 で、あわくって通報したら、そのまんま武装して取り押さえろって命令だ。
 酒飲んでるって、言い訳も聞いてくれない。仕方なし、とっさにその辺の連中をかき集めて、突入班を編制したさ」
 そんな命令が出されるのは明らかにおかしい。
 待機中の部隊を招集し派遣する手間も惜しんだのか? 非番、待機、勤務の三態勢に分けられているなら、待機中の部隊が全体の三分の一ほど居るはずだが。
「非番じゃない奴等は別の仕事か? 割を食ったな」
「ああ、まあ、待機中の奴等も総動員されて酒保を囲んで警戒態勢だ。連中も肝を冷やしたと思うぜ? 渦中に飛び込んだ俺達ほどじゃないだろうが」
 少尉の答には驚くべき情報が含まれていた。だからこそ、ムゥの声は大きくなる。
「おいおい。じゃあ実は、他の部隊も動員されてたってのか? しかも総動員?
 何を警戒していたんだ? 女一人に有り得ないだろ」
 ラクスの確保に完全武装の一個小隊。さらに待機中の部隊を総動員……つまり、この基地内で動かせる兵力の三分の一ほどをもって周囲を固めていたと。
 基地内に相当数の敵戦力が発生した様な状況でもない限りは有り得ない。
 有り得ないのだが……今回はまさに、その様な状況が想定され対処していたのだった。
「……シルバーウィンドの中で異常な暴動が起こった。その原因として、あの女が疑われている。つまり、今回も暴動の可能性があったと言う事さ」
「同じ様に今回はホステス達が暴動を起こすと? まあ、有り得なくはないか。
 で、彼女が暴動の原因と思われてるのは、議長の娘だからか?」
 議長の娘というVIPを守る為に暴動を起こした。有り得なくもない。
 しかし、少尉はムゥに向かって首を横に振った。
「いや、そうじゃない。
 一つのホールに集められた船の乗員乗客のほとんどが一斉に蜂起し、そのほぼ全員が死ぬまで抵抗を続けた。わかるだろ? 異常だって」
「それは……」
 異常だ。
 暴動の規模はまだ有り得るとしても、“死ぬまで抵抗した”という点が有り得ない。
 人は誰でも自分の命こそを大事に思う。
 命を賭して忠誠を果たそうとする者も少数なら居るかもしれない。暴動の熱に浮かされて命を捨てて暴れる者もいるかもしれない。
 しかし、全員そうなる事は有り得ない。
「ゾンビ映画みたいだったぜ? 最後は、爆薬使って粉微塵にしたよ。それでようやく暴動が止まったんだ」
 その時の事を思い出したのが、少尉は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「で……だ。その時ホール内を撮っていた監視カメラには、あいつが何か歌ったのをきっかけに暴動が起こったとしか見えない映像が残されていたらしいぜ」
「歌……それで彼女に口を利かせなかったんだな。
 ……なあ、海兵隊は本気か? 彼女が魔法でも使ったってのか?」
 たかが歌で何が起こせるというのか? 少尉は、そのムゥの抗弁に、軽口で答えた。
「ああ、俺の婆ちゃんなら、あいつを魔女って呼んだろうさ。そして俺は、婆ちゃんの言う事は信じる事にしてるんだ」
 そして少尉は、少しばかり真面目な顔をする。
「上も……そして俺達も、あの女一人をおっかながってるのさ。
 あの女がどんな手品を使ったのかは知らないが、暴動に加わった奴等は残らずラクス・クラインの名を唱えて、最後の一人が死ぬまで戦ったんだ。
 奴等の遺言を信じなくて、何を信じる?
 だから……今回の動員は、ホステスだけじゃなく、酒場にいた海兵達までもが暴動に加わる事を恐れての事さ。俺達には、いざという時には酒場にいた全員を殺す許可まで出ていた。
 つまり俺達は本気。これ以上ないほどに。狂ってるくらいに本気ってわけさ」
 なるほど、完全武装の海兵一個小隊は、ホール内の全てを殺し尽くす為の戦力だったわけだ。そして、それでも暴動を抑えきれない時にそなえて、厳重な警戒態勢を敷いた。
 やけに大規模な兵の動員には、それで説明がつく。
 理解はしたが、自分も抹殺の対象だったと悟り、またラクスが暴動の原因だという話にどうしても納得出来ない自分も居て、ムゥは嫌な気分で愚痴めいた言葉を紡ぐ。
「……そうなってりゃあ、俺も今頃は死体か? 怖い話だねぇ」
「ゾンビになってうろついてるよりかは、殺しちまった方が慈悲だと思うね。“あれ”を見たら、きっと大尉もそう思うさ。
 ま、だからさ、大尉。あんた、艦には帰れないぜ? あの女と一番長く話したのは大尉だ。何か影響が有ったのかどうか、身体検査がたっぷり待ってるからな」
 少尉は人の悪い笑みを浮かべて答え、顎で行く先をしゃくって示す。
 海兵達の向かう先、白衣を着た男達が待っていた。先に行った海兵達が彼等の元で問診を受けている。この後、身体検査とやらもあるのだろう。
「ま、あの女に関わったのが運の尽きだったな」
 少尉は、慰めにならない慰めを吐いた。
「これなら、艦内でのんびりしてるんだったよ」
 もはや、逃れようはないだろう。ムゥは諦めの情を露わに嘆息した。