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機動戦士ザクレロSEED_第35話

Last-modified: 2013-09-01 (日) 18:19:17

 ZAFTの連合MS輸送艦隊は宙を進んでいた。
 その追跡者である第8艦隊は加速を続け、一両日中には輸送艦隊を捕捉位置に到達するものと思われる。
 ここに至り、ローラシア級“ガモフ”“ツィーグラー”の両艦は予定通り輸送艦隊の艦列を離れ、第8艦隊の遅滞戦闘へと移った。
 両艦は加速しつつ大きく円を描くような軌道を取り、進撃してくる第8艦隊の斜め後方から追いつくような形で攻撃を仕掛ける予定でいる。
 これは、今回のように敵の足を止めての艦隊戦が期待できない状況では、正面から進軍を阻止しようとしても、速度に乗った敵側の戦線突破に分がある為である。
 後方から追いかけ、併走する形になれば、長時間攻撃を続ける事が出来る。
 今回は、横から圧力を掛けるように攻撃し、敵艦隊の進路を輸送艦隊の追尾コースから逸らす事が目的とされた。
 敵の足を止める必要は無い。少しコースを逸らすだけでも、敵は大きな時間のロスを強いられるだろう。
 そして、その作戦を開始しようとしたその時、ヘリオポリス沖会戦開幕より僅か半日後、ヘリオポリス陥落のニュースが艦隊を震撼させた。
 ヘリオポリスを占領したのは現地オーブ人ゲリラだという。戦力は大型MA1機。それに防衛戦力のMS6機が蹴散らされたのだという。
 事の推移は、オーブ軍とそれに反抗する現地オーブ人ゲリラが発端となり、大型輸送船の事故などが絡んだ些か焦臭いものであるらしい。
 基地駐留のZAFTはそれらの報告の後、現地オーブ人ゲリラへの降伏も報告し、それを最後に連絡を絶った。
 しかし、任務の途中である輸送艦隊は、戻ってそれに対応する事は出来ない。
 ローラシア級“ガモフ”艦橋。
 作戦の開始に伴う幾つかの指示を出しながら、ゼルマンはそれでもヘリオポリスの事を考えずには居られなかった。
 そこに残されたZAFTの将兵やプラントの政務官の安否も気になる。
 しかし、心の底にあるのは、報告の中にあった大型MAの話であった。
 大型MAを、現地オーブ人ゲリラは“ザクレロ”と呼んだのだという。
 連合の兵器に同型機がある事……そしてそれが現地のオーブ人の手に渡っている事。それを不思議には思わない。現実として受け止められる範疇だ。
 だが、ゼルマンは感じていた。
 そこに現れたザクレロは、かつて見たそれと似ている。
 そのMAについて詳細な報告があったわけではない。映像のデータを見れば、ゼルマンが見たザクレロと外見は全く違う事もわかる。
 そんなものを、どうして“似ている”などと思ったのか? それはゼルマンにもわからない事だった。
 しかし、似ている。どことなく印象が……いや臭いがする。同じ臭い。獣の臭い。違う……死の臭いだ。
 それはヘリオポリスを蹂躙した。それより僅かに早くヘリオポリスより出撃していたのは、幸運だった……
 ? 何を考えている?
 味方が討たれ、自身がその場に居合わせなかった事を幸運だと?
 死の臭い? 妄想に怯えるのも大概にしろ。自分はそんな臆病者だったか?
 冷静な思考が、ゼルマンの心に満ちた怯えを否定する。
 大丈夫だ。まだ、理性はちゃんと生きている。まだ……まだ……
「艦長、どうかされましたか?」
 声が掛けられる。気付けば、ゼルマンの顔を覗き込むようにしてオペレーターが居た。
 年若い少女なのは学徒兵か?
 艦長に直接声を掛けるのは少々不躾にも思えるが、相手の若さ故か不快感は無かった。
「あ、ああ、すまない。考え事をしていたんだ」
「すいません。邪魔してしまいましたか? 呼びかけても返事をいただけなかったものですから……」
 恐縮するオペレーターに、ゼルマンは宥めるように手を振る。
「いや、考え事にかまけてる場合ではないんだ。声を掛けてくれて助かったよ」
「あ、いいぇ、そんな……その、お疲れのようですね」
 オペレーターは、平然を装うゼルマンに何かを感じたのか気遣わしげに言葉を紡ぐ。
「最近、艦内に多いそうですよ? 精神的な疲れで体調を崩す人が。
 ただ、皆は交代で休めますが、艦長はお一人ですから……」
「疲れか……そうかもしれないな」
 言われてみれば、疲れているような気もする。
 副艦長など交代要員と言える者もいるのだが、艦長にしか出来ない仕事もあるので、やはり過剰な労働状態にあるのかも知れない。
 それに……
「最近は少し眠れないしな」
 ポツリと呟く。そして、ゼルマンはふと思いついたようにオペレーターに聞いた。
「艦内の何処かに生き物がいないか?」
「え? おりませんが」
 質問自体に驚いた様子で、オペレーターは答える。
 まあ確かに、公式にはそんな動物など乗せてはいない。それはゼルマンも理解している。
「ああいや、出航前に野良犬か何かが紛れ込んだりしていないかと思ってね」
「無重力状態の艦内は動物が生きるには過酷な環境です。重力下での生活が前提の動物では、満足に移動も出来ませんからね。
 誰かが飼ってでもいない限り、餌をとれずに死んでしまいます」
 オペレーターは言葉を選びながら答えているようだった。
 それはゼルマンも承知の事ばかりだ。知っていた筈の事。だが、それでもなお、それを忘れてさえ、聞いてしまいたかった。
 何か“生き物”がいるのではと。いるのは“生き物”なのではないかと。
「気になるのでしたら、艦内の点検を……」
「いや、いい。気のせいだろう。うん、疲れているのだろうな」
 提案するオペレーターに、ゼルマンは苦笑を作り見せながら頭を振る。
 そうだ。気のせいだ。ある筈の無い事だ。
「そう……だな。この戦いが終わったら、休暇でも申請してみるよ。静かな所で休みたいしな……静かな所で」
 何も聞こえない場所が良い。
 ああ、遠く獣の声が聞こえる。

 

 

「4時方向よりZAFT艦接近中。ローラシア級モビルスーツ搭載艦、2。交戦距離まであと1時間!」
 アガメムノン級宇宙母艦“メネラオス”の艦橋にその報告は届く。
 それを聞いたデュエイン・ハルバートンは、何処か満足げに頷いた。
「執拗に邪魔が入るな。やはり、モビルスーツの重要性は、何より敵が理解する所か」
 味方よりも、敵の方が自分の正しさを認めている。そんな結論に、皮肉さと怒りを感じる事を禁じ得ない。
 連合軍は、ハルバートンのMS開発計画に非協力的だった。代わりに選択したのが、MAの強化大型化である。
 結果として、連合とプラントに対して中立を宣言していたオーブに頭を下げ、融資や技術提供などの各面で大幅な譲歩を余儀なくされながらも、ようやく開発した5機の連合製MS。
 それが実力を発揮したなら、連合軍の勝利は固い。
 だが、完成間際で全てが奪われてしまうとは……
 敵に奪われるという事は、そのMSの力がそのまま連合にふるわれるという事。なれば、敗北は確実にして揺るがない。
 それなのに連合軍は動く事無く、結局、ハルバートン自らが出撃せざるを得なくなった。
 ……何故理解しない?
 MAなどは、新しい時代に立つ事が出来ない滅びる定めの恐竜なのだと。
 今こそ、かつて人類が火を手に入れて万物の霊長となったように、人類がMSという新たな力を手にする時なのだと。
 そして時代の訪れを看破した自分自身を。
 何故認めない?
 古いものにしがみつく醜悪な人間達には理解できないのだろう。認めたくもないのだろう。いつだって、正しい者は不当な非難に晒されるのだ。
 そうだ、何が正しいのかは歴史が証明してくれる。このハルバートンが正しかったのだと、後世の歴史家はそう判定を下すだろう。
 だから今は、未来の為に、MSを取り戻さなければならない。
 その為には、命をも捨てなければならない。
 命を失っても、英雄となる。
 世界を救った英雄に――
 ――自身が、戦場でのトラウマと歪んだ功名心に取り憑かれた、哀れな道化に過ぎないという事を、ハルバートンは理解してはいない。
 開戦当初から続く連合軍の劣勢は、ハルバートンをMAに失望させ、MSに期待させるのに十分だった。
 しかしそれがMS信仰と揶揄される程に肥大化していったのは、この男の英雄志望故である。
 彼の中で強大な力のシンボルと化したMSを手に入れ、その力で世界を救う。神の啓示を受けた預言者のように、伝説の剣を抜いた勇者のようにだ。
 そんな妄念に囚われたハルバートンは、否定される度、犠牲を払う度に、自らの正しさを再確認しては歓喜さえ覚えるようになっていた。
 それはまさに神格化したMSへの殉教である。
 失われる命はその生贄。
「今から更に加速して、奴らを振り切れそうな艦は?」
 ハルバートンは問う。それに側仕えの参謀が答えた。
「当艦であるアガメムノン級宇宙母艦“メネラオス”、そしてネルソン級宇宙戦艦“モントゴメリィ”のみです。
 ドレイク級宇宙護衛艦“バーナード”及び“ロー”では、推進剤が保たないかと」
「そうか……ならば“バーナード”と“ロー”及び“モントゴメリィ”は艦列を離れ、側面の敵に当たる様に指示を出せ」
 同じ2隻といえど、ローラシア級モビルスーツ搭載艦とドレイク級宇宙護衛艦では、艦の規模でドレイク級が負けるため、砲火力でも機動兵器の搭載量でも勝ち目は無い。
 これでは、追撃を続けるメネラオスの為に時間を稼げないので、ネルソン級宇宙戦艦もつける。
 それでも、勝てはしないだろう。
 だからこれは、必要な犠牲だ。
「メネラオスは更に加速前進! 以後の追撃は“メネラオス”のみで行う」
 ハルバートンはまるで勝利に向かうように表情を輝かせ、祭壇の神にかしずくように敬虔な仕草で、まるで信託を下すように命令を下す。

 

 

 連合第8艦隊に併走する位置を取り、対艦砲撃戦の体勢を整えていたガモフ及びツィーグラーは、第8艦隊の動きを察知している。
 しかし、これは想定の範囲内である上に、むしろありがたくさえあった。
 ここで戦艦と護衛艦を引きつけておけたなら、敵に残る戦力は宇宙母艦のみである。
 その程度の戦力なら、直掩のナスカ級のみでもしのぐ事が可能。
 残存戦力全てが輸送艦に追いついてしまう状況さえ避けられれば良かったのだ。
 ZAFTと連合、両艦隊は示し合わせた様に距離を詰めていく。
 距離が縮まる間の沈黙。その間に両艦隊は回頭をすませ、互いに正面を向き合う。
 慣性の働きにより、艦が横を向いたとしても、両艦隊の進行方向は変わっていない。ただ、進行方向への加速を失った為、再加速して単艦先へ進むメネラオスからは遅れていく。
 既に戦場は設定されている。
 そして、口火を切ったのは連合艦の方だった。
「モビルアーマー、発進急がせ! ミサイル及びアンチビーム爆雷、全門装填!」
 艦長コープマン大佐の指揮下、モントゴメリィは戦闘準備を整える。
「推進停止、逆噴射開始! 艦は敵艦との相対距離を維持!
 モビルスーツがこちらに届く前に敵艦を沈める! 出し惜しみは無しだ!」
 2連装大型ビーム砲2門、3連装対宙魚雷発射管2門、そして多数のミサイルがモントゴメリィより射出された。
 更にドレイク級バーナードとローも、僅かに遅れて対宙魚雷を発射。各艦16発ずつの魚雷が、敵艦ガモフとツィーグラーへと向かう。
 ガモフとツィーグラーはそれぞれにアンチビーム爆雷を投下、ビームに耐えつつ、船体各所から機銃弾を宙に振りまき、また対空ミサイルを放って、魚雷とミサイルの迎撃にとりかかった。
 艦から放たれる、機銃弾の網に引っかかり、魚雷とミサイルが宙で炸裂する。
 まだ距離がある為、迎撃の機会をたっぷりと得ていたガモフとツィーグラーは、それぞれに向かってきた魚雷とミサイルを全て落としきった。
 しかし、それでも際どい所まで迫られた物もある。
「敵艦Aに魚雷1ミサイル1が至近弾。Bにミサイル3至近弾。ビームは命中しましたが効果未確認です」
 モントゴメリィの艦橋で、オペレーターが報告を上げる。
 撃墜に成功しても、ミサイルや魚雷に至近で爆発されれば、その破片を浴びる事になる。微々たる物かもしれないが、損傷を与えた事は間違いない。
 また、ビームはアンチビーム爆雷で減衰されている為、直撃してもいるがこれもダメージの程はわからない。
「次は敵のターンが来る。対空防御! アンチビーム爆雷落とせ!」
 コープマン大佐は敵の反撃を見越して声を上げた。
 その警告通り、ローラシア級の937ミリ連装高エネルギー収束火線砲が4条の光を描いて戦場を貫く。
「狙いはモントゴメリィ! 2発被弾! 損傷するも軽微です!」
 オペレーターが報告した。
 敵のビームも、敵味方両軍が撒いたアンチビーム爆雷で減衰されており、2発の直撃を受けたモントゴメリィに軽微な損傷を与えるにとどまっている。
 軽微損傷ですんだのは行幸ではあるものの、それは連合側のビームも効果が薄いという事でもあった。
「魚雷とミサイルにアンチビーム爆雷、次弾装填! 終わり次第に撃て! 数で押す!」
 艦の武装なら、モントゴメリィ単艦でもローラシア級2隻を上回る。まして、ドレイク級のバーナードとロー加えればなおさら。
 艦対艦の戦いなら、連合の方が優勢。押し込んでいけば勝てる。
 しかし、ZAFTにはMSがある……
「モビルアーマーが敵モビルスーツと交戦状態に入りました!」
 先に発進したMAが、ついに敵MSと接触。そのまま交戦を開始している。
 それを告げるオペレーターの声には不安が混じり込んでいた。
「ここからが正念場だ……」
 コープマン大佐は呟いて奥歯を噛みしめる。
 MAが稼ぎ出してくれる時間。その間に敵艦を落とせるか否かで勝負が決まるだろう。
 しかし、早くも戦場に爆炎が閃きだしている。
 無論、その全てはMAが撃墜されたものであった。

 

 

 オレンジカラーのジン・アサルトシュラウドが手にした重機銃を撃ち放つ。
 4機編隊を組んで接近してきていたメビウスの先を押さえる様に銃弾が走り、メビウスの足を止めた。
 そこにジン・アサルトシュラウドの左肩装甲内から220mm径5連装ミサイルポッドが放たれ、緊急回避し損ねた2機を打ち砕く。
 ミサイル攻撃を逃れたメビウスは、ジン・アサルトシュラウドの射界から逃れようと、最短コースを一直線に飛び抜け様とする。
 しかし、その分かり易い機動が仇となった、
 ジン・ハイマニューバがその正面に高速で突っ込み、重機銃をばらまく。火線をまともに浴びて、更にメビウス1機が破壊された。
 そしてジン・ハイマニューバは、残る1機に銃口を向ける――
「よし、ミゲルと同スコあぁっ!?」
 コクピットの中でオロール・クーデンブルグが上げた快哉が、途中から非難と落胆混じりの悲鳴へと変わった。
 その前で、対装甲リニアガンに貫かれた最後のメビウスが、内部からの爆発によって砕けていく。
 自分の獲物と定めたものを横取りされて、オロールは通信機に怒鳴った。
「何すんだお前は!?」
『何って、支援射撃よ?』
 通信機の向こう、ザクレロ塗装のメビウス・ゼロに乗るMA女ことラスティ・マッケンジーは、しれっと答える。
『危なかったわ。私が撃たなかったら、きっと貴方、やられてた』
「んな訳あるか!」
 最後のメビウスは、オロール機に反応など出来ていなかった。つまりはまあ、ラスティの言う事はデタラメだ。
 オロールが言い返そうとした所で、専用ジン・アサルトシュラウドのミゲル・アイマンから、通信が割り込む。
『喧嘩してる場合か! 敵はまだたっぷり居るんだぞ!』
「先生〜。ラスティちゃんが僕を虐めるんです」
 オロールは通信機に、泣きべそを書いてる様な声音で返してやった。
 と、大きな溜息が通信機から漏れた後、うんざりした様子でミゲルの声が返る。
『あ? お前の事、好きなんだよ。だから、意地悪しちゃうんだ』
『冗談じゃないわ! やめてよね!
 もういいわ。そんなに言うなら、あんた達のバックアップは止めね!』
 ラスティの怒声が割り込む。照れとか一切無しの、本気の怒声が。
 そんなやりとりの間にも、彼等3機の小隊は、迫り来るメビウスの編隊との戦闘を続けていた。
 続けざまに華々しく……とは行かないが、地道に敵を落としていく。
 そんなペースでも、彼等の小隊は、他の小隊よりもスコアを稼いでいた。特に、同じガモフに乗っているMSパイロット達の小隊と比べれば、その差は格段とさえ言える。
『あー、思った通りの腕だな』
 オロールからの通信が、ミゲルのコックピットに届いた。
 ミゲルは、モニターの一つ、件のMSパイロット達が映るモニターに目をやる。
 そこには、3機のジンが居て、やたらに重機銃の火線を振り回していた。個々が勝手に敵を狙っているのだろう、連携どころか時々互いの邪魔をしあっている。
『……MA女じゃないけど、あいつらにモビルスーツは、確かに過ぎた玩具だよ』
「そう言うなよ。ラスティに言われるのは仕方ないけどな」
 MAであれだけの腕を見せてくれている以上、そこは認めざるを得ないのだがと、ミゲルは暗澹たる思いで言う。
 ラスティとは、シミュレーター訓練で、名前を呼ぶ事が許される程度には関係は縮まったものの、オロールにとって彼女はMA女のままだし、ミゲルにしてみても苦手でしかたない。
 MAを悪く言わなければ逆鱗に触れるという事はないのだが、元々の性格から攻撃的すぎて扱いにくいのだ。
 なお、シミュレーターで共同戦を試したところ、ラスティにバックアップを任せると、細かい配慮をしてくれてミゲル達も実に戦いやすい事がわかった。
 ただし、ラスティをオフェンスに回すと、彼女を追いかけ回す事になるミゲル達は死ぬ目を見る。とんでもない機動で、戦場中を駆け回ってくれるのだラスティは。
 「ドッグファイトはMAの華!」との事で、リードを放された犬の様にすっ飛んでいく。それこそ、ちょうど今の様に。
 黄色く塗られ、ザクレロ似のシャークマウスが描かれたメビウスが、連合のメビウス部隊を追い、また同じく追われる。
 前を逃げるメビウスの一瞬の隙を突いて対装甲リニアガンを撃ち込み、逆に背後から浴びせられる攻撃を極めた機動で無理矢理引き剥がす。
 ラスティは、ミゲルとオロールから離れ、単機で敵編隊を掻き回していた。
 敵味方識別信号を過剰なくらいに発してあるので、ZAFTでは有り得ないMAという搭乗機でも、連合のパイロット達はちゃんと敵だと認識してくれている。
 それで良い。勘違いさせて落とすなんて、MA乗りとして相応しくない戦い方だ。そんなのは、MS乗りがコソコソとやっていれば良い。
「真っ向勝負よ、連合の古強者達!」
 常識的ではない機動に伴う強烈なGに抗い、息を整え、その合間にラスティは通信機に叫んで敵を挑発する。
 まるで、映画か何かの主人公の様に。

 

 

 ……ああ、懐かしいな。
 黄色のメビウス・ゼロを追う連合パイロットの一人は、戦闘中にそんな事を思った。
 プラントとの戦争以前から軍にいる古参兵。自分達の時代は、敵は機械人形などではなく、同じMAだった。
 MSという新しい兵器。ニュートロンジャマー影響下のレーダーが利かない新しい戦場。その中で、古いままの自分達は淘汰されていった。
 この戦いは、連合にもMSという新しい兵器をもたらす為の戦いなのだという。
 ならば、自分達の様な新しい兵器に順応できない古いものは、きっとそのまま滅びていくのだろう。それについては諦めながらも、何処かで寂しい思いを抱いていた。
 その思いを語れば、同僚達は病院行きを勧めてくれる事だろう。
 いよいよ戦えなくなったなら、退役すれば良いと。
 しかし、自分は戦える自分でありたかった。宙の猛禽でいたかった。しかしそれも、時代に取り残されたロートルの戯言だ。なんと無様であろう事か。
 だが、この敵は……胸に抱いたそんな虚無を埋めてくれる様だ。
「これが俺達に残された最後の宙かもな」
 呟き、そして思い残す事はないとばかりに加速をかける。
 体にかかるGが肺を潰し、息を継ぐ事も出来ない、無論、感傷を漏らす事も。
 後は戦いの宙のみだ。
 ――黄色のメビウス・ゼロを追う。
 小刻みに進路を変え、対装甲リニアガンのサイトの中に入ろうとはしない敵を、ただひたすらに追う。
 こちらの追尾を外し、逆にこちらの尾に食いつく為、敵は強引に軌道を捩曲げる。
 それについていく。それが出来ない者は、次の瞬間に敵の前に尾を晒し、宙に散る事となる。
 最初は編隊で飛んでいた自分達だが、今となっては誰か他に残っているかも定かではない。
 いや、居るのは、自分と敵だけだ。
「!}
 一瞬、黄色のメビウスがサイトの中央で動きを止めた。
 トリガーの指に力を入れ――だが、トリガーを引くことなく、操縦桿を傾ける。
 直後に、いつの間にか切り離されていたガンバレルからの射撃が、一瞬前まで自機が居た宙を貫いた。
 同時に、モニターの端に爆炎が入り込む。誰かが、今のでやられたか。
 体がズンと冷えた様な恐怖感。パイロットスーツの中に、ドッと冷や汗が噴き出す。
 ああ怖い……でもまだ生きている。
 戦いは続いている。まだ戦えている。
 操縦桿を握りしめ、モニターの中に黄色のメビウス・ゼルを探す。宙の中、その色は映えた。
 遠い陽光を浴びて金に輝く様に、それはまだ宙に健在である事を誇っている。
 まだだ。まだ戦える!
 あの獲物は、自分が仕留める!
 沸き上がる、欲望にも似た歓喜。
 敵はガンバレルを放している。機動性は落ちている。ならば、今が機会。
 引き金を引く。
 撃ち放たれる対装甲リニアガンの火線が、黄色のメビウス・ゼロを掠める。
 外した……いや、外された?
 見えていた場所より、敵は動いている。
 ああ、ガンバレルか。ガンバレルで自機を引きずったか。随分と使いこなす。
 ならば接近して落とす。
 スロットルを踏み抜く程に踏んだ。
 ほぼ同時に、ガンバレルを戻した黄色いメビウス・ゼロも、跳ねる様な動作で急加速をかける。
 良いだろう。逃げろ。
 こっちはお前の尻尾を追いかける。
 持てる全ての技量を使って。肉体も魂も全て使って。
 MA乗りとして――
 黄色いメビウス・ゼロ。その尾を、ついにサイトの中央に捉える。
 落ちろ……俺の最後の獲物。
 トリガーにかけた指に力が加わり――
 ――だがそれは、突然襲い来た銃撃によって遮られた。
「!?」
 混乱に陥る。
 自分が撃たれたならわかる。味方が先んじたのでもわかる。
 黄色いメビウス・ゼロは、横合いから撃ち込まれた無数の銃弾を機体後部に受け、破片と炎を撒き散らしていた。
 モニターに映るのは……黄色いメビウス・ゼロに銃撃を加える3機編成のジン。
 驚きと、夢から急に覚まさせられた様な喪失感に、トリガーにかけた指は動かす事も出来ないまま、自機の進路を変えた……
「同士討ち……だと?」
 状況は、味方を背後から撃ったとしか思えない。
 敵の失態として、喝采しても良い状況。
 だが、何か大切なものを、薄汚い何かで汚された様な気がして、MAパイロットは沸き上がる怒りに奥歯を噛みしめた。
 MAパイロットとして戦い、もしかしたらMAパイロットとして満足して死ねたかもしれない戦場は、彼から奪われてしまったのだ。
『ザッ……』
 通信機が掠れた音を立てる。
『私を落としたの……貴方?』
 少女の声が届いた。
 味方の裏切りには気付いていないのか? MAパイロットに落とされたと思っている様だ。
『凄いね。振り切れなかった……貴方と戦えて、楽しかったよ』
 素直な賞賛の声。そして通信は切れた。
「俺じゃないよ」
 一人、呟く。
 声の様子から言って、少女の末期の言葉ではないと思った。思いたくもあった。
「また戦おうな」
 誰にも届かぬ言葉を漏らし、かなわないかもしれない願いを残し、MAパイロットは再びMSとの戦いへと戻っていく……

 

 

 混迷に落ちていく戦場を遠く眺めつつ、第8艦隊とは別の連合艦隊が戦場外縁を行き過ぎる。
 艦は、アガメムノン級宇宙母艦1隻とネルソン級2隻。護衛艦は居ない。だが、アガメムノン級は巨大な玉葱の様な形の物を曳航していた。
 アガメムノン級の作戦指揮室。モニターに映し出される戦場を見て、一人の男が至極残念そうに言葉を漏らす。
「戦闘開始に間に合わなかったようだな。第8艦隊に助力せんと急いだのだが……」
「我々は“少し遅れてきた”のでは?」
 参謀の笑みを含んだ言葉に、ジェラード・ガルシア少将はニヤリと笑んで答える。
「正直なのは美徳とは限らないぞ?
 まあ良い、予定通りだとも。第8艦隊は、自らの滅びを代償として、我々の介入の隙を作りだしてくれた。
 当初のスケジュール通り、第8艦隊の壊滅を待って、連合製モビルスーツの破壊を行う」
 ガルシアは、第8艦隊の作戦目的とは真逆の事を言った。助力だなどと、最初から冗談でしかなかったと明かす様に。
 しかし何故、同じ連合軍なのに目的を違えるのか? それは、彼がユーラシア連邦閥に属する為である。
 連合軍を構成する国家の一つである、大西洋連邦とユーラシア連邦。母体となった国々の歴史を鑑みても、その対立の歴史は長い。
 そして、ハルバートンは大西洋連邦閥であり、ガルシアはユーラシア連邦閥。
 MS開発計画は大西洋連邦閥の進めた計画であり、ユーラシア連邦閥としてはその計画はむしろ目障りであった。
 そして連合製MSが敵の手に渡った今ならば、大西洋連邦閥の失敗を強く非難すると同時に、目障りなMSを片付け、さらに後始末をしてやったと恩まで着せる事が出来る。
 その為にユーラシア連邦閥は、自分達が擁する有力な手駒であるガルシアに、その重要な役を任せたわけだ。
 つまり、本来、こんな前線まで出てくる必要のないガルシアが出張ってきたのは、作戦の功労者となって自分の後援者に良い顔をする為。
 そして言うまでもなく、危険な前線に危機感もなく出てきて、成功を確信しているかの様な言動をとるのには、ちゃんとした理由がある。
 ユーラシア連邦が、この戦いの為に用意した切り札が。
「ブルーコスモスのモビルアーマーにばかり活躍されたのでは、我等のスポンサーの商売が立ち行かないからな。
 我々のモビルアーマーには、ここで華々しく戦果を上げて貰おう」
 ガルシアは満足そうにモニターの片隅に映る紫玉葱を眺める。しかし、その紫玉葱に似た形状の物こそが、ユーラシア連邦が開発した大型MAなのだ。
「了解です。我が艦隊は、このままZAFT輸送艦隊の正面に回り込みます」
 参謀が告げる。全ては作戦通りに。
 今、命を賭して戦っている第8艦隊の将兵には関わらず、ユーラシア艦隊は自らの目的を果たす為に前進する。