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機動戦士ザクレロSEED_第37話

Last-modified: 2013-11-07 (木) 19:51:54

 連合MSを積んだ輸送艦。それを守るのはナスカ級“ハーシェル”。追うのはアガメムノン級宇宙母艦“メネラオス”。
 戦いはハーシェルとメネラオスの一騎打ちの様相を呈していた。
 とはいえこの戦いに語るべき事は少ない。
 一人の狂人が己が信じた神に殉教した。ただそれだけである。
 メネラオスの艦橋。デュエイン・ハルバートンは、奪われた連合MSが積まれた輸送艦だけを見つめ続けていた。
 彼が下した命令はただ一つ。「全兵器、全兵力をもって前進せよ」と。
 メネラオスから発進したメビウスが前進する。彼等は整然と編隊を組むと、まっすぐに死地へと飛び込んでいった。
 迎え撃つ為にハーシェルより出撃したのは、ZAFTの赤服が乗った4機のシグー。今期最優のパイロット達と、その搭乗機として選ばれた最新鋭のMS。
 メビウス部隊は居並ぶシグーの壁へと押し寄せ、岸壁の波の様に砕かれる。たちまち、無数の光芒が宙に煌めきだした。
 だが、その光もハルバートンの目には入らない。
 ただ、ただ見つめる。輸送艦の憤進炎の光を。そこに“神”はあるのだと。
 天頂に座す神は死んだ。だが、我等を守り、我等に勝利をもたらす物がそこにある。ならばそれを神と呼んで何の間違いがあろうか。
 それは我々に勝利をもたらす。
 それは我に勝利をもたらす。
 祝詞はないが祈りは捧げよう。
 生贄の山羊は火にくべられている。
 払われる犠牲が神に届いた時、神は降りてくる。神は我が手に降りてくる。勝利をもたらす為に降りてくる。
 ああ、ああ、聖なるかな。どれほどの祈りを捧げただろう。
 最初に生贄となったのは無辜の民。ただ地球に住んでいたというだけの人々。万愚節の破滅によりもたらされた死は世界を覆った。
 自分の知る者も、知らぬ者も、関係なく全てが祭火に投じられた。そして未だに多くがくべられている。
 ――祈りは届きましたか?
 次に失われたのは部下同僚上官の魂。
 敵の作った悪鬼が、数多の部下を同僚を上官を殺した。
 ああ、ああ、彼等の断末魔。最後に残す言葉が聞こえましたか?
 絶望と後悔を込めて愛する者を呼ぶ声。敵への恨み怒りを叫ぶ声。あっけなく散る者の語り残した何気ない言葉。言葉無く去る者の秘められた心の声。
 聞こえますか? 聞こえますか? 私はたくさんたくさん聞きました。
 今も聞こえています。
 今も死んでいます。
 お喜びください、もっと死にます。
 そうしたら、神は降りてくる。私の元に降りてくる。
 そして勝利をくれる。
 何度も何度も怒り、何度も何度も悲しみ、何度も何度も絶望して、それでなお手に入れる事の出来なかった勝利を。
 ああ、ああ、勝利を。
 神様、勝利をください。
 永劫に敵を打ち負かす勝利をください。
 僕が愛した人に、好んだ人に、嫌った人に、憎んだ人に、何も思いはしなかった人、見も知らない人にも平穏と安らぎを与えられる勝利をください。
 もう僕に怒りと悲しみと絶望を見せないでください。
 これが最後だと思うから今は耐えます。
 だから僕に勝利をください。
「……前進せよ」
 戦場をじっと見つめていたとおぼしきハルバートンが突如命じる。
 同じ艦橋で指揮を執っていたホフマン大佐は、その命令を聞くやギョッとした顔でハルバートンを見返した。
「前進ですか? まだ敵モビルスーツの排除が出来ていません。いえ、現状でははっきりと我々が不利です。
 今、前線に突入しても、敵のモビルスーツの攻撃を受けるだけですが……」
「わからないのかね。これは必要な事だと」
 ハルバートンは強い意思を感じさせる言葉を吐き出す。
 そうだ。必要な事だ。
 神は未だ現れない。生贄が足りないのだ。
「メネラオスより、各艦コントロール。ハルバートンだ!
 本艦隊はこれより、敵輸送艦に対して突撃。移乗白兵戦を強行する。
 厳しい戦闘となるとは思うが、かのモビルスーツは、明日の戦局の為に決して失ってならぬものである。
 陣形を立て直せ! 第8艦隊の意地に懸けて、モビルスーツを奪還する! 地球軍の底力を見せてやれ!」
 命令は下された。メネラオスは前進を開始する。
 もう少しだ。もう少しで……モビルスーツに手が届く。“神”に手が届く。そうなれば、あの……あの…………
 恍惚。その内にハルバートンは浸る。
 だが、それは時を経て破られた。
「閣下! これ以上は……これでは本艦も持ちません!」
 メネラオスが揺れている。軋み響く金属的な不快音は、損傷を受けた船体の上げる悲鳴。
 怒声を上げたホフマンが、不安げにハルバートンの顔を覗き込む。
 メネラオスは今、戦いの直中にいた。
 メネラオスが対空砲の火線をハリネズミの様に生やし、メビウス部隊もまたメネラオスを守ろうと勇戦している。
 しかし、自らの間合いに踏み込んだこの巨艦に対し、MSはその猛威を振るっていた。
 止む事もなく銃火を浴びせ、時に急所を狙い、時に火砲を潰し、的確にメネラオスを仕留めんと攻め込んでくる。
「まだだ!」
 ハルバートンは叫んだ。
 目標の輸送艦はさっきよりも近づいている。もう少し。もう少しだ。
 もう少しで神は我が手に降りてくる。
「しかし……」
 ホフマンは抗命しかけた。このままではメネラオスは落ちる。確実に。
 だがそれでも、ホフマンは口をつぐんでしまう。
 今ここで、指揮をめぐって混乱を見せるわけにはいかない。全ては遅きに失していた。
 知将ハルバートン……彼の正気を疑うのは、もっと早くにするべきだったのだ。
 ホフマンが不安と焦りをにじませながら指揮に戻る傍ら、ハルバートンは、周囲の戦場で散る命の火も、刻々と迫る敵MSも見る事はなく、ただモニターに点の様に映る輸送艦の光を見据えている。
 デュエイン・ハルバートン。彼は狂人だった。
 その狂気は、誰にも止められる事のないまま、深く静かに悪化の一途を辿っている。
 周囲の者の多くは気付かなかった。しかし、一部は気付いていた。ただ、此度の戦争での人手不足が、その症状を軽く判断させ、彼に仕事を続けさせる結果となった。
 彼は見事に働いたと言えよう。結果はどうあれ、その過程においては万難を排して進め、連合製MSと呼べる物を完成まで持って行ったのだから。
 それは全てが彼の狂気故だ。MSに向ける妄想と執着が、失敗を寄せ付けなかった。彼の狂気の原因となったMSへの妄想と執着が、彼をここにまで至らせた……
 戦争が……彼にとって全てが新しいものとなった“MSを相手とした戦争”、そして戦禍に失われたあまりにも多くのもの。
 彼は真面目な軍人であり、悲劇に心痛める優しさもあった。
 真面目だったが故に自身では適応し難い新たな戦場に苦悩し、適応し難かったが故に防げなかった多くの悲劇に絶望した。
 彼は優しい人間であったが故に狂気を孕み、その狂気故に機械人形に神を見出し、そして虚構の神に自らの大切なもの全てを捧げてしまった。
 そんな狂人たる彼故に……彼は見たのかもしれない。
「?」
 つっーと、ハルバートンの口元から涎が溢れた。水球になって漂い出す直前のそれを、ハルバートンは無意識のうちに袖で捉えて拭う。
 何だ? 何かの記憶が……
 それは突然、白昼夢の様にハルバートンの脳内に蘇る。
 連合軍基地。地下実験場。最新兵器起動テスト。
 その地下の穴蔵。学校の体育館一つ分くらいだろうか。兵器の実験場としては狭い。
 周囲を囲う、仄暗く白い奇妙に歪み捩れたコンクリート壁が、何か酷く心をかき乱す。
 即席で作られた為に歪みが生じたと説明されたが、あれは文字や文様に見えて、まるでそう作られたかの様だった。
 その中央には、金色の装甲を持つMAが座している。さながら骸の様に。しかし、そこに確かで強烈な違和感と存在感を放って。
 技術者が得意げに言っていた。あれが、連合の新たな兵器の一つであり、MSにも勝てる、戦局を打開する兵器だと。
 ああ、偶像を拝む愚かな者達はいつもそう言う。神は一つなのに。だが……あれは…………
 そうだ……あれを見たから自分は。
 ……それは笑っていた。笑っていたのだ。
 戦局を打開する? あれが? 違う。あれであって良い筈がない。あれは“神”ではない。“神”であってはならない。
 あれは……あれは…………
 体の震えが止まらない。冷たい汗がじわりと肌を湿らせる。
 そうだ、あれは笑っていた。“神”を求める私を。
 敗北の理由を求め。失われた私の愛した人々を取り戻す術を求め。求めるがあまり、ただの兵器に神を見た私を――
 だから――だから……?
 記憶の中、視界が急に下に落ちる。膝の力が消え、姿勢を崩したのだ。跪き伏し拝む様に。
 あの時は、こうはならなかった。ならばこれは追憶ではないのか? ただの夢や妄想なのか。それとも――?
 跪くハルバートンの頭上で何かを噛み砕く音が聞こえた。
「閣下!」
 突然くずおれたハルバートンに、その体を支えようとしながらホフマンが叫ぶ。
 艦橋に満ちる煙。響き渡る警告音と、艦内を赤く照らす警報ランプ。艦橋要員達は退避を始めている様で、ホフマンの他に数名が残るのみだ。
「本艦は沈みます! 閣下も退避を……」
「何故だ?」
 ハルバートンは呟く。呆然としながら。
 何故か彼の頭は霧が晴れた様に冴え渡っていた。狂気が消えていた。
 抱いた疑問に答えるかの如く、頭の中には今までに為した事の全てが克明に蘇る。
 勝利の為、犠牲を無くす為、その為に積み上げた敗北と犠牲。ハルバートンを信じた人々の思いと、それらに背を向け狂気の中の偽りの神に全てを託していた自分。
「あ……ああ……わ……わたしは…………なにを……なんてことを……」
 それは正気では耐えられない、狂気の記憶の洪水。
 自らの為した狂気を、理性ある心で見つめなければならない地獄。
 だが、ハルバートンは再び狂う事さえ許されなかった。
 そう……“許されなかった”。
「あ……あああああああああああああっ!」
「閣下! お気を確かに! 誰か手伝え! 閣下を運ぶんだ!」
 叫び出すハルバートンに、ホフマンと艦橋要員達が群がる。
 彼等の背後、未だ戦いの光芒煌めく宇宙を映すモニター。
 艦橋に満ちる煙の加減か、ハルバートンに宇宙は白く染まって見えた。

 

 

 ヘリオポリス沖会戦の中盤に行われたメネラオスとハーシェルの戦い。この戦いをZAFTは“ありふれたZAFT「の勝利”として片付け、後に語る事は少なかった。
 メネラオスの艦特攻に対して、ハーシェルと麾下のMS部隊が迎撃に成功する。たったそれだけの事であり、それ以上の内容を持たないからだ。
 それでも、連合側は“奪われたMSを追った知将ハルバートン最後の勇猛果敢な戦い”と虚飾を施して戦史には残した。そこに、ハルバートンの狂気について書かれてはいない。
 ただ一つ、デュエイン・ハルバートンの死だけは、両軍共に確かなものとして記録に残した。

 

 

「ぐぅれぃとぉ!!」
 ディアッカ・エルスマンのシグーが持つM68キャットゥス500mm無反動砲が、船体の各所の破口から白煙や雑多な破片を吐き出すメネラオスの艦橋に直撃を浴びせた。
 これにより、か細く続いていたメネラオスの抵抗の対空砲火も途絶える。
 ディアッカは続けて、残弾処理とばかりにアガメムノン級の急所とされる場所に無反動砲を叩き込んだ。狙われた弾薬庫や推進剤タンクなどが一気に爆発し、メネラオスは連鎖的に起こる爆発の中で砕けていく。
「大金星だぜ! 譲ってくれてありがとうな!」
 ディアッカが喝采上げる。
 それに答えて、通信機からイザーク・ジュールの呆れ声が届いた。
『お前以外は対艦兵装で出なかっただけだ。モビルアーマーの撃墜数なら、お前が最下位だろうが』
「ま、そう言うなよ。と……少し生き残った様だな」
 イザークに答えながらディアッカは、轟沈したメネラオスから離れていく脱出艇を見つける。乗っていた連合兵が逃げ出したのだろう。
『逃げ出した腰抜け兵か』
 イザークも同じものを見つけたのか、興味もなさげにそれだけ言った。
「撃たないのか? ちょっとだけ得点になるかもしれないぜ?」
『何か邪魔されたわけでもないからな。それに、そんな所で点を稼いでも無様なだけだ』
 別に……逃亡兵だからと殺すわけではないのだ。虫の居所が悪ければ違っていたかもしれないが。
『モビルアーマー部隊の方も戦闘は止めたようです。生き残りは撤退して行きますよ』
 ディアッカとイザークに、ニコル・アマルフィが告げる。
 どうやら、この場での戦いは終了したらしい。
 MA部隊は、メネラオスの脱出艇を中心に結集しながら戦場を離れていく。
 後は燃料が尽きるまで逃げて、そして漂流が待っている。母艦を失った搭載機の運命であり、MS乗りもそれは変わらない。
 今更、少々の撃墜数稼ぎの為に、彼等を追い回す理由は無かった。
「ニコル。点は稼いだか?」
 誰もが結構な数の敵を落とした事くらいはわかっている。冷やかし混じりのディアッカの問いに、ニコルは苦笑めいて答えた。
『ええ、まあ。ラスティのおかげですね』
 そう言われて皆、“彼女”を思い出す。同期の中でとびきりの変人だった少女を。
『ああ……あいつほど強いモビルアーマー乗りは居ないからな』
 嫌な記憶もついでに思い出したイザークの声は苦い。
「イザークは、こてんぱんにのされたからな」
『お前も! いや、全員そうだろうが!』
 笑うディアッカに、想定通りにイザークの怒声が返る。
 訓練生時代、シミュレーション訓練でパッとしない成績のラスティがMAのデータを使った時の鬼の様な強さに、シミュレーション訓練に参加した訓練生全員が敗北した。
 シミュレーターのMAには通じた、MSとMAの機体特性の違いと性能差に物を言わせる戦法が、全く通じなかったのが敗因である。
 その戦いは一度だけで、ラスティは教官全員を騒然とさせた挙げ句に、お叱りを受けてシミュレーションでのMAの使用を禁じられた。
 要するに「MSがMAに負けるのは拙い」という理由で。
 ラスティ本人のやたらに喧嘩を売る性格の事もあり、その後、訓練生は誰もラスティに関わろうとしなくなった。
 しかし、負けず嫌いのイザークに付き合わされて、ディアッカやニコル、アスラン・ザラは、自習時間に教官には内緒でシミュレーション訓練をラスティとやったのだ。
 無論、彼等が対MA戦闘で好成績を収めて卒業したのは言うまでもない。
 逆に、ラスティも彼等から色々と教わり、彼等と同じく赤服として卒業した。
『ラスティですか……元気でやってるでしょうか』
「あいつが元気じゃない所なんて、逆に見てみたいけどな」
 ニコルが少し懐かしそうに、ディアッカが混ぜっ返す様に言う。そして、後に続けてイザークが少し懐かしげに言った。
『はた迷惑な女だったからな。どうしてあんなに攻撃的なんだ』
「あのなイザーク。お前もたいして違わないぞ?」
『なにを!?』
 ディアッカが言うと、案の定、イザークの猛抗議が始まる。
 それを聞き流しつつディアッカはニコルに話を振った。
「ところで、アスランの奴は?」
『え? あの……』
 ニコルは困った様子で言い淀んでから、一言に感情を込めずに答える。
『“恋人”に連絡中です』
「ああ……」
 何も言う事はなく、ディアッカもまた黙り込んだ。通信機からは、変わらずイザークの抗議の声が続いていた。

 

 

 仲間とは僅かに離れたシグーの中、アスラン・ザラは通信機を使い、輸送艦の艦橋にいるのだろうキラ・ヤマトと直接話をしている。
 無論、本来ならキラがそこにいるはずがない。これも、輸送艦の艦長から赤服エリートへのサービスだろう。
 そして、二人の話の内容というのが……
『どうして戦ったの? そんな事はアスランには……』
 通信機の向こうからは非難の声。
 これは仕方がない。アスランはキラと約束したのだ。昔の優しかったアスランに戻ると。無論、その優しかったアスランは、戦場で戦ったりはしないのだ。
 これは親密な仲を結ぶ契約というわけではなく、アスランに復讐は似合わないとキラに説得されたことで、アスラン自らが決めた事。
 考えてみれば、連合の攻撃で死んだ母も優しい人だった。キラと同じ事を言ったかもしれない。
 父のパトリック・ザラに逆らう事になるのかもしれないが、軍で戦果は上げており、もう十分に箔は付けた筈だ。父を助けるすべは、軍以外にも有ると思いたい。
 だが、それもこれも後での事。今すぐに約束を履行できるという訳ではなかった。
「だから、軍を辞めるまでは俺は兵士なんだ。義務を果たさなければならない」
『でも……』
「わかってくれ。今のこの任務だけ……これを終わらせる時までなんだ」
 何だか恋人に「仕事も大事なのだ」と言い訳する男みたいな事を言い、それから本気の思いで台詞を続ける。
「それに……キラ、お前を守りたかった」
『アスラン……』
 何というか、背景に花が咲き乱れそうな会話が繰り広げられていた。
 文字に起こして見せたなら、恋人同士の会話だと皆が思うことだろう。文字には、声と外見と性別は、書かれていなければ関係ないのだから。
 これが今この場所だけでという事ではなく、一緒にいる時はだいたいこんな感じなのだから、周囲の目がどうなるかもわかろうというものである。本人達以外は。
『わかったよ。無事で帰ってきてよね』
 説得だか、愛の言葉だかが効果を現してか、キラの態度は軟化した。それに安堵しつつ、アスランは緊張の解けた様子で言う。
「ああ、もう戦いは終わった。すぐに帰るさ」
 戦いは終わった……アスランは。いや、他の誰もがそう考えていた。
 しかし、それは違う。
 今ここに……とある強大な兵器が投入されようとしていた。

 

 

「ハルバートンめ、無様な死に様を見せたな」
 戦域を遠く離れたアガメムノン級宇宙母艦の艦橋。
 モニターに映し出されるメネラオスの残骸を眺めながら、ジェラード・ガルシア少将は嘲る様な哀れむ様な複雑な表情でそう呟いた。
「閣下?」
「ああ、いや」
 怪訝げな参謀に、ガルシアは何でもないと手を振って見せる。
「さて、観戦は終いだ。我等の戦いの時は来たぞ」
 ガルシアの率いる艦隊は、第8艦隊が滅び行く様を見守っていた。もし加勢すれば、第8艦隊の目的は果たせたかもしれない。
 だが、それは有り得ないのだ。ガルシアが受けた命令には、それを成せとは書いていなかったのだから。
「一戦して少々くたびれた敵が相手なのが不満だが、どうやら新型機のエース部隊だ。せいぜい頑張って抵抗してくれるのではないかな」
 皮肉混じりに言ったガルシアの言葉に、周囲の者達がドッと笑う。
 敵への侮りとも見られるが、今はこれを良い自信だとガルシアは解釈した。ここにあるのが旧式のMAだけだとしたら、追従だとしてもこの様に笑う事は出来まい。
「第一の目標は敵戦艦及び護衛のモビルスーツとする」
 告げたガルシアに参謀が問う。
「輸送艦はいかがしましょう?」
 なるほど、側に無力に浮かぶだけの輸送艦は、すぐにでもかぶりつきたい獲物に見える。
「後回しだ。護衛を滅ぼした後に、どうとでも料理できる」
 ガルシアは、すぐに輸送艦に手を出す事はしなくて良いと判断した。
 MAは敵艦と敵MSにぶつける事が決まっているのだ。輸送艦を襲うなら、この艦隊が行かなければならない。
 戦場に突っ込んで行くのは、ハルバートンの末路を見た後では躊躇させられた。
 臆病風に吹かれたと言っても良いが、それを隠して言った台詞は参謀達を納得させるのに十分だったらしい。疑問を持たれる事もなく、すんなり納得される。
 何も問題はない。順調だ。
 後は告げるだけで良い。ユーラシアが誇る新型MAの出撃を。
「アッザムを発進させろ。ユーラシアのモビルアーマーの力、見せつけてやると良い!」
 満を持したとガルシアは声を張り上げた。直後、モニターに、母艦から切り離される大型MAの姿が映し出される。
 CAT03-X1/2 ADZAM。
 紫玉葱の様な涙滴状の機体に、4脚の接地用ダンパーが生えた姿は奇妙に生物的である。
 武装として機体の側面に上下2列4基ずつで計8基搭載されたビーム砲は、このMAの大火力ぶりを如実に表していた。
 大西洋連邦の、火力、格闘戦能力、高機動性の融合を求めた大型MAとは設計思想から違う。大火力で敵多数を葬り去る、それがユーラシアの目指す次世代のMA。アッザムはその系譜に連なる第1の機体だ。
「おお……」
 その出撃を見守るガルシアは、思わず感嘆の声を漏らす。
 ああ、これだ。これこそが次世代の兵器だ。ハルバートンよ見ているか?
 ガルシアは心中、散ったハルバートンに呼びかける。
 お前は間違った。MSなど、お前が全てを賭す程の価値のある物ではなかったのだ。
 良いか、見ていろ。必ず……必ず、連合はZAFTに勝利する。
 その立役者となるのは、お前が作ったMSでも、大西洋連邦のMAでもない。このユーラシアが作り出したMAがそれを成すのだ!
「行けアッザム! 全てを焼き払え!」
 思わず、声が出ていた。ガルシアはそれに気付かない。
 今はただ、ゆっくりと回転しながら敵に向かって進んでいくアッザムの姿を見送るのみだった。