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機動戦士ザクレロSEED_第39話

Last-modified: 2014-03-30 (日) 15:47:06

 船体に無数の穴を穿たれたナスカ級高速戦闘艦“ハーシェル”が宙に浮かぶ。爆沈はしなかったものの、既にこの艦は死んでいた。
 その船体に開いた大穴の一つ。その入り口には1機のシグーと、他数機分の残骸が漂っている。そして穴の中、ビームの熱に溶けかけた跡の残る通路。
『う゛ぅ……』
 ノーマルスーツの中でイザーク・ジュールが呻く。ノーマルスーツ内蔵の通信機を通して漏れるその声。そして、苦痛に身を捩ろうとするのを、ディアッカ・エルスマンが抑えた。
「動くなよ。傷に障るぞ」
 イザークは全身に火傷を負っている。それはうっすらと焦げたノーマルスーツが示していた。
 その火傷がどの程度のものかはわからないが、火傷一つ一つは軽くても、全身にとなれば地獄の苦しみだろうとは想像が出来た。
『アズ……ランは……』
「……回収した。生きてるよ」
 イザークが苦しい息の下から絞り出した問いに、ディアッカは答える。“まだ”とは敢えて付けなかった。
 側に浮いているアスラン・ザラの体は、右腕と右足が本来は有り得ない方向にねじ曲がり、そのノーマルスーツの右半身はイザークのそれ以上に焼け爛れていた
 教科書通りに処置はしている。モルヒネの痛み止めと、絆創膏を貼ってのノーマルスーツの補修、そんな程度しか出来ないという意味で手は尽くした。
 後は、コーディネーターの生命力に賭けるしかない。
『お゛れが……あんな、わなにがかったばかりに……』
「責めるなよ。初見の敵だ。まさか、あんな隠し球を持ってるとは思わないさ」
 気休めにもならないが、ディアッカはイザークを宥める。
 ――酷い戦いだった。
 もともと、連合軍第8艦隊旗艦“メネラオス”との戦闘で、損傷はないものの消耗はしていた。
 そこに襲い来た敵の大型MA……戦艦以上の重火力と、MSの攻撃などものともしない重装甲。まさに化け物だった。
 先程までは敵を狩る側だった自分達が、今度は狩られる側に回る。
 それでもZAFTの栄えある赤服たる4人は、何とか戦えていた。しかしそれも、イザークが敵の攻撃に捕らえられるまで。
 その後は、イザークを助けだしたアスランが離脱中にコックピット間際に被弾、大破。ニコル・アマルフィがカバーに入るも、仲間を庇って動けないMSでは的にしかならず、足と頭部を消し飛ばされた。
 そこに至って、MS部隊の壊滅という参上の中でも最後まで輸送艦を守ろうとしたのだろう、ハーシェルがMAへの砲撃を開始。時間は稼いでくれたものの、MAの反撃により艦は轟沈。
 その間、ディアッカはと言うと……隠れていた。
 アスラン達の機体の残骸が集まっていたのを良い事に自分もそこにくっつき、動力を止めて死んだふりをしたのだ。
 卑怯と言うなかれ、おかげで仲間を救出する事も出来た。
 もっとも、二人は重症で、今の所は手の出しようも無いのだが。
 と、通路の奥から、もう一人の生き残り、ニコルが姿を現す。
 体の痛みに耐えてのぎこちない動きながら通路の壁を伝って帰ってきた彼は、ディアッカに告げた。
『医務室に何とか行けそうですよ。そっちはまだ空気も残っています』
「そうか……ところで、生存者は居たか?」
『はい。何人かは……他にも生存者はいると思いますが、艦内が寸断されてて探しには行けないそうです』
 戦いは極めて短時間で一方的に終わり、乗組員に脱出の暇も無かった為に取り残された者が各所に残されている。
 艦内は酷い有様で、自動で降りた隔壁の働きで一部に空気は残されてはいるが、それとて何日も保つというものではないだろう。
 しかし、仲間が助けに来る見込みはない。惨憺たる状況だが、ディアッカは落胆を見せない様に敢えて気楽に言った。
「よし、イザークとアスランを運んでやろうぜ。この忌々しいノーマルスーツを脱がさないと、怪我の治療も出来ないからな」

 

 

「アスラン、遅いな……」
 遠く、輸送艦の中。キラ・ヤマトは、自らとアスランの為の船室を漂いながら呟く。
 客人に戦況など報されはしない。だからキラは何も知らなかった。彼の親友の現状も、彼自身の置かれている窮地も……

 

 

『いやだああああああああっ!』
 戦場に若い男の悲鳴が響く。鼻を啜る音、嗚咽、それらが混じった騒音が、通信機から止め処なく溢れてくる。
 ジンのコックピットの中、操縦桿を握る妙齢の女は、苛立ちを露わに怒鳴り返した。
「うるさいね! 黙って戦いな!」
『先輩。そんな事言っても……勝てるわけがないじゃないですか!』
「勝てなきゃ死ぬだけさ!」
 今、ジン2機は連合MSを腹に収めた輸送艦にしがみつき、追撃してくる敵に対して抗戦を試みていた。
 ナスカ級“ハーシェル”所属の2機。彼等に与えられた任務は、輸送艦に同行して、友軍との合流までそれを守る事。だから、彼等は死を免れた。
 連合の大型MA……驚異的な火力と装甲を持つ、宇宙の重戦車とでも呼ぶべきそれが撒く死から。
『いやだああああっ! 勝てるわけがないんだあああっ! 新型機のザフトレッドが4人がかりでダメだったんですよ!?』
 彼等は知っている。シグーに乗った赤服4人が、如何にして敵に敗れたのかを。そして、輸送艦を逃がす為に、母艦のハーシェルがどの様な末路を辿ったのかを。
「うるさい! だったら、どうするのさ!? そこでメソメソ泣いていたらどうにかなるのかい!?」
 怒鳴りながら、彼女はジンの手の重機銃を撃ち放つ。
 しかし、有効射程の外からの射撃ではほぼ当たらない。
 当たったとしても紫色の曲面状の装甲は、その銃弾を弾いて何の傷も受けはしない。そしてそのまま、ジリジリと輸送艦との距離を詰めてくる。
 敵が、ばらまくつもりででもビームを撃ってくれば輸送艦は瞬く間に窮地に陥るだろう。それをしてこないのは、嬲るつもりか、有効射程に入って確実に当てる事にこだわる為か……
「輸送艦に速度なんて期待出来ないってのはわかるけど、このままじゃ……」
 無意味な攻撃を続けながら彼女は歯噛みする。
 このままでは追いつかれるだろう。一度距離を離しながらも、こうして追いすがられた事実が示す通り、敵の方が足は速い。
 輸送艦が一度はその顎を逃れる事が出来たのは、赤服4人とハーシェルが輸送艦を逃がす時間を稼いだから。それで、ほぼ半日分という時間を輸送艦は得たのだ。
 とはいえ、単に戦闘時間でそれを稼いだわけではない。
 大型とはいえMA。短時間の機動力は艦船と比べるべくもないが、その代わり稼働時間はその優劣が逆転する。
 一度、距離を離してしまった目標を追うには向かず、故に母艦に収容する手間がそのまま追撃に負担となった。大型だけに、収容と言うよりも曳航と言うべき運用形態を取っている事も悪く出たのだろう。
 戦闘時間と収容時間のロス。連合艦隊がそれを取り返す為に半日。だが、追いつかれてしまえば、輸送艦の悲しさ。再び逃れる手段はない。
 もう一度、大型MAの動きを止めればあるいは? しかし、ジンを使って輸送艦から狙い撃つだけでは、それは出来そうにもない。
 ならば、どうしたら良いか……
 ああ! ああ! ああ! そんな答しか出せない自分の頭の悪さに彼女はうんざりする。
 でも、他に出来る事など無い。
「いいかい、最後まで輸送艦を守るんだよ!? きっと、もう少しで増援が来てくれる。それまで頑張れば、生き残れるから!」
『先輩?』
 彼にそう言い放ち、困惑の声が返るのを聞きながら、彼女はジンに輸送艦の甲板を放させる。
 ゆっくりとジンは輸送艦から離れた。それをスラスターに火を灯して更に加速する。
『先輩!?』
 後輩の悲鳴を吐き出す通信機を切って、自分の中に沸き上がりそうになる思いと決別する。
 後悔はしている。自分は馬鹿だ。でも、他に出来る事が思い付かない。
 だから、全てを振り切る為、ただ敵だけを睨み据える。
「ここは通させないよ」
 向かうは敵大型MA。遠い宇宙に浮かぶ様は紫玉葱の様なそれ。
「時間を稼ぐだけ……それで良い。倒すなんて考えるんじゃないよ。長生きするんだ。少しでも長く」
 勝てるなどとは思っていない。
 いや、輸送艦が逃げる時間が稼げれば勝ちだ。勝ってみせる。
 とりあえず、敵の足を鈍らせる為に進路上を正面から突っ込む。
 大型MAがゆっくりと回転し、その側面に並べられた主砲が自機に向く。
「くっ!」
 機体を跳ねる様に動かし、今までの進路上から強引にどかせる。直後、今まで自機が居た場所を四条のビームが薙ぎ払った。
 しかし、それで終わりではない。大型MAの回転する機体は、次の砲台を彼女に向けようとしていた。
「近寄らせてもくれないってのかい!」
 叫び、再び跳ねる。ビームは間際の宙を灼き、そして彼女は体にかかるGに呻く。同時に、恐怖に肌を泡立てた。
 さっきよりもビームが近い。
 かわしてはいる。しかしそれは誘導された回避だ。
 一発一発。罠に追い込まれていく様に、必死の位置へと追いやられている。
 その証拠に、次の砲火が早い。既に回り込んできていた第三の砲塔が自機を狙おうとしていた。
 回避の為に操縦桿を傾ける。フットペダルを改めて踏み込む。そうしてから、その操作が誤りだと気付く――次はかわせない。
 第三の砲塔から放たれたビームが時期の間近を貫く。
「この程度かい! あたしなんてさ!」
 まだ必要な時間を稼いではいない。
 悔しさに叫びながら、出来る限りの回避運動を取らせようとする。それが無駄なあがきと覚悟の上で。
 第四の砲塔が自機を向いた。完全に捕捉されている。
 砲口が真円となって見える様。そこから撃ち出されるビームはきっと、彼女の機体を貫く事だろう。それを理解しながらも、彼女は何ら対応する事は出来なかった。
 が、その時、砲塔の上に被弾を示す火花が散る。
 同時に、放たれたビームが、彼女の機体を僅かに外して宙を撃った。
「な!?」
 驚きを短い声にして漏らし、そして戦場周辺を観測する。真っ先に、逃げたはずの輸送艦の方向を。
 そこに、小さな反応が有った。
「…………馬鹿が!」
 感情に身を振るわせ、叩きつける様にコンソールに手をやって通信機をオンにする。
「馬鹿! どうしてついてきた!?」
『だって、先輩……死んじゃうじゃないですかぁ!』
 叫ぶと、男の涙声が溢れた。
 彼女の機体の後方より、重機銃を撃ちながら接近してくるジン。逃げろと命じた筈の後輩の機体。
『嫌です! 先輩が死ぬのは……それだけは嫌なんだぁ!』
「馬鹿だな……だからって、二人で死んじゃったらしょうがないじゃないか」
 命令違反を怒る気持ちより、死地に飛び込んできた愚かさを責める気持ちより……どうしてか、嬉しさを感じてしまう。
『その時は、一緒に逝きます』
 男の声を聞いて、女は僅かに微笑んだ。
 ああ、これで良いのかも知れない。幸せな女だ、私は。
 こういう時、男には生きて欲しいと思うべきなのかも知れない。でも、ダメだ。一緒に死んでくれる馬鹿な男が愛おしくてたまらない。
 「逃げろ」とか「生きろ」とか、そんな言葉が出てこない。
「二人、生き残ったらさ」
 敵大型MAは、新手からのちょっとした妨害など気にもしなかった様に、体勢を立て直している。
 牽制射撃を行う。装甲表面で跳ねる銃弾。効果はない。
 それを確認しながら、自機を動かして男の機体から距離を取る。砲塔と砲塔の間は90度角。大型MAからみてそれ以下の角度となる位置を取れば、二機を同時に撃つ事は出来なくなる。つまり、常に一機は牽制を行えるだろう。
 時間は稼ぎやすくなった。だが、おそらく待っている結末は変わらない。そんな事はわかっている。
「生き残ったらさ。遺伝子の生殖適性、調べに行こうか」
『え?』
 頬を染めながら言った言葉に、男の戸惑った声が返る。
 思いを伝えたのに、何というつまらない反応。
 もっとも、告白やプロポーズとしてはあまりにも色気が無さ過ぎたか。
 艶めいた言葉の一つも出ない自分に女は笑う。今までずっとこんなだ。
 だが、最後で男に愛された。ああ、女冥利に尽きる。
「これ以上は言わせるんじゃないよ! さあ、私に会いたくて、のこのこ地獄にやって来たんだ。せいぜい頑張って生き延びな! 私より先に死んだら、あんたを許さないからね!」
『は、はい!』
「返事は良い! 攻撃、来るぞ!」
 敵大型MAが回る。新しい砲塔を向けてくる。
 二人いれば……的が二つなら、さっきの様な追いつめ方は出来ないだろう。とはいえ、出来ないからといって、それで自分達が優位に立ったとは言えないのだが。
 僅かでも時間が稼げるなら、それで。
「……本当、もっと時間があったら、子を産んでやっても良かったさ。男なら私似に、女ならあんた似に。髪の色は、あんたと私とどっちの色が良いだろうね」
 口の中で呟いた言葉は、小さく吐き出した未練は、通信機の向こうに届く事無く消える。
 敵大型MAの砲撃が宙にまたラインを引いた。
 ――結論を言う。二人は僅かな時間、二人で共に生きた。

 

 

 宇宙に閃光が散る。
 そこにどんな心があったのか、誰も知ろうとはしない。
「ははは! 良いぞ!」
 アガメムノン級宇宙母艦の艦橋。ジェラード・ガルシア少将は笑い声を上げた。
「モビルアーマーだ! この戦争を終わらせるのは、やはりモビルアーマーの力だ!」
 ここまでにナスカ級高速戦闘艦1、MS4を落としている。ここで更に2機追加だ。笑いを抑えられる筈がない。
 だが、続くオペレーターの報告が、ガルシアの気分に少し影を落とす。
「敵輸送艦。アッザムの戦闘圏より離脱しました」
「む、遊びが過ぎたかな」
 離脱されれば、アッザム収容の為の一手間が必要になる。そうなると、輸送艦の再捕捉と攻撃にまた時間を必要とするだろう。
 そこで参謀の一人が進み出て提案した。
「本艦はアッザムを収容。ネルソン級を差し向けて輸送艦を落とす事が可能ですが?」
 もはや丸裸の輸送艦一隻。ネルソン級とその艦載機が有れば十分な獲物だ。
 だが……ガルシアは欲を出す。
「戦艦で虐めるのも悪くはなさそうだが、アッザムの戦果に輸送艦を追加してやりたくはないかね?」
 これはアッザムのデビュー戦。戦果は派手な方が良い。たかが輸送艦一隻でもだ。
「少将閣下のおっしゃる通りです」
 参謀は追従する。それに気を良くして、ガルシアは指示を下した。
「では、アッザムの収容を急がせろ。終了次第、再度、追撃に入る」

 

 

 輸送艦の艦橋。艦長は艦長席から身を乗り出し、モニターに映る何もない宇宙を睨む。
「味方との連絡は?」
 焦りに満ちた声に、オペレーターの声が返る。
「現在、光学観測中。近隣の宙域に味方艦無し。先に別れた艦も先の交戦地域から離れたようです」
 味方艦の姿を探して広い宇宙を眺め回しているが、なかなか見つからない。そんな報告に、輸送艦艦長は指示を下す。
「信号弾放て。『ワレ、窮地ニ有リ』だ」
「は? 敵に観測されます」
「既に背中に食いつかれている! さっさとやれ!」
 オペレーターが驚いて振り返った所に怒声を浴びせた。驚くのはわかる。輸送艦など、隠密行動が主なのだ。わざわざ信号弾で自分の位置を知らせる事に利はない。
 しかし、今は一刻も早く味方に見つけて貰わなくては困る。
「わ、わかりました。信号弾撃ちます!」
 オペレーターの操作後、モニターに映る宇宙に、輸送艦から撃ち出された信号弾が煌々と輝くのが映った。
 そのまましばらく。信号弾は瞬いて消える……
「……発光信号確認! 友軍のローラシア級“ガモフ”です!」
 モニターの一角、小さく光がちらついていた。しかし、その程度でも信号としては十分だ。
「“ガモフ”、こちらに向けて急行中。ですが、間に合うかどうかは……」
 最後の頼みの綱がローラシア級一隻とは。
 これまでに失った全てを思い返し、輸送艦艦長は苦い表情を浮かべる。
「勇士が命を賭けて稼いだ時間だ。間に合って貰わなければ困る」

 

 

 ローラシア級“ガモフ”は今、出せる速度の全てを出して、輸送艦との合流点へと急いでいる。
 その格納庫の中では、まさに今が戦争の最中だった。
『作業完了!』
『よし、チェック入るぞ! リストの上から下までだ。一つも手を抜くな!』
 整備員達の手で組み上げられたメビウス・ゼロが完成しようとしている。
 機首の黄色い塗装とザクレロに似せたノーズアートは健在だが、ほぼ再建という形になった後部は塗装もされて無く、鈍色の装甲が剥き出しになっていた。
『エラー発生! 電気系です!』
『馬鹿野郎! ナチュラルのメカニックに笑われるぞ!』
 整備主任の怒声を浴びながらエラーが示す箇所を修理。それを繰り返して、完成に近づけていく。
『味方輸送艦、及び敵艦隊に接近中。会敵予想時刻まで2時間』
 格納庫内への放送……正確には、格納庫内で働く者全ての宇宙服のヘルメットに内蔵された通信機から声が発される。
『リストの17から48まで省略! 56と72もだ! 再チェック開始!』
『再チェック入ります!』
 繰り返されるトライ&エラー。しかし、整備は着実に進んでいく。
 そんな格納庫内、ミゲル・アイマンとオロール・クーデンブルグは自らの搭乗機の整備を行っていた。
『敵は何だって?』
「大型MAらしいな」
 オロールからの通信を、自機の中で受け取って、ミゲルは与えられていた情報を答えた。
『まさか、ザクレロか!?』
「わからん。他にあのクラスの大型MAがいてほしくはないけどな。ただな……“ハーシェル”の赤服が全滅だそうだ」
『まじか……』
 オロールが黙り込む。が、間を置くといつも通りに話し始めた。
『……大型モビルアーマー相手に重機銃じゃ豆鉄砲だな。となると重粒子砲?』
「ハイマニューバの特性を自殺させる様な選択だな」
 M69 バルルス改特火重粒子砲。ジンでも使えるビーム兵器なのだが、取り回しが悪く機動力を落とす事になる。
『だな。あれ取り回しが悪すぎんだろ。それほど効果も無かったしよ』
 重粒子砲を上げたのは冗談だったようで、オロールは残された選択肢を選ぶ。
『無反動砲にするわ。当たれば抜けるだろ』
 作業アームに掴まれたM68キャットゥス500mm無反動砲が差し出され、ジン・ハイマニューバはそれを掴む。ついで予備弾のコンテナが、作業アームによって機体のラッチに取り付けられていく。
 その作業を見ながらミゲルは言った。
「抜けるかもな。弾が当たれば」
 少なくともザクレロは速かった。あれに無反動砲を当てるのはなかなか厳しい。
『そこは腕の見せ所……となると当たらないかもな。ミゲルに任せて、俺は艦の直掩でもしてるかね』
「お前も働けよ」
『へいへい……と、それよりお前の装備はどうするんだ?』
「レールガンをメインで行く。威力は折紙付きだ。手持ちはサブアームだから、重機銃で良いな。無反動砲だと取り回しが悪くなる」
 ミゲル専用ジンに着けられたアサルトシュラウドには、115mmレールガン“シヴァ”と220mm径5連装ミサイルポッドが追加装備されている。
 特にレールガンの威力は高く、大型MAでもダメージを与えられそうではあった。
『レールガンね。そういうの一般兵にも回せよな。上は、わかっちゃいないぜ。連合が主力を大型で揃えてきたら、今のジンの火力じゃ追いつかなくなるぞ』
「モビルアーマーって奴が重機銃が当たれば大破する的だと思っている内はどうにもならんだろ。敵もモビルスーツを作ったって辺りで意識も変わるといいけどな」
 MSがMAよりも上というプライドが足を引っ張って、大型MA対策は遅れるだろうと、ミゲルは諦めの気持ちで考えた。
 きっと、前線の損害……多くの兵の死が必要となるだろう。その死者の中に自分や自分の仲間が含まれない様に努力するのみだ。
 ただ、連合MSがZAFTに届けば、状況が好転する可能性はある。連合MSが満足に動きもしない木偶そのものではなく、多少なりとZAFTに危機感を抱かせる者であればの話だが。
 何にせよ、今回の任務が無事に終わらないと話にならない。
「と……来たか」
『ああ、突撃隊長殿がお見えだぜ』
 二人は同時に気付いた。キャットウォークの上を、MPに拘束された二人のパイロットが、それぞれの機体に運ばれていく。
『敵の情報は与えてあるのか?』
「ああ。危険を警告したら、俺達を臆病者と呼んでくれたよ」
 敵が大型MAである事は伝えてある。型どおりの過小評価をしてくれたが。
「それでも、重装備が良いとだけは納得させた」
『ごくろうさん。で……と。奴等、何を装備するかね? おっ、おー……ああ、一人は重機銃と無反動砲の両手持ち。やった! もう一人、粒子砲だぜ!?』
「はしゃぐなよ。意味がわからん」
 ミゲルの呆れた声に返したオロールの声は、どことなく感情を押し殺した様な感があった。
『いや……あいつら、生きて帰るかなってさ』
「……オロール」
 感傷か。ミゲルはそう判断して、その必要はないと言いかける。が。
『上手い事、死んでくれねーかなって思っても、言っちゃいけないわけだ』
「全部、ぶっちゃけてんな! わかってるなら、黙ってろよ!」
 思わず怒鳴り返したが、オロールは悪びれない。
『そー言うなよ。後ろ弾野郎に気を使うひつようなんてないさ』
「通信記録が残るんだぞ」
『俺達は奴の背中なんて撃たない。だから残っても良いだろう? 誰だって、死ねぐらいは言ってるさ。殺すとは言わないし、まして手を下したりはしないがよ』
「そういう問題じゃ……ああ、まあ良いよ。好きにしろ」
 何を言っても意味がないと、ミゲルはオロールに言い返す事は止めた。
 そして視線を、組み立て中だったメビウス・ゼロに向ける。
 整備は終わったのだろう。整備兵達は既にその場から撤収しつつあった。何人かは残って、銀色の装甲が剥き出しの機体後部に、スプレーで黄色の塗料を吹き付けていた。
 メビウス・ゼロは黄色一色に染まっていく。
 と、そこでミゲルは、メビウス・ゼロの側に小柄なパイロットスーツを見つけた。
 味方殺しのMSパイロット共との接触を避けさせる為、ラスティ・マッケンジーの機体搭乗は戦闘開始直前の予定だったが、整備完了と聞いて飛びだしてきたか。
「おい、ラスティが来てる」
『そうか……奴等に動き無しだ。艦内でぶっぱなすほどキチってはいなかった様だな』
 MSパイロット達の様子を警戒していたオロールはそう答えた。
 ラスティを殺す事だけが目的なら、ここで無反動砲の一発でも撃てば良い。殺すだけならそれで良いが、後は奴等も死ぬ目に遭うだろう。つまり、奴等はまだ生きたいらしい。
『どれ……と。俺達がこんなに気を回してるってのに、当事者様はお気楽な様子だねぇ』
 オロールもラスティを見たのだろう。やれやれとばかりに通信機から声が漏れる。
「死にかけたってのに、プレッシャーを感じてないのは良い事だよ」
『怯えてベッドから出てこないよりは確かにな』
 PTSDになりもせず戦いを続けられるのは、戦士として重要な条件だ。
 人間だもの、一時引き籠もりたくなる事もあるだろう。しかし、戦場はそんな事情を考慮してはくれない。
 では、ラスティが戦士向きだとして……兵士に向いているかと問われれば首を傾げるだろうが。
 その一端を見せつけるかの様に、ラスティはMSメビウス・ゼロの周りではしゃぎ、そしてコックピットに飛び込んでいった。
『私のザクレロが甦ったわよ!』
 いきなり通信。ラスティがそう来る事はだいたい読めていたので、ミゲルもオロールも適当に返事を返す。
「よかったな」
『おめでとさんー』
『何よ、もっと心を込めて祝いなさいよ』
 口調は怒声の様だが、クリスマスプレゼントを抱えた子供みたいな喜色が全然隠せていない。そんなラスティに、オロールがからかう様に言った。
『直ったのは、俺達がメカニックに頭下げたからだぞ。改めて感謝しろよ?』
「おいおい、そういうのは止せよ」
『……そ、そうね。あ……あり……あ……』
 恩に着せる様な事じゃないと呆れつつ言ったミゲルの耳に、ラスティからの通信が届く。
『…………』
 だが、その言葉は途切れ途切れで形を成さず、すぐに沈黙に取って代わられる。そうして、ラスティが次に口を開いた時、その言葉はすっかり無かった事にされた。
『そういえば、あっちのパイロット連中と回線が繋がってないみたいなんだけど。私の通信機の問題?』
「いや、あっちの機体のトラブルだ。共用通信が出来なくなっている。艦橋と、俺の機とは、回線が通じているから、問題はないだろう」
 無論、実際は違う。背中撃ち共とラスティ機との間にだけ通信が繋がらない様にされているのだ。背中撃ち共が憎悪を吐き散らさない様に。
「味方機への通信が必要になったら、信号弾やハンドサインでカバー出来る。俺が注意してるから、ラスティは気にせず戦ってくれ」
『ま、今日は俺達は後衛だけどな。気にし無さ過ぎて、勝手に突っ込んでいくなよ?』
『えー、メビウス・ゼロで後方支援なんて宝の持ち腐れじゃない』
『そう言うなって。あいつらにも手柄を分けてやらなきゃな』
 オロールが話題を変え、ラスティがそれに気を取られて不満の声を上げ始めたのを、ミゲルは安堵して聞いていた。
 ラスティは連中の事には関わるべきじゃない。何も知らないまま全部が終わってくれれば、それが最良だ。と――
『各機に通達。間もなく敵モビルアーマーとの交戦距離に入ります。各機、発艦に備えてください』
 ラスティとオロールの会話を垂れ流す通信機に、オペレーターの声が割り込む。
「……よし、出撃だ。敵大型モビルアーマーを叩く。この面子じゃ言うまでも無いと思うが、既存のモビルアーマーとは桁が違う相手だと考えて、戦う時は十分に注意してくれ」
『あい、さー』
『言われなくてもわかってるわよ』
 オロールとラスティの声が返った。ミゲルはその通信に頷き、そして通信機を操作する。
「……出撃前に、もう一度注意しておく。敵は、お前達の知っているモビルアーマーじゃないぞ。焦って突っ込むような事はするな。じっくり落ち着いて戦え」
『……手柄を立てられるのが恐いかよ』
 背中撃ちのパイロットの声が返った。
『手柄を……立ててやるからな! お前らが何も言えなくなる様な手柄をだ! ははっ! そうなってから吠え面かくと良い!』
「…………」
 ミゲルは無言で通信を切る。
「無駄な事だったな」
 出撃の時は迫っていた。