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機動武闘伝ガンダムSEED D_SEED D氏_第四話(前)

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:14:49

「さて…準備はいいか? 良ければお前達に、このガンダムファイトを説明させてもらうぞ。
 そもそもは六十年前に遡る。大戦争で汚れきった地球を後に宇宙に上がった人々が、コロニー国家間の全面戦争を避けるため、
 四年に一度、各国の代表を『ガンダム』と名付けられたロボットに乗せて、『ファイト』と称し!
 戦って! 戦って! 戦い合わせ!
 最後に残ったガンダムの国がコロニー国家連合の主導権を手にすることが出来る…
 ……何ともスポーツマンシップに溢れた戦争だよ。
 これで人類が滅びに直面するような危機は避けられた。だが残された問題が一つ。
 ファイトの舞台は地球。そう、俺達が住む汚れきった地球だ…
 以上がガンダムファイトの骨子だ。
 だが今回の大会は、どうも普段とは様子が違うらしい…」
「そこのお前! この写真の男に見覚えはないか!?」
赤い鉢巻と赤いマントに身を包んだシンが、いきなり写真を突きつけてくる。
半ばから破られた写真。褐色の髪の少年が、誰かと肩を組み、じゃれあうように笑っている。相手が誰なのかは、破られていて分からない。
ドモンはそれを受け取り、少し考え込む仕草をしたが、すぐさま皮肉めいた笑みを浮かべる。
「この写真がどんなファイトの嵐を巻き起こすことになるのか? …それを知っているのは底意地の悪い神様くらいのものだろう。
 今日のカードはネオフランス代表、レイ=ザ=バレルのガンダムローズ!」

ドモンがマントをばさりと脱ぐ。
下から出てきたのはピチピチの全身黒タイツ、即ちファイティングスーツだ!

「それではッ!
 ガンダムファイトォォ! レディィ…ゴォォォ――――ッ!!」

第四話「いざ勝負! 真紅の薔薇の貴公子」

花の都・パリ。かつてヨーロッパの中心国として繁栄を享受した地上ネオフランスの首都は、
未来世紀に入っても尚、辛うじてではあるが、その面影を残している。

歴史的経緯や遺産、外観…それらに対してネオフランス首脳部は理解を示しているのだ。
中でも代々のネオフランス議長は、よく地上に降りては査察をしている。自分の足で地上を歩き、自分の目で現状を見ている。
人気取り、といわれればそれまでだ。しかし、議長がコロニーに帰還した後は実際に地上の現状を議会に訴えるのが常である。
自分の意見が通らないとしても、自分が見聞きしたことを公表し続けている。
別に議会で法を整備するために査察するのではない。地上の現状を国民に知らしめるのが目的なのだ。
古くは前時代より続く民族紛争、新しくはナチュラルとコーディネイターの対立――
ガンダムファイトが多くの争いを代理遂行しているのは今や常識。
だが、だからと言って地上を荒らしてもいいのか?
地上人もコロニーの我々と同じ人間ではないのか。どうして彼らを大災害に瀕したままにしておくのか。
そんな呼びかけが功を奏し、大分ネオフランスの人々は地上への意識を高く持つようになっていった。
地上を守るのも、高貴なる者の務め――ノーブレス・オブリージのひとつ、という認識を持ったのである。
地上を弱者と見、己を上の者と見る。事実ではあれど、それもまた一つの、コロニーの傲慢の顕れであるのだが……。

現議長・ギルバート=デュランダルもまた、歴代議長の例に漏れず、地上への査察に来ていた。
とはいえ今回はいつもとは少々勝手が違う。何しろガンダムファイトの年なのだ。
長く続くネオフランス議長の慣例ではあるが、大災害を間近に見た議長は今まで一人もいない。
それを、デュランダルは自分からファイトの査察を切り出したのである。
側近は止めた。あまりに危険だ、と。しかしデュランダルは取り合わなかった。
『危険と分かっているところに我が国民を住まわせておいて、そんなことを言うのかね』
こうなればデュランダルを止められる人間はいない。柔らかな物腰とは裏腹に頑固なのだ。
数回の会話の応酬の末、デュランダルは地上に降りた。

ネオフランスのガンダムファイター、レイ=ザ=バレルは、それを待ち望んでいた。
貴族バレル家の当主であるレイは、貴族として、主君たるネオフランス議長に絶対の忠誠を誓っている。
だがそれ以上に、レイはデュランダルを信奉していた。
親も兄弟も仲間もいない彼を拾い上げてくれたのはデュランダルであり、バレル家の養子にと手配したのもデュランダルだった。
レイにとってデュランダルは主君であり、恩人であり、最初の父親でもあるのだ。
だからこそ、彼が来ると聞いたレイは、御前試合を計画した。
立派になった己の姿を久しく会わぬ親に見せたい。それは自然な欲求であろう。

そんなわけで、現在パリ上空には、一隻の戦艦型キャリアーがのんびりと浮かんでいるのだ。
眼下には二体のガンダムが向かい合い、火花を散らしている。
一方はレイのガンダムローズ。もう一方はネオキューバのアラクノガンダム。
張り詰めた緊張の中の二体を空から見下ろし、デュランダルは微笑む。
「危険です、議長。ファイトが始まる前に早く席にお戻りになって下さい」
「やあタリア、心配はいらないよ。それにレイは必ず勝つさ」
戦艦型キャリアー『ミネルバ』艦長タリア=グラディスの忠告を笑って受け流し、デュランダルは再び地上に目を降ろした。

「さぁて、始めよう! 君を倒せば、僕の名もグンと上がるんでね!」
アラクノガンダムのファイター、イルドが声を張り上げる。
レイは心底から後悔し、溜息をついた。
せっかく敬愛する議長が見ているというのに、相手がこれではむしろ失礼に当たる。
「ご時世とはいえ、よくもまあ恥知らずなことを言える」
「何?」
「ガンダムファイターは国家の代表。国の名誉を背負った存在だ。
 お前のような志の低いファイターとの試合をギルに…議長に見せるなど」
「馬鹿にしてるのかい、君」
「とんでもない。軽蔑するほどの価値もないと言っている」
「お前ぇぇぇ!」
イルドが激昂した。対象的にレイは冷めた目をしている。
「後悔させてやるっ! ガンダムファイトォ!」
「レディ」

「ゴォォォ――――ッ!!」

最後を叫んだのは、レイでもなければイルドでもない。
突如川の水面を割って飛び出してきたのは、白と赤と青のトリコロールカラー!
「でぇぇぇい!」
「うわっ!?」
不意打ちを食らい、もろに首の付け根に拳を浴びて石畳に倒されるアラクノガンダム。

「あれは確か、ネオジャパンの…」
ミネルバで見ていたデュランダルが、驚いたように呟く。

「インパルスガンダム…?」
レイもまた、驚きを隠さずに呟いた。
それを聞きつけたインパルスのシン=アスカ、レイのガンダムローズに向き直ると、
「悪いが、俺と先にファイトしてもらいたい。何なら二人がかりでもいいぜ」
「断る」
間髪入れず、レイは言い切った。

「な、何ぃ!? ここまで…」
ここまで派手な登場したのにそれはないだろ、と言いかけたのを遮り、レイが言葉を続けた。
「ガンダムファイトは一対一が原則。国際条約第五条を忘れたか」
「うっ」
「そもそも他人の戦いに割って入るなど、礼儀知らずもいいところだ。全く」
「こんな二流野郎は放っとけばいいだろ!」
「お、お前達ぃ…!」
二流と言われたイルド、屈辱に身を振るわせつつ起き上がる。
「よってたかって僕を馬鹿にしてぇ! 許さなぐっ!?」
皆まで言わせず、インパルスが後ろ手で持ったナイフが、アラクノの顔面を貫いていた。
「ガンダムファイト国際条約第一条。
 頭部を破壊された者は失格となる。そういうわけだ。アンタはここで退場さ!」
インパルスがアラクノを蹴り飛ばす。川面に盛大な水しぶきが上がった。
「…………」
レイは呆れて、その顛末を見ていた。

「さあ、これで一対一だ。ファイトは受けてもらうぜ」
「断る」
「な…何でだよ!?」
本気でシンは驚いているらしい。インパルスの相好が崩れている。
レイは深々と溜息。その仕草はガンダムローズにも伝わった。
「確かにあのイルドという男はファイターとしての自覚がなっていなかったが、お前は彼以下だ」
「!?」
「お前のような低俗で野蛮な猪武者との闘いなど、議長に見せるわけにはいかない。不敬の極みだ。よって」
ガンダムローズが腰のシュバリエサーベルを引き抜き、インパルスに突きつける。
「二度と俺の前に姿を見せるな。議長の前にも、だ!」
「んな…」

シンは自分の顔が真っ赤になっていくのを自覚した。
闘う価値もないと言われたのだ。ファイターにとって最大の屈辱である。
つい先程自分がイルドに対して行った仕打ちを棚の高くに放り投げ、
「ごちゃごちゃうるさいっ! そっちがその気でも、俺はっ!」
ローズに殴りかかったが、難なくかわされる。
「何っ!?」
「突進しか能のない… やはりお前は猪だな、シン=アスカ」
ひょい、とローズが足を突き出す。引っかかって、インパルスはまともに転んだ。
十八mの鉄の巨人が無様に倒れ、轟音と振動を起こす。
首を落とすチャンスである。だがレイはサーベルを収め、きびすを返した。
「ま、待てっ!」
起き上がり、シンは手を伸ばすが、
「言っただろう。俺はお前と闘うのは御免だ。馬鹿が移る」
「あ…アンタは一体なんなんだぁ――っ!!」
去りながら、むしろそれは俺のセリフだ、とレイは思った。

その頃、空にぽっかり浮かぶミネルバでは、
「ネオジャパンのインパルス…シン=アスカ、か。ふむ」
「今度は何を考えているんです、議長」
「はっはっは、君は心配性だね、タリア」
「ええ、主にこの国の行く末が心配です」
タリアとデュランダルが優雅にティータイムを過ごしていた。

「こぉの馬鹿シン!」
キャリアーでインパルスを回収したルナマリアの第一声がこれである。
「うるさいな…怒鳴らなくても聞こえてるぞ…ってぇ!」
インパルスのコクピットから出てきたシンの頭を、ルナマリアはぽかりと殴った。
「何するんだよ、ルナマリア!」
「これくらい殴らせなさい! こっちは上からのクレームが酷かったんだから!」
「ファイティングシグナルは俺の方が先だっただろ!」
「そんな言い分が通るかぁぁ!!」
シンの耳をつまみ、思いっきり怒鳴る。シンはたまらず顔をしかめた。
「システムが許可しても、人がどう思うかは別でしょ! ガンダムファイト国際委員会からは抗議文の山が来てるし、
 ユウナ委員長はイヤミ満載でアンタの戦績にまで口出してくるし!」
「い、言わせておけばいいだろ…」
「良くないっ! アンタね、焦るのは分かるけど、このまま失格にでもされたら全部おじゃんなのよ!
 アンタの養父さんも義妹さんもあのままになるの! 分かってる!?」
ルナマリアは一言余計だった。
シンは、ぎりっと奥歯を噛み締め、インパルスから飛び降りていった。
「あ、ちょっと!」
自分の失敗に気付いたルナマリア。だがもう遅い。
「説教はそこまでにしろ!」
「どこ行くのよ!?」
「ほっといてくれ!」
言い捨てて、シンはマントを羽織り、キャリアーを出て行ってしまった。
「何よ、人がせっかく心配してるのに」
腰に手を当て、口を尖らせる。そこに、通信機器のランプが点滅した。
気付いたルナマリア、慌てて回線を開く。
「……隊長からの極秘コード? 何かしら」

夜になると、ネオフランスの迎賓館ではパーティーが行われる。
税金の無駄遣い、とは言うなかれ。これもまた地上ネオフランスの外交術なのだ。
特に今回はコロニーからネオフランス議長が来ているとあって、貴族達も熱を入れて参加している。
「議長におきましては、ご機嫌麗しく…」
「ありがとう、ノーフォーク公」
「わ、私のような若輩者を覚えていただけているとは! 感激の至りでございます!」
顔を紅潮させる若者と二言三言会話して、デュランダルは次の相手へと移る。
適当に流すことなく、全員の顔と名前を覚え、挨拶を返す。議長という職業では人脈も大事なのだ。
とはいえ、デュランダルも人間である。百数十人と会話したところで、さすがに疲れを覚え、テラスへと出た。
「ああ、議長…」
「失礼!」
追いかけようとする貴族令嬢の前に手を出し遮ったのは、金髪の貴公子、レイ=ザ=バレルである。
「議長はお疲れのようだ。少々休みを取らせていただきたい」
「は…」
愛想のない声だが、彼を見上げた令嬢の頬がほんのりと赤く染まる。

レイは美男子である。外見だけでなく、貴族としての誇りと議長への忠誠を全面に漂わせていることが、硬派の印象を与え、
上流階級の娘御たちには人気だった。ファイターとしての実力も兼ね備えていることが、さらに拍車をかけている。
見方を変えれば鼻持ちならない少年であり、上流階級の男性陣にとってはやっかみの対象であった。
レイにとっては、それら全てが興味のないことである。
令嬢を元のように貴族達の輪に戻し、レイ自身は議長を追ってテラスへときびすを返した。
背中で少女達の嬌声が上がっていた。

「やあ、レイ。君か」
デュランダルは振り返る。声に若干の疲労をにじませて。
「ギル…」
レイの表情が崩れる。そこにいるのは貴族バレル家当主ではなく、父親を慕う子供だ。
「何をしておいでですか?」
「ああ、あれをね」
デュランダルが視線を外へと向ける。
迎賓館外では、月光を浴びてガンダムローズが雄雄しく屹立していた。
「ガンダムローズ…」
レイもまた、アイスブルーの瞳を輝かせた。
「何度見ても美しい。我がネオフランスの代表として相応しく、誇り高く、力強い姿だ」
デュランダルは視線をレイに戻した。優しく笑う。
「君のようにね、レイ」
「……!」
レイは先程の令嬢のように、頬を紅潮させた。
正直なところ、レイにとってはファイトはあまり興味の対象ではない。ただ、自分がネオフランスの――
議長の役に立てることが嬉しいのだ。
ガンダムローズは議長から賜った大切な機体であり、自分が議長の役に立つための大切な手段である。
月明かりを浴びて、二人はガンダムローズを眺めていた。レイにとっては、至福の時であった。

「レイ、このガンダムファイトで優勝したならば、私はかねてよりのプランを実行しようと思っている」
ややあって、デュランダルが口を開く。
「君に期待しているよ」
「はい! ギルのためであれば、俺はどのようなことがあろうと!」
「どのようなことがあろうと、か…」
ふと、デュランダルの顔が翳る。
途端にレイの表情が不安げになった。子供は親の変化には敏感なものだ。
「ギル? 何か懸念が?」
「うむ…ネオジャパンの…」
「議長っ!!」
女性の叫びが二人の会話に割って入る。弾かれたようにテラス入り口を振り向けば、
そこにいるのはミネルバ艦長、タリア=グラディスだ。
「やあタリア、どうしたんだい」
「どうした、じゃありません! 皆議長への提案事項を持ってここに来ているのですよ!
 早く会場へお戻りになって下さい!」
「しかし議長は今お疲れで…!」
「レイ、あなたが議長に心酔しているのは分かるけれど、一時間も会場を空けさせては公務に支障が出るの!」
「一時間!?」
素で驚くレイ。まさかそれほどの時を過ごしていようとは。
「そうだな、戻るとしよう。レイ、君も」
「はい…」
デュランダルはレイを連れ、タリアに並んだ。
「羽を伸ばすのも限度がありますよ」
「はっはっは、すまないね」
「笑って誤魔化さないで下さい!」
二人の後ろで、そんな会話を聞きながら、レイはほんの少し、議長の隣にいられるタリアへ嫉妬を感じていた。

キャリアーを飛び出したシンは、夜のパリを歩いていた。
為政者の関心が高いだけあって、比較的綺麗な街並だ。
しかしイルミネーション用の電球はとっくに切れているらしく、飾りつけのためのコードが蜘蛛の巣にしか見えない。
ふと遠くを見れば、崩れかけたエッフェル塔が無残な姿を晒している。
ネオイタリアを思い出し、意味もなくシンは歩を早めた。

その頃、ネオフランス迎賓館は大騒ぎになっていた。
「ぎ、議長が! デュランダル議長が誘拐されましたっ! 艦長ぉ〜!!」
「落ち着きなさいアーサー! 仮にもあなた副艦長でしょう!」
そう、議長がどこを探してもいないのである。先程御手洗に立ち、以降の足取りが掴めない。
デュランダルの個室の前でどたばたと騒ぐ高官達。
レイは個室の中で、机に置かれていた手紙に目を通す。
「ネオジャパンのシン=アスカ…!」
怒りを噛み締め、レイは戸口で漫才をしているタリアとアーサーを振り返った。
「ミネルバ! 俺は行く!」

さて、当のデュランダルと言えば。
「君は本当にガンダムファイターだったのかね? 私の首も取れないとは」
「け、剣を使うなんて反則だぁ…」
路上で自棄酒片手に絡んできたイルドとその配下のチンピラを路地裏で打ち倒していたりする。
「何が反則なものか。数人で取り囲む君たちの方が余程卑怯だ」
「だからって…」
泣き言は皆まで聞かず、デュランダルは澄んだ音を立て、剣を腰の鞘にしまった。

ギルバート=デュランダル。ネオフランス議長にして、当代随一の剣の使い手。
その太刀筋は一瞬の内に九方向から襲い掛かるという。
「ナインヘッド・ドラゴン・フラッシュ…だと…」
呆然とした声が背中からかかる。
デュランダルが振り向くと、そこには赤い鉢巻に赤マントの少年。
「まさか今の世に使い手がいるとはな…アンタ、何者だ?」
「通りすがりのネオフランス議長だよ。シン=アスカ君」
シンの目が大きく見開かれる。デュランダルはしてやったりという笑みを浮かべていた。
「一つ頼みたいことがあるのだが。話をしても構わないかね?」

少しずつ話をしながらデュランダルを引きつれ、ひとまずキャリアーに戻ったシン。
キャリアー自体が自国の機密であるという意識は全くないらしい。
出迎えたルナマリアが小言を言おうとしたが、他国のトップの登場に口をぱくぱくさせてしまう。
そんな彼女の反応を全く意に介さず、デュランダルは居住区の椅子に座った。向かいにシンを座らせる。
図々しい態度だが、違和感のないのが何ともはや。
「単刀直入に言おう、シン=アスカ君。私はレイに君と戦って欲しいのだ」
ぴく、とシンのこめかみが引きつった。今朝の屈辱を忘れたわけではないのだ。
それを隠すために、敢えて強気な姿勢に出る。
「俺に倒されるって分かってるのにですか?」
「はっはっは、傲慢だね君は。とにかく、君としてもレイと戦えなければ不安なのだろう?」
「そりゃあ…もちろん。でもいいんですか? 偽装誘拐なんて」
近くでコーヒーを入れて飲んでいたルナマリアが咳き込んだ。
「私が良いと言ったから良いのだよ」
あくまでにこやかなデュランダル。
「ちょっと二人とも、そんなこと…むぐっ!?」
慌てて会話に割って入ったルナマリアの口に、デュランダルは手早くテープを貼り付けた。
「ルナマリア、君に恨みはないがね…全ては君が聞き分けのないのが悪いのだよ」
と言いながら、ルナマリアを抱え上げ、一つの扉を開けて中へと放り込む。すぐさま閉めて鍵をかけた。
「お、おい? ルナマリア!?」
「ここでならもしものときも心配ない。さあ、エッフェル塔へレッツゴーだ!」
「は、はあ…」
完全に呑まれているシン。デュランダルに言われるがままにしてしまう。

「むごっ…」
急いで口のテープをはがしたルナマリア、扉を開けようとするが開かない。鍵がかかっている!
「ちょっと待てー! なんでトイレの鍵が外についてるのよぉ!!」
答えは簡単。整備士コンビの設計ミスである。