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機動武闘伝ガンダムSEED D_SEED D氏_第十話(前)

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:19:17

ミネルバin砂漠地帯

アビー「――ダメです。サイ=アーガイル、カズィ=バスカーク両名、消息が掴めません」
タリア「ふう…仕方ないわね。マリク、バート、チェン。準備して。それからシュバルツに緊急連絡を」

シン「役者が雲隠れぇ!?」
レイ「ああ、フレイの御付き役が二名とも行方不明だ。前回見つけられたのも奇跡のようなものだったが」
ルナ「ちょっとちょっと。個人情報控えて監視もつけたんじゃなかったの?」
レイ「ミネルバのデータベースに侵入された形跡がある。間違いなく消されたな。
   監視映像は少なくとも四話収録終了時にはダミーに差し替えられていたそうだ」
ルナ「何その無駄に高い技量」
アーサー「いやぁ、どこに隠れたんだろうねぇ二人とも」
ルナ「その笑顔が無茶苦茶怪しいのよド変態ッ!!」
シン「どーすんだよっ!? 仮にも坊さん達はレギュラーだろ!? 今更交代なんて…」

サイ「待たれいッ!」
カズィ「ここは我らにお任せあれ!」

シン「うわっ! …って、サイにカズィ! 来てくれたのか!」
ルナ「なーんだ、二人ともちゃんといるんじゃない」
レイ「……? 土壇場で見つかったのか? 何にせよめでたい事か」

ピンポーン

フレイ「あーもう最悪ッ! 一週間シャワーなしなんてあり得ないわよ!」
ルナ「仕事場に来て第一声がそれかい」
シン「スポンサーはどうしたんだよ。最低限の生活は出来るはずだろ」
フレイ「マザー・バンガードが暗礁空域に突っ込んで出られなくなってたのよ。
    ミリアリアが好き勝手暴れたもんだから操舵系が狂って」
シン「あの人どこかに封印した方がいいんじゃ……」
レイ「封印とは即ち解放フラグだ。悪いことは言わん、やめておけ」
フレイ「ねえルナ、日焼け止めとパックとトリートメント貸してくれない? 今度埋め合わせするから」
ルナ「ええ〜っ? まーいいけど…(ぼそぼそ)安物だからって愚痴言わないでよ?」
フレイ「(ぼそぼそ)失礼しちゃうわね、私だって礼儀くらいわきまえてるわよ」
サイ「おお、これはフレイ殿」
カズィ「お待ちしておりました。ささ、更衣室に」
フレイ「……誰、あなたたち」

一同『え?』
フレイ「もしかしてサイとカズィに変装してるつもり? 違和感ありすぎよ」
サイ(中身はマリク)「何故バレたぁぁぁぁ!?」
カズィ(中身はチェン)「ええい、どこが完璧な変装術だよあの変態覆面ッ!」
ルナ「お前ら何やってんだぁ――――っ!! 他人になりすましてまで出番が欲しいわけっ!?」
チェン「ち、違うんだ、コレは艦長の命令で!」

シュバルツ「説明しよう!
      元々の印象の薄い人間は変装術に向いている。特徴を付け加えるのが容易なのでな。
      故に! AAの空気三連星と違い名前すら挙がらないミネルバブリッジクルー三羽烏は、
      代役を果たすには最適なのだ!」

ルナ「うわ褒めてねぇ。つーかアンタ傭兵部隊に出張してたんじゃ」
シュバルツ「監督直々に呼び戻されたのでな。撮影が終わればとんぼ返りだ」
マリク「シクシク…珍しくスポットライトが当たったと思えばまたこんな仕打ち…」
ステラ「マリオ、なかないなかない、いいこいいこ」
マリク「ありがとうステラ、でも僕はマリオじゃなくてマリクだよ…」
シン「うう…グスッ…なんて身につまされる話だ…」
レイ「む? 三羽烏というなら、バートはどうした?」
シュバルツ「奴は、アレだ」

ミイラ男←アレ

一同「…………」
ミイラ男(中身はバート)「見るなぁぁ! そんな哀れみに満ちた目で俺を見ないでくれぇぇぇ!!」

アーサー「と、ともあれ…本番いきまーす! 3・2・1・Q!」

**************************************************************** Edit

 その夜、砂漠は荒れていた。
 吹き荒れる嵐。テントの外からは風の唸りが轟々と響いてくる。
 荒れ狂う砂や石がテントに当たり、絶えず雨垂れのような音を立てる。
 薄暗い橙の明かりの中で、男たちは黙したまま地に座り込んでいた。唯一の光源であるカンテラは
 テントの骨組に吊るされ、落ち着きなく揺れる。それと共に、ぼんやり映し出された男たちの影も
 時に膨れ上がり、時に小刻みに揺れる。
 
 彼らはネオエジプトのファイター一行であった。窪地にテントを張り、夜と嵐をやり過ごそうというのだ。
 骨組に吊るされたカンテラが揺れる。白い装束に身も顔も包んだ男たち、彼らは何も言わず、
 ただ催眠術にでもかけられたかのように、カンテラの焔に目をやっている。
 テントの中で動くのは、頼りない焔と男たちの薄い影。誰も、何も言わない。
「……なあ」
 砂嵐に包まれた不自然な沈黙を、一人が破った。
「知ってるか、ジョージ=グレンの噂……」
「あの我らが英雄のか? しかし彼は死んだはずだ」
 もう一人が相槌を打った。彼もまた奇妙な緊張感に耐えられなかったのだろう。
「そうだ、死んだはずなんだ。だが、そのジョージが最近ファラオガンダム四世を引き連れて、
 このサハラ砂漠に現れるんだとよ……」
「ありえん!」
 三人目の男が叫んだ。しかし、装束から僅かに見える顔は血の気が引け、焔に照らされてなお蒼白い。
「だが彼は未練を残して死んだんだ……彼を見た者は何人もいる……それも決まってこんな砂嵐の夜……」
 直後、背後でばさりと布音がした。刺すように冷たい暴風がテントの中に雪崩れ込んでくる。
 砂嵐の呻きがはっきりと耳をつんざく。
 弾かれたようにテントの出入口を振り向いた一同は、そこに一つの影を見た。
 
 体格は大柄。頭から指の先まで全身に包帯を巻きつけ、さながらその様は怪談に言うところのミイラ男。
 しおれ枯れた白髪が数本包帯の隙間から見える。ただ一つ露出しているのは、血のように赤い右の瞳。
「お、お前は……!」
 男たちの悲鳴は砂嵐に掻き消される。もとより声を聞く者などここにはいない。
 カンテラが激しく揺れ、地に落ちて割れた。頼りない小さな火も吹き消される。闇の中に唯一つ、
 夜を見下ろす三日月のように、『それ』の血の瞳が浮かんでいた。

「地球が汚れ切ってしまったこの時代でも、ここネオエジプトには、古代王国が栄えた頃の遺跡が
数多く残っている。だが、残っているのは好ましい遺産だけではない。世に闘いの嵐渦巻く時、
勇敢なる戦士の魂、怨念と共に永き眠りより目覚めるであろう――そんな不気味な言い伝えも残っている。
 さて、今日のカードは墓場からの挑戦者、ネオエジプトのファラオガンダム四世なんだが……
 不思議な事に、そのファイター、ジョージ=グレンは既に死亡しているのだ。

  馬 鹿 な ! !

 そう思うかも知れんが、これは紛れもなく事実。そしてこの亡霊こそが、デビルフリーダムと共に
地球に落ちたシンの義兄、キラの手がかりを握っているのかも知れないのだ。
 それではッ!!」

 ドモンがマントをばさりと脱ぐ。
 下から出てきたのはピチピチの全身黒タイツ、即ちファイティングスーツだ!

「ガンダムファイトォォ! レディィ……ゴォォォ――――ッ!!」

 第十話「恐怖! 亡霊ファイター出現」

「こ、こいつは……」
「酷い……」
 白くぎらつく太陽の下、それを見つけたシンとルナマリアは、揃って思わず呻いた。
 砂漠のとある大きな窪地に、ガンダムの残骸があった。
 コクピットは大きく抉られ、頭部から脚部、指の先に至るまで徹底的に破壊されている。
 装甲など潰れていないところを見つける方が難しい。剥き出しにされた内部配線の束は無残な断面を晒し、
 放電すら起こさず沈黙していた。僅かに原形をとどめたコブラの飾りの破片が、瓦礫の正体を告げている。
 
 ファラオガンダム十三世。ネオエジプトのガンダム。
 
 更にその隣にはテントの残骸。布も骨組もばらばらにされ、白装束の男達がゴミのように倒れ伏していた。
 キッと奥歯を噛み締め、シンはひらりと飛んだ。そのまま砂の斜面を滑り降りていく。
 パートナーの動きに我を取り戻したルナマリアも、それに続いた。
「おい、しっかりしろ! おい!」
 シンは片端から男たちを揺さぶっていく。しかし反応は返ってこない。
 誰も彼も、糸の切れた人形のようにかくかくと揺れるだけだ。
 ルナマリアも息を確認して回ったが、状況は絶望的と思えた。
 これほど完膚なきまでにガンダムを破壊する相手が、クルー達の命を見逃すだろうか。
「ルナっ!」
 シンの声に、ルナマリアは我に返った。振り向けば、向こうでシンは一人の男を抱え起こしている。
「こいつ、まだ生きてる! 手当ての用意だ!」
「え、ええ!」
 急いで駆け寄る。だがその間にも、男の呼吸は徐々に弱くなっていく。
 それと気付いたシンが、さらに男を揺さぶった。
「おい、頑張れ! 今手当てを」
「や、奴が……」
 男がかすかに呻いた。はっとして、シンは黙る。
「奴が現れた……死んだはずのあいつが……!」
「死んだ奴? おい、どういうことだ!?」
 男の耳元で怒鳴る。男は喘ぐように、震える口を動かす。
「みんなやられちまった……!」
「誰だ! 誰の仕業だ!」
「ジョー……ジ……」
 それが精一杯だったのだろう。男はかくりと首を落とし、それきり動かなくなった。
「おい! おい!!」
 大声をかけながら揺さぶるが、もう男は何の反応も返さない。
 駆け寄ってきたルナマリアは、ほんの一瞬だけ息を呑んだ。
 しかしすぐにシンの傍にしゃがみこみ、彼の手を止める。彼が振り返るのには構わず、男の胸に耳を当て、
 次いで眼球を覗き込む。そうして、静かに男を元のように砂地に寝かせた。
「ルナ……」
 彼女は応えない。紫の瞳からも、何の感情も読み取れない。真っ直ぐ男を見ているだけだ。
 やるせない思いで、シンは男に目を戻した。徐々に安らかになっていく死に顔を見、静かに黙祷する。
 燦と輝く太陽が、死者に二つの影を落とした。眩しい光とは対照的な、黒々とした影を。

 周囲に散乱していた持ち物、何よりファラオガンダム十三世の残骸から、
 男達はネオエジプトのチームだろうと推測できた。
 すぐさまルナマリアはネオエジプトのファイト委員会に連絡を入れた。
 ガンダムが破壊されたのはキャッチしていても、まさかチーム全員が死亡したなどとは夢にも思っていないだろう。
 彼らの身元の確認と回収・埋葬を頼むと、すぐに承諾してくれた。簡潔な、感情を廃したような声だった。
 ガンダムファイトでの不慮の事故は珍しくない。特にこういった砂漠などの難所では、
 油断すれば地元の民でも簡単に遭難して、ファイトに関係なく命を落とす。
 それを知っているから、応対した委員は淡々と言葉を発したのだろう。
 そして、こうも忠告してくれたのだろう。
「最近サハラ砂漠全域で竜巻発生と遭難事故が相次いでいる。
 死者の怨念に引き摺られぬよう、貴女方も気をつけてくれ」

 時計の上ではまだ午前中のはずなのに、太陽は容赦なく照り付けてくる。
 白い光は汚れた地上の全てを焼き尽くそうとしているかのようだ。
 マントに守られていない黒髪や顔は、本当に白光に焼かれているような心地がする。
 なのに酷い乾燥のためか汗は一筋も流れてこない。
 足元を見れば、砂は僅かな風も見逃さずに転がって、時に足首までも飲み込もうとしてくる。
 靴の中に容赦なく入り込んでくる熱砂を努めて無視して、シンは黙々と炎天下の砂漠を歩いていた。
 こんな難所で延々と、半ば惰性で足を動かしていれば、ルナマリアから又聞きしたネオエジプト委員の言葉が蘇ってくる。

 ――死者の怨念。

 馬鹿言うな、と首を振る。あれは単なる遭難ではあり得ない。死者の呪いでもない。
 何者かが、それも明確な殺意を持った者が虐殺を行ったのだ。
 怨念にこんな芸当が出来ると言うなら――呪詛で破壊が行えるなら、自分は今この場にいない。
 とっくの昔にキラとデビルフリーダムは呪い殺されているはずだ。
 しかし、ネオエジプト委員の言葉は、何故か頭にしがみついて離れなかった。
 思えば生まれて此の方、何人の死に遭ってきただろう。ファイトに巻き込まれ、家族を目の前で失った。
 浮浪児時代には、餓死し銃殺され撲殺され自殺する、同じ境遇の子供達を何人も見てきた。
 そしてコロニーに上がってからは、義母と、義妹が――

「シン!」
 今度はシンがルナマリアの声に我に返る。先行していた彼女は、前方の砂丘の上から手を振っていた。
「見て! あれ、ガンダムファイトよ!」
「何だって!?」
 転がる熱砂に足を取られながら、それでも急いで砂丘を登っていく。徐々に見えてきたのは、
 一本の小規模な砂竜巻と、それに対峙する一体の巨人。
 竜を模した頭部に両腕。黄と緑に彩られ、 姿勢を低く取り、ビームフラッグを槍のように構えている。
 シンは目を見開いた。見覚えのある機体だった。
「ドラゴンガンダム……フレイ!?」

 竜の巨人は突然後ろに飛んだ。先程まで巨人のいた地を、竜巻からのレーザービームが薙いだ。
一瞬の光と熱を浴びて砂が溶け、僅かに異臭と煙が上がる。それも竜巻によってあえなく吹き散らされた。
「もう! まだファイト宣言もしてないのに!」
 ざっと砂を削って着地。苛立ちを吐き出し、ドラゴンガンダムは砂地を蹴った。竜巻に近付くにつれ、
 フレイの表情は鋭くなる。ひゅっと短く息をつき、体を跳ね上げ、掬い上げるようにフラッグを思い切り
 砂竜巻に叩きつけた。風の壁を突き抜け、確かな手ごたえがする。フレイは口の端を上げた。
 しかし次の瞬間、その表情は驚きに変わる。

 確かにフラッグは相手の脇腹を破砕し、めり込んでさえいた。だが、相手は意に介した様子はない。
 全く反応がない。
「効いてないの……?」
 呆然とフラッグを放す。途端に信じられないことが起こった。
 相手の傷口内部に六角形の銀の鱗が浮き出たかと思うと、見る間に増殖して損壊を埋めていく。
 瞬きする間に銀の光沢は消え、そこには元通りに復元された装甲が出現していた。
 ぎょっと目を見開いて、フレイは立ち尽くした。この機械とは思えないプロセスは何なのか。
 そもそもダメージを瞬時に修復する機体など聞いたことがない。
 隙を逃さず、竜巻の中から数本白い鞭が伸びた。瞬時にフラッグの柄を絡め取る。
 フレイは正気に戻るが既に遅く、フラッグが圧に耐えられたのはほんの一瞬のこと、
 金属のきしむ音と共にあっさりへし折れてしまう。
「こいつっ!」
 目に鋭さを取り戻し、フレイは破壊されたフラッグを放した。 軽く後ろに飛びつつ、背に手を回して
 新たなフラッグを取り出そうとする。が、そこに砂竜巻から追い討ちのレーザービームが発射される。
 フレイは慌てて腕をガードに回した。間に合わなければコクピットを貫かれていたところだ。
 竜巻から断続的に発射されるレーザービームは、竜を模した両腕の装甲を抉る。
 有り余る熱量は直撃していない箇所すら溶かし、飾りの鋭角的な竜は鋭さを失っていく。
 刺すような痛みに加え、焼かれたような感覚。加えてレーザーの圧力がドラゴンを後ろに押していく。
 鋼鉄の足がじりじりと砂を削る。防戦一方の現状に苛立ち、フレイは左腕の竜を竜巻に向けた。
「私を甘く……見るんじゃないわよっ!」
 すっぽ抜けたように、左腕が伸びた。機体は動かない。腕だけが際限なく伸びていく。
 これぞネオチャイナが極秘技術の一つ、ドラゴンクロー! これまで数多くのファイターが間合いを読み損ね、
 首を噛み切られている。
 予想外だったのか、レーザーの狙いがドラゴンの腕に定まらない。ドラゴンクローはそのまま直進、
 砂竜巻に隠れたガンダムに容赦なく噛み付いた。
 低く、長く、背筋を凍らせるような呻き声が上がる。
 竜巻が一時勢いをなくし、中のガンダムがその姿を露わにする。

「あっ!?」
「嘘!?」
 観戦していたシンとルナマリアは、思わず声を上げた。
 竜巻の中から現れた機体は、全身に白い包帯を巻きつかせていた。
 しかし頭部の包帯の隙間から、コブラの飾りが垣間見える。つい先程見た残骸にそっくりのものが。
「どういうことだ!? さっき俺達が見たのは一体……!」
 シンの驚きに答えられる者はもちろんいない。ミイラを象ったようなガンダムは、不気味な唸り声と共に
 再び竜巻を纏っていく。

 ドラゴンクローは相手の肩口を捉えていた。ほどけかかった包帯に噛み付き、装甲を露出させている。
 包帯を解かれたミイラとは斯くの如きものであろう、そう思わせるほどに黒く、皺が寄って捩れているようにも見えた。
 機械のはずなのに、どこか生命体の皮膚を思わせる。
 ドラゴンガンダムの中で、フレイは顔をしかめた。生理的に嫌悪感を催したのだ。
 その心理と僅かな動きにトレースシステムが反応し、伸びたドラゴンクローが戻ってくる。
 ドラゴンの腕が完全に戻るとほぼ同時に、ミイラ型ガンダムは完全に竜巻に隠れてしまった。
 再び包帯で攻撃してくる。やはりコクピット狙いだ。
 鞭だと思っていたときは何とも思わなかったが、正体が分かると途端に怖気が走る。
 迫り来る二本の包帯、しかしフレイはビームフラッグを消して棒に戻すと、包帯を二本まとめて地に打ち付けた。
 直後、ビームフラッグを一瞬だけ起動させて焼き切る。
 包帯の束は蛇か何かのようにびくりと跳ね、まるで本物の紙のように燃え崩れる。
「悪趣味な男は嫌いなのよっ!」
 思い切り嫌悪感を舌に乗せ、フレイは地を蹴った。視線は相手に向けたまま、砂竜巻を囲むように走り出す。
 竜巻の中のガンダムは、たじろいだように包帯を止めた。
 一本、一本、また一本。ドラゴンが走る軌跡に、次々に旗が突き立っていく。
 あっという間に砂竜巻はビームフラッグの林に囲まれた。
 光り輝くビームの旗はドラゴンの姿を隠し、回る旗と砂煙が方向感覚を惑わせる。
 これぞネオチャイナ少林寺はフレイ=アルスターが妙技、フェイロンフラッグ! 一度嵌れば抜け出すことは至難の業!
 
 ミイラ型ガンダムは闇雲に包帯を伸ばすが、黄のビームフラッグに阻まれ焼き切られてしまう。
 ならばと思ったのだろう、砂地沿いに包帯を伸ばし、旗を潜り抜けてドラゴンを捕らえようとする。
 が、全方位に伸ばしてもドラゴンは捕らえられない。何故なら!
「竜はいつまでも地べたにいないわ。空を駆けるものなのよ!」
 ミイラ型ガンダムが気付いたときは既に遅かった。
 ドラゴンは残ったフラッグの一本を槍状にして構え、旗を軽々と跳び越えてきた。
 ビームの穂先が眩い光を放つ。ミイラ型ガンダムは咄嗟に後ろに下がろうとするが――
「あなたの、負けよっ!」
 気合と同時に、ドラゴンガンダムはビームの穂先を砂竜巻の中心に突き立てていた。

「――ダメだ! フレイ!」
 そしてシンもまた、同時に声を上げていた。
 目を丸くしてルナマリアが振り向いてくるが、彼女に気付く余裕すらない。

 固い手ごたえと同時に、異質な感触が伝わってくる。
 フレイはびくりと体を震わせた。補助バーニアが勢いをなくし、ドラゴンの足が静かに地を震わせる。
 恐る恐るフラッグから手を放し、一つ後ずさりをする。
 ビームの穂先は消え、両の支えを失ったフラッグはずしりと砂地に落ちた。
 小さく上がった砂煙は竜巻に吹き散らされる。
 その竜巻も、徐々に勢いをなくしていた。またもミイラ型ガンダムの姿が露わになる。
「あ……ああ……!」
 フレイは目をこれ以上ないほどに大きく見開き、もう一つ後ずさりをした。
 水色の瞳が、人形のような整った顔が、鍛え引き締められた体が小刻みに震える。
 主の心理に応じ、竜巻を取り囲んでいたフラッグ達もただの棒に戻り、命を失ったかのように次々に砂地に横たわっていく。
 
 ミイラ型ガンダムのコクピットは、先程のビームフラッグの一撃に貫かれていた。
 頭から包帯で巻かれたファイターが、炎と小規模な爆発に巻き込まれながらも恨みの篭った唸りを上げる。
 ただ一点、包帯の隙間から露出している右目が、ねっとりとした視線をドラゴンに向ける。
 血のように赤い眼。

「ち、違う、そんなつもりじゃ……」
 呆然としたままに、フレイは首を横に振る。ドラゴンがまた一つ後ずさりをする。
 横たわるフラッグの一本に、かかとが触れた。ごつりと固い音がした。
 その間にも爆発は起こり、ミイラ型ガンダムは崩壊していく。
 名も知らぬファイターは、地の底から響くようなおぞましい唸り声を上げ、ゆっくりと倒れていった。
 地を震わせたのも束の間、ミイラ型ガンダムはずぶずぶと流砂に飲み込まれるように沈んでいく。
 それを合図にしたように、砂竜巻は今まで以上に激しさを増し――収まった時は、ガンダムもファイターも、
 影も形もなくなっていた。
 後には呆然と佇むドラゴンガンダムがあるばかり。
 フレイはかくりと膝をついた。ドラゴンの巨体が崩れ落ち、一瞬だけ砂地を震わせた。
 自分の両手を見た。まっさらなはずの白い指が、血に染んでいるように見えた。
「殺した……。私、殺してしまった……」
 魂を手放したように呟き続ける。シンが通信をつなげてきたことにすら気付かなかった。

「おかしいな、このあたりのはずなんだけど。ルナ、どうだ?」
「座標に間違いはないわよ。ネオエジプトの委員会に送ったデータとも一致したし」
「だよなぁ」
 首を傾げる二人に、
「ねえ、冗談でしょ? きっと夢でも見たのよ、暑さで頭がぼーっとしちゃったのよ、きっと」
 傍目にはっきり分かるほど怯え震えるフレイ。その隣りでは、サイとカズィが訝しげな顔をしている。
 五人は連れ立って、ネオエジプトチームを発見した場所に戻っていた。
 しかし、窪地の縁に立ってくるりと辺りを見回してみても、ガンダムの残骸もネオエジプトの男達の姿もない。
 まっさらな砂地が広がるだけだ。
「委員会から回収班が来るには早すぎるし」
『ルナマリア殿、単に砂嵐で埋もれただけなのではありませぬか?』
「ガンダムまで埋もれるくらい地形が変わってたら一目で分かるわよ」
『ふむむ……』
「だから夢だってば! ファラオガンダムとは、私がついさっき闘ったのよ!?」
「いや、確かにあれはファラオガンダムの残骸だった。全身を破壊されていたんだ、クルーと一緒に」
 必死に言い募るフレイを横目で見やり、シンは静かに言う。
 
 ネオエジプトは第一回ファイトから同じ形状、同じ名前のガンダムでファイトに出場している。
 無論技術の進歩に従いマイナーチェンジは行っているが、基本的に武装もシルエットもそのままだ。
 名前も『ファラオガンダム○世』で統一されている。
 故に、ファラオガンダムに似た他国のガンダムが出場していることなどあり得ない。
 ガンダムファイトは国家の威信を賭けた代理戦争である。各国は自分達のオリジナリティを出すべく、
 デザインには性能と同じくらい頭を使う。
 なのにわざわざ、デザインのあらかじめ分かっているネオエジプトのガンダムに似せようと思うデザイナーはいない。
「じゃあさっきのは何なのよぉ!? あれは絶対現実よ、ドラゴンの両腕だって、ほら!」
 ぴっとフレイが指差したのは、後ろに聳え立つドラゴンガンダム。
 太陽を背にし、巨大な影を五人に提供している。諸所に破損や痛みが見えるが、中でも両腕の竜の飾りは溶けかけている。
 左腕など、見ようによってはナマズに見えてしまうほどだ。
「分かってる。俺だってあれが夢だとか言うつもりはないさ」
 腕組みをしながら、つられてシンもドラゴンを見上げる。

「『死者の怨念』……」
 ぽつりと発せられたルナマリアの呟き。少年らはきょとんと彼女を見やったが、フレイはまともに顔色を変えた。
「あ、ち、違うわよ! 私オカルトなんて信じてないから!」
 視線に気付き、ルナマリアは慌てて片手を勢いよく振る。しかしもう遅い。
「つまり、幽霊ということですか?」
「余計なこと言うんじゃないわよカァァズィィィィ!!」
「の――っ!?」
 いっそ面白いほどに顔面蒼白となったフレイが、カズィの首を締め上げる。
 ばたばた手を振り回すカズィ、フレイと対照的に顔色が赤黒くなっていく。
「ふ、フレイ、やめてくれ! このままじゃカズィが落ちる!」
「サイは黙ってて! あなたには関係ないでしょ!」
「んなっ……そんなわけないだろ!? 僕らは君の……!」
 とまあ、にぎやかなネオチャイナ一行を無視し、
「本当にそうなら楽なんだけどな。もしものことがあっても、とりつかれるのはフレイだけだ」
「そうよね……」
 言い切るシン。あっさり頷くルナマリア。二人はくるりと窪地に背を向け、歩き出そうとする。

 ……が、進めない。柔らかい感触がシンの背中にもたれかかってくる。

「待って、お兄さん」
 何という変わり身の速さか。振り向けば、フレイがシンの背中にすがりついていた。
 つい体ごと振り返れば、今度は右手をそっと掴まれる。潤んだ瞳がこちらを見上げてくる。
 酷く乾燥したこの場で、水色の瞳だけはきらきらとゆらめく。
 その下には、桃のように形よく膨らんだ胸元が中華服を盛り上げているのが見える。
 シンはぎょっとして、そのまま硬直した。視線を動かすことが出来ない。
 充分に暑いはずの砂漠で、更に顔に熱が上がってくる。
「気味の悪いこと言うだけ言って、いなくならないで!」
 追い討ちか、意識していないのか。フレイは今度はシンの胸にしなだれかかってきた。
 少女の豊潤な胸が少年に押し付けられる。
「私、こういうの苦手なの、凄く怖いの!」
「や、そのっ、フレイっ」
「一緒にいてよ! 今晩だけでもいいから! お願いよ、お兄さん! ねえ!」
 フレイが顔を埋めてくる。ふわりと赤の髪が流れ、闘いとは無縁な芳しい香りがする。
 シンは自分の頭のどこかが爆発したような気がした。

 ああ遠い空の父さん母さん、僕はどうすればいいのでしょう。笑ってないで助けてください、せめて何か言葉を、
 いや待ってくれマユ、汚らわしいものを見るような目で蔑まないでくれ、お兄ちゃんは獣なんかじゃないんだぞ、
 ああ目を背けないでくれ! コレはお兄ちゃんのせいじゃないんだ、この女がいけないんだ、
 いや違う、何もかもアイツのせいだ! この子がこんな色気で迫ってくるのもキラが教え込んだんだ、
 そうに違いない! よって全ての責はキラにあり! そうだ、そうに決めた、今決めたっ!
 
 強引に責任を仇敵に押し付け、何とか正気に戻る。努めて平静を装って、シンは必死で視線をフレイから引き剥がし、
 傍らのルナマリアを見やった。しかし頼みのパートナーは、何を思ったか、つんと横を向いてしまう。
「おい、ルナ?」
「どうして私に振るのよ。好きにすればいいじゃない」
 突き放したような言い方だ。振り向いてすらくれなかった。
 御付きの二人に目をやれば、咳き込むカズィの背中をサイが叩いている。
 ふとシンの視線に気付いたサイが、諦めなさいと言いたげに首を横に振った。
 フレイに目を戻せば、彼女は未だに自分にしがみつき、ふるふると震えている。
 シンは茹蛸のようになったまま、溜息をついた。

 フレイ=アルスター。少林寺の命運を背負った、ネオチャイナのガンダムファイター。
 ナチュラルの、しかも女性ながら、その実力は折り紙付き。
 以前のファイトではシンのインパルスを引き分けに持ち込んだ。
 しかし、彼女の最大の武器は少林拳などではなく、彼女自身の魅力であろう。
 ナチュラル、つまり一切遺伝子操作をせずにこれほどの美貌を持ったことは奇跡に等しく、
 だからこそ彼女もそれを己の武器と心得ているのだろう。フレイは自らの性的魅力の引き出し方を熟知している。
 耐性のない少年であれば、一発で堕としてしまうほどに。まさに魔性の女である。
 十五年という未だ短い生の中で、どれほどの男を誑し込めばこんな恐ろしい女になれるのだろうか。…………

「……何書いてるのよ私は」
 自分に呆れ、ルナマリアはキーボードのバックスペースキーに指を押し付けた。
 窪地のキャンプから一人離れた彼女は、情報検索と同時に、フレイ=アルスターに関するローカルデータの更新を行っていた。
 しかしいつの間にやら、途中から誹謗中傷の類になってしまっていたのに気付いた。
 とろんとした半目になりながら、まだまともと思える文面にカーソルが到達するまで指を押し付け続ける。
 辺りはもう暗い。月と星が夜空を埋め尽くし、気温も低下している。昼間とは打って変わって肌寒い。
 ふと携帯端末のバッテリーを見れば、ゲージは残り半分を切っていた。 それほど使い続けた自覚はないのだが。
 バックアップの後に電源を切り、ルナマリアは携帯端末を自分のザックに仕舞い込む。
 そしてそれを肩に担いで、身を翻そうとした。
 
 視界に人影が入った。

 『それ』は、少し離れた砂地に、幻のように現れた。

 全身に包帯を巻きつけていた。体格は大柄だが、背筋は猫背。両腕を軽く広げ、頭を垂らしている。
 顔面すら包帯に覆われていたが、右目だけは血のように赤かった。
 ルナマリアは呆然と立ち尽くした。『それ』は視線だけを上げ、ルナマリアをじっと見据えていた。
 どんよりと濁った赤い瞳からは、何の感情も読み取れなかった。
 緩やかな風が吹く。ルナマリアの赤い髪を僅かに揺らし、砂粒を申し訳程度に転がし、行き場を失ったかのように止む。

 ――チガウ。

 声が聞こえた気がした。同時に、『それ』の姿も消えた。現れたときと同じく、幻のように掻き消えた。

 ルナマリアは、しばらくしても、呆然と立ち尽くしていた。
 とろんとしていた目は徐々に徐々に見開かれていく。
 ぱちくりと瞬き。二回、三回。

 視線の先には、月と星に照らされた夜があるばかりだ。
 どさりと音を立て、ザックが砂地に落ちた。今頃になって背筋が凍りつく。
 ルナマリアは目を皿のようにし、せわしなく口をぱくぱくさせた。空気を求める哀れな水槽内の金魚のように。

 そうしてようやく、彼女は悲鳴を上げることが出来た。