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機動武闘伝ガンダムSEED D_SEED D氏_第二話(前)

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:11:39

シン「フンフンフン♪ 今日は第二話収録日〜♪」
ステラ「うぇい? シン、たのしそう」
ルナ「主役だからって分かりやすく舞い上がってんじゃないわよ…」
ステラ「ルナ、つかれてる?」
レイ「妹の(ツッコミの)ありがたみを噛み締めているのだろう」
ステラ「うぇーい! ステラもメイリン好き! ルナ、元気だして」
ルナ「あはは…大丈夫よ、第二話になれば」
レイ「ああ、そういえばネオアメリカ代表役はアスランとメイリンだったな」
ルナ「そうよ…あの子がいれば格段に楽だわ…」

アビー「艦長…じゃなくて監督! アークエンジェルから緊急打電です! アークエンジェルとエターナルで
     ノロウイルスが検出されたそうです!」
タリア「何ですって!?」

ヨウラン「ラクシズで集団食中毒ぅ!?」
レイ「タイミングの悪い! 普段なら歓迎だが…!」
シン「じゃあアスランもメイリンも来れないってことかよ!?」
ルナ「…………(くらっ)」
ステラ「うぇい!? ルナ、しっかりする!」
アーサー「かんちょ…監督、どうするんですか!?」
タリア「…健康を保つのも役者の役目です。よって、アスラン=ザラ、メイリン=ホーク両名には、
     ネオアメリカ代表を降板してもらいます」
一同『ええぇぇ――っ!?』
ヴィーノ「じゃあ誰を使うんですか!? もうほとんどみんな役が決まってるのに!」
タリア「ええ、考えた結果…彼らを。入って!」
タリアの声に、入場してきたのは…

イザーク「待たせたなミネルバの諸君! 我々が来たからにはもう安心だ!」
ディアッカ「グゥレイトォ! まさか『ごめんなさいコンビ』の役だった俺達が主役級に抜擢されるとはッ!」
シホ「私も呼ばれました。メイリンさん達には悪いですけど、人生、良いこともあるもんですね」
ドモン「お前たちか! 準主役をするからには、相応の覚悟は出来ているんだろうな!」
イザーク「無論です、ドモン兄さん!」
ディアッカ「伊達にハルパーミリィと渡り合ってきたわけじゃないぜ!」
シホ「ディアッカさん、盗撮はよくないですよ…」
ステラ「うぇーい! コントのひとだー!」
イザーク「それを言うな! 今日はボケもツッコミもない、シリアスで行くと決めたのだ!」
ルナ「頼むからツッコミくらいはやってッ! あなたたち素でボケなんだから!」
アビー「自分を棚に上げて何気に酷い言い様ね、ルナマリア」

レイ「……監督」
タリア「何、レイ」
レイ「メイリンが出ないとなると、ルナマリアの負担が著しくなりますが」
タリア「大丈夫でしょう。彼女も赤なんだから」

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…第六話の撮影終了後、シンは整備士コンビのところに行った。
まだ一般には出回っていないテープがそこにある。
どうやら話を聞いていたのはシンだけではなかったようで、既に二人の部屋にはミネルバのクルーが押しかけていた。

ヴィーノ「はいはい皆さん、部屋が満員なので場所を変えまーす! 格納庫に来て下さーい!」
ステラ「ながれながれていまいずこ〜〜うぇーい!」
シン「あ、ステラ!」
クルーゼ「(がしっ)波に酔ったな? 保護者は何をやっているのか」
シン「って、何でアンタがミネルバにいるんだぁ――っ!?」
レイ「俺が教えた」
シン「レイ!? でもこの人、六話が初登場なのに」
クルーゼ「はっはっは、我が分身が出ているとなれば興味も沸くというものさ。私より彼の方が問題ではないかね」
タリア「……ですから今のオーブは…」
ユウナ「うーん、マイハニーはじゃじゃ馬だからねぇ」
シン「うわやっぱりダメだオーブっ! なんか久々に殺意湧いてきたぞ! そもそも俺がツッコミに回ってるのも久々だし!」
レイ「気にするな、俺は気にしない」
シン「誤魔化されるかぁーっ!」
ユウナ「(プルプルプル)はいもしもし? 今日は僕、撮影だって言ったはず…え、カガリが? 何考えて…
     まあそうだけど… はいはい、分かったよ! 今すぐ帰ります!(ピッ)」
タリア「何か?」
ユウナ「カガリがキラ君に呼び出されたんだってさ。残念だけど僕は帰らせてもらうよ」
シン「何考えてんだあの馬鹿元首っ!?」
クルーゼ「…………」
レイ「ラウ?」
クルーゼ「すまない、私も帰らせてもらおう」
レイ「な!?」
クルーゼ「何、また近いうちに会うさ。ではな、レイ、ミネルバの諸君」
シン「あ…はい。さようなら」
ステラ「うぇーい!」

「大型プロジェクター準備完了! 接続良好! 出力安定! 行けるぜ、ヴィーノ!」
「OK、ヨウラン! 皆さんお待ちかねぇ! これより機動武闘伝ガンダムSEED DESTINY、
 地上波放送に先駆けて 二話から四話を一挙公開いたします!」

観客席から歓声が上がり、ディスプレイの光が動き出す――

***************************************************************** Edit

「わだかまりや、やましさのない、静かに湛えた水の如き心。それが明鏡止水…」

どことも知れぬ闇の中。スポットライトに照らされ、椅子に腰掛け瞑目した一人の男性が浮かび上がる。
赤いマントに赤い鉢巻、どこかで見たような格好であるが、我々がよく知るあの少年ではない。
長身、細身ながら無駄なく引き締まった体躯。その風貌からすれば、彼はもはや青年の域であろう。
跳ねた黒髪に彫りの深い顔。ふと目を開いたと思えば、厳しく、熱い視線を向けてくる。
「さて…準備はいいか? 良ければお前達に、このガンダムファイトを説明させてもらうぞ。
 と、紹介が遅れたな。俺は説明担当の『ドモン=カッシュ』だ。以後宜しく頼む。
 ……む、やはり照れるな…」
少々顔を赤らめながら、ドモンはわざとらしく咳をした。
「あー、コホン…そもそもは六十年前に遡る。
 大戦争で汚れきった地球を後に宇宙に上がった人々が、コロニー国家間の全面戦争を避けるため、
 四年に一度、各国の代表を『ガンダム』と名付けられたロボットに乗せて、『ファイト』と称し!
 戦って! 戦って! 戦い合わせ!
 最後に残ったガンダムの国がコロニー国家連合の主導権を手にすることが出来る…
 ……何ともスポーツマンシップに溢れた戦争だよ。
 これで人類が滅びに直面するような危機は避けられた。だが残された問題が一つ。
 ファイトの舞台は地球。そう、俺達が住む汚れきった地球だ…」
そこまで説明した彼は、どこか遠くを見るような目をする。しかしすぐに視線を我々に戻し、再び口を開いた。
「以上がガンダムファイトの骨子だ。
 だが今回の大会は、どうも普段とは様子が違うらしい…」
「そこのお前! この写真の男に見覚えはないか!?」
赤い鉢巻と赤いマントに身を包んだシンが、いきなり写真を突きつけてくる。
半ばから破られた写真。褐色の髪の少年が、誰かと肩を組み、じゃれあうように笑っている。
相手が誰なのかは、破られていて分からない。
ドモンはそれを受け取り、少し考え込む仕草をしたが、すぐさま皮肉めいた笑みを浮かべる。
「この写真がどんなファイトの嵐を巻き起こすことになるのか? …それを知っているのは底意地の悪い神様くらいのものだろう。
 今日のカードはネオアメリカ代表、イザーク=ジュールのガンダムマックスター!」

ドモンがマントをばさりと脱ぐ。
下から出てきたのはピチピチの全身黒タイツ、即ちファイティングスーツだ!

「それではッ!
 ガンダムファイトォォ! レディィ…ゴォォォ――――ッ!!」

第二話「唸れ! 夢を掴んだ必殺パンチ」

地球は荒れている。
それは世界中の人々の共通認識である。程度の差はあれ、今の地球を見て問題なしと心底から言い切れる者はいない。
復興したと思えばガンダムファイトでご破算にされる。親を失った子供はストリート・チルドレンとなり、
生きるために犯罪を繰り返す。それが分かっているから、地元警察も強く取り締まることができない。
不満はコロニーに、ガンダムファイトにぶつけられる。
皮肉にも、それが地上の大きな諍いをなくしている一つの要因でもあった。
共通の敵がいて、おおっぴらに憎める相手がいれば、不満を同じ地上の隣人に向ける必要はないのである。
だからガンダムファイターは地上の人間には嫌われる。
しかし、反面、ファイターは国家の代表であり、強い人間である。強ければ出自は関係なく、誰でもなれる。
それが地上の人間にとっては憧れでもあった。
特に貧困層の多い国では、この相反する感情が強い。
屈折しているのだ。

幸い…というべきか、偶然というべきか。
ここネオアメリカは、そんな屈折した感情が他よりも一歩突き抜け、逆に真っ直ぐになってしまった、地上でも珍しい国だった。
アメリカン・ドリーム。底辺の人間が己の腕で栄光を掴み取り、一躍ヒーローになる夢。
一つの英雄伝承歌の如く、それはネオアメリカの人々の間に流れていた。貧困にあえぐ人々が伝える御伽噺のようなものでもあったろう。
だが、それをごく最近、現実のものにしてしまった男がいた。

イザーク=ジュール。
今でこそネオアメリカの高官エザリアの息子と判明しているが、かつてはストリートチルドレンの一人に過ぎなかった。
ガンダムファイトで両親とはぐれ、着の身着のまま路地で戦い、生きるためにドブネズミのような生活をして
――実際ドブで生活したこともあった――それでも卑怯を嫌い、己の拳一つで勝負をかける姿は、徐々に好感を集めていった。
数年前、彼の喧嘩の様子を、たまたまコロニーのスカウトマンが発見し、コロニーに渡ってボクサーとなる。
めきめきと頭角を現し、百戦百勝。ついにはコロニーボクシングのチャンピオンとなり、ガンダムファイターにまで選ばれた。
ストリート・チルドレンが、エリートであるガンダムファイターに。
その一報はネオアメリカ中を駆け抜け…いや。
イザークがコロニーでボクシングの試合をするたび、地球のネオアメリカの人々はそれをテレビ越しに見守っていたのである。
地元から出た英雄の姿は、彼らに生きる希望を与えた。
テレビの向こうで繰り広げられるサクセス・ストーリーを見ながら、「こんな自分達でも夢は掴めるかもしれない」と胸を弾ませて。
名実共に、イザークはネオアメリカの英雄であった。

「……だからね、私は分かってたんだよ。あの子がそこの窓割って、謝ってきたときに、あ、この子は将来大物になる、ってさ」
「あー、もういいです、わかりました」
引き気味に、シンは話を打ち切った。酒場のおかみは多少不満げな顔をした。
いつものように写真を見せて話を聞いていたら、うっかりネオアメリカのファイターの話になり、
以降おかみの演説の独壇場になってしまったのだ。
しかし、自分と同じくストリート・チルドレンの出の男がファイターとなっている、と聞くと、嬉しい反面、裏切られた気もしてしまう。
ファイターは英雄であると同時に、地球に破壊を招く者でもあるのだから。

そのイザーク=ジュールは、明日に迫った地上のボクシングチャンピオンとの戦いに備え、汗を流していた。
スパーリング相手は、サポートクルーのディアッカ=エルスマン。銀髪で白肌のイザークとは対照的に、
金髪で褐色の肌をしている。バリバリのネオアメリカ訛りであるが、こう見えても炒飯の達人である。
そして二人をみながら手元のボードにペンを走らせている女性は、シホ=ハーネンフース。同じくイザークのサポートクルーである。
どう見ても日系人だが、この時代国際結婚など当たり前に起きているため、見た目だけでは国籍は分からない。
もっとも、ネオアメリカ代表である以上、三人ともネオアメリカ国籍を持っているのだが。
「イザーク隊長、スパーリング一万セット終わりました」
シホが声をかける。
「よし! 休憩を入れる! ディアッカ、お前も休め!」
「はいよっ」
二人が体の力を抜くと、すかさずシホがスポーツドリンクを差し入れる。
「お疲れ様です」
「サンキュー、シホ」
「いつも気が利くな、お前は」
「そりゃあ、私だってジュール隊の一員ですから」
シホがいたずらっぽく笑う。
ジュール隊、とはイザークが冗談交じりに言い出した言葉である。ファイターになることが決まったとき、
イザークはテレビのインタビューに向けて言い放ったのだ。
『我らジュール隊に敵は無し! いつでもかかって来い、ファイターども!』
というわけで、たった三人の『隊』が結成されたのである。発言後しばらく名前を『エルスマン隊』や
『ハーネンフース隊』にしようという不穏な動きが出たのは、まあ些細なことだ。
「イザーク、明日の試合、勝算はあるか?」
「誰に向かって聞いている、ディアッカ!」
「いやさ、そろそろマスコミのインタビューの時間だろ。答えを考えといた方がいいんじゃない?」
「いらん! ああいうのは素で答えるのが一番なのだ!」
言い切ってドリンクを口に含むイザーク。やれやれ、と肩をすくめるディアッカ。
「あ、よく覚えてましたねディアッカさん。もうすぐインタビューの時間だって」
「おいおい、俺はこれでもこいつのサポートクルーだぜ?」
「まあ貴様は迂闊なことに定評があるからな!」
「お前が言うかよ」
「では聞こう。インタビューは何分後だ?」
「えー、あー……シホ?」
「二十分後です」
二人は仲良くドリンクを吹き出した。
「ま、待てシホ、何故そんなギリギリにっ!?」
「正確には、二十分後に訓練を切り上げなきゃいけないってことですよ。今からなら充分間に合います」
「それならそう言ってくれよ…ドリンクがもったいねぇ…否グゥレイトォ…」
「すみません」
まあ、お二人の反応が面白いので、わざとやってたりするんですけどね。
心の中でシホは呟く。

そんなこんながあっても、インタビューではさすがに堂々としたものだった。
直後にネオアメリカ・ガンダムファイト委員に会っても、毅然とした態度は崩れなかった。
「ネオジャパンのファイターが入ったという情報もあるわ。警備を厳しくしないと…」
懸念を示すガンダムファイト委員に、イザークは不敵な笑みを浮かべて言葉を返す。
「ネオジャパンの田舎野郎が来たところで、誇り高きジュール隊が屈するとお思いですか?
 母上のお気遣いはありがたいが、私には頼れるクルーがいます」
ディアッカがにやりと笑い、シホがぴっと姿勢を正す。
三人を見て、ガンダムファイト委員――エザリア=ジュールは、それでも懸念を隠さない。
「だけど、相手はネオイタリアのマフィア・ファイター、ミゲル=アイマンを倒しているのよ?」
「マフィアと我々を一緒にしないでくださいよ、母上」
「そんなにそこのクルーが信じられるの?」
形の良い眉をひそめ、エザリアは食い下がる。
イザークはしっかりと頷いた。頷いた後で、急に照れくさくなったか、早口に言葉を紡ぐ。
「まあ多少迂闊で残念なのが気になりますが…」
「なんだよ、やっぱ女四人の方が良かったってのか?」
「な、何を言うディアッカ! そんなチャラチャラした軟派男は、本来ならば貴様の領分だろうに!」
高官の面前であることを忘れ、漫才を始める二人。
それを見て複雑な心境のエザリア、シホに目を向けると、シホもまたエザリアを見ていた。
『止めますか?』
その目が、そう言っている。
エザリアは首を横に振った。シホはにっこり笑った。

コロニーの人間には、地上の人々への蔑視が少なからずある。ストリート・チルドレンに対しては、一層その傾向が強い。
エザリアにとって、イザークはまだしも、ディアッカとシホは疑問の対象である。
息子が年頃ということもあって、クルーには選り抜きの優秀な美女を、それも四人も揃えておいたのだ。
なのにイザークは昔からの仲間である二人を選んだ。
そこまで信頼されている人間なら…そう思う反面、やはり心のどこかでは反発がある。
最も、息子が社会の底辺を経験してきたことを受け、エザリアも地上人への偏見をなくそうと努めてはいる。
他の高官に任せては、ディアッカとシホは強制的につまみ出されているだろう。イザークがそれを許すかは置いても。
(だけど、それとネオジャパンのファイターとは関係ない)
エザリアは息子とクルーの漫才を見ながら、考えを巡らせていた。

次の日になると、ボクシング会場は満員の客で溢れかえった。
コロニーボクシングの覇者であり地元の英雄、イザーク=ジュールと、地球ボクシングの覇者であるジャン=キャリーとの一戦だ。
ネオアメリカの人々にとってはまさにドリームマッチである。
既に地球代表のジャンはフードつきマントを羽織り、リングに上がっている。
『百戦百勝、コロニーチャンピオン! イザーク=ジュール選手の、入ゥ場ォォォですッ!!』
アナウンスに応え、会場の片側にイザークが姿を現した。
銀の髪の眉目秀麗な男。チャンピオンの派手なマントを羽織り、ベルトをつけ、観客の声援に余裕たっぷりに応える。
大股でリングに近づき、マントをばさりと放る。上半身の鍛え抜かれた筋肉を惜しげもなく晒し、
ボクシンググローブをつけ、ガッツポーズを観客に示した。
『わああああああああああああああ!!』
『イザーク! イザーク! イザーク!!』
観客が沸きに沸く。応援の幕が振られ、イザークの姿が描かれたパネルが張られる。これだけで彼の人気が分かろうというものだ。
そこにジャンが動いた。
「イザーク!?」
「隊長っ!」
ディアッカとシホが腰を浮かす。
「!?」

――気がつけば、イザークは天井を見ていた。
あろうことか、いきなりジャンはアッパーを仕掛けてきて――イザークはそれをまともに受けた。
仰向けに倒れているイザークを、観客席のパネルに描かれたイザークが見下ろす。
会場が静まり返った。
「き、汚ぇぞ!」
その一言が皮切りになった。
『反則だ! 反則だ!』
『そうまでして勝ちたいのかよ!』
『あ、あいつ、ジャンじゃないぞ!?』
観客がどよめく。
イザークは頭を振りながら、何者か、と殴ってきた相手を見た。ジャンになりすましたフードの男はマントをばさりと脱ぎ捨てた。
下から出てきたのは、赤い鉢巻の日系人!
「あれは!」
「知っているのですか、解説のベルナデット=ルルーさん!」
「ええ、あの黒髪、赤い鉢巻に赤い瞳! 間違いありません!
 彼こそは、高圧的な態度で各地を回り、例外なく騒動を巻き起こしては鎮圧する、トラブルメイキングレベル空前絶後の測定不能者、
 ネオジャパンの狂犬! コロニー格闘技の覇者、キング・オブ・ハート、シン=アスカその人です!!」

「何なのよその解説はぁぁぁぁ!! 否定しきれないところがまた悲しいしっ!!」
場末の酒場で、テレビを見ていた赤い跳ね髪の少女が頭を抱えて叫び、客の注目を集めていたりしたが、まあ些細なことだ。

「イザーク=ジュール! あんたにファイトを申し込む!」
シンはグローブをはめた右手をイザークに突きつけ、宣言した。
「な…何だとっ!?」
「受けられるはずだ、あんたが本当に英雄なら!」
そう叫ぶシンの瞳は真剣そのものである。
「どこをどうすればそんな結論になるんですか」
「自己完結しちゃってんじゃないの?」
シホとディアッカが小声で会話する。
納得できないのはイザークも同じだ。
「ふざけるなァッ!!」
怒り心頭、瞬時に渾身のボディーブローを繰り出す。それをシンは紙一重で回避する。
回避したはずだった。しかし…
(こいつ…出来る!)
そこらのチンピラとは違う重さがある。かすめただけで威力が伝わってくる。
ちらりと周囲を見れば、黒服の男やイザークのクルーが動き出している。
シンはふわりとリングの外へ飛んだ。
「イザーク=ジュール! 確かにファイトを申し込んだからな!」
そう捨て台詞を吐いて、シンは逃走した。
「お、追え! 逃がすな!」
VIP席ではエザリアががなりたてている。
「Damn it! あの野郎ぉ…!」
イザークが屈辱に腕を振るわせる。
この試合は己の晴れ舞台だ。生まれ故郷のこの町に錦を飾り、アメリカン・ドリームの体現者となって、自分と同じ境遇の…
いや、ネオアメリカ全ての人々に夢と希望を与えること。それがイザークの夢であり、この試合はその第一歩だったのだ。
「ディアッカ!」
「はいよ!」
「あいつに時間と場所を指定してやれ! ガンダムファイトだ!」
「そ、それじゃ隊長、挑戦受けるんですか!?」
「当然だ! ここまでコケにされて黙っていられるかァ!!」
「待ちなさいイザーク!」
振り返れば、エザリアが厳しい目をしてこちらを見ている。
「この件は私達に任せなさい」
「母上!? 何を!」
「あんな真似をしてくれるなら、こちらにも考えがあるということです!」
エザリアの宣言を背に、黒服の男達は会場を走り去っていく。

ボクシング会場を脱出したシンは、いつものマント姿に戻って道を歩いていた。
体が重い。パンチの重さが今になって効いてきたのだ。
(かすめただけで、この威力…!)
完全にかわさなければいけなかったのだ。だがそれを許してくれる速度でもなかった。
シンはベンチに倒れこんだ。限界だった。
動かなくなるのを見計らったように、黒服の男達が取り囲んでくる。
(SP…? こんな奴らを使うのかよっ…イザーク!)
そう叫ぼうとした。だが体力がない。
ぱん!
軽い音と鋭い痛みが、シンの意識を闇へ追いやった。
だがその音は、黒服の男によるものではない。第一男達は銃を持っていない。
「あんたたち! 命が惜しかったらとっとと帰りなさい!」
声に振り向けば、赤い跳ね髪の少女が拳銃を構えている。
黒服の男はシンを振り返った。ぴくりとも動かない。
「……撤退する」
男達は構えをとき、ばらばらに、黄昏に向かいつつある町へと消えていった。
長い息をつき、少女――ルナマリアはシンに駆け寄る。
気絶していることを確認し、拳銃をしまいこむと、ひとつ気合をかけて少年の体躯を担ぎ上げた。

シンが目覚めたのは、見慣れぬ一室のベッドの上だった。
「ここは…」
「さあて? どこだと思う?」
芝居がかった声に顔を動かせば、見慣れた少女がそこにいる。
「答えはネオアメリカのニューヨーク。ダウンタウンのスキッドロウよ」
「ルナマリア…」
「うん、記憶障害はなし、ね」
にっこり笑うルナマリア。だが内心は冷や汗ものだ。
何しろ黒服の男達に向けて発砲したはずの銃が、何故かシンの頭に直撃していたのだ。
(ゴムの弾でよかったわ…)
作成者であるヴィーノとヨウランに心の中で感謝する。
シンはそんな彼女の心を知らず、体を起こした。マントも鉢巻も外されて、完全に私服になっている。
「イザーク=ジュール…英雄と言われちゃいたが、あんな黒服どもを使うのなら…!」
「あんたが言うことじゃないでしょ!」
ぽかり、とシンの頭を軽く殴るルナマリア。後遺症がないと分かれば現金なものだ。
「目立ちすぎよ! ガンダムファイターって嫌われてるんだから!」
「だが、この町では…」
シンの言葉を、ルナマリアは厳しい瞳で遮る。
「あのねぇ、シン。確かにこの町は、力がある者が強い、逆に言えば力がなければ自分を表現できない町よ。
 ガンダムファイターへの接し方は、他の町とは随分違うわ。だけどね!」
ガタリと椅子の音を立て、ルナマリアが立ち上がり、シンに顔を突きつける。
「ファイターの全員が全員、歓迎されるとでも思った!? この町はイザーク=ジュールの故郷なの!
 イザークは特別なのよ。地球出身のチャンピオン、それもストリート・チルドレンの出なんだから…………」
はっとした。段々とルナマリアの声がしぼんでいく。
気付いてしまったのだ。
「……ひょっとして、気にしてるの?」
「お前には関係ない」
ぷい、と横を向くシン。
慌ててルナマリアは元の様に椅子に座った。
「ちょ、ないわけないでしょ! あたしはあんたのパートナーなんだから!」
「誰もついてきてくれなんて頼んだ覚えはないぜ」
「じゃあ誰がインパルスの整備するのよ? 料理作るのは? クルーゼ隊長と一々交信するのは?」
「…………」
恩着せがましい言い方だが、全て事実である。ルナマリアがいなければ、そもそもインパルスの整備はできないし、まともな料理は作れないし(獣の丸焼きをまともな料理と言えるなら話は別だが)、上司との通信も自分でしなければならない。
何より一人で旅をすることになる……
そこまで考えて、シンは頭を横に振った。
認めたくない。そんな心。

とんとん、とノックの音がした。
思わずシンとルナマリアは諍いを忘れ、顔を見合わせる。
ルナマリアは席を立ち、そっと扉に近づくと、覗き窓から相手を見た。
金髪に褐色の肌の男。どことなく軽薄そうだが、瞳の奥に油断できない光が見える。
知らない顔だ。
ルナマリアはドアチェーンがかかっているのを確認し、これまたそっと扉を開けた。
「ハロ〜ォ、ネオジャパンの諸君?」
無茶苦茶なネオアメリカ訛りを丸出しに、男はにやりと笑った。
「……どなたでしょうか」
「よくぞ聞いてくれました。俺はディアッカ=エルスマン、ネオアメリカ代表のサポートクルーだ」
それを聞いたシンは、ベッドから飛び降りた。ルナマリアに並ぶ。
「ファイトのことか!?」
「ああ、その通り。明日八時、ブルックリンでファイトだ。逃げるなよ」
「誰がだ!」
「おお怖。それじゃ、ちゃんと伝えたからな」
言って、ドアが閉まる。
シンは怒りを吐き出すように息をつき、ベッドへと向かった。枕元に、畳まれた赤いマントと鉢巻がある。
「ちょっと、今は寝てないとダメよ」
「後遺症はないんだろう。だったら…」
「ちょっと待ったぁ!」
いきなりドアチェーンが喧しい音を立てる。驚いて振り向けば、ディアッカがドアを開けた隙間から顔を覗かせていた。
「な、何ですか? もう用事は…」
「あるんだよ、大事なのがもう一つ! あんたに聞かなきゃならないことがあるんだ」
「え? あたし?」
きょとんとするルナマリアとシン。ネオアメリカのクルーが、ネオジャパンのクルーに何を聞こうというのだ。
ディアッカは至極真面目な顔をしている。

「あんた、名前は?」
「る、ルナマリア=ホークですけど」
「あんたさ、射撃ド下手だろ?」
「……え?」
「さっきの見てたんだけど、あんた確実に拳銃を…」
「帰れッ!!」
ルナマリアが手元のジュラルミンケースを投げつける。しかしディアッカに当たるわけがない。ケースは騒音を立ててドアに衝突、床に落ちる。
「やっぱ怖いよ、あんたたち。もう関わりあいたくありませんね〜っと!」
ディアッカは扉を閉めた。足音も遠ざかっていく。
ルナマリアは荒い息をつきながら、それでも落ち着いてきたようで、自分が投げたケースの回収に向かった。
「何なのよ、一体…!」
「射撃が下手なのは事実だろ」
「見ず知らずの人にいきなり言われれば腹も立つわよっ!」

「へへ、収穫あり!」
超小型カメラを片手で弄びながら、ディアッカは帰路についた。
中には先程盗撮したルナマリアの怒り顔が収まっている。
ディアッカ=エルスマン。彼は様々な二つ名を持つ。
例えば一つは『迂闊で残念』。一つは『炒飯の達人』。一つは『誤爆王』。
そして盗撮業界での名は、『怒れる女神像を掲げる男』。
上機嫌で道を歩いていくと、先程のベンチに差し掛かった。シンが倒れていたベンチだ。
ばらばらと周りから黒服の男達が出てきてディアッカを取り囲む。今度は銃を持って。
「……お〜っと?」
ディアッカは笑顔を引きつらせ、そろそろと両手を挙げる。
小型カメラが地面に落ち、小さな音を立てた。

ビルの屋上で、イザークはニューヨークの街並を眺めていた。
腕組みをし、はるか彼方まで目を向けている。しかし落ち着いているのは上半身だけだ。
「……遅い!」
たんたんたんたんたんたんたんたん!
イザークの足が十六ビートのリズムを刻む。
「あいつめ、一体どこまで行っている!」
「隊長、貧乏揺すりはお金を逃がしてしまいますよ」
「そんな迷信はとうの昔に嘘っぱちと見抜いている!」
「見抜いているというか、まあ、してもしなくてもお金は逃げていきますしね」
「えーいうるさいっ!」
イザークは後ろを振り向いた。予想通り、いつの間にやらシホが来ていた。
「シホ、今日は容赦がないぞ!」
「だってディアッカさんがいない分、私がしっかりしなきゃダメじゃないですか」
「く… し、しかしだな…」
「本当、どこまで行っちゃったんでしょうね、ディアッカさん」
そう言って、シホはイザークに並び、フェンスに身をもたせかけ、街並を見渡す。
「ふん、大方昔の馴染みに会って、話し込んでいるのだろう」
「あはは、それはあるかもしれませんね」
「シホ、お前は馴染みに会わなくていいのか?」
「会えないからいいんです」
シホの声は若干低かった。
「……そうか。悪いことを聞いたな」
「いえいえ」
会話が途切れる。
二人は並んでフェンスにもたれかけ、沈み行く夕日を眺めていた。
しばらくたって、シホが呟く。

「変わってませんね、この街」
「うむ」
ごく自然にイザークも頷いた。
「確かに街並は変わった。瓦礫になった建物もあれば、新しく建てられたものもある。だが根底にあるのは…」
そう、人の心は変わっていない。
強さに憧れ、空の上に憧れ、希望を見出す。
「シホ」
「はい」
夕日を見たまま、二人は言葉を交わす。
「俺達の夢は何だ?」
「このネオアメリカに、夢と希望を与えることです」
「そのために俺達が出来ることは?」
「ガンダムファイトで優勝することです」
「なら明日、俺は何をするべきだ!?」
「正々堂々、ネオジャパンと闘って、勝つことです!」
「Yeah! That's right!!」
イザークは右の拳を握り締め、天に突き上げた。
「俺は勝つ! どん底から這い上がった英雄の姿を皆に見せつけてやる! 俺の上には何人たりとも立たせんッ!!」
「はいっ!」

シンとルナマリアがルームサービスで夕食を取っていると、またノックの音がした。
ルナマリアが覗き窓で確認すると、そこにはディアッカがいる。
「今度は何の用!?」
扉越しに、ことさら不機嫌に言ってやると、ディアッカはそのまま無機質な声で、
「変更があった。明日八時にブロードウェイ。それだけだ」
きびすを返し、去っていく。
肩透かしを食らった感じがして、ルナマリアは目をぱちくりさせた。
「客か、ルナマリア」
「ん、さっきのディアッカって人。明日の場所が変更になったって。八時にブロードウェイだそうよ」
「いきなりだな…」
「そうよね。何か様子がおかしかったし…」
首をひねる二人。

日が変わった。イザークは既に愛機ガンダムマックスターへと乗り込んでいる。
「行くぞディアッカ、シホ!」
「隊長、ディアッカさんが来てません!」
「何ィ!? ファイトに遅刻するとはあいつめ、誇りあるジュール隊の自覚があるのかッ!」
「遅刻というか…ディアッカさん、結局昨日帰ってきてないんですよ」
そのシホの言葉に、イザークは黙り込んだ。
奴がこちらに連絡をせずに、一日空けたとなると…裏で何かが起きたと思うべきである。
「どうします、隊長」
「……今はファイトを優先する! 奴もそこらのチンピラに遅れは取らん」
「分かりました!」
そう、己はガンダムファイター。特に今回は、時間と場所を指定したのはこちらだ。
遅れたりすっぽかしたりすれば恥晒しだ。
挑戦状を叩きつけてきたのが向こうであるとはいえ。
イザークとシホは、一路ブルックリンへと向かう。

シンとルナマリアは、聞いたとおりにブロードウェイに来た。
しかし待ち受けていたのは、ディアッカただ一人である。
「待っていたぞシン=アスカ。ここがお前の」
『墓場となるのだ!』
まるっきり悪役のセリフを吐いて飛び出してきたのは、戦闘ヘリとモビルスーツ・ゲイツが三機。
ヘリで指揮しているのは、誰あろうエザリア=ジュールだ。
ディアッカは糸が切れた人形のように…というか実際に催眠術でもかけられていたのだろう、意識を失い倒れてしまった。
ゲイツが頭部の銃口をシンに向ける。
対してシンとルナマリアは生身。
機銃の連射音が轟く。
「イザァァァァクッ!! やっぱり腰抜けかアンタはッ!!」
「言ってる場合じゃないでしょ!」
ゲイツが撃ってくるピクウスをダッシュでかわしながら、二人の叫びがこだまする。
「第一イザークの手ってわけじゃないでしょうし!」
「あいつはイザークのクルーだぞ!?」
「だったら催眠術なんて使わないでしょ!」
叫びつつ、ルナマリアはシンから離れ、気絶しているディアッカに駆け寄り、背負った。
ゲイツはシンのみを狙っているようで、弾が飛んでくる気配はない。
ディアッカを背負いつつ、急いで瓦礫に隠れる。
(コンパクトが充電中なのが痛いわねっ!)
自分の迂闊さを呪いつつ、ディアッカの簡易検査を済ませようと焦っていると…

「……あれ? レディはなんで俺の体をまさぐってるのかな?」
ルナマリアは思いっきりディアッカの頭を殴った。
「い、いきなり何しますかね」
「アンタはもう少し女性にデリカシー持ちなさい! それじゃシン以下じゃないの!」
叫びつつ、簡易チェックを済ませる。
異常なしと判断したルナマリア、あらためてディアッカを見据え、
「説明してもらおうかしら!? これはどういうこと!?」
「これ?」
「自分の目で見てみなさい!」
ぴっとルナマリアが指したのは、瓦礫の向こうの光景。三機のゲイツのピクウスをひたすら避ける生身のシン。
「おお〜、やるねそっちのファイター」
「で!? ど・う・い・う・こ・と!?」
怒気を満面に現し、ルナマリアは詰め寄る。
ふざけている場合ではないとようやく悟ったか、ディアッカは顔を引き締めた。
「こいつは…委員会が先走ったな。イザークは知らないことだ」
「まあイザークの手でないのは信じるわ」
「Thanks! それでは…」
にやりと笑って、ディアッカは瓦礫を一部どかした。中から対人ライフルや古いバズーカのようなものが出てくる。
「ちょ、何よそれ!?」
「こりゃあ対空改良型スティンガーってとこかな」
「いやそうじゃなくて、なんでそんなのがここにあるのよ!」
「ネオアメリカの路地は浮浪児どもの武器庫ってね! 掘り出せば色々出てくるんだよ」
「だ、だとしても何年前のシロモノなわけ!? それに携行火器でMSに対抗するなんて」
「俺の二つ名を知らないな? 俺はディアッカ=エルスマン、伝説の誤爆王だぜ!」
「……逆に一気に不安になったわ」
「アンタに言われたくはないねぇ」
軽口か本気か分からないが、ディアッカはスティンガーを構える。
「耳塞げ! シュ――――ッ!!」
爆音と共にスティンガーミサイルが発射される。
ルナマリアは、それでも一瞬期待した。誤爆王と言っていても、もしかしたら自分を卑下しているだけかもしれない、あるいは運良く当たるかもしれない…と。
ミサイルは、ゲイツと戦闘ヘリの隙間を縫って進んだ。そのうち進路を上に取り、天高く飛んだところで自動的に爆発した。
もちろん傷一つ、ヘリやゲイツにはつけていない。
『…………』
「はっはぁ! グゥレイトォ!」
「グゥレイトォ、じゃねぇぇぇぇ!!」
ルナマリアの叫びがこだまする。