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鬼ジュール_オムニバス-10

Last-modified: 2007-11-11 (日) 21:14:12

昼前に先に休憩に入ったレイが教室に戻ろうとした時、「ごめんなさい。すみません」と繰り返す特徴的な声を聞いた。

あの声は…。

「ミーアさん?」
「あ!お久し振りです!」

ぶつかった人に謝罪し、漸く知り合いに会えたとミーアが半泣き状態で駆け寄る。
途中また別の人にぶつかり、バランスを崩して倒れそうになるのでレイは慌てて手を差し伸べて体を支える。

「大丈夫ですか?」
「あたし人混み苦手で…、ありがとう」
「シンなら教室に居ます。今から俺と交代で休憩に入りますから」
「じゃあタイミング良かったのかな」

安堵するミーアだが、本当に人混みを歩くのが苦手なのだろう。
話しながら何度もぶつかり、多々良を踏んでレイに遅れをとってしまう。

「こちらが歩き易いですよ」

腰を抱き寄せ、ミーアの体の位置を自分の位置と入れ替えたレイは、そのままミーアの腰を抱きエスコートする。

綺麗な男の子にエスコートされる。

それがミーアには堪らなく恥ずかしくて、酷く周りの目が気になって、少し、嬉しかった。

その頃シンは・・・

「シン!レイの居ない今のうちにNo.1の地位を確立しちゃいなさい!」
「・・・ルナ・・・絶対俺達方向性間違えて来てないか?」

ルナマリアがかなりノリノリになっていて、シンはもうそれを抑える事は出来なくなっていた。
いつの間にか教室の前にはクラスの女の子と男の子の顔写真が貼られ、「現在の指名第一位!」と、いう所に「シン・アスカ」という無愛想な顔写真が貼られていた。
(どうやら、レイが休憩中にシンが巻き返したと思われる)
そして何故か5位の所にヴィーノの写真まであり、ハチャメチャな状態だった。
(ヴィーノのは勝手に自分で写して、勝手に五位の所に貼り付けているらしいのだが、それでも指名が入っているのだから恐ろしい)

「あの〜。1位の子なんですけど・・・オプションはどこまでなんですか?」
「シンですか?シンはお茶とお菓子盛り合わせで写真一枚、更にお持ち帰りのお茶で握手、それにお菓子も付けたら肩を抱いて貰えます!」
「え?じゃあ、お茶とお菓子盛り合わせと、持ち帰り用のお茶とお菓子もお願いします!」
「フルコースですね!有難うございます、喜んで〜♪」

3名様席ご指名入りました〜♪

注文が入り、シンが呼ばれる。

「あのさぁ・・やっぱりこういうの俺苦手・・」
「何言ってるの!第一位がそんなんだったら皆の士気に関わるでしょ!さっさと行って、さっさと写真撮って、さっさと握手して、さっさと肩抱いてきて、『お嬢さん、綺麗ですね』って言って来なさい!」
「いや、最後のはオプション外だと・・」
「ホストにはちょっとしたリップサービスも必要でしょ!?」
「だから、俺はホストじゃ・・・・!」

こんな所ミーアに見られたらどうしよう・・・・・。

シンはぐいぐいとルナマリアに背を押されながら客の元に向かう。
3人の女性が嬉々として自分を見上げているのが少し、気分が悪い。
彼女たちが悪いとはいわないが、自分はこんなの望んではなかったのに。

「じゃあまずは写真からっスね」
「どうしよう!無愛想なのが可愛い!」

聞こえてるんスけど・・・・。

シンはこめかみにうっすら青筋を立てて心の中で唸る。
ちらりとルナマリアに視線を向けると、ルナマリアは拳を作って「笑顔!」と合図を送る。

早くレイ帰って来い!
早くミーア来てくれ!!

シンは心底逃げ出したくなって来ていた。

「結構混んで来てますね」
「アカデミーに在籍数だけでもかなりの数が居ますから」
「そうですよねぇ。あたしも入り口でびっくりしちゃった」
「初めて来る方は皆そう思うそうですよ」
レイにエスコートされながらミーアは漸く落ち着いてクラスの出し物がどんなものなのか見る事が出来ていた。
何しろレイに会うまでは人にぶつからないか気を配るばかりで出し物どころではなかったのだ。

「あ、あれ可愛い」

ビーズで作られた花の形の指輪を見て、ミーアは声を上げる。
ピンクと紫と白で構成された指輪は、ミーアの好きな色ばかりだ。
憧れの人、ラクス・クラインを象徴する色。

シンに会ったらもう一度来ようかな。
でも値札が付いてないから販売はしないのかな?

歩きながら視線が離れないミーアに、レイは立ち止まる。
「これ、展示だけですか?」
「客引き用だったんですが、構いませんよ」
販売の女の子はレイのウェイター姿にほんのりと頬を染めながらミーアが見ていた指輪を渡す。
レイはそれに支払いを済ませ、ミーアに渡す。

「あの・・・?」
「これだけの人だ。次に来た時にはなくなってます」
「お金・・・」
「いいですよ。大した金額じゃない」

ちらり・・と、販売の女の子に目を遣る。
そこで訝しげな視線とぶつかり、ミーアは思わず肩を竦める。

何でこんなに格好いい男の子があんな冴えない女の子と並んでるんだろう?

そう、彼女の目が言っていた。
その瞳に耐えられず、ミーアは俯き、小さな声で呟いた。

「でも、あたしみたいな子にこんなの上げたら・・・」
「『あたしみたいな』というのはどういう基準での言葉なのかは分かりませんが、女性にプレゼントを贈るのに理由をつける必要はないと俺は教わりました」

ミーアは少し高いレイの顔を見上げ・・・・。
少し、胸が熱くなった。
純粋に、嬉しい。

「ありがとう!大切にするね♪」

心からの喜んだ様子に僅かに目を見開き、レイはミーアを見下ろした。
視線がぶつかり、ミーアの無防備な笑顔がレイの目にも映る。
「確かに、喜ぶ笑顔が目的であれば、プレゼントに理由は必要ないのかもしれない」
「・・・?」
「いえ、独り言です」

ふ・・と、レイもまたミーアの顔を見て微笑んだ。

「あ、そうだ。喫茶店、繁盛してる?」
「・・・喫茶店というか・・・・」
レイのエスコートがあるが、一応手元の地図を見てそろそろシンのクラスに近づく事を確認する。
しかし、言葉を濁したレイの言葉に、ミーアは不思議そうに顔を上げた。
先程からの会話から、言葉を濁しそうなタイプに見えなかったからだ

と、そこで突然甲高い声がミーアの耳に入る。

「お姉ちゃんには絶っっっっっっ対に負けないんだから!」
「まだまだお子様体型の癖に、このあたしに勝とうなんて10年早いのよ」
「ちょっとシン!シンは私に投票するでしょう!?」
「馬鹿ね、シンは年上好みなんだから、お子様になんて入れるわけ無いでしょ」
「あのさぁ!何で俺の発言がすべてみたいに言う訳!?」

シンって、聞こえた。

ミーアがレイから視線を移し、ある教室に目を向ける。
入り口には色んな写真が張り出してあって、「現在の指名第一位!」と、いう所にシンの写真が貼り付けてある。

指名?

レイを見上げると、少し眉を寄せ、教室まで案内してくれる。
入り口に立つと、中でシンが可愛い女の子二人に挟まれ、頬を染めて照れ臭そうに(ミーア視点)笑っていた。

「シン、お前に・・・」
「あ、ミーア」

そしてシンも気付く。レイの手がミーアの腰に添えられてあるのを。
それが、凄くむっとした。

ミーアはシンが女の子に挟まれてる姿を見て、むっとした。
怒りたかった。

しかし、先程レイの隣に立っていた自分を訝しげに見つめる女の子の姿がすぐに思い出された。

怒る資格なんてあるのかな?

目の前の赤い髪の女の子達はシンの隣に立っていても全然シンに見劣りしない。
それどころか美少女の類に入る彼女は十分シンに釣り合って見える。
シンの事を羨ましそうに見ている男の子も居て、シンも満更じゃなさそうに見える(ミーア視点)。
それがもし、シンの隣に立つのが自分になった途端、皆がシンを哀れに思うのかもしれない。

あの、自分を訝しげに見た女の子のように。

だったら、・・・・だったらミーアにはシンを怒れない。

胸の奥から悪寒にも似た自分への嫌悪の念が広がる。
なんで、浮かれて来ちゃったんだろ・・・・。
こんな所に。

「シン・・・・」

一歩、ミーアが後ろに下がると、シンが前に出て来た。

それが、嫌だ!来ないで!

必死にシンの顔を見つめて、泣きそうになる顔を顰めて懸命に首を横に振る。

「ミーア・・あの、これは・・・」
「ごめん」
「ミーア!」
「来ないで!」

身を翻して走り出す。

「ミーア!」
「シン、お前は来ない方がいい。俺が行く」

ミーアは人混みも構わず走った。
大声で泣いて走っている為か、嘘のように皆がミーアに道を譲り、何があったのかと振り返る。
すぐその後ろをレイが走って追い、ミーアが躓き、倒れる瞬間に手を取り、抱き寄せた。

「使ってない教室があります。そこで落ち着きましょう」

あたしが・・・・ラクス様みたいだったら・・・・・。
ラクス様みたいに可愛かったら、怒れるのに。

レイの腕の中でミーアは呟き、その言葉にレイは何も返す事は出来なかった。

「あのさ・・・シン。今の女の子って」
「煩い!」

おずおずと声を掛けるルナマリアに、シンは俯いて怒鳴った。
静まり返る教室の中、シンだけがふらりと教室の隅に移動し、寄せてあった椅子を蹴り飛ばす。

「ちょっと、シン!」
「煩いって言ってるだろ!さっさと行って来いよ、ミスコンでも何でも!俺の知った事か!」

暴言とも言える言葉で、常であればルナマリアも憤慨していた所だったが、さっきのシンとミーアを見てしまえばそれも言えなかった。
ルナマリアだって知ってる。
シンの、恐らく大切な人。
正直じゃないから「恋人じゃない」と、いつも言うが、授業用の端末に彼女と映した写真を取り込み、音声まで取り込んでムキになって人に聞かせるなんて、いつものシンからは考えられない行為で。
それだけ、大切な人なのだ。

傷付いた二人の顔。

だから、シンはホストなんてしたくないと必死だったのだ。
彼女の為に。

「ごめん。あたし、頭冷やしてくる。メイリン。あんたも行くよ」
「う・・・うん。シン・・・ごめんね」

メイリンにもルナマリアと同じ罪悪感があるのだろう。
ルナマリアの手を握りながら謝罪し、二人で教室を出て行った。

シンは俯き、拳を作る。
手が真っ白になる程に握り締め、最後に「来ないで!」と、叫んだミーアの顔ばかりが浮かぶ。

久し振りに会えたのに・・・・・。
凄く、会いたかったのに。
今度こそ、ミーアに「好きだ」って、言おうと思ったのに。

「ちくしょぉぉぉぉ!」

また、椅子を蹴飛ばした。

レイはミーアを連れて比較的小さめのミーティングルームが空いているのを確認し、中へ誘う。
椅子の一つに腰掛けさせ、自分は隣に座るとこういう時どうすればいいのだろうと育ての親の言葉を思い出す。

『泣いている女性には男は黙って胸を貸すものだよ』

そして今の自分がそれをするに該当するのか分からなかったが、ミーアの肩を引き寄せた。
泣くには意外と大きな力が入る。
一人で堪えて泣くよりも何かに縋った方が押さえ込まない分だけ楽な筈だ。

ミーアがレイの胸に額を当て、白いシャツを強く握り締め、言葉通り泣き叫ぶ。

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

華奢な体の何処にこれだけの力があるのだろうか。
シンが言うにはミーアは無名だが歌手だというから肺活量が凄いのかもしれない。
レイは一瞬戸惑い、しかしその華奢な背を軋ませるように震わせる姿に思わず手を置いた。

撫でるのか、あやす程度に叩くのがいいのか。

幼い頃転んで泣く自分を抱き上げ、背を安心させるように叩いてくれた大きな手を思い出し、ミーアにも同じように背を叩く。

悲しければ泣けばいい。
自分の中に納め切れない感情があるなら叫べばいい。
生物は皆それを赦されている。

だからレイは特に泣き止んで欲しいとは思わなかった。
彼にはミーアが泣く理由も、ラクスになりたいと望む理由も分からなかったからかもしれないのだが。

それから暫くして、泣く力も叫ぶ力も無くしたミーアはレイのシャツから手を放し、彼に膝枕をして貰う形になっていた。
自分の背筋を伸ばす気力も、無かった。
ぽんやりとどこかを見つめながらうわ言のように口を開く。

「ごめんなさい・・・・。一つ、お願いがあるの」
「何ですか?」
「あたしの告白、聞いて、直ぐ、忘れて」
「分かりました、どうぞ」

ミーアの瞳が眇められ、再び涙の雫がうっすらと浮かぶ。

「あたし、シンが好きみたいなの。ホストみたいな事してるの、凄く、ヤだった。可愛い女の子の隣に立つのを見るのも、嫌みたい、で。・・・・だって、あたし、全然可愛くないんだもん」
「・・・・」
「料理は不味いって言われるし、いつも直ぐこけちゃうし、何しても下手だ、駄目だ、役立たずって言われるし。シンにも、怒鳴られてばっかり、だし。そんなあたしが、そんな、あたしがシンの事好き・・・って、馬鹿、だよね」
「・・・・」
「シンは凄いよ!赤になっちゃったし!顔は可愛いし!だけど強くて格好よくて!女の子が集まって当然!好かれて、当然!」

・・あたしなんかと、大違い。

「・・・・」
「・・・・だから、あたし、シンが好きなの、止める。不釣合いだもん!あたしがラクス様みたいに可愛かったら!あの女の子達からシンを引っ張り出してぐーでぱんちしてやるのに!・・・あたし、こんなんだもん。あたしの方が身の程知らずなのよね」
「・・・・」
「だから、止める。好きなの、止める」

はい。告白お終い!忘れて!

「ふっ!」と、声を出して気合を入れて。
涙を拭うとレイに向かって少し歪んだ笑顔を見せる。

あ、シャツ皺になっちゃってる!膝も濡らしちゃった!ごめんね!

おどけて笑うミーアに、レイは相変わらずの無表情のまま口を開いた。

「では、忘れる前に俺が今から言う事も、聞いて忘れてくれませんか?」
「・・・いーよ。お互い様、ってコトで」

困ったように眉を寄せて笑うミーアを前にしてもレイの表情は変わる事は無い。

「止める必要は無いと思います。シンは貴女の事を大切に思っています。少しでも可能性があるのに諦める必要を俺は感じません。戦う前に逃げては何も残せない。そう、思います。忘れて下さい」
「・・・・ありがとう。嬉しい。・・・・これは忘れないで。感謝、してるの」
「はい」

先程の無理矢理作った笑顔ではなく、二度と同じ物は見られないだろう心からの柔らかな笑顔にレイも微かに微笑んで返した。

「喉が渇きましたよね。何か持って来ます。その間に鏡を見た方がいいと思います」
「え・・・あぁ!やだ!化粧!やだ、ごめんなさい、見ないで!」
「気にしてません」

そう言って笑うレイに、ミーアは手で顔を隠しながら上目遣いでレイを睨んだ。

レイがミーティングルームを出ると、ミーアは慌てて鏡を取り出し、「やだやだ!」と、叫びながら化粧落としシートで一度全部落とす。
一度落として化粧をし直した方が早いと思える程ミーアの化粧は落ちてぐちゃぐちゃになっていたのだ。
そういえば文化祭に誘ってくれた時も風呂上りのスッピンを見られていたんだったと思い出し、しかし今回の方が最悪だと落ち込む。
だが自分の中にあるどろどろな物を全て泣いて吐き出したおかげでそこまで恥ずかしくも感じなかった。

後は浮上するだけで、これはミーア独特の方法がある。
立ち上がり、喉の調子を確かめて背をしゃんと伸ばすと大きく息を吸う。
そして歌うのは、大好きなラクス・クラインの少し明るめの曲。
振り付けだって全部覚えていて、目を閉じて自分は今だけはラクスなのだとなりきって歌う。

歌うのが好きで、踊るのも好きで、ラクスが大好きだからこその浮上方法。

一番を歌い切って、二番に入ろうかな?と、楽しくなって来た時。

甲高く響く拍手の音。

レイが帰って来たのだろうかと恥ずかしそうに目を開けて見ると、そこにはレイとは全然違う大人の男性が居て。

「ラクス・クラインが歌っているのかと思わず引き寄せられてしまったよ。素晴しい」

ミーアだって知ってる最高評議会議長、ギルバート・デュランダル。その人だった。

<続>

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