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鬼ジュール_オムニバス-12

Last-modified: 2007-11-11 (日) 21:19:34

カタカタと体を震わせるミーアの姿に、ギルバートは僅かにミーアを覗き込む。

「ミーア?」

声を掛けるとそこで漸くギルバートの事を思い出したミーアは「ごめんなさい!」と、反射的に謝罪する。
「いや、構わないよ。私の方こそ考えなしに言ってしまったようで済まないね。まさか君がそこまで歌姫の事を案じてくれていたとは思ってもいなかったのだよ」
「あ、あたし!ラクス様の大ファンで!今はただ、この間の戦争でお疲れになっているから、何処かでお休みになっていらっしゃるのかなぁって位しか考えて無くって!なのに!まさか!」
何から話せばいいのか分からなくなっているミーアの様子に、再び声を掛けようとした時、ギルバートの携帯が音を立てて鳴った。
その相手を確認すると、ギルバートは困ったように微笑んだ。

「済まないね。ちょっと失礼」

少し離れた場所に立って回線を繋ぐ。

『ギル。申し訳ありません。何度もご連絡頂いたようで。所持を忘れていました』
「いや、時間の指定まではしていなかったんだ、仕方ないよ」
電話の相手は、レイの物だった。
一瞬肩を落としたミーアの背中を見つめて微笑むと、窓の外に目を移す。
『・・・今、アカデミーに?』
「あぁ、直接会えるかと思って連絡しなかったんだが、運の悪い事もあるものだ。・・・いや、運が良かったのかな・・・?」
楽しげに響くレイが端末の向こうでどんな顔をしているのか想像してみる。
きっと、僅かに眉を寄せた事だろう。それも、一瞬だけ。
『それは・・・会えたんですか?』
「あぁ、偶然可愛い女の子に出会ってね。話し相手をして貰っていたんだ。ラクス・クライン本人が唄っているのか間違えた位彼女の歌声にそっくりでね。つい惹かれてしまったんだよ」

ギルバートの言っている事が自分の事であると分かったミーアはギルバートに視線を向ける。
話しながら目の合ったギルバートはミーアに向かって『君の事だよ』と、言わんばかりに目を細める。
「可愛い女の子」と言われた事にミーアはお世辞でも恥ずかしい!と、直ぐにギルバートから目を離して俯く。

『まだそちらに彼女は・・・?』
「あぁ」
『今、そちらに人が向かっています。彼女と縁の深い者ですから、今のうちに』
「そうか。それなら仕方ない。私の方もそろそろ時間が来たようだから帰る事にするよ」
『お気を付けて』
「あぁ」

そこで通信を切ると、ギルバートは再びミーアの隣に腰掛けた。
「済まないね。私はもう帰る時間だ」
「あ、はい。此方こそスミマセンでした。色々不躾な事聞いちゃって・・・・・」
「気にしていないよ。大丈夫。私の方こそ君の心を考えずに言葉も十分に選ばず失礼な事をした」
ギルバートの言葉にミーアは首を懸命に横に振る。
その動作にギルバートはただ目を細めると椅子から立ち上がった。

もう帰るのだと思った瞬間、ミーアは慌てて鞄の中から紙を取り出し、青いペンで自分の携帯の電話番号を書き記し、立ち上がるとギルバートに両手で差し出した。

「ミーア?」
「これ、あたしの携帯の番号です!・・もしラクス様が見つかったら、ご無事だったら連絡下さい!何処にいらっしゃるのかなんて聞きません!ご無事か分かればそれでいいんです!・・・お忙しいのは分かっているんですケド!でも、もし、あたしの事思い出してくれたら」

ファンの心とはこのようなものなのだろうか?

ギルバートにはよく理解出来なかったが、ミーアの行動を見ていればどれだけラクスを案じているのかは分かる。
ラクスの無事かどうかだけの為に、会って30分位の男を信用する。
まるで恋をしているようだと思うと、その心理なら少しは分かるかもしれないとほんの少し納得する。

それでも、単純で、簡単に騙されそうなお嬢さんだという感想は拭えないが。

「余り簡単に男に電話番号を教えるものではないよ?」
「え・・・あ・・・っ。!あ!やだ、そんなつもりじゃなくて!」
慌てるミーアの様子にただ本当にラクスの身を案じているだけなのだと知ると、ギルバートはミーアの手から紙を受け取った。

「これは、君の歌が聴きたいという時に使うのも有効なのかな?」

軽やかに言うと、ミーアは微笑んで返す。
「勿論です。だって、もう友達でしょう?」
「そうだったね。では、失礼するよ」
「はい!」
左手を上げてギルバートがミーティングルームを出ると、ミーアもまた扉が閉まるまで手を振った。
扉が閉まった瞬間自分が男の人に携帯の番号を教えたのだと、胸がドキドキしているのを感じながら椅子に腰掛ける。
実を言うと、シンにも携帯の番号を教えた事は無い。
携帯からシンの携帯に電話を掛けた事はあるので、知っているだろうが、今のように紙に書いて手渡したりなどしなかった。

ラクス様の事が心配だったとはいえ、ちょっと大胆だったカモ〜〜〜?

今頃になって顔が熱くなるのを感じながら、恥ずかしさで頬を両手で隠す。

―― トントン。
突然の音に今度こそレイが帰って来たのかと、ミーアは再びドアに視線を向ける。
途中からギルバートと話していて時間の感覚を忘れていたが、飲み物を買いに行ったにしては時間が掛かり過ぎているような気がする。
「は―――い!」
両手が塞がってるのかも。と、ミーアはぺちぺちと頬の熱を飛ばすように軽く叩きながら扉の前に立つと中から自動ロックを解除して扉を開けると、侵入者は途端にミーアに体当たりするようにぶつかって来て。

そのまま強く抱き締められた。

視界の端に入っているのが、艶やかな黒髪なのでレイではない事は確かだ。
「シ・・・!」
「ミーアごめん。・・・ごめん!」

あれだけ泣いたのになぁ。
泣き尽くしたと思ったのになぁ。

どうして、シンの声を聴くと泣きたくなるんだろう・・・・!

ミーアは唇を噛み締めて嗚咽を殺すと、そっとシンの背に手を回した。
シンは両手に持っていた飲み物を、その場に落として強くミーアを掻き抱いた。
「もう、夕方になっちゃうじゃないか」
「・・・・ごめんね。遅くなって」
シンはどうしてミーアが逃げたのか、聞くのが怖くて聞けなかった。
ミーアは懸命に涙が流れないように大きく息を吐きながら堪えた。

シンは、ミーアはミーアのままでいいのだと言えなかった。
ミーアは、どうして女の子に挟まれて仲良さそうにしていたのだと、怒る事が出来なかった。

互いにまだ幼くて。
互いを繋ぐ物が何も無いから。
互いへの言葉を押し隠して、ただ抱き締めあう事しか出来なかった。

<続>

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