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鬼ジュール_オムニバス-18

Last-modified: 2007-11-11 (日) 21:18:58

「なんで!?なんでいつもそうやって断るんだよ!」
「もう!今日はレイがいる日でしょ!駄目ったら駄目だよ!」

セントラルホテルの63階。
現在この場所が3人の秘密基地のような状態になっていた。
この秘密基地はなんとも豪奢で広くて何もしなくても何でも揃っているという素晴らしい環境で、居間にはグランドピアノまで添え付けてあったりする。
ミーアも歌をやっているだけあって少しは弾けるのだが、きちんと教えて貰った訳ではなくてほぼ独学だ。
その為きちんと習ったというレイの前では絶対に弾かない。
だからこそレイがいる時にはこのグランドピアノは彼の玩具となり、今も繊細な音色を奏でている。

そしてその音色も終盤に差し掛かろうかというその時、寝室のドアが勢い良く開かれ、中から現れたシンとミーアの大声が静かな音色を掻き消した。
ドアを開けた瞬間に聴こえたその繊細な音色に、シンもミーアも思わず言い争いを中断し、レイに注目した。
一度の大声の後、特に会話が進まなかった事にレイもまた終わりまで数小節という時点であったが手を止めて二人を振り返った。

「ご、ごめん」
「いや、どうかしたのか?」

気にする程の事じゃないとレイも簡単に返すと、言い争いの理由を尋ねる。
すると、ミーアは「何でもない」と、否定したが、シンは不機嫌そうに唇を尖らせた。

「・・・どうして、レイだったらいいんだ?」
「シン!」
「何の事だ?」
「レイも気にしないで!」

二人の間に立つような形になったミーアはシンは諌めて、レイには微笑み掛ける。

この差だよ。

ミーアはレイにしか優しくないと拗ねたシンの呟きに、ミーアは心底困ったように溜息を吐き、シンは益々唇を尖らせる。
この様子に何となく状況が掴めて来たレイもまた困惑の様子を見せる。

「何も差別みたいな事はしてないでしょ?」
「じゃあ何でやらせてくれないんだよ!」

ずばりと今回の問題について叫んだシンに、ミーアは「こらっ」と、頬を染めながら咎める声を出す。
大体予想のついていたレイは何も表情に変化はなかったが、ミーアが何と答えるのかを興味深そうに待っていた。

「そんなにしなくちゃならない事なの?」
「俺がしたいの」
「何で?」
「好きだからに決まってるだろ!」

何今更そんな根本的な質問するんだとシンが眉尻を吊り上げるとミーアも戸惑って「そ、それもそうだよね」と、頬を染める。
ミーアとの感覚の差を感じたシンは、一度レイを見てからミーアを睨み付ける。

何今更そんな根本的な質問するんだとシンが眉尻を吊り上げるとミーアも戸惑って「そ、それもそうだよね」と、頬を染める。
ミーアとの感覚の差を感じたシンは、一度レイを見てからミーアを睨み付ける。

「それとも心変わりがしてレイの方がいいとか!?」
「そんな事は無いよ!」

悲鳴のように瞬時に否定したミーアの反応が更に怪しいとシンが目を眇めると、直ぐに否定しても疑われるのであれば、どんな風に否定すれば信じて貰えるのかと途方に暮れる。
おまけに今の否定ではレイも傷つけたに違いないとミーアはこっそりとレイの様子を伺うと、「ほら!」と、すかさずシンが大声を出す。

「もう、違うよー」
「じゃあさせて」
「それは駄目!」
「だから!何でそこで否定するんだよ!」
「何で・・・って」

と、此処でミーアはもう一度レイの様子を伺った。
これにもシンはイライラとした様子を見せ、そしてまた抗議の声を上げようとした時、「だって!」と、ミーアがそれを阻止するように声を上げた。
その後に、真剣に続きを待つシンの瞳とぶつかってミーアは頬を染めて俯く。

「だって?」
「・・・・・だって、最中に・・・・間違えて呼びそうなんだもん、名前」

誰の名前と間違えそうなのかはすぐに分かる。
これにはシンもじっとりとレイを恨めしげに見る。
視線を向けられた方のレイは、シンの視線にも動じる事無く肩を竦めてぽつりと零した。

「可能性は無くは無いだろうな」

あっさりとした肯定に、シンは肩を怒らせてぶるぶると震えた。

「そんなの呼ばせないように猿轡でもさせたら・・・・!」
「絶対にやだ!それだけはやだ!」
「・・・同意無しだと強姦罪に問われてもおかしくないぞ」
「なんだよ!じゃあいつだったらいいんだよ!」

シンはそれからいかに自分が欲求不満なのかを訴えてみたが、彼の訴えは「ごめんね」と、何度もミーアに謝罪されながらも綺麗に流されてしまった。
当分シンの欲求は解消されそうになかった。

<終>

今日もホテルの63階に向かうと、扉を開けた瞬間、ぷんっと甘い匂いがシンとレイの鼻腔を擽った。
甘すぎるとも言っていいその匂いに一瞬中に入るのが躊躇われたが、いつまでも外に立っていても仕方ない。
中に入るがミーアの姿は見えない。
何処にいるんだろうかと二人で探すと、キチネットの中にいた。

大きな鍋でぐつぐつと何かを掻き混ぜながら。

どうやら甘い匂いの発生源もその鍋のようだった。

「な、何してるんだ?」

恐る恐る尋ねると、シン達がやって来た事に気付いていなかったのか、ミーアが肩を跳ね上げて振り返った。

「びっくりしたぁ。もう来てたんだ」
「だってそういう時間だろ」
「そっか。此処は時計が無かったから気付かなかった」

のんびりと笑うミーアに、シンは隣に立って鍋の中を覗き込む。

「何作ってんの?」

鍋の中身は半透明の白いゲル状の物体。
しかし、甘い匂い。
何やら変な物を作ってるのではないかと顔を顰めたシンに、ミーアは頬を膨らませる。

「ジャムだよ、ジャム。りんごのジャム」

昨日から凝ってるの。

ミーアが指で示した冷蔵庫を開けるとそこには瓶がいくつも並んでいて、オレンジ色やら黒やら色んな色をしていた。

「何でこんなに」
「だって!昨日知ったんだけど、この部屋に飾ってる果物、全部毎日取り替えて、取り替えたのは捨ててるって言うんだもん。勿体無いでしょ?」

プラントで食料を確保するのがいかに大変な事か学校で学んだ彼女には、食べれる食料を捨てるという感覚が許せなかったらしい。
捨てるのなら頂戴と果物を貰ったのはいいが、果物のサラダを作ったり、ジュースを作ったりと頑張ってみても中々消費出来ない上に、毎日だと飽きてしまう。
それでどうにかならないかと考えた挙句に辿り着いたのがジャム作りだった。
仕事場の人達に渡すと喜ばれるのと、にっこり笑うのは正直可愛いと思うのだが、しかしプラントの歌姫がジャム作ってスタッフにお裾分けしているというのは「ラクス・クライン」のイメージを損ねたりしないのだろうかと思う。

「シンもレイも持って帰ってね。何ならお友達の分も持っていっていいから」
「あ。いや・・・」
「なぁに?いらないの?」

頬を膨らませて振り返ったミーアが、不服そうにシンを見上げて睨む。

何も睨まなくてもいいだろ、と、思いながら「ほら、焦げるって」と、言いながらミーアの体を再び鍋に向かわせながらシンもヘラを握って掻き混ぜる。

何も睨まなくてもいいだろ、と、思いながら「ほら、焦げるって」と、言いながらミーアの体を再び鍋に向かわせながらシンもヘラを握って掻き混ぜる。

「こんなに一杯じゃなかったら一人で食うって言うのにな」
「無理だよ。沢山あるもの」
「だよな」

パンは毎日食べているが、流石に毎食ジャムをつけたいとは思わない。

「でも美味いのか?」

正直ミーアがジャムを作れるとは思わなかったシンは、ミーアの手を掴むとヘラで掬ったジャムにぺったりと指を押し当てて自分の口に入れる。

「あっ」

ミーアがシンを見上げて頬を染める。
ほんの出来心のつもりだったのだが、こうも可愛い反応を見せてくれるとシンとしても気分がいい。
正直ジャムの味よりそちらに興味が移ったシンは、ミーアが僅かに身を捩りながら瞳を揺らす姿に見入ってしまう。

「・・・・・・焦げるぞ?」

ミーアの吐息が荒くなろうかというその時聞こえた無感情の声にシンは思わず眉を寄せてミーアの指を開放し、恨めしくレイを見た。

「こういう時は気を利かせろよな」
「焦がすよりましだと思うぞ」

悪かったなと、電気のスイッチを消すと、レイを追い払うように手を振った。
その手の示すようにレイはその場を去ると、今度こそシンは遠慮なくミーアに口付けた。

<終>

「ミーア!何やってるんだよ!」
「だってぇ!ちょっと楽しくなっちゃって!」

ホテルに戻った瞬間、それまで我慢していたシンは大声で叫んだ。
大声に反射的に反応してしまった肩を竦めて抗議の声を上げる。
今シンはミーアの体を横抱きにして抱えていた。
その後ろをレイが救急箱を持って付いて来ている。
実は今日のザフトでの慰安コンサートにてミーアは「ラクス」として歌いまわっていた。
いつもはお堅い教官達が兵士を叱咤する場所が、華やかなライトやセットが置かれ、いくつものアンプが並んでいる。
その中をミーアは縦横無尽に走り抜け、リズムに合わせて全身を揺り動かすその時に飛び散る汗もまるで彼女を飾る宝石のように綺麗だった。
ミーアが「ラクス」として歌う事に未だいい気のしていないシンでさえ、始めは不機嫌に見ていたものの、本当に楽しそうに歌う彼女の姿に次第に口をぽかん・・・と開けて凝視していた。
目が離せなくて・・・・。
心どころか心臓まで鷲掴みにされたその強烈な魅力に、もう見慣れたと思っていたシンだったが、改めて惚れ直してしまった。

と、此処までは良かったのだが、ミーアが袖に引っ込んだ瞬間、がくんっと膝を落として倒れ込んだのだ。
一応警備として終了間際に袖に控えていたシンとレイだったが、ミーアの手を取ろうと手を伸ばした瞬間、彼女が二人ににっこりと微笑んだ直後、膝からかくんっと落ちて、倒れた。

その瞬間、「ミーア!」と、叫ばなかったのはシンとしても大した自制心だったと思ったものだったが、それよりも彼女の身に何があったのかと周囲に視線を巡らせてから駆け寄った。

「どうしましたか!?」

抱き起こして尋ねると、ミーアはコンサートで荒くなった息を少しずつ整えながら足を押さえた。

「歌ってる最中に足挫いちゃって・・・。終わったら・・・ほっとしちゃった」

ミーアはスカートの上から足を押さえていたのを、レイがその手を退けて足首に手を当てる。
その瞬間「あうっ!」と、体を硬直させたのを見て、シンもまた足首に視線を遣り、次にレイに様子を尋ねるように視線を移すと、レイは神妙な面持ちでミーアに告げた。

「凄く腫れ上がっています。折れなくて良かった」

もしかすると折れていたかもしれないと聞かされて、ミーアはざっと顔を青褪めさせて気を失った。

そこで医務室で手当てをし、ミーアの意識が戻ってからホテルに連れ帰り、現在に至る。
彼女の体をソファの上に横たわらせると、その足元に座る。

「何でこんな無茶したんだよ!」
「だって、皆に喜んで欲しくて・・・」

施設の使用時間は決められていた。
そこで途中で手当てなどしていたら皆に心配を掛けてしまうし、時間が掛かりでもしたらその分だけ歌えなくなる。
一曲でも多く皆に聴いて貰いたかったと告白するミーアに、シンは彼女のプロ根性を見たものだったが、それよりも彼女の体の方が心配であるのだから仕方ない。
それに、他の男の為に懸命になられるのは気に食わない。
つい二人とも口調が荒くなっていたのだが、ふっと言い争いの間に一瞬の沈黙が落ちると、ミーアは沈んだ表情で溜息を吐いた。

その表情の変化にシンは言い過ぎただろうかと息を呑むと、ミーアはレイに視線を向けた。

「明日から1週間お仕事出来ないって知ったら、議長お怒りになるかなぁ?」

彼が求める彼のラクスになる為に頑張っているのだが、活動が出来なくなると政治的に問題が出ないだろうかと不安になる。
だとしてもどうしてレイに尋ねるんだとシンが不貞腐れたように口を尖らせるがミーアも今だけはシンに構っていられなかった。
レイもまた僅かに目を見開いたが、直ぐに首を左右に振った。

「大丈夫だろう。この一週間以内に大きなイベントもなければ最高評議会も開廷されない。議長がお困りになる理由も無いだろう。後で報告の時に念の為に確認すればいい」
「うん。そうだね」
「前にも言ったけど、ミーアの足首は柔らかいから捻り易い。けど、柔らかいからこそ骨折まで行かなくて捻挫で済む。ミーアは踊るから足首がどうしても柔らかいんだろうけど、少しは鍛えないとしょっちゅう捻る事になるぞ」
「うん・・・」

少し疎外感を感じたのか、シンが話を変えて割って入って忠告する。
ミーアも捻り易い事は自覚があるのか、目を伏せて頷く。
一気にしょげてしまった姿を見ると罪悪感に襲われる。
しかし、次の瞬間にはミーアに覆い被さるように彼女の頭の両脇に手を置いて見下ろした。

「じゃあ当分ミーアのお風呂係になろうかな、俺」
「へぇ!?」
「その足じゃ風呂場で脱ぐのも一苦労だろ?手伝ってやるから」
「え?え?あ、あの!時間は沢山あるからいいよ!」

見下ろすシンの顔は無邪気だが、良からぬ事を考えているようにも見える。
それまでの不機嫌が一変してにこにこと笑っているのも気になる。
最近全くシンとはお風呂に入っていないので、それが理由だろうかと思うと妙にしっくりと来た。

「前は一緒に入ってたんだし、いいだろ」
「え、だけどっ」
「大丈夫だって。何もしないから」

嘘だ。

嘘だけど。

引き攣った顔でミーアはシンの言葉を内心否定し、シンもまた笑顔の裏で自分の言葉を否定した。
互いに微笑み合いながらミーアはシンの言葉からどう潜り抜けようか思案し、シンはいかにミーアを丸め込むかを考えていた。

「じゃあ、もう今日は寝るだろ?お風呂から出たらまた包帯巻き直さなくちゃならないし、今日は腫れてまた痛くなるかもしれないし」
「え!?い、いいよ!あたしまだ大丈夫!」
「・・・今日沢山汗掻いたんだから早めに入った方がいいだろ?」

確かに、いつものミーアであればもう風呂に入っている状況だ。
しかし、今この話の展開で風呂場に行く気にはなれなかった。
一体どうすればいいんだろうと頭を悩ませたミーアは、助けを求めるようにレイを見て、思わず口走った。

「じゃ、じゃあ3人で入ろう!」
「は!?」

これに関しては完全な部外者を決め込んでいたレイも目を見開いた。
その反応を見て自分は何てことを口走ったのだろうとミーアは更に慌てふためき瞬きを繰り返す。

「そんなに俺の事信用無いのか?」
「そ、そうじゃないけど!ね!」
「じゃあレイがミーアの裸を見るのは嫌だ」
「そ、そっか。それも、そうだよね」
「俺は気にしない」
「レイ!この場合は気にしろ!」

ミーアを腕で挟んだままシンが鬼の形相で睨む。
MSの訓練中にも見せない気迫にレイは思わず息を呑み、シンの姿が牙を剥いて自分の餌を他に取られないように警戒する獣のようで、レイは思わず苦笑した。

「じゃあ俺は二人が浴室に入ったら脱衣所に居る。それでミーアが俺を呼んだら俺も入る。呼ばれない限りは入らない」

何を基準にしてミーアがレイを呼ぶかはミーアが決める。
そして何をしたらミーアがレイを呼ぶかはシンも想像がつく。
余計な事はするなという事だ。
恨めしげにシンはレイを見たが、風呂場で二人きりになるという状況は約束されている。
そしてレイはシンとミーアのどちらの味方かと尋ねられたら今の所はミーアだ。

ギルバートに頼まれているからというのもある。

シンが現状に満足しない程度に。
ミーアが現状を満足するように。

二人が戦争という物に対して嫌悪を持ち、それを忘れないように。

その為になら、友人に恨まれようと、「任務」を遂行するしかない。

「これで決まりだな」

特に異論が無かったので、(シンも「何もしない」と、言った手前何も言えなかったのだ)レイは持って来た救急箱をもう一度中身をチェックし始めた。
シンはそれを見てミーアを恨めしげに見ると、ミーアは「やっぱり何か企んでたでしょ」と、小声で言ってから、お詫びとばかりにシンの体を抱き寄せた。

<終>

「ぅ・・・んんっ・・・。ぁは・・・」
「・・・ミーア。痛み止め飲むか?」

夜中の時間になり、ミーアの足の痛みが酷くなったのか、彼女は苦しげに身を捩っていた。
痛み止めを飲むように勧めたが、正直効くかどうかは自信が無かった。
それはミーアにも分かっているのか、顔を左右に振って服用を拒んだ。
隣の寝室にも聞こえたのか、レイが救急箱を持って入ってくる。
その姿を見て、自分が何もせずただミーアの隣にいた事に気付いた。冷静だと思っていたのだが、案外動揺しているらしい。
直ぐにレイに向き直り、「氷持って来るから此処任せる!」と、部屋を飛び出した。

ミーアは痛みという物に対してとても弱い。感覚神経が鋭いのだろう。
大した怪我ではないのに直ぐに「痛い」と訴えかける事はシンにも分かっていたのだが、だからといって「我慢しろ」とは言いたくなかった。
痛いのなら痛くないように、苦しいのなら苦しくないようにと思ってしまうのは余りにも過保護だろうか。

いや、そんな事はない筈だ。

洗面器に氷を入れて水を張ると、タオルを用意して寝室に戻る。
丁度レイも包帯を取り終えた所だったのか、包帯の取れた足を下ろしてミーアの耳元に顔を寄せていた。
まるで抜け駆けされたようなその光景にシンは一瞬息を呑んだが、直ぐにミーアの元に駆け寄って氷水に浸したタオルを絞って患部に当てた。

「シン・・・」

大きく息を吐き出したミーアがシンを呼び、その切なさを含んだ声に身を震わせたシンは彼女が伸ばして来た手を取った。
ミーアにしては強い力に驚いたが、それだけ堪えているのだろうと思うと悲しくなった。
その痛みを引き受ける事が出来るのなら、引き受けてやりたい。

「ミーア。痛いんだろ?」
「ごめん・・ね。寝てていいよ。明日、あるもん・・ね」
「馬鹿!そんなの気にするな!」

先細りの息を詰めた声に、シンは顔を顰める。
確かに過保護な所があるかもしれない。しかしそれでも痛みで苦しむミーアを放っておける筈がなかった。
自分ならこんな怪我大した事ないと思えるのにとまた悔しい気持ちになる。

「レイ、痛み止め」
「駄目だ。前に彼女から聞いた。利き過ぎるんだ、薬が」
「なら・・・もっと弱いの無いのか?」
「市販のでは大した違いはない」

そういえば昔熱を出した時に嫌がっていたのを無理に飲ませた事があった。
その後理解不能な事を言っていたのも知ってはいたが、それは熱のせいだと思っていた。
もっと良く思い出せば、熱は下がってもその後何度か吐いていたりして、結局は暫く寝たきりになっていた。
あれも全部熱のせいだと思っていたのだが、実は薬のせいだと思うとミーアが嫌がる理由が分かる気がした。

「じゃあどうしたらいいんだよ!」
「それは本人に聞くしかない」

朦朧としてでも薬を飲むか、それともこのまま我慢するか。
シンは再びミーアの顔を覗き込むと、「うぅ・・ん」と、うめいている。

「ミーア。俺に出来る事あるか?・・・・寝る以外で」
「・・・じゃあ、我侭・・・言っても、いい?」
「当然。言って」

額を重ねて微笑むと、ミーアは荒く息を吐いた後、痛みで涙を流してシンに寄り添った。

「一緒に、居て。抱き締めて」
「分かった」

ミーアの願いを叶える為に隣に横になり、抱き締める。
それに対してミーアはシンの肩口に噛み付くようにして顔を押し付けると、抱き締める力を強くした。

「ミーア。もっと力入れてもいいから」

ミーアの体を密着させるように手の位置を変えると、シンの視界の端でレイが立ち上がった。
よく考えれば包帯を巻き直していない。それでも気を遣ってくれたのだろう。
しかし包帯は巻き直さなければ悪化したり変な癖が付いたりするので、包帯を巻き直そうとミーアに声を掛けてから起き上がった。
そこでミーアも立ち去ろうとするレイの姿を見つけて上体を僅かに起こす。

「レイも来て。一緒に居て」

手を伸ばしてレイを求めるミーアの仕草に、困ったようにシンに視線を向ける。
シンはミーアの言葉にむっとした表情をしたが、いつものように反論はしなかった。
怪我をしたり、病気をしたりすると心細くなる。
その時自分を心配してくれる人が一人でも多いと嬉しいものだ。
頭ではわかっているのだが。
シンはレイの視線を感じたがそれに対して一切反応はしなかった。
此処までくれば単なる意地なのだが、それでも絶対に自分の口から「来いよ」とは言いたくなかった。

レイもそのシンの心中を察したのか、何も言わずにミーアの隣に立った。
耳元に唇を寄せる。

「シンが不機嫌だ」

レイの忠告にミーアは瞬きを繰り返し、シンに目を移す。
すると、シンはミーアの視線に気付いているであろうに絶対に顔を上げて視線を合わせようとしない。
余程拗ねてるのだと気付いたミーアは、痛みに眉を寄せながらシンに手を伸ばした。
目を閉じるとぽろぽろと涙が零れる。

「シン・・・」
「へ!?あ?足痛いのか?包帯外した方がいい?」

これまでになく涙を流すミーアの顔に驚いたシンが、慌てて包帯を巻いていた手を放した。
怒りに任せて力を入れたつもりはないが、もしかしたら力が入っていたかもしれない。
しかし、ミーアはそれを否定するように首を左右に振ってシンの言葉を否定した。

「違うの・・・・。・・・・ごめんね」

それが何に対する「ごめんね」なのか悟ったシンは、途端に顔を顰めた。
この状況で我侭を言っているのは自分だ。
なのにそんな自分を気遣うミーアの姿に、シンは唇を噛んだ。

「分かってる。ミーアにはレイも、俺も家族だもんな」

伸ばしてくれた手を一度握ると、再び足首の包帯を巻きながらレイに視線を向けた。
少し唇を尖らせた複雑な表情で。

「レイ。タオル持って来て、ミーアのぐちゃぐちゃの顔どうにかしたら寝るぞ」
「・・・・いいのか?」
「本当は嫌だ。でも今日はミーアの意志が最優先事項」
「了解」

シンの本心が聞けて納得したと、レイは直ぐにタオルを取りに部屋を出た。
と、此処で二人きりになれたシンは一度包帯を巻く手を止めてミーアを見上げた。
まだ泣きじゃくっているミーアに、シンは溜息を吐く。
溜息でも吐かなくちゃ、自分も泣きそうだった。

「痛い時は言えよ」
「・・・・うん」

本当は謝る事が出来たらいいのだろうが、意地もあり、謝るなど早々出来ないという子供な自分が、謝る事を許さなかった。

ただ、包帯を巻き終わった後、3人でキングサイズのベッドに並んで寝た時、シンは何も言わずにミーアを抱き寄せて、レイにも気付かれないように何度も頬に、肩にと謝罪の心を篭めて口付けた。

<終>

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