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虚空、果てなく_〜SEED OF DOOM〜_Middleintermisson-1

Last-modified: 2008-08-06 (水) 07:22:10

          Middle Intermisson−1
              妖魔帝国の興亡

 

 「それ」はいつどこで生まれたのか。
 「それ」自身にもわからない。
 「それ」に自我が目覚めた時は、すでに「それ」は古代の南太平洋の海洋民に神として崇められていた。
 海から突き出た巨大な岩。
 そこが「それ」の宿っていた場所。
 彼らは信じていた。
 いつの日にか「それ」は蘇り、彼らを苦しめる南の大陸の帝国を滅ぼしてくれると。
 その帝国の名は「ムー」と言った。
 帝国は西や東の大陸とは隔絶した文明を誇り。
 ましてや周辺の島々など歯牙にもかけない存在であった。
 帝国に抗う術を持たぬ島々の人々を、帝国は奴隷として狩り出し帝国内で過酷な重労働を強いた。
 彼らの怨嗟は「それ」に集められた。
 しかし、いかに血涙のこもった怨嗟でも、無機物に意思を与えるに至るには程遠い。
 「それ」に自我が芽生えるまでに至ったのにはまた別の力が介在していた。

 

 人々は「それ」をバラオと呼んだ。
 彼らの言葉で「破壊するもの」と言う意味だった。
 しかし、そのバラオに捧げられる呪文は、彼ら自身も意味不明のものだった。
 ただ何百、いや何千年も前から、この大洋の島々に人々が住み始めたころから「子々孫々に伝えなくては
いけないが、決して大きな声で唱えてはならない」という必伝にして禁忌の言葉として伝承されていた。
 その禁忌を、彼らは帝国への怨嗟のために破った。
 「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」
 「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」
 「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」
 意味も知らず、ただだ怨嗟と遺恨の念を込めて、彼らはバラオの前でその呪文を唱えた。
 その度に、深遠の底から絶大なる力の微かな残滓がバラオへと注ぎ込まれている事など知る由もない。
 ある日、帝国に連れ去られた恋人が無残にも殺された事を知った一人の娘がバラオと呼ばれる岩の上で自ら
の喉を突き命を絶った。
 その血を吸った「バラオ」はついに目覚めた。
 岩の中から一回り小さな岩が出現したかと思うと、その岩が見る見るうちに巨大な人型の像となり。
 そしてその目が光ったかと思うと、巨大な足を踏み出し始めた。
 周囲の海底岩たちにも命を与え、バラオの軍団が大陸へ向けて進軍した。
 人々は狂喜した。
 しかし、バラオは彼らの怨嗟をエネルギーとしただけで、彼らを救う気などまったくなかった。
 バラオの軍団の進軍は大津波と大暴風を巻き起こし、彼らは憎っくきムー帝国よりも先に滅ぼされてしまった。

 

 高度な文明を誇ったムー帝国も、命なき岩塊から無限に増殖する軍団と、強大な魔力を誇るバラオの前に国王
ラ・ムーをはじめとした王族をほぼみな殺しにされてあっさりと滅亡した。
 そしてムー大陸を足ががりに世界を征服したバラオは百年近く地球の支配者として君臨した。
 後世、失われた史書に「悪魔世紀」と呼ばれた時代の到来だった。 
 だがムー帝国の生き残りの反乱により、帝国に大いなる文明を与えていたムートロンの力でバラオは海の底に封じられた。
 その代償として、ムー大陸は沈んだ。
 バラオの封印には大陸を沈没させるだけのエネルギーが必要だったのだ。

 
 

 それから一万年近い時が流れた。
 ムー大陸ごと封印されていたバラオはようやくその機能の一端を回復していた。
 思うところあって帝国の生き残りを殺さずに洗脳し共に眠りにつかせていたが、その一部を目覚めさせ
ラ・ムーの血を引く一人の戦士に自らの息子であるという偽りの記憶を与えて尖兵とし地上に送り出した。
 その尖兵を打ち破ったものはライディーン。
 忌まわしきムートロンの力で動く神秘の神体。
 ムーの守護神であったライディーンがバラオのムー侵攻を阻止しなかったのは、ムーが周辺を弾圧する
専制帝国と化していたからだった。
 神体に搭乗すべく選ばれた戦士がどんなに力と気合を込めても、ライディーンは動きもしなかった。
 しかし全世界を征服したバラオ封印の時には、誰も乗ってもいないのにムートロンを放出して封印を手助けした。
 此度のバラオの復活は全世界の危機の最中であり、ライディーンはラ・ムーの末裔ひびき洸を自らに招き入れて
まで復活した。
 のみならず、全世界から地球の危機を救うべく集まった勇者達と共にバラオの尖兵を粉砕した。
 力が蘇りきらない今、あの勇者の軍団には勝てない。
 バラオは逼塞し、本格的復活を待っていた。
 そんな時だった。
 ライディーンがわずかな戦力と共にバラオの潜む海域にやって来たのは。
 これなら勝てる。
 急遽復活したバラオとその眷属はライディーンに襲いかかった。
 そこに現れたのが、洸の母であり、かつてバラオ封印の中心として動いた最後のムー王女レムリアだった。 
 レムリアが命と引き換えに開放した純度の高いムートロンにより、ライディーンはバラオと同じサイズにまで巨大化した。
 それでもバラオの人とは異なりながらどこか人にも似た心は愉悦に踊っていた。
 すでに遠い西の大陸の、高き山々の底に封印されていた眷属たちを蘇らせいていたのだ。
 それも今自分の周りを固めている、間に合わせにその辺の岩石に命を与えた代物ではなく。
 悪魔世紀の支配を助けた強力な眷族達が。
 その眷属たちが到着すれば、ライディーンを粉砕し、そのムートロンエネルギーを奪える。
 そうすればあの勇者の軍団とも戦えると。

 

 しかし。
 いつまで待っても眷属たちは来なかった。
 時間稼ぎのつもりで余裕で戦っていたバラオだが、無限のムートロンによるパワーアップと、母の死に激昂する洸の気迫に
次第に押されていった。
 そればかりか。
 ただの岩だった自分をここまで強力な存在にした人々の怨嗟。
 一万年立っても尽きせぬその負の精神エネルギーの集合体が、どこかに吸い上げられていった。
 ライディーンの放つゴッドボイスに砕かれた時、すでにバラオはバラオではなかった。 
 「それ」はただの砕かれた岩に過ぎなかった。

 

 バラオの呼んだはずの眷族はどこに消えたのか。
 バラオをバラオたらしめていた、負のエネルギーはどこに吸い上げられたのか。
 それは誰にもわからなかった。
 少なくともこの世界では。

 
 

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