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月に花 地には魔法_第04話

Last-modified: 2007-11-15 (木) 22:20:42
 
 

「裁判どうなるでしょうか」

 

 12月1日。それはフェイトの友人達が暮らす街では冬が本格的に訪れる時期であり、
彼女自身にとっては自分の人生を左右する裁判が結審する日でもあった。
「うーん、艦長やクロノ君から聞く限りでは一定期間の保護観察処分が妥当だろうって話だけど」
 そんな少女のことを心配しながらコーヒーを飲み交わすロランとエイミィ。
 彼らが居るのはアースラの食堂であり、暗にロランの待遇が変わったことを示していた。

 

 ロラン・セアックがフェイト・テスタロッサに語った一部始終は、
アースラ首脳陣にロランが闘ってきた経緯を理解させるのに十分であり、
同時に彼の記憶がしっかりしているということの証明にもなった。
 クロノ・ハラオウンがロランをある種の軟禁状態に置いていたのは、彼の体調を気遣うというよりも
彼を取り巻いていた状況のことを余りに話さないことへの疑心が原因だった。
 最初こそ彼のことを思って触れないでいたが、艦を預かる身としては知っておきたいことだったのだ。
 その結果としての処置だったが、ロランはそのことを気にする様子も無ければ疑う様子も無かった。

 

 クロノが抱いていた疑心の原因が晴れ、
ロラン自身の心身も安定している以上は軟禁状態に置く必要も無くなった。
 これらのことをクロノが謝罪しながら告げると、ロランは、
「いえ、気にしないでください」
 の一言で済ませてしまった。

 
 

「艦長はフェイトちゃんの裁判に付き添ってるから、今の内に今後のロラン君に関することを伝えるね」
「はい。えっと、僕が元いた『正暦』はまだ見つかってないんですよね」
「うん、残念ながらね。でも本局でならきっと見つけられるよ」
 エイミィは事実関係をロランが理解しやすいように簡潔に伝える。
「もうすぐアースラは時空管理局本局に到着するから、
 そこでロラン君はもう一度精密検査を受けてもらった後に色々と質問を受けることになると思う」
「また検査ですか。いい加減に勘弁して欲しいですね」
「ま、規則に則ってのお役所仕事みたいなもんだからさ」

 

 ロラン達、ムーンレィス地球降下テストの献体の体内には様々な医療用ナノマシンが埋め込まれている。
 月の6倍の重力を持つ地球にひ弱なムーンレィスが適応するには不可欠なものだったが、
 そのことを知らなければ異物でしかない。
 アースラの医師がロランの検査を繰り返した原因はこれだった。
 ロランがナノマシンのことを説明した所、
「なるほどね、しかし一度本局でゆっくり調べたいものだ」
 と言われてしまい、リンディに医師を止めるように説得しなければならなくなった。

 

「むしろ問題は『ターンA』の方だね。私たちにとってもアレはオーバーテクノロジーだから」
「僕としては、このまま石像に戻したいのですが…」
「どうだろう、あの表面の下で再生してるかもってことが本局の技術部に知られたら、
 話はややこしくなるだろうし」

 
 

 ロランがアースラに回収された際に大破状態だった『ターンAガンダム』は、
今では黒い岩盤状の物体にその白い体を完全に覆われていた。
 その姿はロランが始めて見た時の石像に近いもので、五体満足な姿でもあった。
 果たしてその下で復活を遂げているのか、それとも表面を取り繕ったにすぎないのか。
 CTスキャン等の技術を駆使しても判明せず、ただただ見守るしかないのが現状だった。

 

「性能を隠して報告してもいいけど、それでもしも復活しちゃったら色々とまずいしね」
 平然と情報隠蔽という手段を口にするエイミィにロランは呆れた顔を向ける。
「そんなことしたら、バレた時大変じゃないですか」
「じゃあ正直に報告する?
 『ターンAガンダム』はロラン君がいた世界の地球の文明を埋葬した兵器なんだって」
「…」
 痛い所を突かれた、とロランは思いつつも正直に話してよかったとも考えていた。
 もしも自分の胸に『ターンA』の力の真実を封印していたら、
『ターンA』の知られうる全てが本局とやらに報告されていただろう。
 こうして隠すべき点を隠そうと協力してくれることはロランにとってマイナスに働くことではなかった。

 
 

「どの道、『正暦』を見つけるまで『ターンA』は本局で預かることになるね。
 一応所有者の希望は「現状維持」だってことは伝えておくから、
 特に危険と判断されない限りは大丈夫だと思う」
「そうですか。まぁ仮に再生していたとしてももう戦うことは無いでしょうけど」
「あははっ、そうだね。で、ここからが本題なんだけど」
「本題?」
 今までの話は十分に本題では無いのか、と思いつつもより深刻な話に備えて身構えるロラン。
「うん!しばらく本局に居てもらうことになるって話はさっきもしたけど、
 その間ずっと本局の殺風景な部屋にいるのもアレだなぁっと思って…」
 そこまで一声で言い切ると、エイミィは一束の書類を取り出した。
「何ですか、これ」
「えーとね、短期間限定で借りられる部屋のリスト。私と艦長でお勧めの部屋には印がしてあるから」
「はい?」
「お金なら心配しないで、その辺は本局がしっかり持ってくれるから」
 ここまで聞かされ、ようやくロランは自分が今以上にお世話を受けることになると気づいた。
「いや、いいですよ!保護してもらっただけでもありがたいのに、部屋までなんて…」
「いーの!いーの!私達が勝手にしてることだし、それに時空遭難者の保護は私達の仕事の一つだよ」
「とりあえず、その本局ってのがどんな所か解ってから考えますから」
「うん。おっと、そろそろブリッジに戻らないと怒られる」
 時計を見たエイミィが慌しく席を立つ。
「カップは僕が片付けておきますから」
「ありがと、ロラン君!それじゃね」
 駆け出すエイミィの後ろ姿を見ながらロランは
(何か皆さんにお礼ができれば…)
 と考えたが、いかんせん今の自分にはカップの片付けくらいしかできないことに苦笑しつつ、席を立った。
(それでも誰かの役に立っている)

 
 

 エイミィとのティータイムからしばらく後、フェイトの判決をブリッジでクロノから聞かされた。
「保護観察。それって軽い罰なんですか?」
「いや、決して軽くは無い。むしろ重いけど、予想よりは軽かったよ。
 まぁ今回は色々と事情があったからね」
 ロランはその当事者のことを思う。
「それでフェイトちゃんとアルフさんはどこに?」
 ふとクロノの顔が曇る。
「裁判所からフェレットもどきと直になのは達に連絡しようとしたら、
 連絡がつかなかったらしいんだ。しかも広域結界まで張られてる」
「フェレットもどき?広域結界?」
 なのは、という名前はフェイトから聞かされた『大切な友達』の名前だがあとの名前には覚えが無い。
「まあ、フェレットもどきはどうでもいいんだが、
 広域結界というのは簡単に言うと空間を一時的に隔離する魔法だ」
「空間を隔離する?」
「いい加減にユーノ君を名前で呼んであげようよ」
 関係者の名前をロランに伝えない上司にエイミィが思わず突っ込みを入れる。
 そんなエイミィに感謝しつつ、事態が深刻であることに気づくロラン。
「それもかなり強力な結界がね。多分なのは達の世界で何かが起こってる」
「何かって、何ですか」
「それを確かめるためにフェイト達に向かってもらったけど、正直歓迎したくないことだろう」
 そしてその予感は現実になる。

 
 

 高町なのはは焦っていた。
 突然の結界に飛び出してみれば謎の襲撃を受け、その襲撃者によってバリアジャケットの一部が破られ、
彼女のパートナーであるデバイス『レイジングハート』も深刻なダメージを受けていた。
 右手に鉄槌を持つ少女が迫る。なのはに確実な終わりを告げるために。
(そんな…。こんなので終わりなの…)
 諦めと共に目を閉じた瞬間、敵意を持った少女以外の気配を感じた。
「フェイトちゃん!ユーノ君!」

 

「くそ!一体何が起こってる」
「おちついてください、クロノさん」
「ダメ!結界が邪魔で中の様子が掴めないよ」
 ノイズしか映さない映像を見つつ、ロランは得体の知らない悪寒を感じ始めていた。
(何なんだ、この感じは。初めてじゃない…)

 
 

 やがてなのはが、魔導師の魔力の源であるリンカーコアの抜かれつつも決死の思いで放った一撃が
結界を破り、状況がアースラブリッジでも掴める様になった。
「何これ、この状況は何なの!」
 エイミィが動揺を含んだ声色で叫ぶ中、クロノは映し出された襲撃者らしき面々の顔を凝視していた。
「こいつら、こいつらは…」

 

 その一方でロランはただただ圧倒されていた。
「これが魔法での戦い…」
 戦いとは無縁そうにしか見えなかったフェイトやアルフが目にも留まらぬ速さで空を飛び、
敵らしき女性と鍔迫り合いをしている。
 そんな光景に目を奪われつつも、力の差はロランにも認識できた。
(相手の女性の方が動きが機敏だ。それに一撃の重みも負けてる…)

 
 

「ああ、逃げる!ロック急いで!転送の足跡を捕まえて!」
「やってますよ!」
 しかしオペレーター達の奮戦も虚しく、襲撃者達の足跡は捕らえられないようだった。
「ごめん、クロノ君。しくじった…」
 そんなやり取りを聞きつつもロランの意識は別の所に行きつつあった。
(まさか、でもそんなはずは)

 

 事態が終息へと向かう中、アースラのモニターに一冊の本が映しだされた。
「あれは!」
「知ってるの?クロノ君」
「知ってるよ、少しばかり嫌な因縁があってね」
 そしてモニターに映された本が拡大されるとクロノは誰にも聞こえない声で呟く。
「あれは闇の書…。父さんを殺したロストロギア」
 クロノは決して忘れることのできない怒りに身を任せていた。

 
 

 聞き取れないはずのクロノの声を感じながら、ロランはその本から視線が外せなくなった。
(この感じは…。でもどうして!)
 やがてその紋様がはっきり確認できた瞬間。
 ロランの脊髄を激しい悪寒が駆け抜け、意識が急速に薄れていった。
(どうして『ターンX』の意志を…、あの本から感じるんだ)
 そして漠然と無関係だと感じていた魔法での戦いに、
自分も関わらなくてはならないことを自覚しつつ意識を失った。