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月に花 地には魔法_第05話

Last-modified: 2007-11-15 (木) 22:25:19
 
 

 12月2日

 
 

「これもまぁ、お役所仕事だと思ってくれると助かります」
 自分の体に関する精密検査を担当する医師から先にそう言われてしまっては納得するしかない。
 そんなことを思いつつ、ロランはエイミィも以前同じような言葉を自分に伝えたことを思い出した。
(それにしても時間が一気に進んだ気がする)

 

 アースラが時空管理局本局に着艦してからは事態が慌しかった。
 先ほどの魔法による戦闘の結果フェイトの友人である高町なのはという少女が負傷し、
アースラから救護班が駆けつけた。
 そして彼女は本局へ搬送され、追って到着したアースラからリンディとクロノが飛び出していったのだ。
 アースラに残ったエイミィから事情の説明を受け、
自分も検査などでその本局に行かなければならないことを知ったロランは、
事態が落ち着いたらすぐに会いに行くとエイミィに告げてアースラを離れた。
「どうしてもリンディさんやクロノ君に話さなければならないことがあるんです」
 エイミィはリンディ達がいるであろう場所のデータを出しながら
 『ターンA』のことねと納得していたが半分当りで半分はずれだった。

 

 管理局本局のスタッフらしき人から医師に引き渡された後は「お役所仕事」に付き合わされ、
ロランに自由な行動が許可されるには既に12月2日の21時を回っていた。
 周囲の未知な光景に目を取られつつ、
ロランは案内板を頼りにリンディ達が居るであろう部屋。つまり高町なのはの病室へと向かった。
(どうやって話そうか。『ターンX』のことを…。)

 
 

 クロノと医師が高町なのはの病室を外すと、途端に部屋の空気が沈んだ。
 だがそれは二人の関係を表しているものではなく、
相手を大事に思うからこそ何から語れば良いかを悩んだ結果らしかった。
「フェイトちゃん…」
「なのは…」
 やがて黒いリボンで髪を結わえた少女、高町なのはが言葉を少しずつ吐き出した。
「あ、あの、ごめんね。せっかくの再会がこんなので。怪我大丈夫?」
「あ、う、うん。こんなの全然。それよりなのはが…」
「私も平気。フェイトちゃん達のお陰で元気元気」
 一度会話が成立すればそれが止まる理由は無かった。
 お互いに無事で目の前にいる。それだけで二人の気持ちが通じるようだった。
「助けてくれてありがとう、フェイトちゃん。それから、また会えて嬉しいよ」
「うん。私もなのはに会えてすごく嬉しい」
 そして二人は静かに抱擁を交わす。
 その抱擁は大切な友を感じるのに十分な実感を二人に与えた。

 
 

 それまでの半年間を埋めるかのように語り合うなのはとフェイト。
 フェイトの口からその青年のことが出るのはある意味必然だった。
「それでね、アースラの中で不思議な人と知り合ったの」
「不思議な人?」
「うん、元居た世界から飛ばされた時空遭難者でアースラに保護されてた人なんだけど…」
「人なんだけど?」
 言い澱んだフェイトになのはは思わず先を促す。
「その人の居た世界では、地球に住んでる人と月に住んでる人が戦争をしていたんだって」
「月に人が?それに戦争?そんなおとぎ話じゃあるまいし…」
 と、なのははそこまで言ってから自分も既におとぎ話のような事態に関わっていることに気づいた。
 少なくとも半年前までは、自分にとって『魔法』などというものはおとぎ話の中での存在だったのだから。
「その人は月に住んでいたんだけれど、
 地球に帰ろうって運動の一環で地球に降りてきて、そのまま地球で暮らし始めたの。
 でも地球と月の間で戦争が始まって、なし崩し的にその人は地球側の軍隊で戦うことになったんだって」
 そしてフェイトはその青年が自分に語ってくれたことを、自分の大切な友人に話る。
 そうすることが当然だとさえ思えるように…。

 
 

 やがて月の女王が青年に別れのキスをしたことを話した途端、なのはの目に光るものがあった。
「なのは…?」
「あ、ごめん…。ちょっと悲しくて。でも、わからないな…」
「わからないって何が?」
 今までの話その物がわからない、といった様子ではなく、何か別の要因らしい。
「えっと、ディアナさんだっけ?月の女王様。
 そのディアナさんとその人はお互いに相手の心を感じたんでしょ?
 なのにどうしてディアナさんは一緒に助かるかもしれない道を選ばなかったのかな」
 自分の責任を果たすと言えば聞こえは良いが、結局は大切な相手を悲しませるだけだ。
 テロで父親が傷つき、死というものの存在を近くで感じていたなのはには受け入れがたいものだった。
 少なくとも大切な人を守るための自己犠牲なら理解できないわけでもなかったが、
それでも自分は敬遠してしまう。
 まして女王の責務や自らの過ちを清算するという理由など、理解できるものではない。
「えっと、詳しいことはわからないけど…」
 一方のフェイトはこのことを語る青年の顔を思い出していた。
「それでも二人は納得していたんだと思うよ。
 もちろん悔いが無かったとは思わないけど、お互いに相手を信頼して尊重してたんだと思う」
 青年の顔は全てに納得していた。少なくともフェイトにはそう映った。

 
 

「そう言えば、その人の名前はなんていうの?」
「あ、ごめん!言ってなかったね」
 長い話をしていたのに、一番重要なことを伝えていなかった。内心で彼に謝りつつ、フェイトは告げる。
「えっと、ロラン。ロラン・セアックっていう名前」
「ロランさんか…。いい名前だね」
「うん、私もそう思う」
 そうして二人は微笑む。そして同時に病室の扉が開いた。
「すいません」
 褐色色の肌、エメラルド色の瞳、肩まで伸ばしたプラチナ色の髪の青年がそこにはいた。
「あ、ロランさん…」
「あなたがロラン・セアックさん…」
 少女達は目の前にいる人がさっきまで話していた人だということを理解すると同時に、
なんだか恥ずかしい気分になった。
「ロラン・セアックですが、クロノ・ハラオウンさんはいますか?」

 
 

「えっと、クロノ君ならもうすぐ戻ってくると思いますから待っていてください」
 そうなのはが気を利かせてから早30分が経過していた。
 この間にロランとなのははお互いに自己紹介を交わし、三人でこうして会話をしている経緯を語り合った。
「『お役所仕事』ですか…。色々大変だったんですね」
「もう検査はコリゴリだよ」
 会話の節々からロランはなのはに「意思の強い真っ直ぐな子」という印象を受け、
なのははロランに「芯は強いけど柔らかい人」という印象を持った。
 それは二人のことを知っているフェイトが聞けば思わず納得するものだったが、
それが現実を表しているというわけでもなかった。

 
 

「あのロランさん、一つ聞いてもいいですか?」
「なんです?なのはちゃん」
 なのはは少しだけ逡巡を顔に浮かべたが、すぐに切り出した。
「どうしてディアナさんを無理矢理にでも引き止めなかったんですか?」
「あ、あの、私がロランから聞いたことをなのはに話したんだけど、いけなかった…?」
 思わずフェイトがロランの顔を伺ってしまう。そんなフェイトにロランは笑顔を向けた。
「大丈夫だよ、フェイトちゃん。えっとね、それがディアナ様の願いだったからって言えばいいのかな」
 後半部分は自分に質問を投げかけた少女に向けて答えたロラン。
 自分でも不思議なくらい気持ちは落ち着いていた。
「願いだった…。死ぬことがですか」
ロランの答えに怪訝な顔をするなのは。
 彼女の精神基準ではいかなる場合でも生は死に勝るもので、
何があっても死んではいけないと思っているし、死んでほしくない。
 そんななのはには死ぬという願いはまさに想像の範囲外だった。
「正確には人間らしく死ぬという願い。
 人間らしい感情に従って自らの運命を決めるという願い。僕はそう思ってる」
 そしてロランはフェイトに告げなかったことの一部、ディアナとウィル・ゲイムのことを話し始めた。

 
 

 初めて降りた地球での恋、それはささやかなすれ違いから終わってしまう。
 冬眠から目覚めてみれば150年の月日が流れ、
愛した人の子孫が宇宙船を必死で掘り出している…。
「ディアナ様は150年前にウィル・ゲイムさんとの恋に殉じなかったことを後悔していらした。
 月の女王としての責任を果たされたのも、
 その時の選択に意味を持たせるためだったんじゃないかなって…」
 沈黙が病室を包む。なのははどうしても聞きたいと前置きしてから、ロランに尋ねた。
「ロランさんは悲しくなかったんですか?ディアナさんがいなくなって…」
「悲しいよ。失ったものは帰ってこないし、泣きたくなることもある」
 何のためらいもなく言い切ったロラン。
「でも、ディアナ様がなされたことは無意味じゃないですし、
 それにディアナ様の意思は僕の胸の中にあると思っていますから…」
「そうですか…。ディアナさんは幸せだったのかもしれませんね」
 なのははそう答えると静かに息を吐いた。
 再び病室を沈黙が覆ったが、先ほどの重苦しいそれではなかった。

 
 

「失礼するよ。なのは、調子はどうだい?」
 病室の扉の先にはクロノ・ハラオウンが立っていた。
「クロノ君。うん、大丈夫だよ」
「それは何よりだ。ところでなのは、フェイト。
 君達のデバイスについて話があるんで着いて来てくれないか?」
 そこまで言い切ったクロノは病室にロランの姿を見つけると、少し楽になったといった顔を向けた。
「ロランも来ていたのか、探す手間が省けたよ」
「クロノさん。色々と話したいことがあるんです」
「ああ、僕もロランに話したいことがあるんだ。君も一緒に来てくれないか」