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紅い死霊秘法_02

Last-modified: 2013-12-22 (日) 20:14:23

「そっと。

 耳元で。

 呼んで。

 私の───

 ─────

 私は───

 ───ダレ?」





 出会いは雨の日。

 ソラの箱庭に降る、人口の雨の日。

 シンはその頁の抜けた書と出会った。





「はあ、はあ、なあレイ?

「はあ、はあ、なんだ、シン」

「前から、思ってたん、だけど、さ、プラン、トで雨降らす、意味、あるのか?」

「それは、少しでも、地球に、近づけ、なければ、ストレスが、溜まるから、だろう」

「はあ、はあ、そんな、もの、か」

「はあ、はあ、せめて、人間、らしくだ」

 黒髪の少年と金髪の少年が言葉を交わしているのは、ランニングマシーンの上だった。

 ここは宇宙の創られた人口の居住空間、砂時計とも言われるプラントのコロニー。

 首都アブリリウスの、ザフトアカデミーの訓練施設。

 その器械室で、彼らは自主訓練に汗を流していた。

「20キロ走破、終了だ」

「早いぞ、レイ、ちょっと、待て」



 この二人は今期のアカデミー訓練生の中でも、赤服を戴くと予想されている優秀な人材だった。

 その成績を支えているのは、訓練バカと言われる程の弛まざる努力に他ならなかった。

 普段はトリオなのだが、今日はもう一人の体力、もとい生命力溢れるルナマリアは妹と共に買い物に出かけているので居ない。

 そんな訳でシン、レイ、ルナマリアの三人は卒業時にトップテンに入ることは決定と目されていた。



 シンは難民としてプラントに移住してきたオーブ人で、地球とは違うプラント特有の職業適正検査を受け、年齢のせいで少ない候補の中から、迷うことなくザフト入隊を選んだ。

 プラントの職業適性検査とは、まず遺伝子検査と各種の心理検査を受ける。

 その後、自分の素質に目を向けた求職者に、筆記検査で希望を採り入れ、最後にプラント人口の職業比率を勘案して候補を算出する。

 プラントにとっても、本人にとってもこれ以上はないという理想的な職探しだ。

 これは何十年もプラントで行われてきた実績ある職業安定システムで、通称ハローワークプランと呼ばれている。

一部、別の名前にして地球にも採用すべきだと言う声もあるらしいが、慣れ親しんだ名前を変えたがる人は皆無だったし、地球のナチュラルは遺伝子から職業を決めることに嫌悪感を覚えるだろう、なによりプラントの施政を真似る国は地球になかった。

 このハローワークプランこそが、他の国家に比べてストレスの少ない社会を築き、個人の能力を100%発揮させるプラントの原動力だった。



 余談だが、プラントに軍人という職業はCE71年まで存在しなかった。

 何故ならユニウスセブンに端を発した戦争で、ザフトの軍事行動における兵士は総て義勇兵だったからだ。

 今の兵士に求められているのは、適正あるプロフェッショナルだけ。

 かつての勇あれば良し、怒りあらば良しという兵士は元の日常へ帰っていった。

 現ザフトは、ハローワークプランに認められた新しい軍人達と、前大戦を戦い抜き、職業軍人に転職することを決めた、兵士そのものを生業とする者たちで構成される。



 プラントは15歳で成人である。

 シン・アスカは後2年で成人である。だが何の後ろ盾もない13歳の少年が、まともな職業に就けるとは、シン自身考えていなかった。

 その彼にザフトという候補は天啓だった。

 三食つき、住居あり、僅かながらも収入すらある。

 卒業すれば国防を預かる、誇りある軍人になれる。

 そして───モビルスーツに乗れるかもしれない。

 シンは飛びついた。



 訓練は過酷を極めたが、シンはへこたれなかった。

 もう帰る場所などない。その悲しい想いがシンの逃げ道を塞いでいた。

 ひたすら訓練していれば、わき目も振らず頑張れば、悲しみを忘れられた。

 その怒りを、その憎しみを、あの光景を、オーブの裏切りを、フリーダムと呼ばれたガンダムを、そして忌むべき望郷の念を忘れられた。

 正しくシンを評価したハローワークプランによって、シンはアカデミーですぐに頭角を顕し始めた。

 難点は気に食わない相手に食って掛る、子供っぽい部分だけだろう。



 順風満帆に見えたアカデミー生活だったが、大きな壁が立ちはだかる。

 シンは必死で頑張ったが、上位成績を残す人間の内、レイ・ザ・バレルという、優雅と呼ぶに相応しいような美男子に勝てなかったのだ。

 どう頑張っても追い越せず、休養を取るべき時間にも自主訓練を続けていたところに、当のレイ・ザ・バレルと鉢合わせした。

 どうやらシンに負けるわけにはいかないと鍛錬を重ねていたらしく、必死で意地の張り合いをしていたお互いを、二人は笑いあった。

 その件以来、友人としてライバルとして二人は競い合っている。

 依然シンはレイに勝っていない。悔しいが自分を痛めつけることに関しては、シンに劣るどころか勝るかもしれない。シンの対抗心は轟々と燃え盛っていた。



 さてそれに追随したのはルナマリア・ホークというこれまたパイロット志望の、アホ毛、もといクセ毛が直らない赤毛の女性で、シンよりひとつ年上となる。

 妹はメイリン・ホーク。プラントでは多いとは言えない姉妹という間柄だった。

 ルナマリアもまた勝気な性格で、負けず嫌いらしく頑張ったのだが、シンとレイという自虐バカには敵わなかった。

 二人に追いすがる過程で仲良くなり、トリオがいつの間にか結成されていた。

 そのつるむ三人に整備科のヴィーノ、ヨウラン、情報通信専攻のメイリンが加わり、グループになることが多くなっていた。

 これまた余談だが、レイは大勢の異性から告白されていたが、全て断っていた。

 その対応から、ホモセクシャルではないかとの怖ろしい噂が水面下で流布していた。

 ルナマリアは持ち前の姉御肌で男女問わず人気があったのだが、格闘訓練ではもっとも恐れられた。

 武器を持たない格闘戦闘能力は随一だったのだが、熱くなりすぎると周りが見えなくなり、相手を完膚なきまでに粉砕してしまうのだ。

 レイの鼻っ柱を文字通りへし折って、担架で運ばせる事態を引き起こしたこともある。

 その事件がきっかけで、レイやシンと仲良くなったのは不幸中の幸いだったのか。

 モビルスーツに乗れば周りが見えずに狙撃の直撃を受けるだろうと、常日頃教官に叱責されていた。彼女もそれを理解して、冷静でいられる射撃訓練を頑張っていたのだが。

 結果は…………若者の可能性は未知数だということだ。





 そんな日常が、14歳になったシン・アスカの毎日だった。

 そんな充実しながらも平凡な一日、その雨の日。

 彼はその本に出会ったのだ。







 続く



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