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紅い死霊秘法_11

Last-modified: 2013-12-22 (日) 20:30:01

シン・アスカ、リビドー事件。のちにそう呼ばれるようになった原因不明、正体不明のこの事件は男子寮を大いに揺るがした。



要点はこうだ。ある朝シンのルームメイトが起きると、部屋中がゼリーだらけになっていた。

その結果、部屋にガスマスクと白い防護服を纏った完全武装のZAFTが押し入り、粘液のついたあらゆるものを押収していった。

この惨劇に対しシン自身も驚いていたので、証言の限りでは犯人は不明で終わるはずだった。

もしも外部犯であるならば軍事技術が盗まれた可能性がありかなりの非常事態だったが、上層部の判断で原因が究明されることはなかった。



しかし、その日以降、シン・アスカに紅い少女が憑いて回っている。男子寮に夜遅く、紅い人影が出没してシンの部屋で消える。

そんな幽霊騒ぎまで巻き起こったりと、ろくでもない噂がチラホラと聞かれるようになり、よくわからないがシン・アスカは呪われているという風評がアカデミーを駆け巡った。


そのせいでゼリー事件までシン・アスカのせいだ。という風に見られるようになってしまったのだ。

元々オーブに復讐するためにプラントに入ったとまで噂され、眼が赤くて、成績上位なのだ。

興味の対象になりやすかったのも不運であった。



追記すると、シンの相部屋の生徒は精神的不調を訴え、別な部屋に引っ越してしまった。

シン一人で部屋を使っていいのかという論争もあったようだが、紅い幽霊がでるという噂の中、入りたい人間など誰もいなかった。

シンが残っていたのは責任感からと、これ以上迷惑をかける人間を減らすためである。



なお、上記の事件は本当にシン・アスカに責任がある。

もみ消したのはギルバート・デュランダルである。

ゼリーは厳重に回収され、持ち主?に返されている。

確実なのはシン・アスカは契約して良いことなど、何もなかったという事である。



『はい、マユでーす。でもごめんなさい。ただ今マユは電話に出ることができませーん』

『はい、マユでーす。でもごめんなさい。ただ今マユは電話に出ることができませーん』

『はい、マユでーす。でもごめんなさい。ただ今マユは電話に出ることができませーん』



「もう嫌だ」

「てけり・り」

「そうか、ありがとな、ポー」

「てけり・り」

「お前だけだよ、俺を慰めてくれるのは」

「てけり・り」

「そうか、アイツと契約切ってお前と契約すればいいのか」

「てけり・り」



シンを慰めている正体不明のゼリー、コンピュータゲームに慣れ親しんだシンからしてみると初期■系リアルスライムモンスターだ。

現実で見たときは腰が抜けそうになったが、話してみると良い奴だった。ご主人様よりずっと良い。

彼? をベッドにするのは勘弁だが、ペットとしてならずっといて欲しいものだ。

しかも主人と違って空気が読めるので、ちゃんと人が来たら隠れたりシンをフォローしてくれるのだ。ありがたい、ありがたい。



しかしシンは気づいていなかった。

ゼリー生命体をマシだと思えるようになっている時点で十分すぎるほど精神が磨耗しているという事実に。



まともな紹介をすると、シンと握手しつつ、うねったり蠢いたり震えたりしているポー君ことゼリーの正体は──



地球外生命によって太古の地球に飛来した宇宙生物「古のもの」達によって合成された漆黒の粘液状生物。

非常に高い可塑性と延性を持ち、必要に応じて自在に形態を変化させ、さまざまな器官を発生させることができる。

地下鉄の車両ほどに大きなタールでできたアメーバのようだと形容される。

南極圏における「古のもの」の巨大都市・狂気山脈の建設などに使役された。

もともとは知性も低く、肉体労働のための奴隷種族として扱われていたが、発生させた脳を自ら固定化することで知能を持つようになり、創造主である「古のもの」に反抗して全面戦争を引き起こした。


非常に生命力の強いショゴスたちは「古のもの」に壊滅的な損害を与えたが、最終的には地底深くに封印された。

「テケリ・リ、テケリ・リ」("Tekeli-li, Tekeli-li")という独特の鳴き声をあげる。



という一節が議長から借りた文書に載っていた。

…………どうやら、コロニーの一つや二つショゴスで押し潰してやる!

と言わんばかりに強力な存在のようだ。

今は制御されているのか、増えもしないし攻撃もしてこない、人間並みの知性もある。

ショゴスをわざわざ地球の地底から遠隔召喚してくる辺り、彼女は凄いのかもしれない。

ついでに彼をベッドにできる彼女は人間としてどうかと思う。……人間じゃなかった。



「ただいま、今日はこんな物もらってきちゃった」



そしてシンの部屋に現れるは、やりたい放題の歩く本、ネクロノミコンなんとか版、ショゴスのポー君の主にして、シン・アスカ14歳に仕える精霊、紅いZAFT軍服の登場である。


今日は議長からフェイス勲章なるものを賜ったそうだ。



彼女は精力的に活動している。

具体的に列挙すると、ジンを真っ赤に染めて好き勝手に動かしてみたり、新型艦の対魔術設備の設計に関わったり、議長席から魔術込みの催眠効果のある音声がでるようにいじったり、議長の書庫の中身を持ち出したり、大学帽、眼鏡、白衣での三点セットで俺に講義したり、深夜に俺を宇宙空間に生身で放り出して、悪魔相手に特訓させたりと、権力と周囲に対する魔術操作でやりたい放題である。




「私は少しでもシンの為にって」

嘘つけ、愉しんでるだろ!

「シンに立派な魔術師になってもらおうと……」

目薬とハンカチを用意するな、何処で覚えたんだ。







分かる人間には彼女の悪行を認識して近づかないが、分からない人間は騙されっぱなしなのだ。

まさに縦横無尽、我が儘を地で行く、究極情報生命体、名無し。

頼むから自重して欲しい。



彼女なりの言い分もあるらしく、おおっぴらに動くことによってアブリリウスに魔術師や怪異が集まってくるように誘導しているそうだが。



あえて言おう、ただの愉快犯であると。



「君の、いやお前の目的忘れてないか」

「ん〜、急ぐ理由もないし、私の断片はどうやら地球にも落ちてるみたいだし、焦らずじっくり探すからいいの。こうやって騒いでおけばきっと姿を現すわ。

これは立派な策よ。

私のことはいいから、ちゃんと宿題終わらせた?」

「読めるかこんな物! 何語だ!」

「読めるわよ。集中力が足りないだけ、私を読めるんだから大丈夫」

「俺は人間だ……」

俺の手には議長から借りた魔術書がある。宿題という事で中身を覚えておけと言われたものの、

これは人類が読める物ではない。



「もう仕方ないわね、ここはあsdfghjkl;:────」

「人間の可聴域で喋ってくれ!」

彼女は意外と面倒見は良いのである。是非とも他の部分も自重して欲しい。無理か。



「飽きたわ。私は休むから、理解できなくても最後まで目を通しておいてね」

言うが早いか、ポー君に横たわると最初のひらひらな服に着替え、爆睡モードに入った。

「う、うう……」

俺は四日間寝てない、最長記録だ。

おかしな暗示と賦活魔術を重ねがけされたので、あんまり疲れないし眠くもない。

昼は今までどおりアカデミーの勉強。夜は睡眠時間を削り魔術師としての修行だ。

肉体的な疲労は別としても、もう精神的疲労はとんでもないものがあり、日夜グロテスクな書物に目を通しつつ、化け物と格闘戦を繰り返している。

唯一事情を知るレイに相談してみたが、逆に羨ましがられた。世の中は理不尽である。



そんな生活を送る中、気づけば鏡には見知らぬ少年が映って吃驚する、やつれた自分であることに気づき、さらに吃驚。

これはシン・アスカが幽霊に取り憑かれていると噂されるのも納得である。



鏡に言ってみた。

「君は────生き延びることができるか?」









続く。





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