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最終話 顎(あぎと)朽ちるとき

Last-modified: 2017-08-22 (火) 22:33:29

「ヨーツンヘイム!聞こえるか、これより、我々の最後の映像を送ります。
 記録願います・・・願います!」
巨大なモビルアーマー、ビグ・ラングは今や連邦軍の的と化していた。全身に砲火を浴びながらも
それでも装甲の厚さと、懸命の操縦と、オッゴやモビルスーツの援護により未だ健在だった。
その必死の抵抗を、周囲に漂う観測ポッドが記録し、母艦ヨーツンヘイムに通信する。
603技術試験隊、その最後の映像が今、記録されようとしていた。

 

カスペンを下したジャックのジムがそこに到着した時、出迎えたのは青いモビルスーツ・ヅダだった。
「させるかっ!」
そのパイロット、モニク・キャデラック特務大尉の張り詰めた叫びが通信に響く。
盾のピックを立て、ジムを突き刺しにかかるヅダ。それを盾で受け止めるジム、盾と盾の激突。
ピックがシャークペイントの目の部分を刺し貫く。ジムはそのまま左腕を回転させ、相手を左腕ごとひねりにかかる。
「ふんっ!」
ビームサーベル一閃、ヅダの左手を肩口から切り落とす。ジャックは盾を振り、刺さっていたヅダの腕を
宇宙空間に捨て飛ばす。
「くっ・・・さすがだな、あの大佐を倒しただけのことはある。」
彼女はカスペンの最後を見ていた。彼を仕留めたジムがこちらに機動してきたのを見たとき、彼女は
真っ先にそのジムに向かっていった。アイツは強い、危険だと。

 

ジャックは機動をかけ、ヅダを振り切りにかかる。目標はヅダではない、巨大なモビルアーマーだ。
この戦場を支配してきたこいつを沈めることが、この戦闘の終わりを告げるきっかけになるだろうから。
思えばこのヅダこそがジャックの戦場での最初の相手、そして兄貴が死に至る因縁の相手でもあった。
だが、もうそれもどうでもいい。今はこの戦闘を終わらせること、それだけだ。
ビグ・ラングを狙撃する位置に回り込み、マシンガンを構える。が、追撃してきたヅダはヒートホークを
打ち下ろす。盾で受けるジム、シャークペイントの頭の部分が焼け付き、絵の一部が消える。
「くそっ!さすがに速い、しつこい奴だ!」
ヅダに向き直るジム、ヅダの向こうには赤い巨体が見える。その片腕のヅダはビグ・ラングを庇い
守ろうとしているようにも見えた。あのゲルググがオッゴを守ったように・・・

 
 

「どけ!」
「どくものか!」
ヒートホークを振るうヅダ、一歩後退し、盾を振ってアンバックからの動きを作り、
曲線軌道でヅダをすり抜けるジャックのジム。ビグ・ラングはもう目の前だ。
が、上から機動してきたオッゴの砲撃がジムの行く手を阻む、やむなく減速したジャックのジムに
特攻してきたヅダがタックルを食らわし、そのまま片腕でジムに抱き着いてビグ・ラングから引き離す。
自分がこのビグ・ラングを何が何でも沈めたいように、このヅダの女パイロットは
何としてもこのビグ・ラングを守りたいようだ。

 

戦闘しているのは彼らだけではない、ビグ・ラングの周辺ではジムが機動し、ザクが戦い、ボールが舞い、
オッゴが飛ぶ。砲火の応酬は熾烈を極めるが、犠牲を示す光芒はほぼ見えなくなっていた。
戦闘自体がビグ・ラングを沈めにかかる連邦軍と、守ろうとするジオン軍の動きへと偏っていたから。
その肩代わりのように、ひとつ、また一つ、ビグ・ラングは被弾し巨体を揺らす。
きしみ、ゆらぎ、塗料を剥離させながらもビグ・ラングは吠える。さすがにもう弾丸もビームも弱弱しいが
最後まで戦い抜く意思だけは失っていない。

 

ヅダによって遠方まで運ばれたジャックのジム。しかし遠目から見ても、ビグ・ラング陥落は
もう時間の問題だった。
「行かせるか・・・やらせは、しない!」
ジムから離れ、立ちはだかるヅダ。
「やめろ、もう・・・終わるぞ。」
ジャックは相手に伝える。背中を向けている彼女からは見えないだろう、ビグ・ラングの下側に
連邦軍のジムが位置し、バズーカを構えている様子が・・・チェックメイトは目の前だ。
「はっ!」
ヅダが振り向く。その瞬間にバズーカが放たれ、ビグ・ラングの急所であるモビルポッド格納庫に
吸い込まれる。爆発が上がり、内部からの火炎が巨体を嘗め包んでいく。
「ああっ・・・!」
ヅダは戦闘を忘れ、一瞬固まる。ジャックもまたこれ以上の戦闘をする意思はない、これで・・・

 

「マイーーーーーっ!!!」
悲痛な叫びと共にヅダが機動する、爆散しつつあるビグ・ラングに向けて。
その声、どこかで聞いた。音声の質ではない、愛しい人を無くす瞬間の悲鳴。
反射的にヅダを追うジャックのジム。そう、この戦闘の少し前、自分の部下であるビルが
サーラを失った時の悲痛な声、それが目の前で再現されていた。

 
 

ヅダは間に合わなかった。あと少しのところでビグ・ラングは炎に包まれ、大爆発を起こす。
至近距離の爆風に晒されながら、呆然と立ち尽くす片腕の青い機体。
しかし、それを追いかけていたジャックには見えていた、より遠方からの視点ゆえに。
爆発したビグ・ラングは後部から崩壊していき、前部にあるビグロ部分が弾かれる様に連結を外され
爆発する直前にそのコックピットからパイロットが弾き出されるのを。
ジャックはその先に飛ぶ。ああ、そうか。彼女には帰るところがあったのか、このパイロットと共に。

 

戦闘は止んでいた。この戦場の支配者であった赤い巨体の爆発は、連邦、ジオン共に決着の花火に写ったから。
全ての機体が起動を止め、銃を下す。
その爆発の鼻先で、ジャックのジムが止まっていた。両手で小さな何かを大事そうに抱えて。
その手の中には、ノーマルスーツを着た一人の人物。ビグ・ラングのパイロット、オリバー・マイ技術中尉。

 

―あてどなくさまよえる愛しさよ、この胸を射抜く光となれ―

 

通信の歌を聴きながらジャックは待つ。その人の迎えを。
通信の歌に導かれキャデラックは向かう、その人を迎えに。

 

ジムの目の前まで近づき、停止するヅダ。向かい合う敵機同士だが、そこには殺気も殺意も無い。
穏やかな声で、表情で、手の中の人物をヅダに差し出すジャック。
「ほら。」
ヅダが右手を出し、パイロットを受け取る。それを愛おしそうに胸に包む青い機体。
「行けよ・・・お前たちには、帰るところがあるんだろ。」
「・・・礼を言う。」
ゆるやかに距離を取るヅダ、そして反転すると、ジオンの脱出部隊が連なる艦隊に向けて機動する。
それにオッゴやザク、ゲルググが続く。彼らは戦闘を終え、独立の夢から覚め、帰るべき場所に帰っていく。

 

彼らにとっての一年戦争が、他より一時間ほど遅れて、終わった。

 

―終わらぬ夢轍に、君の影揺れた―

 

通信の歌が静かに終わる。残された連邦軍兵士たちはそれを聞き届け、終わりの虚無感を感じていた。

 
 

―夢放つ遠き空に、君の春は散った―

 

意表を突かれた。終わったと思った曲がまた最初からリピートされる、思わずコックピットで
ずっこけそうになる者、苦笑いをする者が続出、しまらねぇなぁ・・・誰だまったく。

 

『その・・・コックピットで、音楽、かけてもいいですか?』

 

ジャックは雷に打たれたようなショックを感じた、何故気が付かなかった、この戦場で音楽が流れる不自然さを、
それを希望した自分の部下がいたことを!こんな間抜けな上司がどこにいるか!
音声を複数のセンサーで拾い、発信源を探す、あっちだ。反転して全力で機動をかけるジム。
その瞬間、彼のジムの腕に付いていた盾が外れる。構わず飛び、叫ぶジャック。
「ツバサ!ツバサ・ミナドリ二等兵!どこだ、返事をしろーっ!」

 

破片の隙間に挟まるようにして、そのボールは生きていた。砲塔は吹き飛んでいたが、残弾が無かったのが幸いして
本体は大破することなく原形をとどめていた。そこに到着するジャックのジム。
「ツバサ、大丈夫か!?返事をしろ、生きているかっ!」
目の前のボールに向けて叫ぶジャック、返事は無い。歌だけが聞こえている。
コックピットから飛び出し、ボールのハッチをこじ開けにかかる、素手では無理だ。ジムに戻り緊急脱出用の
バールを取って戻る。ハッチの隙間に差し込み、こじる。隙間ができたことで中の空気が抜け、それが
ハッチを押し開ける。
少女はノーマルスーツを着ていた。動きを見せずに横たわってる。彼女を抱きかかえるジャック。
そして、彼女の寝息を感じ取った時、ジャックは安堵した、よかった、本当に良かった。

 

ジャックは自分が大泣きしていることに気づかなかった。兄貴に救われたこの命、その俺が今度は
次の誰かを救いえた。命の連鎖、上官から部下に、守るべきものをひとつだけ、守り切った。

 

―気にするな、責任は誰かがとらにゃならねぇ、いつかお前にもその番が来る―

 

そんなサメジマの言葉を思い出すジャック。
「兄貴、俺・・・やったよ、4人を死なせちまったけど、せめて彼女だけでも・・・」

 

戦闘のあった宙域に残されたジャックのジムの盾、シャークペイントはこすれ、顎の部分は無くなっていた。
もう顎(あぎと)は必要ない、自らの帰る場所へ帰る、または帰る場所を「作る」ために―

 
 

第十四話 心の青山 【戻】 エピローグ 彼の青山

 

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