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小話 ◆9NrLsQ6LEU 氏_ボディ・ランゲージ

Last-modified: 2009-05-15 (金) 04:56:33

朝、シンは自分のベッドで眼を覚ました。
腕の痺れを感じたのでそちらを向くと、自分の腕を枕にしながらすやすやと眠る
赤毛の恋人を見て笑みを浮かべ、昨夜のことを思い出した。

 

昨晩は久方ぶりに仕事から戻って来ての逢瀬だったのだ、
ここ数年で髪も伸びグッと女らしさを増したルナの肢体を思い出して思わずにやけてしまう。
おかげで張り切りすぎてしまってお互いシーツの下は何も着けていない。
アカデミーで始めて会った時からずいぶんと経つがまさかこんな関係に成るとは夢にも思っていなかった。

 

それに、あの時の大喧嘩が無ければきっとさっさと別れていただろう。

 

シンの意識は何時しか全てを失った、そしてかけがえの無い一人を得たあの日に飛んでいた。

 
 

メサイア戦役が終結した直後、月面上でアスランに敗北したシンは
救助されたランチの床に膝を抱えて座り込んでいた。
目に力は無く、うなだれてなにかぶつぶつと呟いている。
その様子が気にかかったルナマリアは救助されてから片時もシンの側を離れずに世話を焼いていたのだが、
返事も返してこない相手に心配半分苛立ち半分でつい声を荒げた。
「いい加減にしなさいよ、負けて落ち込んでいるのはあんただけじゃないんだから」
その言葉に反応したのかシンはわずかに顔を上げて口を動かした

 

「・・で・・・を・・・たんだよ」

 

しかし声が小さく避難した兵士が多いランチでは聞き取れない
「え、なに、何て言ったの」

 

「な・で・・と・・・・んを・ば・・たんだよ」

 

「ちょっと、聞こえないって、はっきり言いなさいよ」

 

「なんであの時アスランをかばったんだよ!」

 

『は?かばった?あたしが?あの凸を?コイツは何言ってんのかしら?』
ルナマリアが目を点にした。彼女にはアスランをかばう理由なんてものは無い。

 

なにしろあの男はメイリンを誘拐して、敵に付いた裏切り者だ。
それだけでは無くかつて自分が所属していたミネルバを何の躊躇も無く撃墜して
アカデミー時代からの友人であるヨウランも殺している。
しかも、いま考えれば何をトチ狂っていたのか、
それとも誰か(なぜか嫁と言う単語が浮かんだが)に呪いでも掛けられていたに違いないと思うが、
告白紛いの事をした時には気づきもしなかったような甲斐性無しである。

 

「アスランなんてかばってないわよ!」
「じゃあ、なんで俺の邪魔したんだよ!」
『邪魔、邪魔ですって私の気持ちも知らないで』

 

あの時のシンはまるで泣いて喚いている子供の様に見えたのだ。
大体シンは知り合いを殺すことなど出来るような男ではない。
その証拠に前に凸とメイリンが乗ったグフを撃墜した時など、今にも壊れてしまいそうだった。

 

本当はなじりたかった「なぜ、どうして」と、
でもシンを見ているとその言葉は出てこなかった。
代わりにシンを支えようと思ったのだ。
もしかしたら、ただ縋り付く相手が欲しかっただけだったかも知れない。
でも二人で時間を過ごすうちにその想いは確かなものとしてルナマリアの中に形作られていたのだ。
だから情けなかった、そんな事を言うシンも、言わせた自分も、だから声を荒げてしまっていた。

 

「あんたが泣いてたから、止めてあげたのよ!」
「泣いてなんか無い!だいたい、止めてくれなんて頼んでない!」
信用されていると、理解ってくれていると思っていた、でも違ったのだ。
確かにシンは自分を守ってくれていた、でも自分には守らせてくれていなかった。
それが悔しかった、だからつい売り言葉に買い言葉で口論が始まってしまった。

 

「あんたを守るって言ったわよね!信用してよとも!」
「ミネルバに居た時はずいぶん凸を気にしてたよな!」
「そっちだって、ステラ〜ステラ〜ってうるさいのよ!
 さっきだって膝枕してあげたのに他の女の名前言ってくれてさ」
と、どんどんエスカレートしてゆき
「射撃下手のくせにガナーなんかで出てくるな!」
「いっつも後先考えないで突っ込むのは誰よ!」
いつの間にか昔の事にまで話が及び
「だいたいルナはアカデミーの頃から!」
「それを言うならシンなんか入校式で!」
となった辺りで、ついにルナマリアが右手を大きく振りかぶって

 

「こぉの〜バカァァー」

 

の声と共にチョッピングライトをシンの顔面にめり込ませた。
吹き飛ぶシン、だがそこはザフトの赤服しかもレールガンの直撃をコックピットに受けても平気な男である、
この程度ではダメージにもならない。
青痣を作りながらもすぐさま体制を整え反撃にうつる。

 

ここからはお互いに罵り合いながら無駄に高度な格闘戦へと移行した。
打つ、穿つ、かわす、極める、投げる、受ける、払う、右ストレート、左フック、
後ろ回し蹴り、とび膝蹴り、互いに一歩も譲らない取っ組み合いの大喧嘩である。
短い間に様々な攻防が繰り広げられたが、遂にルナマリアの前蹴りがシンの体を捕らえ、
床に転がった所にマウントポジションを取ってガードしたシンの腕の上から殴る、殴る。

 

下敷きになったシンはそのときになにか温かい液体が顔に掛かってきたのに気がついた。
初めはなんだと思ったが、ルナマリアの顔を見たときシンはハッとした、
ルナマリアの瞳から大粒の涙がボロボロと(ついでに鼻血も)零れていたのだ。

 

『こんな顔をさせたのは誰だ、自分だ、
 自分は彼女に何を言った?何をした?
 守ると約束したのに、あの日誓ったのに、
 なんで彼女は泣いている?』

 

いつしか力無く叩いてくるルナマリアの腕を掴むと、上半身を起こして
小さく震えるその体を力いっぱい抱きしめて耳元へ囁いた。

 

「ゴメン」

 

それしか言えなかった。でも精一杯の気持ちを込めた一言だった。
その言葉を聴いたルナマリアは、目を見開き一度頭を振るとしっかりと抱き返してきて言った。

 

「バカ」

 

いま抱き締め合う身体の温かさが、その息づかいが
百万の言葉よりも互いの気持ちをしっかりと伝え合っていた。

 

「バカ」
「うん、ゴメン」
「バカよ」
「ああ、バカだ」
「わたしもゴメン」
「なに言ってんだ、バカ」
「誰がバカよ」
お互い理解したと思っていた、でも違っていた。いまでも完全には理解していないだろう。
だけど、すべてを失い、自分を曝け出して、言いたいことを言い合って、
ようやく腕の中にある温もりは確かなものだと、お互いを守りたいという素直な気持ちに気がついた。

 

この時初めて、本当の意味で二人はかけがえのないモノを手に入れた。

 
 

そこまで思い返したときに寝ていると思っていたルナマリアから声がかかった。
「なーに、にやけてんのよ」
いつの間にか起きていたらしい、ジト目で見上げてくる彼女にどう答えようか思案すると口を開く。
「昨夜は可愛かったな〜って」
本当は鼻血ルナの顔を思い出していたのだが、
そんな事を言おうものなら間違いなく自分が鼻血を噴く破目になる。
それに彼女はストレートな物言いに弱いのだ、
案の定顔を真っ赤にするとルナマリアは視線を逸らして下に向けると「あ」と言った。

 

何かと思いシンも視線を向ける、その先には朝の自然現象が鎮座していた。

 

「なに、昨日あんなにしたのに、まだ足りない?」
こいつは理解って言っている、その証拠に顔がチェシャ猫笑いだ。
しかしこんな事を言われたからには男として否、漢として起たねばならない。
ニヤニヤ笑いを止めないルナマリアの口を唇で塞ぎながらこれからの予定を考える。
幸いにも今日は休みだ、一汗流してから二人で出かけよう、今日を精一杯楽しもう。

 

そして最後に報告に行こう、今は居ない大切な人たちに。