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小話 ◆9NrLsQ6LEU 氏_血溜りの狂笑(仮)_第05話

Last-modified: 2009-05-19 (火) 00:53:32

「あっ・・」

 

声がする、甘い、蕩けるような甘い声が暗いしじまに木霊している。

 

「ああっ・・」

 

この胸に泥の様にその声が粘つく、この四肢に鎖の様にその声が絡みつく、
抗えぬ楔をその声がこの身に打ち込んでいく。

 

「ああっ・・はっ・」

 

まるで物知らぬ子供の様に獣の様にその柔らかな白い肉を、赤い唇を、広がる髪を、
ただ貪ることしか出来ない。

 

「あっあっ・はっくぅ・・あっああぁぁぁー」

 

一際高い嬌声がしたあと絡み合っていた黒い獣と白い蛇はその結合を解いた。
荒い息を吐きながら仰向けになった獣シンの胸に、組み敷かれていた蛇ラクスが頬を預けて
艶然と微笑みながら話し出す。
「シン、貴方の所属を今日から騎士団にします。それに専用のMSも開発させますわ、
 なにか希望があれば何なりと仰って下さい、貴方は私の新たな剣。
 その貴方の為ならば出来ることは何でも致しますわ」
さすがに最高権力者、大盤振る舞いではあるがシンはこれといった希望は無いと告げる。
MSも今使っているセイバーで充分だ、大体専用機が無いと戦えない訳ではないし
完成を待っていたらいざという時に間に合わないと言うと、
ラクスは頼もしそうなそれでいて詰まらなそうな顔をするとこう続けた。
「では、そのセイバーを騎士団仕様に改修させます。
 見栄えというものも有るのですからそれくらいは構いませんでしょう」
たしかにそんな物かも知れない、それにセイバーは修理の為にドックにあるから丁度良いだろうと考えて、
それは了承すると答えると花が開くように嬉しそうに笑ってから自ら跨ってきた。

 

この笑顔と仕草に騙されてはいけない、どれほど美しかろうともこの女の本性は狡猾な蛇だ、
言葉巧みに禁断の実を喰わせ楽園を追放させて戦場へと誘う魔性なのだ。

 

自らの上で妖しく、美しく踊る裸身を熱のこもったしかしどこか冷めた赤い瞳で見つめていた。

 
 

翌日からシンの立場は劇的に変化した。
一足飛びにラクスの親衛隊長(団長であるキラが兼任していた)に任命された上に
改修機とはいえ専用機を預けられる事となったのだ、
しかもラクス自身がシンのことを新しき剣と公言して憚らない。
これでやっかみが無い等ありえない、事実騎士団内での評判は最悪である。

 

曰く間男、枕ホスト、ラクス様の傷に付け入った外道、きっと凄いに違いない等々、枚挙に暇が無い。

 

もっともMSパイロットとしては前の動乱時よりエースとして名を馳せていたし、
なによりもキラの仇を討ったという戦果がある以上は表立ってなにか言う人間はほとんど居なかった。
逆に複雑ながらも喜んだのが団長であるアスラン(正式に昇格した)である。
騎士団の中核が自分以外全滅という状況でシンの加入は正直ありがたい、
なにしろMSパイロットでも腕利きで残っているのは自分も含めて両手で数えられる人数だ。
しかも近頃のシンは始めて会った頃と違って真面目に仕事に取り組むし自分の言うことも素直に聞く、
しかも少々複雑な気持ちだがキラを失ったラクスを支えてくれているようだ。
ここは色々と面倒を見てやらなければと張り切る始末である。

 

もっともシンからすれば余計なお世話である。
実際シンは昔から仕事は真面目にこなすし上の指示もきちんと聞く、
アスランの指示も反発はしたがちゃんと受け入れていたのだ。
もっとも途中から「キラは敵じゃない」とか正式な作戦でフリーダムを撃墜したときに
「なんで殺した」とかいって殴りかかり、あげくメイリンを連れて裏切ったのはこの男である。
そんな凸の言うことをあの時点で素直に聞く人間など居るはずも無い、
事実シンはアスランのことを今でも全く評価していない、
精々が小うるさい凸だけど上司だから仕方ないくらいの感覚である。
いやな言い方だがシンも大人になって処世術を身につけたということだろう。

 

シンが騎士団で仕事(ほとんどがラクスのお供)をこなし始めてから一週間ほどたった夜のこと、
クライン邸に呼ばれたシンの前には、風呂上りなのだろう裸の上に
バスローブをまとっただけのラクスがいた。
シンにソファーに座るように言うと自分はワインセラーからシャトー・ドメーヌ・ド・シュヴァリエの赤と
グラスを2個取り出してシンの横に座る。
手ずから酒を注ぐとグラスと共に書類を一冊差し出してきた。
「セイバーの改修が終わったそうですわ、なんとか式典には間に合いましたわね」
手渡された書類は使用していたステルスセイバーの改修点とスペックを表した物であった。
ペラペラと捲くりながら主な変更点を確認していく。

 

まずは頭部をかつてシンが乗っていたデスティニーを模したものに交換し、
騎士団仕様らしく白をベースに胸部、前腕部、膝部、つま先を黒に塗装し直した。
なんとなくフリーダムを髣髴させるカラーリングはラクス曰く
記号というのは判り易い方が良いとの事であった。
ちなみに金色間接はシンが頼み込んで止めてもらっていた。
武装面では両手足にイージスと同じタイプのビームサーベルと
MA形態時のウイングにガイアのグリフォン2と同様のビームブレイドを追加。
腕にビームサーベルを組み込んだ為アーマーシュナイダーを腰部に、
肩のビームサーベルラックは姿勢制御スラスターに変更。
防御面には変更は無くシールドに鏡面処理を施すだけに留まった。
当然、動力部を核分裂炉に変えたことにより従来の兵装である
ビームライフルとアムフォルタスの威力は3割り増しになっていた。

 

シンが一通り確認するのを待ってから
「名前は、そうですわね、貴方の運命の剣ですからデスティニーセイバー、
 略してDセイバーでいかがでしょう」
シンにとってデスティニーとは思い入れはあっても良い思い出は無い機体である。
ちょっと考えたが自分は運命とやらに縁があるのだろうとそれで良いと軽い気持ちで決定した。
続いてラクスは式典について話し始めた、
今日から5日後にメサイヤ戦役の終結記念日があり、ここプラントでは大規模な式典が催される予定である。
その場で新たな守護聖剣としてシンのことを大々的に発表することにしたとの事であった。
もちろんシンの立場では断ることなど出来ない、これは要請ではなく命令だからだ。

 

いつの間にかしな垂れかかって来ていたラクスに気が付いたので窘める。
「議長」
「名前で呼んでほしいですわ、あの時みたいに」
見るとラクスの顔はほんのりと朱に染まり手がシンの太股あたりを這い回っている、
あの晩以来よほど気に入られたらしい。
あれから何度か相手をしていたが、どうやら今日も相手をしない訳にはいかないようだ、
ついでにキラは如何だったか聞くと心底可笑しそうに笑ってから
「シンの方がずっと上手ですわよ。貴方を知ってからキラはワンパターンで物足りなかったと思いますもの」
と返してきた、嘘か本当かは判らないが楽しんではいるのだろう、
『なら精々楽しませてやるさ』と思って乗ることにした。

 
 

次の日からは忙しかった、
Dセイバーの受領、式典の準備、相変わらずラクスの相手とめまぐるしい時間が過ぎ、
ついに明日が式典の日となっていた。
毎年シンはこの日は共同墓地にある慰霊碑に来ていたのだが、
流石に明日は来る暇も無いと前日である今日に時間を見つけてここに来たのだ。

 

ここに葬られているのはあの日に亡くなった人間全員である。

 

本来はそれぞれ個人の墓があってしかるべきではあるのだが、
プラントは宇宙コロニーである以上敷地面積が限られている上に、
現体制に逆らい<悪>のレッテルを貼られてしまった人達は戦没者として一纏めにされて祭られた。
それでも、家族が捧げたであろう色鮮やかな花が献花台に添えられていた。
彼も花を添えると瞑目してから仕事に戻ろうと踵を返したとき前方から声が掛けられた。
「なんであなたがここに居るんですか」
見やるとそこにはコムス・グラディスがやはり花を手にして立っていた。

 

「決まってるだろお前と同じさ、墓参りに来た」
コムスも花を捧げて先ほどのシンと同じように瞑目してからシンの隣に並んで歩き出した。
同じ歩調でゆっくりと歩く、なにか話したそうにしているが此方から話しかけないでいると
焦れたように喋りだす。
「どうしてですか?」
言いたいことは解る、どうして騎士団に入団したのか聞きたいのだろう。
「議長直々のご命令だ、逆らえないさ」
「そんなこと聞いているんじゃありません」
『だろうな』とは思う。しかしなにを言っても言い訳にしか成らないのだから、それ以上話す事など無い。
あとは無言で歩き続けていると腹を立てたのか、失望したのかコムスは何も言わずに足早に去っていった。
コムスの姿が見えなくなるのを待ってから足を止めたシンは空を見上げてひとりごちると
今はもう懐かしい人達一人一人の顔を思い返した。
「今の俺をみんなが見たら笑うか呆れるか、いやそれとも怒るかな」
守りたいと願った少女も道を示してくれた恩人も夢を託して逝った親友もそんな顔など見た記憶もないのに
なぜか悲しそうな、哀れむような顔をしていた。

 
 

翌日、メサイヤ戦役終戦記念式典は滞りなく粛々と進行していた。
開会の挨拶に始まり、黙祷、来賓祝辞と続く。
そしてラクスによる演説が始まった、
この演説の途中でキラの死、そしてその仇を討った新しい剣シン・アスカの御披露目となる予定である。

 

「皆様、私はラクス・クラインです。今日の良き日にまずは悲しいお知らせをしなければなりません。
 皆さんが愛してくださったCEの聖剣キラ・ヤマトは過日、このプラントで卑劣にも多くの人命を奪ってきた
 凶賊の手に係りその尊い命を奪われました」

 

すでにプラント内では噂になっていた、しかし今はっきりとその言葉が紡がれた事により
2度に渡る戦いを終結へと導いた英雄がもう存在しないのだという事実が知らされて、
そこかしこからすすり泣きが聞こえてくる。
ラクスの演説は続く、キラがどれほど優れた人物であったか、その功績等明らかに脚色された
大仰なものである、これが死んだ英雄の使い方の見本の様な見事な弁であった。
そして遂に運命の瞬間が訪れる、そのキラの仇を討ったCEの新しき聖剣の登場である。

 

「今ここで、私は一人の勇者を迎え入れたいと思います。その方の名はシン・アスカ。
 彼は英雄キラの盟友であるアスラン・ザラの薫陶を受け遂に忌むべき凶賊を打ち倒したのです。
 私はここにシン・アスカをこのプラントのいいえ、この世界の守護者として認め
 新しき聖剣の担い手と致します」

 

ラクスの言葉に合わせてシンはDセイバーを上空へと躍らせると
儀礼用に持っていたテンペストを掲げてビームを稼動させた。
この段になって式典はクライマックスを迎えたといってよい。
聴衆は口々にラクスの、そしてシンの名を連呼し始めたのである。
その光景をコックピットから眺めていたシンは聴衆を一瞥して段上から両手を広げて、
演説を続けるラクスをしっかと見やる。
奇しくも「まず決める。そしてやり遂げる」と語っている瞬間だった。

 

「そうだな、俺は決めた。だから後はやり切るだけだ」

 

シンは苦笑気味に口元を歪ませるとテンペストの出力を最大に上げて機体を操った。
一瞬ラクスの声が蘇り、躊躇するが自らの胸にある炎に身を任せて感情を爆発させる。

 
 

「消えうせろ、ラクス・クライン!」

 
 

気合の声を上げながらDセイバーを急降下させ、光の刃を舞台にいたラクスに向かって叩きつける。
その瞬間こちらを見あげたラクスはここにいる人間の中でただ一人全てを理解した。

 
 

「シィィィィン!!」

 
 

ラクス・クラインは叫びと共に光の奔流の中に消え去った、
むしろ無残な屍を晒さなかったのは1度ならず肌を重ねたシンの優しさだったのかもしれない。

 

展開されたビーム刃の光の中にラクス・クラインが消え去り、Dセイバーが飛び去る瞬間まで
そこにいた人間たちはなにが起こったのか理解出来なかった。
アスランですら、いやアスランだからこそその光景が信じられなかった。

 

衆人環視の前でラクスが殺された、しかもその犯人はラクス自身が新しい聖剣と言った男だ。

 

更に言えばその男は自分も信用し頼りにしてきた部下だ、
なんでこんな事をした? 
なぜ裏切った? 
何故だ? 何故だ? 何故だ?

 

「あとはお前だ、アスラン・ザラ」

 

アスランの上手く働かない頭の中でインカムから聞こえたシンの言葉だけがグルグルと回っていた。
舞台に残されたテンペストがまるでラクスの墓標に捧げられた十字架のようであった。

 
 

式典での凶行から1時間、プラントは蜂の巣を突付いた様な騒ぎに陥っていたが、
ようやく平静を取り戻したアスランと他の者達によってシンの討伐が騎士団全てに通達され、
捜索が始まっていた。
シンの足取りはそれほど労する事なく捕捉された、
首都であるアーモリー1を脱出後に廃棄コロニーであるメンデル方面へ逃走したとの情報が入って来ていた。
この報に対してアスランは首都防衛大隊から2個中隊を差し向ける、
この戦力は実に現在プラントに存在する騎士団戦力の3分の1に当たる大部隊である。

 

ここで現在の騎士団の編成をMS部隊に限り軽く紹介しておこう。
まずMS3機を持って1小隊、5小隊で1中隊、5中隊で1大隊、3大隊で1連隊である。
そして騎士団の中核たる量産型フリーダムの部隊はいまだ2連隊分しか配備が進んでおらず、
それも地球圏の各地に分散している。
したがってプラント本国の戦力は首都防衛大隊と騎士団の下部組織である、
旧ザフト系列のプラント平和維持軍が存在するが騎士団の面子の理由からの派遣となった。
それでも量産型フリーダム30機対改修型とはいえセイバー1機である。
いかにシンがエースパイロットとはいえ結着は直に付くと思われた。

 

はたして決着は付いた、正し誰も予想しなかった方向でだ。

 

「MS2個中隊30機が全滅しました。またローラシア級を含む戦闘艦4隻轟沈、生き残った艦より、あ、その」

アスランは報告官が言いよどむのを一喝すると報告を続けさせる。
「はっはい、ザラ閣下に凶賊シン・アスカよりメッセージがあると」
シンの伝言は要約すれば、今までの事件は全部自分がやった。
殺したいならこんな雑魚では無く、アスラン自身が来いというものであった。
それを聞いたアスランはすぐさま立ち上がり、エターナルの出港を命じた。
あまりの剣幕にその場にいた者で反対できる人間は誰一人として居なかった。

 

そのころシンはメンデル近くの宇宙を漂っていた、コックピット内で大きく息を吐くと
先程の戦闘について思いを馳せる。
騎士団の錬度が低くて助かった、いかに機体性能が高かろうとパイロットが性能を引き出せなければ
問題にならない。
とは言え30機のMSを片付けるのは手間が掛かって大変だった、
流石に物量で来られると身体が持たない、早々に結着をつける必要はある。
問題はアスランが出てこない場合だが、あれだけ挑発してやればあの凸なら間違いなく出てくる。

 

「あとふたつ」

 

口からポツリともれた言葉はシンの戦いの終焉が近いことを物語っていた。

 
 

勇躍エターナルで出港したアスランはシンが騎士団と戦った宙域まで来ると
愛機∞ジャスティスを発艦させてオープンチャンネルで通信を送った。
「来たぞシン、何処に居る! 出てきて俺と戦え!」
2度3度と呼びかけるが返答は無い、焦ったアスランはエターナルから離れ更に通信を繰り返す。
まさか騙されたかと思い、本国の様子を知る為にエターナルの方向を振り返ると、
まさにエターナルの艦橋にランサーダートが突き立った瞬間であった。
艦橋上の空間が一瞬揺らぎ、ミラージュコロイドを解除したDセイバーが姿を現すと
すぐさまアムフォルタスを構え、艦首に装備されているミーティアに向かってプラズマビームを叩き込む。
この一撃でミーティアに内蔵されたミサイルが誘爆を起こして爆散しエターナルは大破した。

 

「これでミーティアは使えなくなったな、アスラン」
「シン!」

 

ついに現れたDセイバーに対してビームライフルを撃つ∞ジャスティスだが
その攻撃はセイバーのシールドによって悉く弾かれる、
いや効かないだけならまだしも鏡面処理されたシールドを駆使してビームをそのまま反射させてくる。
これはインパルスに乗っていた頃も使用した技であり、数年を経てシンの得意技の一つとなっていた、
故にシンはビームシールドではなく実体盾を好んで使用するのだ。
戦いを続けながらも二人の会話は進行する。

 

「なんで、お前がこんな事をする!」
「はっ、お前も解らないか。なら言ってやる!
 これは誓いだ。あんな結末は認めないと、総てを奪い去った者が勝者などとは許せないと、
 俺の中に満ちる怨嗟の声が断罪を、贖罪を求めた結果だ!解ったかこの凸禿!」
「俺は禿じゃない!」

 

突っ込むとこは其処かよと思いつつ、この男はやっぱり話を聞かないなと再確認した。
一方向からの攻撃ではらちが明かないと悟ったかファトゥム-01を分離させ挟撃を仕掛けるアスランだが
シンはDセイバーをMA形態に変形させるとスラスターを噴かして離脱する。
十分に距離をとり旋回したシンはそのまま∞ジャスティスに向かってアムフォルタスを撃ちながら
高速で突っ込んだ。
突っ込んでくるDセイバーに対してMA形態では盾を使った防御は出来ないと
ファトゥムに搭載されたフォルティスビーム砲とビームライフルで迎撃するアスランだが、
シンは機体を左右にバレルロールさせて攻撃をかわしながら翼のグリフォン2ですれ違いざまに切りつける。
ギリギリで身をかわしたアスランだが∞ジャスティスの鶏冠を切られてしまう。
「よくかわしたな、けどなぁ!」
身をかわされたシンはすぐさまMS形態へとDセイバーを変形させて、無理矢理に急制動を掛けると
左手、両足のビームサーベルを展開させ、左切り下げから右後ろ回し蹴り、左前回し蹴りの順で切り付ける。

この3連撃を嫌ったアスランが∞ジャスティスを下がらせたところに追い討ちのビームライフルを叩き込むが
これはビームシールドに阻まれた。
距離を取って対峙した両機だが双方共にビームサーベルを構えると同時に駆け、
丁度中間地点で鍔迫り合いになる。

 

「カガリを殺ったのもお前か!」
「ああ、アレだけは誤算だったな。俺が殺る前に何処かの誰かに殺られるなんてな」

 

カガリはオーブの国家元首である、普通ならプラントの公安局員であったシンに接触する機会など無い、
そこで元首の座から引きずり落とそうとオーブ氏族の醜聞を調べ上げて
色々と現地のマスコミにリークしていたのだが、シンが考えていたよりもオーブでは氏族に対する鬱憤が
溜まっていたようだ。
おかげで自分が手を下す前にカガリ暗殺という事件が起こってしまった。
もっとも本来ならアスランを先に潰してクライン邸に引き篭っていたキラを引きずり出す予定が
そのおかげで自分から飛び出して来てくれたのは幸いだった。

 

「キラは好い奴だったんだぞ!」
「相変らずそれかよ、聖剣だとか持ち上げられた割には大した事無かったぜ!」

 

もっとも不意打ちを仕掛けたのだが相手も不意打ちは得意の戦法だし、
あの頃はまだ自分の身が危険だと分かっていた筈である、引っかかるのが馬鹿なのだ。
証拠映像に関しては自作自演だ。
カガリ暗殺を知ったシンはキラがオーブに向かうと直感し、急いでセイバーを発進させ
隠しておいた量産型フリーダムに乗り換えてプラントとオーブの直線上に陣取った。
その後セイバーはオートクルーズ状態にしておき、キラを捕まえた所で戦闘しながら誘導して撃墜、
その後は自動で攻撃を仕掛けてくるセイバーと戦っているように見せておき、
頃合を見計らって脱出しセイバーに戻った次第である。
はっきりいって並みの腕ではない、
キラとアスランが腑抜けていたときも研鑽と実戦を重ねてきたからこその技である。
これについてはラクスの弁は正しかった、まさに鍛え磨きぬかれた剣である。
ただし、自らを守護してくれる聖剣ではなく、その命を奪う魔剣であったのは皮肉ですらあるが。
またキラを失ったラクスにシンが近づける機会をアスランがシンに報告を押し付けたおかげで
出来たことも大きかった。

 

「シィィィィン!」

 

ここでアスランのSEEDが発動した、先程までよりも動きに鋭さが加わり、速さも増す。
力任せにDセイバーを弾き飛ばすと前転の要領で回転しながらファトゥムを分離させて、突っ込ませる。

 

「うおおぉぉぉぉ!!」

 

Dセイバーがファトウムのブレフィスラケルタに貫かれる直前、獣の如き咆哮と共にシンのSEEDが発動した。
SEEDを発動させたシンはオーバーヘッドキックの要領でファトゥムを下から蹴り上げ
無理矢理軌道を逸らすと、背中のアムフォルタスを撃ち込みファトゥムを落としにかかるが、
この攻撃は右側の翼とフォルティスビーム砲を削るだけに留まった。
アスランは∞ジャスティスの前に逆立ちで背中を晒したDセイバーの上体に左右から
シュペーラケルタビームサーベルで襲い掛かるが、この攻撃をシンはアムフォルタスの反動とスラスターを
全開にして下方へと離脱するとMA形態へ変形し、なにかと邪魔なファトゥムを追いかける。
シンの狙いを察したアスランはファトゥムを呼び戻すとジャスティスと連結させ真っ向から迎え撃つ。

 

「ラクスはお前を信じていたんだぞ」
「どうだかな、あの女は俺たちなんぞ駒としか考えちゃいなかったと思うがな」

 

すれ違いざまに∞ジャスティスのビームサーベルがDセイバーにマウントされたビームライフルを切り飛ばし、
Dセイバーのグリフォン2がファトゥムの残った左の翼を切り裂いた。

 

「知ってるかラクス・クラインの声はコーディネイターの精神に直接働きかける効果があるそうだぜ、
 メンデルの資料の中に記述があった」
「嘘だ! お前は自分の良い様に真実を捻じ曲げて」
「はん、議長のデスティニープランは自分たちに都合が良い様にでっち上げて俺の言うことは嘘かよ」

 

これは事実である、どの様な意図であったのかラクスの父シーゲル・クラインがそのような調整を
彼女に施していたのだ。
この声の影響でシン自身も危うく取り込まれるところであった。
もっともシンの場合一旦は取り込まれかけたがその騎士団に対する反骨心、否強烈な憎悪が
その呪縛を断ち切ったのは皮肉でしかない。
シンは再びMSにDセイバーを変形させると腰からアーマーシュナイダーを引き抜き、
振り向きざまに投擲する。
これが同様にこちらに振り向いた∞ジャスティスに当たる瞬間、持っていたビームライフルで防御したが
そのままビームライフルに突き刺さり使用不能に追い込んだ。
これで双方手持ちの火器が無くなったため両手にビームサーベルを展開させる。

 

先に動いたのはアスランだ、背中からファトゥムを再度離脱しブレフィスラケルタを起動させて
Dセイバー目掛けて撃ちだす。
これにシンはアムフォルタスを前面に展開させると連射モードで撃ちまくり、
ファトゥムの撃墜に成功するがこれは囮であった。
ファトゥムの爆煙の中から∞ジャスティスが躍り出たのだ、
PS装甲が物理衝撃に強いことを利用した一種の目くらましである。
咄嗟に機体を捻ってかわしたシンだが左のアムフォルタスがビームサーベルに貫かれて爆散、
胴体部にもダメージを負ってしまう。
その衝撃でコンソールやパネルの一部が壊れたが気にしている暇は無い。
咄嗟に右の上段蹴りを放つがこれもアスランは同じく右中段蹴りで迎え撃つ、
奇しくも月面での戦いの再現だ、あの時同様Dセイバーの右足が切り飛ばされる。
しかし今度のこれはシンの罠であった、
Dセイバーの爪先にはビームサーベルがある、この相打ちで∞ジャスティスの鼻から上の部分と
右肩のスラスターを破壊した。
さらにお互いに背を向けた状況において背面にある右のアムフォルタスのトリガーを引く、
この一撃が上手く∞ジャスティスの左腕を肩から吹き飛ばした。
これでDセイバーは左のアムフォルタスと右足を失い、胴にもダメージを負った代わりに
∞ジャスティスのファトゥムと左手、右肩のスラスターに頭部を破壊した。

 

「憎しみだけで戦ってなんになる!」
「俺にはコレしか残らなかったぁ!!」

 

距離が開いた両機だが動きを止めることなく激突する、
Dセイバーが左の大上段からビームサーベル切り下ろすのを∞ジャスティスがシュペーラケルタで切り払う、
左腕が肘から持っていかれたが、がら空きになった胴に右のアムフォルタスを突きこみトリガーを引く、
プラズマビームが発射される寸前に∞ジャスティスの左足がアムフォルタスを破壊して諸共に砕け散った。
仕切り直しに下がるアスランだがシンはそのままDセイバーを∞ジャスティスに肉薄させる。
残った右のビームサーベルを∞ジャスティスのコックピットに突き入れるが、
いつの間にか逆手に持ち替えていたシュペーラケルタで下から手首を飛ばされた。

 

「終わりだぁ! シン!」

∞ジャスティスは振り上げた右手のシュペーラケルタを今度は順手に替えて
Dセイバーの頭頂部に振り下ろす。

 

「まだだぁぁぁぁ!!」

雄たけびを上げたシンはDセイバーのスラスターを全開にして翼のグリフォン2を起動すると
∞ジャスティスの懐に飛び込んですれ違いざまに胴を真っ二つに断ち切った。

 

「そんな、キラァァァァ!」

動力部を破壊された∞ジャスティスが光と消える、最後の絶叫と共にアスランは愛機と運命を供にした。

 
 

「はあっ はあっ はあっ はあっ あとひとつ」

荒い息を吐きながら後の事を考える。

 

そうあとひとつ、あとひとつですべて終わる。

 

ロミナに手を引かれた子供達を孤児にしたのは自分だ、
それだけじゃ無い、知らないだけで俺が不幸にした人間だって沢山いる。
あいつの言っていた事で一つだけ正しかったことがあった
『憎しみだけで戦うな』か、確かにそうだ憎しみだけで戦った俺たちはお互いにこのざまだ。
守ると誓った力で結局奪うことしか出来なかった、復讐に手を染めたときから決めていたことだ

 

『罪には罰を、悪には報いを』

 

だから笑って受け入れる。

 

この最後に残ったもう一つの命を消さなければならないが
どうやら何もしなくてもこのまま消えてくれそうだ。

 

「うっ ごほっげほっ」
コックピットでシンは咳き込んだ、目の前のバイザーが真っ赤に染まる、
さすがに性能で劣るDセイバーでアスランと∞ジャスティスの相手をするために
急加速と急制動の繰り返しは無茶をしすぎた様だ。
途中で何度か意識を失いかけた、それに壊れたコックピットの破片が脇腹に深々と食い込んでいる、
おそらく内臓までいっているだろう。
消えかけたモニターに目を向けると星が一筋流れていくのが見えた、
どこかの国では流れ星に願いをかけるとかなうと聞いた事がある。
こんな時にそんな事を思い出す、意外とロマンチストだったのかも知れないと知らず笑いがこみ上げてきた。

 

「くっくっくっ はっはははは あっはっはっはっはっ」

 

ひとしきり笑った後でそれもいいかと考える、一寸照れくさいがどうせコレで最後だ。

 

「俺の願いは・・・・・・」

 

ほんのささやかな、それでいてとても大きな願いを口にするとシンは眠りに付いた。

 

静寂だけがそこに残った。

 
 
 

ここガルナハンの朝は早い、
その日の朝もコニール・アルメタはまだ夜も明けぬうちに起き出して開店の準備を始めた。
ふとまだ暗い空を見上げると東の空に一筋の星が流れていく。
どこかの国では星が流れるのは人が死ぬ証だと聞いたことがある。
そのとき頭をよぎったのはあの時以来会っていない懐かしい赤い瞳の少年だった。
コニールはなんとなく胸の前で手を組み、彼の無事を祈った。

 

なぜか一筋涙が零れた。

 
 

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