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小話 ◆9NrLsQ6LEU 氏_Restored to Life_第03話

Last-modified: 2011-05-02 (月) 16:26:41

バンコクの歓楽街にある派手な原色のネオンを撒き散らしたクラブの奥まった席に
軍の制服を着たでっぷりと太った男が一人座っていた。
「初めまして、メイリンでーす」
男の下にやって来たホステスは胸元が大きく開き、深いスリットの入った赤いドレスを着て、
綺麗なブルネットの髪を結い上げたアメジストの瞳をした美女であった。
「ん、なんだ見ない顔だな、スダはどうした?」
「スダさんはお休みです、私、今日からなんですけど、宜しくお願いしますね将軍様」
「ほっほう、儂が将軍だと知っておるのか」
「お店の人から、将軍様は大事なお客様だから失礼の無いようにって言われていますわ」
将軍と呼ばれた男は自分の席にやってきたメイリンという女をいやらしい目で
上から下まで舐めるように見つめる。
広げられた胸元から見える双丘はたっぷりとした重量感があり、
スリットから見える脚もスラリとしながらも脂が乗っていて美味そうだ。
お気に入りのスダが居ないのは残念だが、この新人も悪くはない、
しかもキチンと店側が言い含めてあるのか自分の事を媚びるような視線で見つめてくるのも嗜虐心をそそる。
「私じゃ駄目ですか?」
潤んだ瞳で上目遣いに見つめてくるメイリンに将軍はニヤリと笑うと隣に座るように促した。

 

それから2時間後、将軍とメイリンはホテルの一室にいた。
「うわー、綺麗な夜景」
「ほれ、そんな事はどうでもいい、さっさとこっちに来い」
「そんなあ、せめてシャワーを浴びさせて」
「うはは、儂は匂いに興奮するのだ、まずは邪魔な服を脱がしてやろう」
グヘグヘとやに下がった笑みを浮かべながらメイリンへにじり寄る将軍、
部屋の中央に備え付けられたベッドの端に、メイリンが脚を引っ掛けると
ギシと音を立ててベッドへと倒れ込む。
「ぬふふ、誘っておるのか」
ベッドの上に横たわるメイリンの扇情的な肢体に目を細めると将軍は一気に飛び掛かろうとすると、
メイリンがベッドの上でクルリと一回転するとすっとベッドの脇へと降り立った。

 

「何時まで見てんの……よっ!」

 

将軍が間抜けな顔をして呆然としていると、さっきまでの媚びた声とは違う凛とした声と同時に
翻ったドレスのスリットから飛び出した脚が将軍の横顔に吸い込まれる。
「グエッ!」
蟇蛙が潰れたような声と上げて吹き飛ばされた将軍だが、すぐに飛び起きると
血走った目でメイリンを睨みつけた。
「き、貴様、儂に何をしたかわかっておるのか!?」
鼻血を流しながらも大声で恫喝する将軍だが、メイリンはベッドの向う側から
不機嫌そうな顔を此方に向けているだけだ。
「……ったく、さっさと助けなさいよね」
「悪い、あんまり見ない光景だから珍しくて」
メイリンが場違いな悪態を吐くと同時に、将軍の後頭部に冷たく硬い物が突きつけられて
惚けた台詞が聞こえてきた。
「な!?」
「おっと動くなよ、ゆっくり手を上げて跪け」
「此方としては最悪耳が聞こえて口が利ければ何の問題も無い」
動揺して後ろを振り返ろうとしたが、今しがた聞こえた声の他にもう一人別の男の声がする。

どうやら襲撃者は最低二人、いや目の前にいるメイリンも間違いなく仲間だろうから三人だ。
このホテルは自分が定宿にしているだけに子飼いの人間を配置してある、
この人数なら異変を知らせる事ができれば制圧は容易いだろう。
「何が目的だ、金か?」
「先に言っとくが、隣の連中なら仲良くお休み中だ」
「なっ?! ヴッ」
そう判断すると将軍は油断を誘うように口を開いたが、喋っている最中に首筋を強打され、
うめき声をあげて昏倒した。

 

「さっさと片付けるぞ」
「了解」
ベルパーソンの格好をした金髪の美丈夫が洗濯物を取り込む為のズタ袋を取り出して、
メイリンへと放り投げると、受け取った袋から女性用のルームキーパーの制服を取り出す。
「さっさと帰ってシャワー浴びたいわ」
やれやれと愚痴りながら頭に手をやったメイリンが自分の髪の毛を掴んで引っ張ると
ブルネットの髪がズルリと取りさらわれて濃い赤毛を覗かせた。
そのままドレスも脱いで鬘とドレスを袋に詰めると将軍を昏倒させた男へ渡して、
二人の視線も気にせずに服を着替え始める。
「おいルナ、着替えるなら向うで着替えろよ」
「時間無いでしょ、それにシンは見慣れてるじゃない」
「レイが居るだろ」
「気にするな、俺は気にしない」
レイと一緒に将軍を袋詰めにしていたシンがルナマリアに文句を言うが一蹴され、
黙々と作業を続けているレイは例によってクールな態度を崩さない。
「まあシンの気持ちも分かるがな、ようするにルナマリアのそういう格好を
 俺も含めた他の奴に見せたく無いんだろう」
「な、別にそんな事ねーよっ」
ルナマリアの方を向かずに黙々と将軍を袋に押し込んでいたレイが、
シンの顔を見ながらからかうような調子で軽口を叩くと袋の口紐を縛っていたシンが真赤になって否定する。
騒いでばれる訳にはいかないので小声なのはご愛嬌だろう。
清掃員の格好をしたシンが将軍の入った袋を、洗濯物を満載したキャリアーに無造作に放り込むと
ルームキーパーの制服に着替え終わったルナマリアがキャリアーに取り付く。

 

「では先に行く」
「了解、私はエレベーターが着いたら出るわ」
そっとドアを開けて辺りに人の目がない事を確認した二人は廊下に出るとレイは階段を走って降りてゆき、
シンは廊下に置いてあった掃除用具を入れた台車引きながらエレベーターへと歩いて行く。
エレベーターが到着した音を聞いた所で洗濯物を満載したキャリアーを押しながら部屋を出たルナマリアが
「待って」と芝居掛かった声を上げて小走りに廊下を進みエレベーターへと乗り込んだ。
チーンという音がして1階に到着したシンとルナマリアは、それぞれの台車を引きながら
エレベーターを降りて裏口へ向って移動を始めた所で野太い声を掛けられた。
「おい、ちょっと待て」
声に従って足を止めた二人が振り返ると、見るからに堅気とは思えない強面の男がしかめっ面で立っていた。
「何でしょう」
「二人とも見ない顔だな」
「今日からなもんで」
「そんな話は聞いてないぞ」
「何時もの人が急に休みになって、それで」
男の質問に予め用意していた答えを返すが、男は納得がいかないのか二人をジロジロと、
いや二人というよりもルナマリアを上から下まで嘗め回すように見ている。
ようするに難癖をつけてルナマリアにいやらしい事でもしたいのだろう。
「勘弁して下さいよ、早く持ち場に戻らないと怒られて……」
「ああ、お前は行っていい、それよりこっちの姉ちゃんには話を聞きたいな」
男はそう口に出すと、ルナマリアの肩に手を伸ばそうとした瞬間、
エレベーターが開き中から男と同じような黒服が降りてきた。
「おい、何をしている、閣下が見当たらん探せっ」
「え?」
「ふっ!」
「おぶっ?!」
エレベーターを降りてきた黒服の言葉に、二人に絡んでいた男が面食らった瞬間に
シンが動いて拳を男のみぞおちにめり込ませていた。
「行くぞ!」
「もうっ!」
「待てっ!」
男を殴り倒して裏口の扉を開けた二人を見た黒服は懐から拳銃を取り出すと即座に発砲する。
シンは崩れ落ちる男をそのまま盾にして、銃弾を受けると銃を持って走ってくる黒服へ向けて突き飛ばす。
そこへタイミング良くレイが運転するバンが到着したので、
ハッチバックを開けると将軍が詰められたズタ袋を投げ込んで二人も飛び乗る。
「レイ、急げ!」
「見つかったのか?」
「将軍様が居なくなったのがばれただけだったんだけど、シンが私に絡んできた馬鹿を伸しちゃったの!」
「そういう事か」
レイはアクセルを一杯に踏み込んで、タイヤが回転しアスファルトとの摩擦で焦げた黒い跡を残したバンは
弾丸のように走り出した。
「くそっ! あいつ等、許さんぞ」
その直後、裏口の扉が開き、先程銃を撃ってきた黒服が顔を覗かせ、手に持った無線で何事かを
矢継ぎ早に指示すると、何台かの黒いセダンがレイの運転するバンを追いかけ始める。

 

深夜のバンコク市街を一台のバンが疾走し、それを何台もの黒いセダンが追い立てる。
バンを運転するレイは持ち前の空間認識能力を最大限に活用し、
流れる車の間をギリギリで通れる隙間を見つけては、針を縫うような繊細なドライビングで追い抜いてゆく。
「何人たりとも、俺の前は走らせん!」
華麗な運転を見せるレイの駆るバンではあるが、追い立てるセダンは盛大にクラクションを鳴らし、
退かない車を跳ね飛ばしながらグングンと差を詰めていた。
間に他の車両が無くなると、セダンの窓が開けられ顔を覗かせた黒服達が
手に持った銃を遠慮なく撃ち始める。
そのうちの一発がハッチバックの窓を叩き割り、車内にガラス片が撒き散らされる。
「くそ、好き勝手やりやがって」
「二人とも後部座席の下だ」
「OK♪」
二人がレイの声に従って後部座席のシートを剥がすと椅子の下には黒光りする銃機が揃っていた。
「用意はしとくもんだな」
シートの下から取り出したライフルの狙いを付けたシンが引き金を引く。
ガン、ガンという音と共に吐き出された弾丸は、狙い違わずに窓から身を乗り出していた黒服を撃ち抜き
道路へと叩き落してゆく。
走行中の車から地面へと叩きつけられた黒服たちは道路上で身動きすら出来ない、
そこへ後続の車が突っ込み、嫌な音を立てて轢き潰される。
仲間の血と油で滑ったタイヤはアスファルトの上で空回りすると、車体を蛇行させてシンに横っ面を晒す。
「貰った!」
黒服が落ちたおかげでガラスが開いたままになっている助手席の窓へ向って第2射を叩き込むと、
運転者の頭が熟れた柘榴のように破壊され動きを止めた。
しかし後続の車が道路で止まり邪魔になった車を弾き飛ばして、なお追いかけてくる。
「さっきのお返しよ!」
追いすがってくる車両に向って、両手に軽機関銃を構えたルナマリアが
セダンのフロントガラス目掛けて乱射した。
軽機関銃の弾丸では防弾処理されているのだろうフロントガラスを割る事こそなかったが、
蜘蛛の巣状に穿たれた弾痕によって視界を奪われる。
高速走行中に視界を奪われた車は蛇行し、僅かな段差にタイヤを取られると空中へ飛び出し落下横転する。
金属とアスファルトが擦れる耳障りな音が響き渡り、横転した衝撃で零れたガソリンに火花が引火して
轟音と共に爆散した。

 

「BINGO!」
「派手だな、まさかこんなに目立つ羽目になるとは思わなかったぞ」
バックミラーに映る炎上する車を見ながらレイがポツリと零すが、ハンドル捌きに淀みは無い。
「シンが暴れだすから」
「あそこで詰問されたらヤバかったろ」
「それは…… まあそうかも」
「だろ?」
「だからと言って結局力技になったんでは、作戦を立てて色々と準備した俺が可哀想だ」
「それはそうね、私も色々触られて気持ち悪かったし!」
空になったマガジンを交換したルナマリアが、爆発炎上した道路の向こうから
炎を突っ切って追いすがる車に更に弾丸を雨霰と打ちこみながら語気荒く応じる。
「しょうがないだろ、こうなったら思いっきり派手にいくぞ」
「了解」
「やれやれ」
シンの言葉に嬉々として応じるルナマリアと、軽く肩をすくめながらも後ろからの弾丸を
右に左に華麗なドライビングテクニックでかわすレイ。
既に街中は抜けて街道にでたおかげで、辺りに他の車は見えなくなった、
僅かに残っていた車も騒動に怯えて路肩に避難している。
こうなると単純なパワーが物を言う、
三人の乗るバンと黒塗りのセダンの車間距離が徐々に縮まって、遂に後部に追突された。
「うわっ」
「きゃっ」
「ちいっ」
追突した衝撃に短い悲鳴を上げた三人だが、すぐに次の行動に移る。
シンは持っていたライフルを捨てて、大口径の拳銃と大振りのコンバットナイフを取り出すと
サンルーフから屋根に上り、真後ろにいたセダンに飛び移り、セダンの屋根にナイフを深々と突き立てる。
上に乗られたセダンはシンを振り落とそうと左右に蛇行運転をするが掴んでいるナイフを器用に使い、
後部のリアウインドウまで屋根を切り裂きながら移動したシンは
リアガラスに目掛けて至近距離から引き金を引く。
車内の人間が躊躇している間に3発目で貫通した防弾ガラスの穴に銃を叩きつけて大きく割り
銃を突き入れて乱射すると車内が朱に染まった。
運転手がいなくなり、コントロールを失ったセダンが脱落する寸前に
隣を走っている別のセダンの屋根に飛び移る。
先程の手際を見ていたのだろう、黒服は窓を開けて屋根の上にいるシンを撃ち殺そうと
身を乗り出して手にしていた銃を向けた。
しかし、その瞬間にシンの靴底が黒服の顔面を蹴り飛ばし、バランスを崩した所に
胸倉を掴まれて引きずり出されると路上へと捨てられ、嫌な音を立てなが後方へと流されてゆく。
シンは邪魔な黒服を排除した窓へ身を躍らせて車内へと滑り込み、
素早く二人を射殺、運転席の椅子越しにナイフを突き入れた。
「う」
一言漏らしただけで動きを止めた運転手を、ドアを開いて外へ放り出したシンはハンドルを握ると
レイ達の乗るバンと並走しているセダンに向かって思い切りアクセルを踏み込んだ。
ぶつけられたセダンは道路を外れると脇に立っていた木立に激突して派手な音を立てると
車体を三分の2ほどに縮めて動きを止める。
全身を揺さぶる衝撃に顔を顰めながらも、相手の車を道路から弾き飛ばしたシンはバンに車体を寄せる、
その動きに合わせてバンの後部座席が開かれルナマリアが手を伸ばす。
シンは運転席のドアを開けると手を伸ばすルナマリアの胸を目掛けて飛び込んだ。
「ただいま」
「おかえりなさい、で何時まで抱きついてんのよっ」
柔らかな感触に迎えられたシンが帰還の挨拶をするのに、ルナマリアは嬉しそうに笑ってから軽く突き放す。

 

「無茶しすぎだ」
「そうでもないさ、これで全部片付いたか」
「違うみたいよ」
アクション映画のような事をやってきたシンにレイが呆れた声をかけるのに、
やれやれといった風情で肩を揉みながら応じたシンの耳にルナマリアの疲れた声が届いた。
その声に吊られて後ろを振り向けば、まだ離れてはいるが先程と同じような黒塗りの車が
猛スピードで追いかけてきている。
「そんなにこのおっさんが大事かね?」
「それよりも、面子の問題と考えているんだろう」
「もうっ、しつこい男は嫌われるのよ。 レイ、合流地点まであとどれ位?」
使った弾丸の補給など戦闘準備を整えながら聞いてくる二人に、レイはニヤリと口元を上げて笑う。
「あと少しだ、二人ともしっかり摑まっていろ!」
大声を出すと急ハンドルを切ってバンを道路から路肩へと乗り上げて、崖に向って思い切りアクセルを踏む。
速度の乗ったバンが崖から空中へと飛び出した、
十分に速度が出ているとはいえ三人(+1)が乗っているのは車であって、飛行機ではない。
僅かな空中遊泳を終えると、重力に負けて海へと落下を開始する。
「うおおおおっ」
「きゃあああっ」
「……」
叫ぶ二人と、何かを見据えるレイが自由落下を楽しんでいると、ガシャンという派手な音がして
バンが海に着水した。
海中に沈むかと思われたバンはショックでタイヤが外れてコントロールを失ったが、
そのままグルグルと回転しながら水面を滑走する。
その光景を追ってきたセダンから降りて来た黒服たちが崖の上から茫然とながめていると、
レイがドリフトの要領で立て直して動きを止めたバンからシンが転げ出てきた。
「オマケだ!」
車から飛び出してきたシンは海面に片膝を付くと、肩に担いだ使い捨てのロケットランチャーの照準を
崖上に集まっていた黒服の直下に付けて引き金を引く。
白い煙を吐き出しながら飛翔したロケット弾が崖に命中して爆発すると、そこを中心にして崖に皹が入り、
上に集まっていた黒服を巻き込んで一気に崩落する。
「最後まで派手ねぇ」
「そうだな」
そんな光景を車から降りて来たルナマリアとレイが暢気に言葉を交わしていると、
足元がせり上がり、海面と見えていた場所が潜水艦の甲板に変化する。
「さっさと荷物を持って中へ入れ、潜行するぞ」
甲板に立つ三人に艦の外部スピーカーから聞きなれた男の声が聞こえてくると
収容の為のハッチが開かれ作業員が走り出て来た。
「了解」
命令に対して三人は返事を返すとバンの収容作業を任せ、将軍の入ったズタ袋を担ぎあげると
艦内へと帰還する、こうしてバンと三人(+1)の収容を終えた潜水艦は海底へと消えていった。

 
 
 

「う……む?」
「眼が覚めたかね」
将軍が目を覚ました場所は、全く見知らぬ場所であった。
白い壁、白い天井、暗めの照明、そして自分を煌々と照らす目も眩むようなスポットライト。
「此処は何処だ、貴様、儂が誰だか分かっているのか!」
椅子に座らされ後ろ手に縛られている将軍が、虚勢を張って叫ぶ。
確かに将軍にはこの部屋は初めてであった、しかしこの部屋がどんな部屋なのかは良く知っている。
そうこの部屋は尋問、あるいは拷問を行なうための部屋なのだ。
「我々は聞きたいことがあるだけだ、大人しくしゃべるなら良し、
 しゃべらなければ…… まあ想像の通りだ」
聞こえてくる声は、自分が知っている誰よりも冷厳であり、鋼鉄の意志を感じさせるものであった。
そして暗がりから将軍の前に現れたのは、蛇のような妖しい雰囲気を持つ眼鏡を架けた美女であった。
「そ、その制服は、そうか貴様ら《A-Laws》だな! これは国際問題だぞ!」
「残念ながら我々には独自の捜査権が与えられている、
 それに彼方が此処にいるのは誰も知らない、この意味は判るな」
「く」
「では尋問を始める、素直に喋る事を薦めるよ。
 もっとも私は暫く頑張ってくれたほうが色々と嬉しいが……ね」
そう語る美女の血よりも尚濃いルージュを引いた形の良い唇が僅かに吊り上がるのを将軍は見た。

 
 

香港の騒動から三日後、ソロネのブリーフィングルームにて同艦所属のMS部隊と陸戦隊の面々を前にして
フルフェイスの仮面を被った男、ソロネのMS隊を束ねるネモ少佐がモニターを指し示す。
「と言う訳で、今回の作戦はMSと麻薬の密造工場の制圧だ、質問は後で纏めて受け付けるから先ずは聞け」
話す少佐の声は仮面に取りつけられたスピーカーを通しているせいで機械的なものになっている。
少佐は戦闘にてMSの爆発に巻き込まれ一命を取りとめたものの、
全身に酷い熱傷を負って現在の医療技術では治せないほどの人には見せられないような傷が残り、
声帯にもダメージを負ったのでこのような仮面を着用しているという話だ。
事実、シンも袖口からチラリと見えた肌に火傷の引きつり跡が残っているのを見た事がある。
それほどの重傷を負いながらもMSの操縦技術は部隊内でもトップレベルであり、
模擬戦では三人を相手にして勝ち越しているほどで、特に実戦での戦いぶりは
仲間からも狂戦士と言われるほどの暴れっぷりで幾度となく危地を乗り越えて来た歴戦の兵であった。

 

「コイツが目標だ、招待した人間が快く話してくれた情報によると、
 此処ではMSの最終的な組み立てだけを行なっているらしい」
画面に映し出されているのはジャングルの中にポツンと立っている平屋の建物で
大きさは300m四方といった所だろうか。
「で、残念ながらお客の話では出所までは知らんという事でな、
 そこで此処へ強襲制圧をかけて色々と調べようという事になった、
 幸い警備状況については色々と親切に教えてくれた」
ネモ少佐の言葉に会場から含み笑いが漏れたと同時に画面が切り替わる。
先程の建物を中心にした周辺の状況図で、見張り台や備え付けられた武装、
MSの配備状況などの情報が乗せられていた。
「もっとも、客を招待してから三日、作戦は明日行うとして四日経っている。
 警戒は厳重になっているからこの情報は参考程度に考えて置け、では作戦を説明する」
作戦自体は至ってシンプルな物で先行するアレン、フェイ、ジェリルのAlbatross隊、
レイ、シン、ルナマリアのBlood隊で強襲をかけ、後詰にネモ、ゴードン、フィリアスのCancer隊を配置、
敵MSを無力化させたあとは、陸戦隊が基地内部の制圧にあたるというものであった。
「作戦は以上だ、質問はあるか? 無ければ各隊長は残って細かい打ち合わせ、
 他の者は各種装備の点検、準備にかかれ」
「了解!」
「最後にこれだけは繰り返しておく、我々は暴力装置である。
 この荒廃した世界に安寧をもたらす為に存在する力の象徴であって正義の味方では無い。
 正義など豚に食わせてしまえ、
 我々の目的はいかなる手段をもってしても力の無い人々を理不尽な暴力から守護することである。
 この密造工場の中には、生活の為に止むを得ずに働いている人間もいるだろう、
 だが彼らの行為がより大勢の無辜の民の安全を脅かし、一部の糞野郎どもを潤しているのを忘れるな。
 邪魔をするなら、全てをなぎ払え、
 我々が奪う命と我々が落とす命が次の世界の礎になると肝に銘じておけ、以上、解散!」
「ハッ!!」
ブリーフィングルームに集まった全員が直立して敬礼をして、一斉に走り出した。

 
 
 

「カンパーイ!」
三人が手に持ってカチンと打ち鳴らしたのはそれぞれ生ビール、冷酒、アセロラハイである。
乾杯したグラスを打ち鳴らし、各々グイと煽ると「プハー」と息を吐く。
「いっやー、予想よりキツかったな」
「全くだな、まさかたった三日でMSが3倍になっていたとは流石に予想していなかった」
「なんか聞いた話だと、丁度売り物が組み上がってたからそれ使ったって話らしいわ、
 流通関係の情報が殆どなかったのが痛かったわね」
一昨日の強襲作戦は成功したものの、思わぬ苦戦をしいられたと三人がぼやいていると
陽気な声が頭の上から降ってきた。
「三人とも飲んでるかあ〜」
「お互い、お疲れだねえ」
「よっ」
三人に声をかけてきたのはAチームの三人――
金髪を短く刈り込んだアレンと見事な赤毛が印象的なジェリル、細目のフェイであった。
彼らの手にもジョッキが握られており、既に顔が赤い。
三人はそのまま近くのテーブルから椅子を持ってきて一緒のテーブルに座ると杯を傾け始めた。
「しっかし、今回も俺の負けかよ、たく」
ビールを飲み干したアレンが胡乱に目を細めてシンを睨みつける、
現在ソロネの撃墜王はシンであり、次がアレンなのでライバル視しているのだ。
今回の戦闘でシンは13機、アレンは9機のMSを撃墜していた、
他の人間の戦果はレイが7機、ルナマリアが6機、ジェリルが5機、フェイが4機、
逃げ出した6機をCチームの人間が2機ずつ落としていた。
「勝ち負けなんかどうでもいいだろ」
「そうはいかねえ、これでも連合コーディーとしてプライドがあるからな、
 だいたい模擬戦なら俺の方が勝率上なのに、なんで実戦だとお前のほうが戦果だすんだよ」
「なんてーか、シンはムラがあるけど、その分実戦に強いよねえ」
「爆発力のあるタイプなんだろうな」
ジェリルとフェイがシンの事をそう分析する、チームメイトのシン評を聞いたアレンが鼻をならす。
「まあ今日はお互いに生き残った事を祝おうや、でも次は負けねえからな」
「わかってるよ、ほら」
シンが苦笑しながら手に持ったジョッキを掲げるとアレンが自分のジョッキを打ち鳴らす。
「今日のところはパーッとやるか、ビールお代わり、唐揚げ追加で!」
「ラムコークとカナッペ頼む」
「大根と牛蒡のサラダに茄子のしぎ焼きと筑前煮、あと秋刀魚の塩焼きも貰おう」
「あたしゃ黒生、それと茹でたソーセージ」
「つぎ、シークワーサーサワーにしようかしら」
「老酒は無いのか?」
作戦を終えて帰って来た面々は、基地の近所にある飲み屋で、無事に任務を終えた事をささやかに祝った。

 
 
 

香港は東アジアにおいて東京と並び100万ドルと称された夜景が美しい大都市であった。
しかし現在はBTWの影響で見る影も無く荒廃し、大陸中からMSすら不法所持しているような無法者が集まり、
軍すら容易に手を出す事が出来ない無法地帯となったことで、
更に他の地域から追われて来たような有象無象が集まる事になり、遂には国の中の国、租界と化して、
遂には暴力が支配する魔都とも魔窟とも呼ばれた新九龍城砦として復活していた。
その新九龍城砦の最上層は特に力のあるマフィアたちが支配しているおかげで下層に比べれば
信じられぬ程に治安が良く博打や売春、麻薬等のありとあらゆる娯楽を教授できる歓楽街でもある。
その最上層にある一際派手な作りの店の奥にあるVIPルームに一人の男が不機嫌そうに座っていた。
目の前にあるモニターには厳つい顔をした壮年の男性【コンダクタ】が映し出されている。
「コンダクタ、私の資金源の一つが潰されました、
 このまま《A-Laws》を放置していては教団の活動に少なからず影響が出るのではと危惧いたしますが」
「落ち着けアレグロ、あそこにあった物の八割は持ち出せたのだろう、
 ならば再建にはさほどの労力は必要あるまい」
「ですが一時的な停滞は否めません、教主はなんと仰っているのです?」
「《A-Laws》に関しては現状維持だ、あれの上層部にも我々の賛同者は居る、ようは使いようとお考えだ」
「それが御判断ならば、否は申し上げませんが、しかしソロネでしたかあの艦は?」
「確かそのはずだが、なんだ」
「私にも面子というものがあります、そういう事です」
「あまり派手にやるな、私が言えるのはそれだけだ」
「承知しました」
その言葉を最後に通信が切れた黒い画面を暫くの間ジッと見つめていたアレグロが机の上にある
呼び鈴を鳴らすと、部屋に入ってきたのは15歳くらいの黒髪と金髪の二人の美しい娘であった。

 

「お呼びですか、ご主人様」
「俺の可愛い人形たち、次の獲物が決まった、ネブラの様子見をかねて行ってこい」
「はい、ご主人様」

 

部屋を出てゆく二人の人形を見送るアレグロの瞳には酷薄な光が浮かんでいた。

 
 

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