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聖戦士ダンバインSEED DESTINY_03話

Last-modified: 2011-07-28 (木) 19:24:35

 神殿での戦闘の後、聖戦士シン・アスカとミ・フェラリオのフレイは、カガリ・ユラ・アスハの私邸へと案内された。
 ダンバインは車庫の一つに隠してある。オーラバトラーがモビルスーツよりも小さい事が幸いし、隠し場所には困らない。
 シンは、自分が見ていない間にダンバインを調べられくらいはするだろうと覚悟はしていたが、それでオーブに何かが出来るとは思わなかった。
 何せ、この世界ではオーラバトラーを作る材料がないし、そもそもがオーラ力といった未知のエネルギーを検出する術も無いのだから。どうせ解析不能という所……もう一つの地上でもそうだった。
 ダンバインの方はそれで良いとして、問題はシン自身とフレイの方だろう。
 シンを捕らえてオーラバトラーの事を聞き出そうとするかも知れないし、フレイを人質にとってというやり方も考えられた。
 だからシンは、鎧と剣を身から離さない事に決める。時代錯誤の装備である事は承知しているが、それでも使い様ではあるし言い訳もしやすい。
 シンは玄関のドアをくぐる前に足を止め、シンとフレイを案内する役を買って出てくれたユウナ・ロマ・セイランに言った。
「失礼だとは思うが、聖戦士の正装として帯剣を許して頂きたい」
「剣は武人にとって手放す事の出来ない物……というわけかい? かまわないよ。カガリも許すだろうしね」
 ユウナは、シンの言葉を受けて考える事もなく頷いた。そして、先に立って屋敷の中へと入っていく。
 屋敷は、外から見た印象の通りそれほど大きくはなく、ありがちな洋風建築といった所で、金がかかっている印象はない。民家でももっと豪華な屋敷は幾らでもあるだろう。
 そんな屋敷の中、所々に配置されたオーブ風の装飾品がオーブらしさを出している。魚をくわえた熊の木像や、風景とその場所の名前を織り込んだ細長い三角形の布や、なかよきことはなんたらという単文と野菜の絵が描かれた色紙とかそんな物だ。
 かつてあったシンの家にも何故か知らないがこういった物が幾つかあったのを憶えている。誰も欲しがらないのに、どうして買ってくるのか不思議でしょうがない所まで込みで。
 そんな郷愁を煽るような屋敷の中にありながら、シンはそんな過去を懐かしむ暇はないとでも言うように周囲に油断無く目を配り、敵襲の可能性を考えていた。
「シンってば、ピリピリしてるぅ」
 三人並んで廊下を歩く最中、フレイがシンの方にまとわりつきながら声を上げる。
 それを聞いてユウナは、すました顔でシンに言った。
「聖戦士殿。カガリが危害を加えないと約束した以上、この屋敷に居る者は聖戦士殿と妖精のレディ、そして貴方のモビルスーツにも絶対に手出しはしないよ」
 シンの気にかけていた事は全てユウナも見越していたらしい。
 それを知ってシンは、いよいよ油断ならないとは思ったが、身の危険についてあまり気を張るのは止めようと考え直した。
「何というか……すまない」
 謝るシンに、ユウナは皮肉げな笑みを見せる。
「良いよ。あれだけ珍しいモビルスーツを持っているんだ。警戒するのは当たり前だし、その方が長生き出来る。……この国でもね」
 最後の言葉には何か含みがあったが、それを追求する時間はなかった。
 ユウナはドアの一つに手をかけ、開け放ってシンとフレイを中に導く。
「どうぞ。この部屋は自由に使って良いから」
「わーい!」
「ちょっ、待て! 伏兵がいたら……」
 フレイが歓声を上げ、部屋の中へと飛び込んでいく。
 シンは一瞬、中に敵がいる事を想像して声を上げ、先程ユウナに言われたばかりである事を思い出して気まずげに沈黙した。
 ユウナはそんなシンに、気にしていないと示す様に肩をすくめてみせる。
 シンは、失態を言い繕うべきでも謝罪するべきでもないと察し、ユウナの寛大さに感謝の黙礼だけをして部屋へと足を踏み入れた。
「アの国のお館みたーい」
 部屋の中、縦横に飛び回りながらフレイが歓声を上げている。
 客間なのだろうこの部屋は、屋敷全体と同じく特に華美な訳ではないが、清潔で使いやすそうだった。ベッドにテーブルに椅子にと必要最低限の物が有るだけなのも、シンには好印象だ。あまり物が多くてもかえって邪魔になる。
 そして確かにフレイの言う通り、バイストンウェルでのシンの住まいだった館と印象が似て無くもない。まあ、シンが気に入るだけあって、どちらも素っ気ない部屋だったからと言う理由からなのだが
「ベッドだよ。シン、ベッド〜」
「一緒には寝ないぞ」
 ベッドの上に陣取り、何の恨みがあるのか枕を叩いて喜んでいるフレイにシンは断りを入れる。
「え〜?」
「お前、抱きついてくるから、寝返りうつと潰しそうで怖いんだよ」
 予測通り返ってきた不満の声と視線に、シンは部屋の中にくまなく目を走らせながら答えた。あからさまに怪しいと言うような物は無いし、伏兵が居るような気配もない。
「気持ち良くしてあげるのに」
 続けて聞こえた不平の声をシンは無視した。
 と、シンとフレイの会話が終わったと見たのか、ユウナがドアの所から声をかける。
「食事の支度が出来たら、また案内に来るよ。それまではごゆっくり」
 言い終わると同時にドアは閉まった。
「食事か……」
 久しぶりのオーブ料理が食べられるかと、シンの顔が期待に緩む。この際、毒殺の危険は無いものと、シンは自分に言い聞かせるのを忘れなかった。

 

 

「棒二本でなんてよく食べられるわね?」
 自分の身長の半分以上はある長さの箸に挑戦する事を早々に諦め、ティースプーンを手にテーブルの上を歩き回りながらフレイはシンを見上げる。
 さほど広くもないテーブルに、今は三人が席についていた。元々、少人数で使っていたのだろうから、来賓を招くような物ではなく、普段から使っている物なのだろう。部屋も広くはなく、質素な作りをしている。
 テーブルに並ぶ料理も、家庭料理と言っても良い、ごく普通なものばかりだ。ただ、オカズは世界各地の料理と言って良い程に種類豊かでやたらに多く、テーブルの上には皿が幾つも並んでいる。
 そんな食卓でシンはと言うと、茶碗に顔を突っ込むようにして白飯を貪るように食べていた。
 戦場からオーブに飛ばされ、ずっと食事を取ってなかったので空腹だという理由も当然あるが、やはり久しぶりの故郷の料理という所が大きい。特に白飯が美味い。パンもあったが、そちらは無視している。
 バイストンウェルではパンが主食だった。もう一つの地上では米もあったろうが、シンはアの国の軍勢と行動を共にしていたので食べ損ねている。
「シン、他のお料理は? はいどうぞ」
 白飯ばかりをがっつくシンに、フレイが他の料理の皿を押しやって勧めてくる。シンは、それを素直に一口二口食べてはまた白飯に箸を戻す。それを面白く思ったのか、フレイは自分の食事そっちのけでシンの前に料理の皿を集め始めた。
「カガリ、ご飯がお留守だよ」
「え? あ、ああ。すまないユウナ」
 テレビに見入って食事を忘れる子供の様に、目をキラキラさせながらフレイを見ていたカガリに、ユウナは呆れた様に注意する。
 その注意を受けてカガリはノロノロと食事を再開するが、その目はフレイに釘付けになったままだった。
 ユウナは深く溜息をついて、それからシンの方に探るような視線を向ける。
 ややあってからユウナは、シンに何気ない口調で話しかけた。
「聖戦士殿は、この国の料理を食べ慣れているみたいだね?」
 シンの箸が止まり、何を根拠にと言いたげな怪訝な表情がユウナに向けられる。ユウナは、穏やかに笑いながら言った。
「小鉢に卵が入ってたじゃないか。あれを何の疑問も抱いた様子もなく小鉢に割って、御飯にかけて食べる。そんな事をするのは、東アジアの一地方とオーブくらいなものだよ」
 シンの食べていた白飯は、今は卵の黄色に染められている。
 料理の品数が妙に多いのは、嗜好からシンの正体を探る為か。まさか、こんな所から自分の正体に迫ってくるとは想像もしなかったシンは、驚きを感じて目を瞬かせた。
 そして、驚いていたのはもう一人。
「そうなのか!? 知らなかった……」
 カガリが、尊敬の眼差しでユウナを見やる。そしてその尊敬の眼差しは、自嘲の笑みへと切り替わる。
「私は物を知らないな……首長だというのに不甲斐ない」
「いや、こんなトリビアを知らなくても、首長はやっていけるから。大丈夫、カガリは頑張ってるよ」
 落ち込んだカガリを、ユウナがすぐに励ます。と、カガリはすぐに満面の笑みを浮かべて応えた。
「そうか! ありがとうユウナ!」
 そしてカガリはご飯を再び食べ始める。
 一連のやりとりを見ていたシンは、カガリが首長という立場にしては凄く単純な人間である事を確信していた。何というか、小さな子供だってもう少し疑い深い。
 そんな事を考えているシンに、ユウナは小さく苦笑を見せる。しかし、彼の目はカガリを慈しむように見ていた。
 なるほど、ユウナも大変だと言いたいのだろう。
「カガリ様は、良き婚約者を得られたようで」
 何ら他意無くシンはカガリに言う。
 二人の関係を、シンは好ましいと思えた。少なくともユウナは、首長であるカガリを支えようとしているのがわかる。
「え? ああ……そうだな」
 しかし、言われたカガリは悔恨や後ろめたさを滲ませた複雑な表情を浮かべた。一方のユウナは、一瞬ではあるが表情を悔しげに歪める。
 婚約には何か裏があるのかもしれない。少なくとも、カガリはそれを素直に喜んではいないようだ。
 そこまでは読めたが、シンはそれ以上に追求しようとは考えなかった。これはあくまでもオーブの問題であって、アの国の聖戦士である自分には関係のない事だと。
 とりあえず、今は自分に関係の深い出来事を……例えば、手の中の茶碗の中身に集中しようと、シンは心に決めて食事を再開する。
「と……そうだ。今は俺の正体を詮索しないでくれないか?」
 オーブ出身である事は、面倒になりそうなので伏せておく事したい。
 シンは箸を進めながら、食べる合間にユウナに釘を刺すつもりで言う。
「俺達はバイストンウェルという異世界、アの国から来た。異世界の存在は、そこのフレイが証拠になる筈だ。今、言えるのはそれくらいだ」
 正体を隠した怪しい奴だと自ら言わんばかりではあったが、他に大して言うべき事があるわけではないし、実際の所、嘘はついていない。シンは、自分の国はオーブではなく、アの国だと思っている。
 ユウナはそれを受けて、顎に指を添えて少し考える仕草をした。そして答を出す前に、カガリの声が上がって、その思考は中断される。
「な、なあ! 異世界ってどんな所なんだ!?」
「カガリ、行儀が悪いよ?」
 好奇心いっぱいに身を乗り出すカガリを抑えながら、ユウナはシンに小さく頷いて見せた。正体を詮索しないという事に了承したという意味だろう。もっとも、影で何かしらする可能性は消えていないのだろうが。
 ともあれ、面と向かいあって情報を引き出そうとかまをかけてくるような事が無くなっただけでシンにはありがたい。苦手なのだ。会話の駆け引きという奴は。
 猪武者だったからなと自嘲しつつ、シンは傍らにいたフレイに頼んだ。
「フレイ。カガリ様にバイストン・ウェルの事を教えてやってくれないか?」
「良いよ、シンの頼みなら」
 話はフレイの方が上手い。頼まれたフレイは、食事の手を止めて暇していた事もあって、すぐに返事を返した。
 そして、カガリの前まで飛んでテーブルに下りると、数度咳払いしてから、いつもとは違う厳かな声で語り始める。
「バイストンウェルの物語を覚えている者は幸せである……」
 遠い、バイストンウェルの物語を。

 

 

 食後、フレイの話をもっと聞きたがったカガリを、ユウナは別室へと行かせた。
 フレイを一人にする事に、フレイの身の危険と、カガリに無礼な事をしないかどうかという二点で不安があったが、ユウナが何か話をしたがっている気配を感じてシンは部屋に残る。
 ユウナは、シンの前で急須に湯を注ぎ、番茶を入れて、湯飲みをテーブルに並べた。
「どうぞ」
「ああ、すまない」
 礼を言って、シンは湯飲みの片方を取る。ユウナは、残る湯飲みを取ると、シンが口を付ける前に一口飲んで見せた。
 毒はないというパフォーマンスだろう。食事を共にして今更の話ではあるが、毒の存在をすっかり忘れていたシンは、その事を思い出させられて苦笑する。
 それからシンは、ユウナの毒味に応えてみせる為、湯飲みの中の茶を啜った。香り豊かな茶が喉を通り、気分を落ち着かせる。
「良い味だ」
「入れ方にコツがあってね。カガリにも褒められたよ」
 言葉を投げ合い、その後は沈黙が下りる。少しの間、茶を啜る音だけが室内に響く。
 その沈黙に耐えられなくなったのはシンが先だった。
「茶を飲む為に残ったんじゃないんだろう?」
「ん? ああ……そうだね」
 促され、ユウナは湯飲みを置く。そしてユウナは立ち上がり、テーブルを回ってシンの前に立ってから深々と頭を下げた。
「聖戦士殿に、お願いしたき事があります」
「え? いや、そんないきなり……」
 切り出された話題にシンは戸惑いを見せた。
 何か聞き出そうとする程度なら覚悟の上だったし、不都合な事は喋るまいという注意もしていたが、いきなり頼み事をしてくるとは……
 正直な所、人から頼み事をされるのはなれていない。将に命令されたり、兵に指示を促されるのは慣れているのだが。
「ま、まずは席に戻って下さい。それで、詳しい話を」
 シンは、ユウナに席に着くよう促した。頭を下げられっぱなしでは落ち着かない。
 ユウナは頭を上げると、シンに言われた通り素直に元の席に着き、真剣な表情で口を開く。
「カガリを守って欲しい。聖戦士殿が撃退したモビルスーツは、きっとまたやって来る」
 その頼みに、シンは僅かに眉を寄せた。
「俺は異邦人だ。そんな人間に首長を守らせるのか? 警護ならオーブ国防軍が居るだろ?」
 オーブには、オーブの兵達がいる。王を守るのは彼らの仕事であって、異邦人であるシンのすべき事ではない。
「この国の軍隊は当てにならないんだよ」
 そう自嘲するように言うユウナには、僅かにではあるが怒りと侮蔑の情が見えた。
「あのモビルスーツは、オーブ軍にとっては“世界を救った英雄”でね。先の戦争でその英雄と共に戦った事を誇りにしている」
「……歴史は良く知らないんだ。最近、この世界に来たばかりなんで。その、先の戦争っていう部分だけで良いから、教えてくれないか?」
 シンも、先の戦争の途中までは良く知っている。
 ウズミ・ナラ・アスハが下手を打って、オーブが連合軍に攻め込まれた所まで……だ。
 そこから先を知りたいとは思っていたので、シンは、ちょうど良いとばかりに教えて欲しいと言ってみる。
 それを受けて、ユウナは少し考えてから申し訳なさげに返した。
「少し長くなるし、カガリが戻ってくる前にこの話は終わらせたい。願いを受けてくれるかどうかに関わらずね。だから、詳しい歴史は後で幾らでもレクチャーするとして、簡単に言うと……」
 ユウナの表情と口調が、明らかに侮蔑を示す。
「軍は先の戦争で何も出来なかった。国を守る事も取り戻す事も出来なかった。その惨めさを、正義の英雄と共に戦ったという虚飾で誤魔化したんだ。おかげで、英雄の正義を否定する事は出来なくなった。そりゃそうさ、軍の正義の否定にもなるわけだからね」
 オーブ国防軍は、戦争で何一つ戦果を出してはいない。
 国土は連合軍に焼き尽くされ、占領されている。そして戦後、オーブを連合の支配下から解放したのは、連合とプラントの終戦協定だった。戦って得た物は何一つ無いのだ。
 だからオーブ国防軍は、戦った意味、戦った意義を英雄に求めた。英雄が戦ったのは正義の為、英雄と共に戦ったオーブ国防軍の正義は英雄の存在によって保証される。
「つまり、英雄のする事に間違いは無い。だから代表首長の誘拐も正しいって事か? それが常識的にどんな間違いであっても」
 ユウナはシンの問いに頷いた。
 それが本当であるならば、シンにもユウナが呆れる理由がわかる。
 シン達、聖戦士と呼ばれた者達は、一般将兵から見て英雄の扱いだった事は間違いないが、失態を見せればそれなりに処罰もされた。ユウナの言う英雄とやらには、それすら無いのだろう。
 ユウナは、肩をすくめながら言う。
「実際、今日の襲撃の時もサボタージュがあった事は明白だ。もっとも、それが無くても阻止出来たかどうかは怪しいけどね。何せ、英雄と呼ばれるだけの力がある存在だ」
「それで、一度は撃退して見せた俺にって事か?」
 実際シンも、護衛のモビルスーツが手も足も出せないままやられているのを見ているわけで、オーブ国防軍が本気で戦っても守れないかも知れないという懸念はわかった。わかったが……
「戦うのはかまわない。因縁もあるしな。だけど軍人どころかオーブ人ですらない俺が、オーラ……じゃなくてモビルスーツで首長の護衛なんて出来るのか?」
「得体の知れないボディガードを雇った前例はある。カガリの決定なら、誰にも文句は言えないよ」
 シンの問いに、ユウナは皮肉っぽく返した。
 得体の知れないボディガードとは、言うまでもなくアレックス・ディノの事だ。彼の経歴は全てでっちあげられたものであり、怪しさならば他に並ぶ者が居ないと断言出来る。
 無論、オーブ軍は彼の正体を知っており、アスラン・ザラ……すなわち英雄の仲間だったからこそ、正体を探る事なくボディガード役を認めたという背景はあるのだろう。
 しかし、そんな背景に関係なく、首長がそうと決めれば出自を問わずボディガードを雇えるという前例は残っている。ユウナはそこに付け込もうというのだ。
「カガリ様の御意志は?」
 シンには近衛として王に従った経験もある。だが、再び要人警護をする事に不安がないとは言えない。何せ、シンは王を守る事が出来なかったのだ。
 だからシンは、断る材料を探して問いを重ねた。
 理由など無しに断ってもよかったのだが、敢えてそれをしなかったのはカガリを嫌ってはいない事と、そんな彼女を狙う者が居るという事実を理由無く見過ごす事にシンの正義感が耐えられなかったからだ。
「君達の事は気に入ったみたいだからね。素直に受け入れるさ。もっとも……英雄を倒す事には躊躇するかもしれない」
 ユウナは、台詞の後半を言い難そうに言った。シンは、例え言い難い事でも……むしろ、言い難い事だからこそ、それを隠されるのは困ると判断して、その続きを促す。
「というと?」
「カガリも、かつて英雄と共に戦った一人だ。理屈では間違いに気付いていても、内心では英雄の正義を信じたがっている。それに、英雄はね……カガリの弟なんだよ。一般には知られてない事だけどね」
 つまり、英雄を敵に回した場合、カガリも敵に回りかねない人物だという事。ユウナの明かした事実にシンは呆れて声を上げた。
「正直に言って、ろくなものじゃないな。それで、俺に警護につけって? オーブ国防軍だけじゃなく、警護対象のカガリ様まで敵に回りかねないのにか?」
 姿を現している敵だけではなく、本来は味方である筈の勢力の中まで敵だらけで、しかも警護対象まで敵になりかねない。それで、まともな警護になると考える方がどうかしている。
 そんな事は百も承知のユウナは、何ら悪びれる事無くシンに言葉を返した。
「それでも、誰かにカガリを守って貰わなければ、オーブの未来が無いんだよ。そして僕は、それが出来るのは聖戦士殿をおいて他にないと思っている。無論、この無茶な依頼の対価として報酬は支払うつもりだよ」
「報酬?」
 さほど興味はなかったが、報酬と聞いてシンは少し身を乗り出した。
 シンの心の天秤は、仕事を受けるべきかどうかで、カガリとユウナに対する義理と正義感、警護という仕事の半端じゃない面倒さに揺れている。報酬という重りが乗れば、天秤は仕事を受ける方に傾くかも知れない。
 ユウナは問われて、指を三本立てて見せた。
「聖戦士殿への活動拠点の提供。対価に相当するだけの資金や物資の提供」
 項目を上げる度にユウナの指が折り曲げられる。そして、最後の一本――
「そして、聖戦士殿と同じようなモビルスーツの情報」
「な!? 何だって!?」
「ちょっとだけ話すとね。太平洋上に所属不明の艦隊が出現したんだ。その件で、連合もZAFTも必死で確認を取ろうとしている。その情報が、オーブにも回ってきていてね」
 思わず反応したシンに、ユウナは平静を保ったまま、胸のポケットから数枚の写真を出してテーブルに並べた。
 シンは写真をひったくるように手に取って、そこに映し出された像に目をこらす。
「ブル・ベガー型オーラシップ……こっちはドラムロか? 間違いない、アの国の軍勢だ!」
 数隻のオーラシップを映した写真。その周囲には、ドラムロやビランビー等のオーラバトラーの姿も見える。
「こうしちゃいられない!」
 シンは、ダンバインの元へと走ろうと、椅子を蹴って立ち上がった。
 しかし、ユウナの一言がシンの足を止める。
「太平洋は広いよ?」
 シンは足を止め、焦りを露わにユウナを睨むように見た。
 シンにとっては、他の何よりも同胞が大事だ。シンの国はアの国なのだから。同胞がこの世界にいるならば、一刻も早く合流したい。それに、前の地上の時のように、地上の軍と戦いになる事もあるだろう。同胞達は一人でも多くの戦力を必要としてる筈だ。
 しかし、正確な場所がわからなければ合流など出来はしない。
 シンの焦りを見透かすようにユウナは小さく微笑み、勝負の始まりを告げるカジノのディーラーの様にシンに告げた。
「情報って言うのは、聖戦士殿の同胞の艦隊の位置。そして、そこまでの道案内も含めてだ。さて、出せる条件は全て出した。カガリのガードを引き受けてくれるかな?」
「無論、受ける!」
 シンは一も二もなく承諾する。他の選択など有り得ない。
 ユウナはそれを見越していたのだろう。当然の結果が出たとでも言うかのように平然としていた。
「ありがとう、聖戦士殿。カガリの事をよろしく頼むよ」
「だけど警護は仲間と合流の後で良いな? 今は一刻も早く、仲間と合流したい」
 さすがに、何時襲ってくるかも知れない誘拐犯を待って撃退してからというのでは遅すぎる。だから先に合流させろと言うシンに、ユウナは首を縦に振った。
「もちろんOKだよ。でも、警護については少し考えがあるんだ。ともかく、カガリとフレイお嬢様を呼ぼうか」
 ユウナはテーブルから立ち上がると、部屋に備え付けの電話を取り、インターホンをカガリの居る部屋へ繋ぐ。
「聖戦士殿とお話が終わったから、カガリも来てくれないかな? 大事な話があるんだ。もちろん、フレイさんも一緒に」
 言うべき事を言って、ユウナは電話を切った。
 ややあって部屋のドアが開き、そこにカガリが姿を現す。現したのだが……
「……な、なあ、ユウナ」
 カガリは顔を真っ赤に染めて、今にも泣き出しそうな顔をしていた。フレイは、そんなカガリの肩にしがみついて満面の笑みを浮かべている。
 二人の対比に嫌な予感が一気に押し寄せてくるシンが見守る中、カガリはこわごわといった様子でユウナに聞いた。
「結婚したら、○○を××しないとならないって本当か? その上、△△に□□とか……? 私は、結婚の決意はあるが、そんな恥ずかしい事は……」
 話していられなくなったのか俯いてプルプル震えながらモジモジしはじめたカガリに、全ての状況を悟ったシンはあまりの事態に蒼白になりながら叫んだ。
「フレイ! お前、何を吹き込んだぁ!?」

 
 

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