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赤い翼のデモンベイン07

Last-modified: 2013-12-22 (日) 20:07:59

 その希望が、その光が収まっていった時、全ての人は勝利を願った。



 其処には、光の盾で上半身を防いだ健在なる悪機が居た。



 ドンという衝撃のあと、アークエンジェルに残っていた左の主砲さえ、吹き飛んだ。



「ミリアリア、大丈夫か?

 ミリィ!?」

「トール、生きてた」

「ムラクモスペシャルで脱出した、アークエンジェルは?

 ローエングリンは───」



 だがその言葉に応えたのはミリアリアではなく、

「終わったね。

 もう打つ手なし。

 いやあ愉しい出し物だったねえ、心に迫ったよ。

 これだから人間を苛めるのはたまらない」

 悪意の具現そのものだった。



 全ての兵士があきらめた。

 全ての戦う意思が折れた。

 全ての手段を失った。



 もう───何も、何も残ってはいなかった。



 残ったモビルスーツをストライクフリーダムは平らげていく。

 兵士達は絶望に犯され、回避行動すらしない。



 一分も立たないうちに全てのモビルスーツは四肢を破壊され、ガラクタに替わった。



 いや、一機だけ、かつて悪夢に犯されていた少年が、絶望に反抗していた。

「我、埋葬にあたわず!」



 いくつにも枝分かれした閃光がフリーダムに迫るが、全て盾に防がれる。

 それでも、それでもキラは繰り返し続けた。



「いやあ頑張るねえ、キラ君。

 フラフラと流されてた君が、とても信じられないくらいだ。

 やっぱり愛かなあ、ふふ」



 戯言を無視して、あらゆる手段を持って攻め立てたが、ストライクフリーダムは、もはや銃を使うまでも無いと判断したか、 素手でストライクをサンドバックにした。

「ぐっ、あぐ、づ、がは」

 キラは衝撃にあちこちぶつかり、意識が朦朧となっていた。

 それでも、攻撃することをやめず、そして───



 ストライクは灰色の死に体となって、引き裂かれた。

「お疲れ様、キラ君。

 無駄な努力だったね」

 そう言って、邪神は嘲笑った。

 

 その断定を受けて、キラは怒りと共に言葉を吐き出した。

 まるで自分の口とは思えないほど、滑らかに、

 強い意志を持って言霊を吐き出した。

「嘲笑うのか……僕達の戦いを無意味なものと嘲笑うのか?

 だけど、今、僕達は勝てなくてもいい、僕が勝てなくてもいい。

 必ず次に繋がる。次の次に繋がる。貴方が邪悪を積み重ねても……

 邪悪を許さない正義もまた、積み重なっていくんだ」



「あははははは。

 面白い、面白いよキラ君、

 ああお腹が痛いとはこういうことかな、どうだいベルデュラボー君?

 何処かで聞いたような台詞だねえ、確か君が言ってたんだよねえ。

 これはあれかな、

 ……その台詞は1700回程聞いた、って返すべきかなあ。

 あははははは」



 そのキラの言葉を聞いて、ベルデュラボーは微笑った。

 なにをこの程度で弱気になっていたのか。

 たかが手の打ちようが無いくらいで、それがどうしたというのだ。

 こんな絶望、生温くて欠伸が出る。

 こんなものはあの無限に比べれば如何程のものだ。



 彼はマスターテリオンを生み出した邪神を見下ろす。

「僕は識っている。暗黒神話を討ち破った御伽噺を。

 神様ですら消せない、いのちの歌を。

 それは希望だ。世界を信じられるということだ。

 だから僕は威風堂々と、この名前を名乗る」



「我、堪え忍ばん(ペルデュラボー)と」



「へえ、この状況でまあ、吼えるものだね人間。

 けどチェックメイトだ。

 新しい繰り返しの初回にしては、とても面白かったよ。

 だけど、この繰り返しの中に君はいらないんだ、

 消えてもらうよ、ベルデュラボー」

「エセルドレーダ、最期の言葉にしては趣味が悪いが、

 付き合ってくれるか?」

「イエス、マスター、どこまでも」

 宇宙空間にあっても、大きく息を吸うと、誓句を思い浮かべる。

 これは召喚に非ず、一片の魔力も篭らぬただの言葉。

 真空では震うことなき空気の振動。

 いつかこの邪悪を倒すことができるという虚言。

 自らを騙す、偽りの誓いだった。

 無限の絶望を重ねた少年は、その優しい嘘を呟く。



「祈りの空より来たりて───」

 エセルドレーダは、自らの主を仰ぎ見る。

 なにかを悟ったのか、あきらめたのか。

 微笑をたたえると、彼女は誓句を紡ぐ。

「切なる叫びを胸に───」

 今、我等が死するとも、いつか必ず正義が果たされますように。



「君達の辞世の句にしては皮肉だけど、

 とても似合ってて洒落が聞いているねえ」



「「我らは明日への路を拓く」」



「大導師殿、ナコト写本。

 それじゃ名残惜しいけど、さよならだ」



 13の砲門が光を湛え、二人を消し飛ばさんと唸り。



「「汝、無垢なる翼───」」







「ドクター、このロボの設計図、前に言っていた名前と違ってるぜ、

 ここ”P”じゃなくて”B”になってる。

 これじゃデモん───どうしたハチ?

「何々、

 我は 無垢なる怒り───」







 沈黙するドミニオンのブリッジ、酷い損傷を受けたせいか、そこらで火花まで散っている。

 機関も停止し、予備電力の薄暗い電灯が明かりの全てだった。

「艦長、画面にヘンな文字が浮かんでいるんですが、これ何かの暗号ですか?」

「いえ、こんな暗号など聞いたこともありません」

「では謎の文ですか、勇ましくいいですね。

 もう一度奮い立ちたくなってきましたよ。

 我は 無垢なる怒り───

 我は 無垢なる憎悪───」

 床に投げ出され、頭に怪我を負ったミリアリアは見た。

 何者か分からない機動兵器と通信が繋がっているのを。

「艦長、この機体は、この名前の機体は連合にあるんですか」

「聞いたことがないわ、もしかしてベルデュラボーさんと関係があるのかしら」

「音声通信途絶、文章だけ送付してきました。

 我は 無垢なる怒り───

 我は 無垢なる憎悪───

 我は 無垢なる剣───」







 バッテリーが完全に尽き、もはや救難信号しか出せず、

 暗黒に閉ざされたストライクのディスプレイが目映く光る。

 動かす電力など一欠けらも無いのに、その文章は煌々と映し出された。

 キラは思わず読み上げた。

「我は 無垢なる怒り───

 我は 無垢なる憎悪───

 我は 無垢なる剣───

 我は ・・・・・・





 迫る閃光の中、ベルデュラボー達は聖句の最後を高らかに謳い上げた。



       デモンベイン

「「「───魔を断つ剣」」」







 フルバーストの閃光が収まったとき、そこには何者も────

 いないはずだった。

 そう居る筈が無いのに。



 ベルデュラボーは放心していた。

 ソレはいる筈の無いもの、自分達の元になんてくるはずない者。

 正義の具現。アーカムシティの守護神。

 人の子を守る絶対の盾、魔を滅ぼすもの。



 デモンベインが、眼前にいる───







つづく





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