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赤い翼のデモンベイン08

Last-modified: 2013-12-22 (日) 20:08:33

「馬鹿な、吾輩が設計図を間違うなど、ぶっちゃけアリエナーイのであーる」

「だって、ほらこれじゃDEMONBAINだぜ」

「ぬぬぬ、はて、これはおかしい。

 ヒプラニカシステム、第一近接昇華呪法レムリアインパクト?

 このような見知らぬ設計図、描いた覚えがないのである。

 右手には『我、埋葬にあたわず』を強化したものを搭載する予定のはず」

「じゃあ、この心臓部はデモンペインのものじゃないのか?」

「むむむ、思い返してみるとここ十日ほどの記憶が曖昧なのである。

 もしや吾輩も大いなる運命の輪に囚われていたのであるか!?」

「ドクター、柄じゃないってそういう真面目なの」



 工作キ○ガイ共の会話は果てしない。そこへ、

「博士、空間の揺らぎを確認したロボ」

「は、ナニをいってるのであるか、エルザ?」

「あれハチ、また、知らない言葉だしてるな、

 何々、虚数展開カタパルト起動、座標は───」



「のおおお、吾輩が苦心して組み上げた。

 最新の理論を具現した、デモンペインの心臓部があああ」

 そこにはゆらゆらと存在が消えかかっている、馬鹿でかい機械の部品。







「大十字九郎、アル・アジフ!」

 その呼びかけになんの返答を見せないデモンベイン。

 いや返答以前に術者の気配も魔道書の気配もない。

 否、もっと根源的なことを見落としている。

 そのデモンベインは心臓が無かった。

 自らの獅子の心臓を我が手で掴み取り、事切れていた。



 死せるものが、かつての怨敵を救いに来たとでも言うのか。

 くたびれた体を気にも留めず、ハッチをこじ開ける。

 その中にはヒトは影もカタチもなく。

 ただ、アラベスク模様に黒檀装丁の大冊が、眠りについていた。

 その魔道書を知らないわけが無い、忘れるわけが無い。

「ネクロノミコン───」

 その旧敵をナコト写本は宝物のように抱き留めた。

 エセルドレーダは魔道書の知識と記憶をかいま見る。

「さあ……デモンベイン。共に往こうか。

 それにしても……」

 囁いて……堪えた涙が、遂に零れ出す。

 ぽろぽろと。止め処なく。

「それにしても、独りで居るには此処は少々寒いなぁ……」

 泣きながら、微笑み続ける。

「……この旅の果てに、何処か暖かい場所に辿り着けると良いのだが」

 ───そして其処に、九郎が待っていてくれたら、

 どんなに素晴らしいことだろうな。

 九郎を想って、微笑み続ける。

 いつまでも、微笑み続ける───





「マスター。あの戦いの後、大十字九郎の意思に反し、アル・アジフは彼を元の世界へ、ヒトの住まう世界へ還したようです。

 本当に馬鹿な小娘、魔道書と主は一心同体だと言うのに───

 本当に愚かな───」

 けなすエセルドレーダの声音は、言ってることとは裏腹に、とても優しいものだった。



 ならば、何故、全ての戦いが終わったのなら、主がその体を休めたというなら、魔を断つ剣は応えたのか、ありえないことだ。



「デモンベインよ、何故、何故現れたのだ。

 何ゆえ、我等を、罪深き我等を貴公が救ったのだ!」 

 しかし、死せるものが応えるはずも無く、

 否───

 ただ数行、遺言だろうか、焼き付いたように映像に残っている文面がある

 我は 無垢なる怒り───

 我は 無垢なる憎悪───

 我は 無垢なる剣───

 我は ・・・・・・

 魔を滅ぼすものなり



 それがデモンベインの記した遺言だったのか、

 死して尚、主たちが休んで尚、デモンベインは戦っていた。

 否、戦おうとしていた。

 遍く三千世界に魔が居る限り、ヒトを悪路にさそう邪悪が消えぬ限り。

 デモンベインに安息は無いのだと、そう訴えていた。



 魔力を流す。デモンベイン自身の銀鍵守護神機関はもう使い物になるまい。

 ただ、術者の魔力のみでデモンベインを眠りから揺り起こす。

「応えよ、デモンベイン、汝は何を求める。

 もうよかろう、貴公も休んでよいのだ。

 貴公は誇り高き使命を果たし終えたのだ」



 だがデモンベインは、再び眠りにつこうとはしなかった。

 主たちが休んでたとしても、いや、ようやく安息を得た彼らをなお守ろうと。

 デモンベインは戦いの続行を望んでいた。



「そうか、貴公の意思を見届けさせてもらった、だが、良いのか

 我等でよいのか、貴公の敵であった者ぞ、幾度と無く貴公と戦い、

 互いを撃ち滅ぼさんとしてきた我等に操られて良いのか?」



 返答はただ一行。



 汝ら、無垢なる刃、魔を断つ剣なり



 と───



「然らば立て、デモンベイン。

 今一度邪悪を断つ剣となるために」



 デウスマキナを動かす術式を応用し、マリオネットのようにデモンベインを立ち上がらせるベルデュラボー。

 かつてマスターテリオンは、心臓の無いリベルレギスを操った事がある。

 その経験が役に立ったが、あの時とは違い、自分に還るような優位は無い。

 ただ死骸に糸をつけて、莫大な魔力を注ぎ込み動かしているだけだ。

 そんな状態では、他の魔術を組み上げるどころか、デモンベインの兵装すら動かしようがない。



 だが、ベルデュラボーは一片の不安も抱くことなく、魔を断つ剣に己が命運を賭ける。

 そうだ、これこそが最弱無敵のデウスマキナ、模造品を更に真似たガラクタ。

 あらゆる世界で唯一、神殺し足り得るヒトの希望だった。



 ギュオンと鈍い音をたて、かの忌まわしき邪神へデモンベインは振り返った。



「は、あは、あははははは、これは驚きだ!

 あのデモンベインが、あのデモンベインに背徳の獣が乗っているなんて、

 なんて悪い冗談だろう。予想外もここに極まれりだ。

 まさにデウス・エキス・マキナだ。

 物語を終わらせるべく現れた機械仕掛けの神。

 かつての仇敵に力を貸すなんて何処のコミックだい?」



「そうだ。これは物語だ。

 悪しき邪竜に苦しめられた人々が全てを賭け戦い、

 己の無力に祈りを捧げた時、燦然と現れる勇者の物語だ。

 無力だった戦士の祈り。戦士を想う残された者の祈り。

 我が子の活躍を願う父の祈り、我が子の無事を祈る母の祈り。

 子を奪われた母の嘆き、子を奪われた父の怒り。

 ちいさなヒトが願った、悪を打ち倒す英雄譚だ」

「カッコいいなあ大導師殿、本当に久しぶりだそんな君を見るのは。

 絶望に押しつぶされる前の君は、自らの運命を享受しなかった君はそんな瞳で僕の物語に挑んできたものだった。

 でも───

 君は大十字九郎ではない。大十時九郎にはなれない。

 そのデモンベインは大十字九郎とアル・アジフだけがその真価を発揮できるもの。

 まがい物のヒーローじゃあ無様に敗北するのがオチだよ」



「無様でよい。無粋でよい。貴様を打ち倒す意思が不屈であればよい。

 まがい物など望むところだ。

 今の僕は代理だ。眠りこけた探偵が戦い始めるまでのただの代理だ。

 それでいい、それで十分だ。

 それまで僕は自らを、まがい物の贖いの剣としよう」



 その返答に珍しく、ヒトのあらゆる営みを肯定し、嘲笑う邪神が怒りの表情を魅せた。

「不愉快だねえ、本当に苛立たしい。

 僕らの眷族として、ヨグ・ソトースの子として生れ落ちた呪われた獣。

 それが正義の味方を気取るなんて、詰まらな過ぎて笑えないよ」



 ベルデュラボーは笑った。それはかつて大十字九郎を憎んだ自分と同じ感情だからだ。

「うらやましいのだろう、邪神。妬ましいのであろう、混沌。

 貴様も正義の味方になってみたらどうだ、愉しいものだぞ」



 その挑発が邪神とガラクタの最後の戦いの始まりを告げた。







 続く



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