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戦後シン×ミーア_PHASE07

Last-modified: 2008-04-27 (日) 18:37:30

シンは、何から話していいのかも分からなかったが、思いつくまま話し始めた。

 

生まれはオーブである事。
オノゴロ島の戦闘で両親と妹を亡くした事。
両親の遺体は無く、妹は・・・・・・最期は腕だけになっていた事。
戦争を起こさないと公言していたオーブの首長が民を裏切った事に対して怒りにより、今もオーブを許せないで居る事。
戦争が憎くて、戦争を根絶やしにしたくてプラントに移住して、ZAFTに入った事。

 

「俺が戦争を止めてやるって、思ってた・・・・」

 

しかし、その為に使ったのはインパルス、デスティニーというMS。
振り上げたのは剣。

 

「俺が、戦争なんてやる奴ら全員殺せば・・・・・・・戦争なんて起きないんだって、本当に思ってたんだ」

 

再び起きた戦争も一時休戦となった。
2年前と何も変わらない。
ただ多くの人が死に、憎しみは絶えず、地球とプラント、ナチュラルとコーディネイターの間にはわだかまりが広がった。

 

きっと、戦争はまた起きる。

 

「俺はまだZAFTに居て、戦争が憎いって気持ちは消えてなくて、オーブの事もまだ・・・・正直許せなくて・・・・」

 

殺し合ったフリーダムのパイロットに会った。
あの時は、あの瞬間は、どうしてちゃんと人として知らなかったフリーダムを倒す事に
躍起になったんだろうと、己の盲目さを痛感した。

 

戦った相手を見て握手できる事があるのだと、あの時は思ったのだ。

 

しかし、プラントに戻り、プラントと地球の関係が未だ変わらず、地球がプラントを
一方的に糾弾している映像ばかりが流れるのを見るとやはり腹立たしく思う。

 

オーブの。
カガリ・ユラ・アスハが。
テレビモニタに映し出され、まるで自分は潔白で罪が無いと言わんばかりに平和を語る
と反吐が出そうになる。

 

急に善人になれと言われてなれる筈が無い。

 

状況が変わり今は政治的に戦争をしているというだけだ。
またいつこれが物理的な攻撃に変わるのか。
いや、いつ変わってもおかしくないのだ。

 

今は戦う兵士がいないから。
今は強力な武器、資金がないから。
だから戦争という形になっていないだけだ。

 

「きっと俺はまた戦争が始まれば戦場に立ってる。沢山の人を殺す事になる。
それでいいんだって・・・・気持ちもあるんだ」

 

でも、今すぐ宇宙に出る事は出来なかった。

 

恐怖とも違う。
この感情が何であるのかなんて簡単に口にする事は出来ない。

 

それでも何かの形に置き換えるなら、それはきっと「虚無」という名前に近いものにな
るのだろうとぼんやりと思う。

 

「俺にはZAFTしかなくて。戦うしかなくて。人を殺す事しか出来なくて。
・・・・今の俺は・・・・・人を殺しても戦争は消えないんだって・・・・知ってるのに・・・」

 

その続きの言葉は直ぐに出なかった。
一度は開きかけた唇を閉じ、窓の外の空を見る。

 

プラントの偽物の空。
偽物の雲。

 

まるで箱庭のようなプラント。

 

スケールの大きな玩具のような、世界。

 

その中心に自分は一人立ち、ただ空を見上げて。
手の中にあるのは「FAITH」という称号と、与えられたMS。
人殺しの自分。
遠い昔には想像もしなかった、血塗られた自分。

 

「・・・・・・それでも、俺は戦争が始まったら、戦うんだ。・・・死ぬまで」

 

もう今更戦争から目を背けて生きていくことなんて出来ないから。
MSを降りて、プラントの上で普通に生きていくなんて考えられないから。

 

この生き方に、矛盾を感じても。
間違っていると、どこかで分かっていても。

 

この生き方以外を選べない。

 

息を吐き出し、俯いて病室の床を見る。
プラントの淡い光で出来る影と光を見つめて立ち上がると、窓に近付き鍵を開けて窓を
開ける。

 

いつもであれば護衛の為全てを開く事は無いが、今だけは全開にする。

 

カーテンが大きくはためき、少し冷たい風が一気に病室に吹き込んできた。

 

大きく息を吸って。
大きく息を吐いて。

 

上手く笑えるか確認をしてから振り返ると。

 

ミーアが、無言で涙を流していた。
嗚咽すら漏らさなかった為ずっと気付く事が出来なくて。

 

一体いつから泣いていたのか分からない。
ただ、頬には既に乾いた涙があり、その上から新たな涙が次から次へと滑り落ちていく。

 

一瞬で解けた笑顔を再び貼り付け誤魔化そうかと考えるが、すぐにそれも無理だと気付
いてベッドに近付く。

 

「何でアンタが泣いてるんだよ・・・・」

 

俺は、別に。

 

こういう時どうすればいいんだろうとうろたえていると、今度こそミーアに手を取られた。
シンの左手が両手でしっかりと握られる。

 

彼女の両手は涙と汗に濡れていてひんやりと冷たかった。
下手な慰めの言葉を言われるくらいなら、何も言わないで欲しいと自分の中の冷静な
一部が思う。

 

同情をして欲しくて話した訳ではない。
ただ自分の中にあるもやもやとしたものを吐き出したかっただけで、それに対するミーアの
答えなんてシンには必要がないと思っていた。

 

何を言われても自分の生き方は変わらないから。

 

シンの手を、指先が白くなるまで強く握り締めてミーアは俯く。
肩が大きく震え、暫くすると漸く嗚咽の声が漏れた。

 

「・・・・・・」

 

ミーアが、小さく何かを呟いた。
何も言わないで欲しいという自分の願いは叶わないだろうとシンは確信し、
何かを言われる事でミーアとの距離が広がるだろう未来が簡単に想像出来た。

 

口先だけで語れる平和論なんて・・・・自分だって分かってる。

 

それでもミーアが次に何を言うのか、シンは待っていた。
少しは同情されたい気持ちがあるのだろう。
そんな自分にも嫌気が差すと、冷静さを徐々に取り戻していく中で。

 

ミーアが大きく息を吸って顔を上げた。

 

眉間に皺を寄せ、喋るために力んだ表情が少し滑稽に見えた。

 

「シン。・・・・ありがとう」

 

てっきり「もう戦わなくていい」とか「戦争は良くない」とか「仕方ない」とか。
そういう事を言われると思っていた。
ミーアはラクス・クラインを演じていた少女だ。
戦場に立つ人間を応援してきた少女の言葉だからと、シンは考えていた。

 

何でそんな事を言うのだろうと、その感謝の言葉はどういう意味なのだろうかと次の
言葉を待っていると、シンの考えに応えるようにミーアが再び口を開いた。

 

「シンのおかげで、あたし達、生きてるよ」

 

シンが、戦ってくれたから。

 

力一杯の感謝の言葉。
その言葉に偽りを感じられなくて。
彼女の心からの感謝を、感じた。

 

それは、昔言われたかった、言葉。

 

もしあのオノゴロ島で、自分に力があったら。
あの瞬間に戦場に立ち、家族を守れる事が出来ていたら。
父に、母に、妹に言われたかった、言葉。

 

力を得てから何度も夢見た、自分だけの御伽噺。

 

自分が戦う、本当の理由。
もう、あの時のように無力な自分を痛感したくないから。
常に力を持っていたい。

 

シンの眉間に皺が寄った。
奥歯を強く噛み締め、込み上げる感情を堪えようと食いしばる。

 

それでも、それでも。
堪えても・・・涙が溢れて来た。

 

虚勢を張り続ける事が出来なくて頭を垂れると、その頭をミーアが包み込むように引き
寄せた。
シンはミーアの手を指を絡めるように握りかえると、空いた右手でしがみ付くように
彼女の腰辺りの寝間着を握り締めた。

 

「うっ・・・あ・・・・あぁ・・・・・・・!!」

 

溢れ出る激情が何かシンには分からない。
何故涙が流れるのか。
叫びたいのか。
理由は分からない。

 

ただ自分の中の緊張の糸が、ふわりと緩んだ気がした。
張り詰めていたモノが無くなって。
心が真綿のような柔らかなものに包まれたような気がした。

 

暫く思い切り泣いて。
声も出ず涙の余韻に浸る頃、ミーアの歌声がシンの耳に届いた。

 

彼女がいつから謳っていたのか分からない。
シンが気付いた時には彼女の歌が体の中に染み込んでいた。

 

謳われている曲は聴いた事がある。

 

ラクス・クラインの「水の証」。

 

優しい歌声に、シンはうっとりと目を閉じて聴き入る。
右肩をミーアはゆっくりと擦って、何度も擦って謳っていた。

 

平和を求める歌。
いつか争いが終わり、安息の地を得られるのだという希望を持った歌。

 

他力本願にも思える歌詞だったが、歌に乗せられるととても心地良い音ばかりが並べら
れているように思えた。
ミーアがシンの為に謳っているからそう響くのか。

 

どちらにせよ、ラクス・クラインが謳った歌とは違う。

 

ミーアの歌声を、シンは選んだ。

 

ミーアが謳う中、シンは彼女と繋ぎあった左手に僅かに力を篭める。
直ぐに力を抜き、力を篭め、力を抜き、を繰り返す。
するとミーアもシンに応えて手を握り返してきた。

 

たったそれだけの事が嬉しかった。

 

何度か繰り返し、ミーアの歌が終わった事をきっかけにしてシンは涙を拭うと顔を上げた。
泣いた顔を晒すのだ。
気恥ずかしい気持ちはある。

 

しかし、それ以上に嬉しい気持ちが勝ってシンはミーアを見て笑った。

 

ミーアの涙を親指の腹で拭って。
心を篭めて。

 

「ありがとう」
「・・・・・どういたしまして?」

 

「抱き締めてもいいかな・・・?」
「・・・へ!?」
「感謝してるから・・・・抱き締めたいんだ」

 

驚いたミーアに苦笑して。
そんな深い意味は無いんだと伝えると、ミーアは納得したのか笑顔で頷く。

 

絡めた指を解き、一歩分、ミーアとの距離を縮めるとベッドに腰掛けて大きく手を広げると、
ミーアの体を抱き寄せた。

 

窓をずっと開けっ放しにしていたからミーアの体は冷え切っていた。
シンは声を出して泣いていたという事もあって寒さを感じていなかったが、ミーアは動かなかった分だけ冷えてしまったようだ。
それなのにずっと堪えてくれていたんだと気付いて抱き寄せる腕に力を篭めて更に大きくミーアを包み込む。
ミーアに体温を分け与えるように。

 

おずおずと、ミーアの手がシンの背に回された。
ミーアはこういう行為に慣れていないのか、どこに手を置けばいいのか迷っているようだった。
背に回したとはいえ殆ど力は篭められておらず、気持ち程度触れているだけだ。

 

抱擁に慣れていないんだと分かると、それだけでシンは可笑しくなる。

 

シンを癒した歌声はしっかりしていたのに。
抱擁になると自信を失くしたかのように控えめなものになる。
本来抱擁とは此処まで長い時間の物ではない事に気付いていないのだから、実は内心では緊張しているのではないかと思えた。
そのギャップが何故か、本当に理由は分からないのだが嬉しくなって。

 

そしてシンは。

 

ミーアを守りたいと、思った。