Top > 戦後シン×ミーア_PHASE08
HTML convert time to 0.006 sec.


戦後シン×ミーア_PHASE08

Last-modified: 2008-04-27 (日) 18:39:22

シンは翌日花を一本買ってから病室に向かった。

 

女性に花を送るなど、母の誕生日以来でどんな花を選べばいいのか分からなかったが、
何も無い病室には色があった方がいいと思えたのだ。

 

花の名前はよく知らない。
花屋に入って適当に決めようと思っていたら、案外種類が多くて迷ってしまい、
結局オレンジ色の薔薇を選んだ。

 

入院中の人に上げるのだと伝えたら切花よりも鉢植えの方がいいと言われて驚いた。
オーブでは鉢植えの方が縁起が悪いといわれていたのだが、プラントでは切花は直ぐに
枯れてしまう事が命の終わりを示唆しているようで縁起が悪いという考え方なのだ。
ものは考えようとはよく言ったものだとシンは思ったが、悩んだ末、結局切花を選んだ。
ミーアはプラント出身の為彼女の常識に合わせるのならば鉢植えの方がいいのだろうが、
一つの花がずっとあるよりも、枯れてしまった時に別の花に変えた方が気が紛れる
ように思ったのだ。

 

彼女があとどれ位入院の必要があるのかシンにも分からなかったから。

 

シンが真剣に悩んで一輪を選んだため、店員も気を遣ってくれたのだろう。
丁寧にラッピングされ、更に水色のリボンまでつけて貰えたのを見た時、少し複雑な
心境になった。

 

一体この店員は俺が誰に渡すつもりで作業してるんだろう・・・・。

 

勿論、それを尋ねるのはおかしな事なのでシンも何も言わずに花を受け取ると病院に向かった。

 

ミーアにも何て言われるだろう・・・・・。

 

突然の行為に笑われそうで、買ってから病院に到着するまでの間、後悔を繰り返す。
(その前に花はどんな風に持って歩けばいいんだろうと真剣に悩んだが、結局普通どおりに歩く事にした)

 

余計な事をしてるかもしれない。
昨日、泣いた事への誤魔化しのように感じられるかもしれない。
(いや、少しはそういう気持ちはあるが)
感謝以上の感情を意識されるかもしれない。

 

いやいやいやいやいや・・・・。

 

流石にそれは自分の考えすぎかもしれないと恥ずかしくなりながらノックをし、病室の扉を開ける。

 

「おはようございます。シン・アスカです」
「あ、・・・シン」

 

いつも通り入り口で敬礼してから中に入ると、少しうとうとしていたミーアがはっと気付いて目覚めてシンを見る。

 

「・・・寝てたのか?」
「うん・・・。おはよう」

 

近付いて来たシンが花を持っている事に気付く。
綺麗なリボンまでつけている一輪の薔薇にミーアは小首を傾げた。
シンもミーアの視線を辿り、薔薇を持っていた事を思い出して少し唇を尖らせて口を
開いた。

 

「・・・・・花くらい、あった方がいいと思って・・・・」

 

色々と渡す時の言葉を考えていたのだが、結局訳が分からない言い訳じみた物になる。
思わず視線を外してしまうと、ミーアからの返答が無い。

 

一体何なんだとシンは沈黙に負けてミーアに視線を戻すと、きょとんとした表情を
見せていた。

 

「な、なんだよ」
「え?」

 

ミーアの反応の意味が分からないシンが更に口を尖らせると、ミーアは僅かに首を傾げる。
話が分かっていないようだ。

 

「あの・・・・」
「シン?」
「・・・・・これ、・・・・俺が買って来たんだよ」
「そうなんだ。誰にあげるの?」

 

・・・・・・・っ!!!

 

シンが顔を真っ赤にし、息を呑む。
怒ったような反応にミーアはそこで初めて自分にと、シンが買って来てくれたのだと気付く。

 

「え!?あ、あたしに!?」
「他に誰が居るんだよ!!」
「・・・・えっと・・・・病院に綺麗な人が居たとか・・・・?」

 

このフロア以外動いた事がないミーアには階下がどうなっているのか分からない。
どれくらいの規模の病院なのかは窓からの景色で何となく分かるが、
此処が何階の病室なのかもミーアは知らなかった。

 

大きな病院であれば綺麗な女の人だって居る事だろう。

 

シンは心臓を鷲掴みにされたような気分になって奥歯を噛み締める。
昨日の感謝の気持ちだと勘違いされないかと先程まで心配していた自分が馬鹿みたいに感じた。

 

どうしてこんなに胸がぎりぎり痛いんだろう。

 

無性に悔しくなって背を向ける。

 

「いらないなら・・・・いい」

 

ゴミ箱にでも捨ててやる。

 

ゴミ箱目指して歩き始めたシンにミーアも気付いて慌てて声を上げる。

 

「ごめんね!貰う!貰うから!」
「いいよ!」

 

自棄になってゴミ箱の前に立った時、背後で大きな物音がした。
驚いて振り返るとミーアがベッドの脇の椅子にぶつかってから落ちたのか、椅子が変な
方向を向いていて、床にはミーアが倒れていた。
これには流石にぞっとしてシンが駆け寄ると、ミーアは痛みに顔を歪めている。
薔薇を放り出して椅子を動かすと、ミーアを抱き上げる。

 

「おい!・・・おい!」
「ごめんね・・・?」

 

シンに抱き上げられた事で気がついたミーアがシンを見上げて謝罪する。

 

「・・・・・此処までする事ないだろ!」
「此処までしないと止めてくれないでしょ!」

 

まさか大声で怒られると思っていなかったシンは、うっと言葉に詰まる。
しかし、直ぐにそっぽを向く。
言い返したいが、自分が強引な事をしたのも確かなので何も言えない。

 

「気付かなかったのは本当にごめんなさい。・・・・でも、それで花を捨てるのはいけないと思う。
シンはずっと地球に居たって言うから知らないかもしれないけど、
プラントで切花って高いんだから!」
「・・・・は?」

 

なんだか怒っている方向が違うような気がすると、シンは呆気に取られて思わず聞き返すと、
ミーアは怒ったままで話を進める。

 

「プラントでは道端の花も摘んじゃいけないのは知ってるでしょ?プラントで道端に花が咲くってすごい事なんだから」

 

生き物一つ育てる事が難しいプラントで、切花一つ捨てるのがいかに酷い事か。

 

言われて。

 

シンはぐっと声を詰まらせてからゆっくりと息を吐き、頭を垂れ、ミーアの肩に頭を乗せる。

 

「・・・・ごめん」
「あたしも、ごめんね」
「・・・・・・俺、あんたの護衛なんだけどな・・・・・・」

 

ベッドから落ちるなんて反則だ。

 

情けないと弱音を吐きそうになるが、直ぐに気を取り直して顔を上げ、
ミーアを抱き上げてベッドに戻す。
ミーアも手伝ってシーツをかけると、ミーアが「お花、頂戴」と、手を伸ばす。

 

思い出して放り投げた薔薇を拾うとミーアに渡し、椅子を戻して腰掛ける。

 

「ありがとう。オレンジの薔薇・・・・・。どういう意味なのかな?」
「・・・・花言葉とかだったら俺知らないよ」
「あたしも。そんなに詳しくないなぁ」

 

嬉しそうに、じっと薔薇から目を放さずミーアが笑っている姿を見ると、
それだけでシンも嬉しくなった。

 

暫く薔薇を見つめていたミーアがふと、眉を顰めた。
その変化に気付いたシンも少しだけ首を傾げる。

 

「どうかしたのか?」
「・・・・・え・・・・。あ、うん・・・・。だ、大丈夫」

 

戸惑った返事はどう考えても「大丈夫」には聴こえない。
シンは明らかに眉を顰めると、咎める視線をミーアに向ける。

 

「大丈夫じゃ、ないだろ」

 

強く断言すると、ミーアは更に動揺して困ったように笑うと、
恥ずかしそうに俯いて口を開いた。

 

「思い出せないなぁ・・・って、思って。前に月でアスランに貰った花の色が、思い出せないの。この間は思い出せたのにな・・・。
その前にコンサートで貰った花の色はピンク色が中心だったなぁって思い出せるのに・・・・。
で、でもまた暫くしたら思い出せると思う!」

 

でも、今日貰った薔薇の色、忘れたら、ごめんね。
悲しみを堪えた笑顔で謝罪され、シンは思い出す。
これまでミーアは過去の事、記憶の事に付いて何も言わなかったから。

 

医師の報告は毎日のように受けていたため、カウンセリング中の話を聴く事はあっても
その時のミーアの様子までは特に気に掛けた事が無かった。
まるで記憶が消えてしまう事など自分は気にしていないと振舞おうとするミーアに、
シンは無言で立ち上がった。

 

「シン?」
「・・・・・良く考えたら花瓶が無かった。買ってくる」
「うん」

 

時間を確認して医師や看護士がやってこない時間である事を確認すると、
シンは鍵を掛けて病室を出ると、院内にある小さな店に向かう。
病院内で必要そうな物は大抵揃っている。
勿論、花瓶も此処に売られている事をシンは知っていた。

 

購入する物は花瓶も勿論だが、店内をざっと見渡して他にも必要な物を集める。
帰り道は携帯である場所に電話をしながら戻る。

 

ミーアはてっきり花瓶のみ買ってくるかと思っていたので、ベッドの上のテーブルに
色々物が置かれていく事に驚く。

 

「これは・・・・・?」
「日記帳。・・・・・・・・忘れたくなければ、書いて置かばいいだろ。それと・・・」

 

シンは自分の携帯付属のカメラを構えてミーアと薔薇を一緒に撮影する。

 

「へ!?」
「俺が撮るなら、写真は撮って良いって上に連絡したから」

 

カメラをミーアに渡す事は出来ないが、ミーアの代わりに撮影する事は出来る。

 

これで今日の薔薇の色をミーアは忘れない。

 

シンの言葉の裏に隠された意味に、ミーアはくしゃりと顔を顰め、嬉しそうに、困ったように笑った。
一瞬泣かれるかと思ったが、それは堪えたようだ。

 

ミーアは替わりに掠れた声で小さく「ありがとう」と、搾り出すように呟き、
シンはその表情がとても可愛らしく思えて、もう一度、写真に収めた。