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第一話 軍法会議にて。

Last-modified: 2017-08-22 (火) 08:43:40

「判決、被告を敵前逃亡、並びに利敵行為の罪状により、本日12:00、銃殺刑に処す」
壇上の男がそう言い放った瞬間、その法廷、つまりルナツー第4会議室は悲痛な空気に包まれる。
肩を落とす者、すすり泣く女性、理不尽さに怒りを震わせる者、そこにいる誰もが
その判決を受け入れられずにいた。そう、判決を読み終えた裁判長さえも・・・

 

「ふざけんじゃねぇぞワッケイン!!」
傍聴席の隅から壇上に向けて絶叫が飛ぶ、若い男の声。
「なんだその判決は!結論ありきじゃねぇか、認められるかそんなもん!!」
周囲の者に取り押さえられながらもさらに吠える。
その基地の司令官に、また軍法会議の裁判長に対する暴言、本来なら被告とまとめて
銃殺刑でも不思議ではないその絶叫も、誰も咎めはしない。

 

「馬鹿かお前は!!!」
咎められた・・・死刑判決を受けた被告本人に。
「場所をわきまえろ!そもそも誰にそんな口をきいておるか、ジャック・フィリップス軍曹!!」
前を向いたまま、後ろの愛弟子を叱りつける。被告人ヒデキ・サメジマ中尉。
ため息をつき、裁判長に向き直った彼はこうフォローする。
「申し訳ありません指令、いかんせんまだまだ子供のようです、もう少し厳しく躾けるべきでした、
非は上官たる私にあります、彼には寛大な・・・」
「かまわんよ、本当のことだ。」
そのワッケインの発言に会場がどよめき、そして悟る。
この軍法会議は彼より上からの結論ありきで降りてきた「儀式」なのだと。

 
 

宇宙世紀0079、この年初頭に勃発した独立戦争は、年半ばまで独立側、つまりジオン公国に
有利に展開してきた。
モビルスーツ・ザクを初めとする様々な新兵器、独立という高い国民意識を掲げた意思統一
そしてコロニー落としに代表される容赦ない攻勢、連邦軍が各所で敗走を続ける中
このルナツー基地だけは基地としての体裁を保ち、その勢力を維持してきた。
それは地球を挟んでジオンと正反対の位置にあるという立地が大きかったが、
その基地内の人間のたゆまぬ努力の成果でもあった。

 

その中にあって、その男、ヒデキ・サメジマの名前を知らぬ者は無かった。
強靱そうな肉体と人当たりの良い陽気な性格、そしてあらゆる事柄に高いモチベーションと
行動力を持って、多くの者に慕われてきた好漢、若者たちは彼を「サメジマの兄貴」と呼んでいた。

 

コロニー落としで家族全てを失い、絶望と憎悪に塗りつぶされていた若者ジャック・フィリップスも
彼に救われた一人だった。
「・・・隊長、サメジマの兄貴・・・すいません、俺が、俺がよけいなことをしたばっかりに・・・」
両脇を抱えられたまま、下を向いてぼろぼろと涙をこぼながらそう話すジャック。
「なんでお前のせいになるんだよ、馬鹿言ってんじゃねぇ、指揮官は俺だぞ。」
「でも、俺が・・・あんなペイントしてなけりゃ、こんな事には・・・」
「それを許可したのも俺だ、いやむしろ嬉々として推奨してたじゃねぇか、
気にするな、責任は誰かがとらにゃならねぇ、いつかお前にもその番が来る、それが組織ってもんだ。」
上半身を後ろに向けて、笑顔で答えるサメジマ。そこには、いつもの「兄貴」がいた。
これから処刑される男の小ささや儚さは微塵も感じさせない、頼もしさをオーラのように纏った男。

 

それは2時間後、その命を失うまで、微塵も欠けることは無かった。

 
 

MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」
第一話 軍法会議にて。

 
 

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