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第九話「ユニウスセブン」

Last-modified: 2014-03-11 (火) 13:22:57

デブリベルト、ユニウス・セブン―――かつては砂浜だったであろう凍てついた波打ちぎわで、ミリアリアは両手一杯に抱えた折り紙の花を投げた。
減圧で沸騰した形のまま凍りついた海の上に、小さな花々が舞った。

 

アルテミスへの寄港を断念したアークエンジェルは、「補給」―――悪く言えば墓荒らし――のため、デブリベルトへと立ち寄っていた。
そして「補給」の最中に崩壊したユニウス・セブンを発見したのである。

 

黙祷を捧げながら、ハルトは先程みた光景を思い出していた。
納屋だったらしい建物のドアを開けた途端、一つの浮遊物が目に入った。それは、子供を庇うように胸に抱き、背を丸めた母親の無残な亡骸だった。
それを見た途端、ハルトは思わず一歩後ずさっていた。失礼だと分かっていても。

 

作業が始まる。ハルトはキラのストライクと共にアドヴァンスで付近の宙域を哨戒しながら、切り取った氷の塊や弾薬を運ぶポッドを見守っていた。

 

突然警戒警報が鳴り響いた。ハルトはモニターを見直す。
デブリの向こうで何か動いた物があった。モビルスーツだ。
コンピューターが機種を特定する。強行偵察型のジンのようだ。

 

「キラ、ポッドの護衛頼む。」
<へ?>

 

キラにポッドの護衛を頼み、ジンに近づく。そして射程圏内に入ると、スモークグレネードを発射した。
電波攪乱作用のあるスモークとチャフがジンのレーダー、肉眼の両方を封じる。
赤外線センサーを起動させ、スモークの中に突っ込む。アドヴァンスのレーダーと通信機器も使用不能に陥るが、こちらはまだ見えている。
ジンに向かいワイヤーシューターを射出する。ワイヤーはスモークに戸惑っているジンにあっさり絡みつく。
一瞬躊躇った後、電流を流す。ジンのパイロットの断末魔が聞こえたような気もしたが、気のせいだろう。

 

「…やっぱ死者の前で人を殺すのは…いい気分じゃないな…」
さっき躊躇ったのはパイロットを殺すからではない。死者の前で殺すからだ。
スモークで死者からも見えなければいい。
そんな事を考えながら、ハルトはワイヤーが絡みついたジンごとスモークの外に出た。

 

<アドヴァンス、何があった…>
アークエンジェルからの通信が入る。いきなりの通信断絶のせいだろう。
「…強行偵察型のジンを確認。機能を停止させました。」
淡々と事実を告げ、そのままジンをデブリの陰まで引っ張っていく。
中で死亡しているであろうパイロットを何とかしなければならないからだ。

 

「…ハルト…」
ストライクのコクピットの中、キラは一人呟いた。
ハルトは変わった。
先程のハルトのアークエンジェルへの通信には、人を殺したというのにほとんど感情がこもっていなかった。
まるでただ作業を終えただけかのような口調だった。
少なくともヘリオポリスでの彼はそんな事はなかった。そんな事を考えていると、電子音がなった。
「まだ敵がいたのか!?」
だが、今度モニターに映っていたのは、敵の機影ではなかった。

 

「つくづく君は、落とし物を拾うのが好きなようだな。」
ナタルが苦々しさとほんの少し諦めが混ざった声で言った。キラは憮然として答えない。
ハルトがジンを引っ張って帰ってきた後、今度はキラがまた救命ボートを曳航してきた。
ちなみに、ハルトが捕獲したジンは整備士曰わく電気系統を直せば使えるらしい。
マードックの「開けますぜ」という声を聞いて、今までジンの方を見ていたハルトもボートの方を向いた。
ハッチがかすかな音を立てて開いた。周囲に待機していた兵士達が銃を構える。出てきたのは――
<ハロ、ハロ…>
間抜けな声を上げるピンク色をしたボール状の物体だった。ペット用のロボットらしい。
「ありがとう、ご苦労様です。」
続いて愛らしい声と共にハッチから出てきたのは、ピンク色の髪をした少女だった。

 

「…ふぅ。」
アークエンジェル内のトイレ。ハルトは顔を洗い終え、何となくため息をつく。
あの後、トールに士官室へ立ち聞きにいかないかと誘われた
――というより首根っこをつかまれるようにしてつき合わされそうになったが、適当な言い訳をして逃れた。
それですることもないのでとりあえず顔を洗いに来たのだ。
(どうもあのナタルって小尉は苦手なんだよな…)
ナタルはハルトが苦手とするタイプだ。あの人の怒りはかいたくない。
ふと鏡を見て、ハルトは目を見開いた。
「やっぱ俺…変わったのか?」
キラからも言われていたが、自分の顔が何となく変わった気がする。
具体的には言い表しにくいが、自分でも何となく目に変化があるように思える。
「いや、気のせいか。」
所詮自分じゃ分からないことと割り切り、食堂へと向かった。

 
 

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