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第三話 青い閃光

Last-modified: 2017-08-22 (火) 21:28:19

「そんじゃ6時間後に出発だ、準備が出来たらよく休んでおけよ。」
サメジマにそう言われ、自室に引っ込む彼を見送って、ジャックは思う。
休めと言われても気分が高揚して寝られそうに無い、それでなんとか寝付いて
寝過ごしたら大事だ。
とはいえ準備は全て済んでいる、それは小隊はもとより母艦のサラミスの搭乗員全員がそうだった。
地球軌道周辺のパトロール任務、定期的な任務のため支度はルーチンワーク的に行われる。
今更特別なことがあるわけでもない。

 

つまりヒマだ。

 

母艦に搭載されている愛機ボールを見上げる、サラミスの主砲部を取っ払ってボールの架台を装着した艦、
まさか兄貴のあの案が採用されるとは、何事も常識にとらわれずに言ってみるもんだ。
しかし異形ともいえる主砲無しの巡洋艦に比べて、何かが物足りない、
そう、ボールがあまりにも普通すぎるのだ。もちろん開発当初に比べれば十分なバージョンアップは果たしているし
兄貴の注文に応じてガン・カメラやアクティブスラスター、内部のCPUには敵戦艦やモビルスーツのデータと
それに対応した照準システムを備えた、この「オハイオ小隊」スペシャルのボール。
しかしそれにしては外見があまりにも寂しい、このボールなら何か特別を感じさせる外観があってもいいはずだ。

 

・・・待てよ、兄貴の「サメジマ」って名前、確か日本語で「shark islaid」っていう意味だったな。
海洋生物の中で最も危険な魚、古来の戦闘機にはエンブレムやペイントにも使われた生物・・・
彼の中であるアイデアがひらめいた、メカニックの彼が最も得意としていた仕事のひとつ。
「あと6時間・・・間に合うか?」
疑問を口にしながらも行動に出るジャック、生き死にを賭ける戦場への初出撃前、
思い立ったことはなんでもやっておいて損は無い、後悔という損は。

 

艦周辺のドックにサイレンが鳴る、発進30分前、各人員が慌ただしく行動を開始する。
サメジマやエディも自室から起き出して、ノーマルスーツとヘルメットを小脇に抱え、愛機に乗り込・・・

 

「なんじゃこりゃあぁぁぁっ!」
思わず絶叫するサメジマ、事情を知っている周囲の人員がくすくす笑う。さすが兄貴、いいリアクションだ。
彼らが乗る3機のボールには、その正面にデカデカとサメの顔がペイントしてあった。
一見凶悪そうな、しかしよく見ると愛嬌もあるその面構えにサメジマは大笑いし、エディは頭を抱える。
「お前の仕業・・・以外にありえんか、ジャック。」
未だ作業着で、全身にスプレーの吹き返しでカラフルに染まったジャックを見て言う。
「気に入らなければ剥がせますよ、ものの3分で。」
正確にはペイントシール、極薄のフイルムをボールに貼り付け、その上にペイントする。
ボールの形状に合わせた修正プログラムを組み、元絵をインストールしてペイント構成を決める
かつてサイド2でメカニックの師匠に教えて貰ったペイント方法、普通は自家用車に使うモノだが
兵器に使うのは多分初めてだろう。

 

「ダメだダメだ、はがすなよ絶対!これ俺たちの専用ペイントに採用決定だ!」
絶賛するサメジマ、最初の「ダメだ」が不採用で無いことにため息をつくエディ、周囲に拍手と口笛が鳴り響く。

 
 

「サラミス級シルバー・シンプソン、発艦!」
艦長の号令一下、1隻のパトロール艦がルナツーを起つ、所属のオハイオ小隊と共に。
ジャックにとっては最初の、サメジマにとっては最後の出撃に・・・。

 

会敵は意外に早く訪れた。地球軌道を周回しはじめてまもなく、ジオン軍の補給艦を捕らえるサラミス。
おそらく連邦軍の裏をかくためにあえてルナツーに近い宙域を航路に選んだのだろう、だが
狙いは良かったが運は無かった。本来ならミノフスキー粒子によって隠密行動がかなったのかもしれないが
丁度その航路上でパトロール艦と鉢合わせては意味が無い。
「敵艦捕捉!オハイオ小隊はすみやかに配置に付け!」
艦内にサイレンとアナウンスが鳴り響く、その中をノーマルスーツを装着しヘルメットを抱えた3名が
愛機に向かう、サメジマ以下2名。
ボールのハッチは宇宙船外にある。本来は主砲のメンテナンスのためのハッチから外に出る3人
ボールにつながるワイヤーを取り、自分の体を愛機に引き寄せる。ただ今日はいつもと違い
その愛機には勇ましい、そしてちょっと愛嬌のあるペイントがある。思わずニヤけるサメジマ。
古来よりこういうペイントは決して遊び心だけではない、搭乗者の士気を上げ、敵の戦意を削ぐ
その効果に一番便乗しているのがほかならぬサメジマ隊長だった。

 

「敵補給艦、定期急行便、エスコート無し・・・カモだ!」
ボールに乗り込み、敵輸送船をレーダーに捕らえながらそううそぶくサメジマ。
シャークマスクに当てられたか、ワルっぽい口調で状況を復唱する。そんないつもと違う隊長の口ぶりに
ジャックはノリがいいなぁ、と苦笑い。

 

しかしサメジマには別の真意があリ、エディもそれを理解していた。おそらくこの戦闘はほぼ
一方的な虐殺になる。そんな殺戮に初陣のジャックが付いてこられるか一抹の不安があった。
目前の補給艦は地球に進行したジオン軍が、占領下から略奪した物資や鉱物等をジオン本国に持ち帰るための部隊、
当然逃がすわけにはいかない、連邦にとって彼らは地球という家に押し入った強盗であり、持ち去られた物資は
やがて自分たちを攻撃する兵器や兵士の腹の足しになるのだ。

 

少し前なら威嚇攻撃で投降させ、拿捕するという戦法もとれただろう、輸送船の武装などたかが知れている
しかし今はモビルスーツがある、もしあの輸送船にザクが多数搭載されていたなら、たちまち立場は逆転する、
非情なようだが、初弾で致命傷を与え、モビルスーツを使う前に撃沈せしめる、それが自分たちを殺さない最良の作戦。
しかしボール1機に人員は1人、敵補給艦には100人前後もの人員が詰めている、だからこの戦闘は少数による大量虐殺になる
もし自分がそんな躊躇を見せれば、部下の士気にも影響する。特に初陣のジャックには。

 
 

「オハイオ小隊、出撃する!ブリッジ、舫いを解け!!」
その声を合図にサラミスから打ち出される3機のサメ顔ボール、顎は放たれた。
敵モビルスーツが発艦する前に初弾を打ち込めるかが勝負だ、迷わず一直線に輸送船に突入する。
それを知った輸送船は散開行動を取る、すなわちモビルスーツを搭載していないか、もしくは発進準備が出来ていない証拠、
サメジマは、そしてエディはこの戦闘の勝利を確信した、あとはあの坊やに引き金を引けるかだ。
彼を誘導するべく、サメジマはさらに芝居がかった口調で続ける。
「ふっ!散ったか、手遅れだ、ルナツーに近づきすぎた罪は重い!!」
照準器が輸送船を捕らえる、初段命中疑いなし!

 

その瞬間、サメジマのモニターに光の線が走った、エディやジャックのモニターにも同様に。
高速で、とてつもない高速で何かが機動している。ミサイル?いや違う。それは意思を持って
縦横無尽に動き回っていた、サメジマの背中に冷や汗が走る、ザクか?
すでに発艦してこちらを引き込んで迎撃するつもりか!・・・それも違う、それにしては輸送船を危険にさらしすぎる。
そこで思考を中断し、ザク用に開発した照準システムを起動する、詮索は後だ、とにかくザクを倒すことが最優先だ。
ザクの速力、姿勢により移動しようとする方向を追尾するようにプログラムされた照準が敵モビルスーツを捕らえる
が、ロックオンしたその瞬間、敵はすさまじい加速でその照準をぶっちぎる。こいつは・・・ザクじゃない!
「な、なんだ!?」
「まさか・・・ジオンの新型モビルスーツか!」
その青い閃光はすさまじい速力で機動し、ボールを翻弄する。相手も3機、しかし速力は完全にウサギとカメだった
勝ち目は無い、サメジマとエディはすぐさま悟った、この戦の敗北と、次に成すべきコトを。
「隊長!母艦を狙われる恐れが!」
「分かっている、撤退するぞ!!」
エディの声にサメジマが応える、そして合流、幸い初陣のジャックもこの状況に遅れずに集結できた。
3機は一目散にサラミスに向かう。敗走では無い、戦略的撤退。敵と味方の戦力差を見れば当然のことだし
母艦のサラミスを落とされるわけにはいかない、オハイオ小隊は3人だが、サラミスには120人から乗っているのだ。
加えてあれが敵の新型モビルスーツなら、この映像は貴重な資料となる。解析し、新たな対抗兵器やシステムを確立する
その為にも彼らはなんとしても生きて帰還する必要があったのだ。

 

「ようお疲れ。どうだった?戦場は。」
サラミス艦内の休憩室、サメジマの声に応える余裕も無く、青い顔で震えているジャック。
無理も無い、戦場は楽勝から絶対絶命へと急転直下した舞台、新型モビルスーツに殺される恐怖心に襲われ
仲間の足を引っ張らないようにするのが精一杯だっただろう。
「さぁて、帰ったら忙しくなるぞ。あの機体の分析して対応策を練らなきゃな。」
そう声をかけ、彼にドリンクを手渡す。自室に引っ込むサメジマはしかし、ひとつの疑問を振り払えないでいた。

 

−なぜだ、なぜあの速力の差で、俺たちは逃げおおせたー

 
 

第二話 軍人の言葉 【戻】 第四話 英雄退場

 

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