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第四話 『敵と味方』

Last-modified: 2014-03-06 (木) 19:45:42

ゴミ溜の宇宙(うみ)で
――敵と味方――

 

「あれ、副長。艦長は?」
「自分が承ります。――今日は月曜ですので定例艦長会であります。少佐殿」
 デブリ帯の縁、カエサル以下第201特務艦隊の艦艇5隻は未だ動かずにとどまっている。
「平和なモンだな、チューブ伸ばして会議してるとかさ。緊張感というか何つーか」
「停戦合意が得られた以上、いろいろ言いたい事はあるでしょうが、今は平時であります故」

 

「……だが俺たちの目標、デブリの中の連中はまだ戦争中だ!」
「功を焦る気持ちはわかります。――だがね、少佐殿」
 オペレーター席がぐるりと回ってシェットランドは口調の変わった副長と目が合う。
「新しい機体に、新しい戦術。今は練度を高めておくべきだ。敵さんが生活で手一杯の内に、さ」
「副長(おやじさん)の言う事はわかるさ。そして焦っては居ないが、俺は確かに功績が欲しい」
 ブリッジクルーも含めてみんなそうだよ。少佐殿だけじゃない。そう言うとまた副長は
椅子をパネルに戻すと顔だけ振り返る。

 

「ところで少佐殿、何か用事があったのでは?」
「そうだ、忘れるとこだった。パトロール中に挙動のおかしなデブリを見つけたんだった。
データにタグ打ってコッチに流しといたんだが……。その後何か動きはあるか?」
 ブリッジから出て行きかけたシェットランドが振り返る。
「チャン軍曹が追ってます。ただ、ガスの噴出で軌道が変わっただけにも見えますな。軍曹?」
「レンジ内に入る所からデータ再検証してますが、人為的な動きを感じるとすればこちらの
レンジに入って来た際のスピードと角度だけ、ですね。ただそれも、どうなのかと言われれば、
まぁ自然と言えば、副長の仰る通り自然なのでありまして……」

 

 データを観測する索敵班。目の前のモニターには名前と記号の付けられた無数のデブリが
刻々と位置を変えて行く。
「だいたい何でこんなにゴミだらけなんだよ、この宙域は。レーダーも効かねぇし」
「引力の都合でゴミが寄ってくる。しかもラグランジュポイント程安定はしていないが引力が
微妙に釣り合ってるんだ。河の澱みみたいなものでね。――軍曹、モニター出してくれるか?」
 そのほぼ中心にヤキンの亡霊は陣取った。主力が高速艦のナスカ級である以上わざわざ
籠城すると言うのは、今は動けないと言う事でもある。シェットランドが苛ついているのは
その部分だ。今なら叩ける。と言う訳である。艦長以下、クルーもほぼ同じ感想ではある。

 

 ただ艦隊司令、ラ・ルース大佐は慎重であった。前回、連携が取れずに敵を取り逃がしたのを
重視し、インフォメーションワイヤー無しでの連携訓練を重点的に指示していた。
 そしてその指示はMS、MAに限らず各艦の艦隊行動においても同様である。
「プラントが初期のNジャマーの実験場にしていたのも此処の宙域と自分は聞いております。
実験初期のモノがまだ生きている事もあって、そもそもレーダーが効かんのでありまして……」
 だからこそオペレーターはデータ解析に首っ引きになり、索敵班は直系数mのデブリさえ
全て名前を付けてその動向を追いかけている。目に見えるモノのみで操艦をするからだ。

 

「そこまで踏まえて、だからこそ此処に逃げ込んだってことか。流石亡霊ってトコかい?」
「まぁ、さっきも言ったが、絶対安定ではない。中心部も年1mではあるが地球に引きずられてる。
加速が付けばあとは一気に流れ星だ。ただしそれに倍して次々新しいゴミが寄ってくるんだが」

 

「そこが気にくわねぇ。ジャンク屋どもは何やってやがる。MSやら戦艦のパーツが大量に
流れてきてるんだぜ? 奴らにしたらお宝の山じゃねぇのか」
「此処に集まるはずだったのは本当だ。連合政府と、プラント暫定政権が例のデブリの件で
金を積まなかったら、な。使えるモノは拾った奴の全取りでゴミは重さで買取り、更に経費が
通常の三倍+燃料費別、だそうだ。少佐殿ならわざわざダガーの腕を拾いにコッチに来るか?」

 

 ヤキン戦役中期、”足付き”ことアークエンジェルを執拗に追うクルーゼ隊はハルバートン提督
率いる第8艦隊を俗に言う地球低軌道会戦で打ち破り、旗艦を含むアークエンジェル以外の
ほぼ全艦を鉄屑へと変えた。
 ザフトにとっては目の上のたんこぶである月軌道艦隊、わけても知将の異名を取り
G計画を強力に推進したと言われるハルバートン提督。これを討ち取ったのは僥倖には
違いなかったが、全ての破片が地上に落下して燃え落ちるわけもなく、結果として地球低軌道上
にデブリベルトを作ってしまった事になった。

 

 もっともラウ・ル・クルーゼ自身、そのことは判った上であえて撃破した節がある。と言うのも
当時の地上プラント領の持つマスドライバーがデブリベルトにかかり使用不能になるのが一日
わずか2時間だったのに対して連合領内のそれは最短で6時間、最大では20時間を超える
地域さえあったのだ。そこまでの計算さえ彼ならばやるだろう。と言うのが大方の見方だ。
 ともあれ、連合、プラント、共に停戦合意の後に一番最初に手を付けたのがそのデブリの
除去であった。往還シャトルが飛ばずに困るのは月もプラントも一緒だからだ。
 結果手空きのジャンク屋はほぼ動員され、彼らの目の前の”澱み”は澱んだままである。

 

「そんなに出るのか。確かに俺でも軌道の掃除に行くわな……。ま、軍曹。監視頼まぁ」
 そう言いながら今度こそブリッジを出ていこうとするシェットランドに声がかかる。
「腕が立って頭も切れる。おまえさんが功績が欲しいと言うなら、俺たちは誰一人文句は言わん。
だからこそ。こないだみたいに味方を囮にする様な作戦は、もう採らないで欲しいんだ」
 副長の椅子が再度反転しシェットランドの背中を見つめる。
「……俺がそんなタマに見えるか? 副長。バカだからペテンに引っかかった。それだけだよ」
「猪武者のパイロットバカ。そう思ってんのは自分だけだ。201艦隊(ウチ)のエースなんだぜ?
おまえさんは、俺たち落ちこぼれ組期待の星なんだ。そう言う自覚は持ってくれ」 

 

「そう言ってくれんのはおやじさんだけさ。――多少は自惚れても良いっつう事かい?」
「自惚れていると言う自覚があれば、大いに結構。そうでなければ部下などついて来るまい。
自信満々のエース様ならばこそ部下は尊敬し、安心して命を預けるんだろう? 少佐殿」
 当分自惚れておくよ。そう言いながら三度(みたび)エレベーターに向かったシェットランドを
チャン軍曹が呼び止める。
「大隊長! 例のデブリに明らかな人為的機動を、――こちらへ来ます! 接触まで900秒!」
「自分が直接確認に出る! 副長。デュエルプラスとDナンバーズ全機、出撃許可を!」
 ちょっと待った、艦長も司令も会議室だ。そう言うとヘッドセットを被って副長は端末を叩く。
「状況的に……ラジャー。そのように伝えます。――少佐殿、出撃許可を確認! 司令より
出撃機および装備は少佐殿の裁量に任せる、との事!」

 

 了解だ、副長! シェットランドは今度こそエレベーターに飛び込む。
「プラスとDナンバーズ全機はエール、Cテン隊はランチャーで艦の直縁。出撃準備急げ!」

 

「少佐のプラスからのデータはもう来ているな? 分析結果、どうか」
 艦長席と司令席、既に席の主は二人とも収まっている。
「表面の反射比率、その他からゴム、若しくはシリコン系と思われる素材である可能性95%!」
「ゴム製の岩、か。ダミーで堂々と入ってくる、しかもあの距離であえて正体をバラす様な挙動。
――艦長、全方位の索敵を怠るな? 攪乱の恐れがある」
「ラジャー。――各艦全方位の観測を厳となせ、手空きの者は目視観そ……、チャン軍曹!」

 

 データ画面にいきなり複数の画面が割り込んで開き、数値とグラフの表示が始まる。
「この反応は……、ザフトのNジャマーキャンセラ−? 艦長、ライブラリ照合結果はアンノゥン!
大きさからMSです! 機種不明、Gではないようですが注意を!」
「少佐! 一時後退、近すぎるっ! Cテン隊、全機目視照準っ! ロックはするな!」
 シェットランドのデュエル・プラスが後退するより早く、ゴムの岩は内側から破けて微塵と消え、
岩の代わりに真っ青に染め抜かれたMSが身を低くシールドを構えていた。背中には巨大な
リフター。腰には折りたたまれたレールガン。ザフトG系MSが持つのと同じ形式のライフル。

 

『あの質感、PS装甲だと? ジャスティス……、いやゲイツか!? ――ブリッジ!!』
 蜂の巣をつついた様な騒ぎのブリッジにシェットランドの声。艦長は双方を一括する。
「距離を取れと言った、少佐! ――騒いでいる場合か! 機種データはまだあがらんか!?」
「ライブラリにデータ無し! 更に通常型ゲイツが2機、現出を目視確認! 現在都合三機!」
「青い奴はゲイツの改造型と思わ……? 直振通信、回線接続要求。その青い奴からです!」
 インターホンの受話器を天地逆に持つとラ・ルースが立ち上がる。
「構わん、回線開け。――画面を出す必要は無い、こちらも送るな。……私が出よう」

 

【……り返す。こちらはザフト特務隊ジョーダンである。艦隊指揮官殿と直接話がしたい、返答を】
「自分は地球連合軍月軌道艦隊司令部所属、第201特務機動艦隊司令ラ・ルース大佐である。
ジョーダン隊長、この通信の意図する所を完結に話されたい」
 通信の相手が誰で、どういう状況であってもラ・ルースはまるで変わらない様に見える。
【往信感謝する。貴官とこちら、目的が同じと見る。よって直接話がしたい。着艦の許可を願う】
 いきなり予想外の要求にブリッジ中が、艦長さえも息をのむがラ・ルースは動じない。

 

「停戦状態とは言え、我らは地球連合に籍を置く者である。実質のプラント軍たるザフト武官。
これの言う事を鵜呑みにする事は出来ない。貴官の目的を、簡潔かつ具体的に乞う」
【狙いが亡霊ならば着艦許可を。違っているなら自分はこのまま帰投する】
 ブリッジ中が凍り付く中、ラ・ルースのみが笑みを浮かべる。
「……武装解除の上貴官の機体一機のみ。その条件で着艦を許可する。条件を妥当と判断
するなら当方のMSのエスコート、およびガイドビームに従われたい。どうか?」
 再度ブリッジ中がざわめくが艦長もそれを止める事を忘れている。
【感謝する。外せる武装は全て外す。データは流せない故、光学観測で確認されたい。
――ところでMSデッキ内の気圧は連合内標準ではどうなっているのかお聞きしたい】
「……? 艦長。わかった。――当艦においては、ハッチ閉鎖後30秒以内に0.9気圧だそうだ」
【了解した。ビーム発振を開始されたい。ジョーダンからは以上】 
 彼なりに重圧を感じていたのか、インターホンを置いて息を吐きながら席へと座るラ・ルース。
「……。司令の話の通りに。当艦の2番へ誘導。少佐には武装解除の確認作業をせよと伝達!」

 

 カエサルのMSデッキに初めに入ってくるのはデュエル・プラス。ダガーとはそもそも機体精度が
違うのだが、その分気むずかしい機体。それを後ろ向きで、ライフルを構えたまま軽いショック
のみで着艦してみせる。
 そしてその後方、ライフルを突きつけられているゲイツ。こちらは全く普通のことであるかの
ように鉄のこすれる音のみで全くショックを感じさせずに着艦を終える。
『ハッチ完全閉鎖、シール確認! 機体の温度確認開始、固定作業班は物理固定準備!』
『両機とも若干だが高い、冷却作業かかれ! ――若干だ、構わない。固定作業も開始しろ!』
 メカマン達が2機のMSにとりつく間にも、デッキの空気が充填される音が徐々に大きくなる。
『機体固定確認、気圧0.92まで回復。両機とも機体温度適正値確認よろし! 甲板長!?』
『宜しいか、艦長。――はっ! よおし、両機のハッチ開放、並びにパイロット降機を許可する』

 

 パイロットスーツのシェットランドが艦長の横へと流れてくるのと入れ替わりに、憲兵隊
一個小隊がゲイツへと向かう。一応鎮圧様ショックガンはホルダーに収まったままではあるが、
手にした電磁警棒は使用可能である事を示す赤いランプが付いている。

 

 シュン。ゲイツのハッチ、その気密が切れてゆっくりと開き始める。その中から白い軍服に
金モールを付けた人物が、無重力であることを感じさせない動きで何気なくデッキに降り立つ。
 気圧を聞いたのはパイロットスーツを着ていないから、であったらしい。いきなり迎撃されても
全く文句の言えない場所に文句の言えないやりかたで現れて、パイロットスーツを着ていない
と言うならば、MSの操縦には相当な自信があるのだろう。
「ジョーダン隊長にぃ、敬礼!」
 抑揚のない、それでいて良く響く声。ラ・ルースの号令が響くと同時にデッキに居る全員が
敬礼の形を取り、声の主、ラ・ルース大佐を見つけた白い服の人物が、向き直り敬礼を返す。

 

「直接会談の機会を与えて頂いたこと、感謝する! ラ・ルース司令!」
「全てを納得したわけではない、ジョーダン隊長! そちらの真意は知知る由もないが、我らは
この状況が上に知れただけで文字通り首が飛ぶ。任務遂行最優先でそちらの話を受け入れた
こと、理解されたい!」 
 ゲイツの足下と、デッキを見下ろすキャットウォーク。直立不動の者同士が、軍人らしい
良く響く声で会話を交わす。

 

「こちらも状況は変わらない! ――もう一つ、機体の方は固定以外のことはご遠慮願いたい。
NJCについてはもはや地球軍の方が保有数が多いだろうが一応機密扱いである、機体は
自分以外が手を出せば自壊する事になっている。理解を願いたい!」
「了解した! この後は大声で話す内容でもないでしょう! 軍艦故、たいしたお持てなしも
出来ないが部屋を用意しましょう! 部下に案内させる、従われたい!」

 

「少佐、余計なことは言うなよ? 白い服なら将官クラスだ。貴様が口を開けば連合パイロットの
風評は地に落ちる。そうなればフラガ少佐以下の優秀なパイロット達に申し訳がたたん」
「どうしてムゥ・ラ・フラガが好みのか、相変わらず謎だな。艦長ならもっとマッチョなのが好み
じゃないかとおもうんだが。――だいたい、俺が直接話をする機会なんぞ回ってこねぇだろ」
 自分もそうは思う。直立不動、鳶色の目は白い服を追いながら口だけが小さく動く。
「一応だ。何を考えているのか判らんからな。……ジョーダンも、そして我が司令殿も。だ」

 

 廃棄されたローラシア級2隻を強引に”貼り付けた”事で機動性を獲得した浮きドック。
機動要塞ヴァルハラ。ローラシア級の他、名前もフジコの命名で立派なものが貼り付いた。
「――都合の良い事この上ないな。ツイてるんだかツイて無いのか、全く。……他には?」
「主砲が生きている連合の艦を見つけたと連絡が。現在オルテラが3rdステーションに曳航中」
 そのドッグの中心。他の船から強引に部品をはぎ取り、もぎ取って再建成ったブリュンヒルデ
のブリッジ。フジコと、その報告を聞くウィルソンである。

 

 連合の部隊は12分室自体が目的だと読んだウィルソンの提案によって、廃棄コロニーや
既に使い終わった資源衛星等を目くらましの為にピックアップする様、指示がだされた。
 現在、1stから3rdまで都合三箇所の”ステーション”を手に入れた12分室である。
「曳航出来るくらいならオルトリンデはもう大丈夫そうだな……。浮き砲台にするか固定するか
はエンジンの様子を見て、か。――メカBチームを3rdステーションに回せるか?」
「2ndステーション電源修復にかなり手間取ってA,Cチーム双方に応援要請が来ています、
現在ゲルヒィで作業をしている機関長達を回した方が、連合の物ですが艦船のエンジンです。
結果的に早いかと。現状、部品不足で作業は燃料供給ポンプの圧力調整だけですから」

 

 ヴァルハラや各ステーションから目をそらす為の時間稼ぎ用のダミーである以上、それに
機動性を持たせることが出来れば目くらましとしてはまさに好都合。そう言う話である。
「――だな。定時軌道調整がある、機関長は此処に残せ。メカDチームもMSをいじってる間は
動かすな。パイロット分だけは稼働機を確保したい。他の者のシフトはメカと機関士に任せる」
「イエス・サー。さっそくメカチーフと機関長にシフトの変更要請を伝えます」

 

「ところでセリア隊長。パイロット達、見込みのある者は出てきそうか?」
「室長(キャップ)まで。……た、隊長とかそう言うのでは、私は……。制服はキャップの……」
 このところ分室組からも隊長と呼ばれて、たいそう居心地の悪い思いのフジコである。
「良いじゃないか。パイロット19人の長だ。そう言うのを一般的には隊長と呼ぶんだろう?
――フゥ、おまえの目から見て彼女らの状況はどうだ。……冗談はともかく、使えそうか?」

 

「とりあえず。ジェイミーとパメラがデータをチェックしろと言うので、シミュレータデータのみは
私がチェックと駄目出しをしています」
 と言いながら手にしたファイルから数枚の紙を取り出す。ブツブツ言いながらも上司に
見せられる形にまでデータを仕上げておくのがフジコという少女であった。
「今後次第ですが”使えそう”なのは現状、フィーネ、グラシアーナ、クレメンティナ、レベッカ、
マオ=スゥの都合5名と言う所ですね」
 彼女の言う”使える”の範囲は何処までだろうな。とウィルソンは思う。
 きっとあきれる程求めるレベルは高いはずだ。その彼女がピックアップした以上、訓練次第
では掃海作業や攪乱の為の無意味なステーション間移動、それ以外にも回せる。と言う事だ。 

 

「3rdステーションから緊急、ミラージュコロイド通過と思われる粒子反応をキャッチとのこと。
データから過去300秒以内に通過した模様、計算上ヴァルハラとの接触まで1800秒以内!」
「粒子の傾向はザフト系……。遅いのはコロイドが剥げるのを気にして、か? フゥ、デッキに」
「イエス・サー! 大至急予備含め、全MSを起動。私も先発で出ますっ!」
 ――逆だ! そう言うとウィルソンは額を抑えて椅子に沈み込む。
「全員を説得して押さえろ。どうやら魔女が亡霊狩りに来やがった……。出ればおまえも死ぬぞ?」

 

「正面、グリーンセンターに突如反応! ナスカ級と……、エターナル級!?」
「ウソ! だってエターナルは! ラクス様が、なんでこんな処に……」
 予定より15分は早い。途中で船足をあげた様だな。コロイド粒子をわざと見せつけておいて
真っ正面でコロイド解除、そして現れるのがエターナル級。攪乱のつもりか。”同業者”同士だと
言うのに舐められたもんだ……。ウィルソンはブリッジの少女達をを一括する。
「馬鹿者っ! 同型艦など設計図があれば作れる! 先ずはライブラリ照合、どうかっ!?」
「すいませんキャップ。熱紋はネームシップであることを否定。目標はエターナルタイプで確定」
「目視で確認、ミーティアの装備がありません。更にナスカタイプ2隻の現出を目視で確認!!」

 

「艦首をズームしろ! 光学最大っ!!」
 ウィルソンは、しかし画面がズームになる前に、黒いエターナル級の艦首に何が書いてあるか
など端から判っていた。真っ赤なカチューシャで止めた長い髪をなびかせ、嬉しそうに笑う骸骨。
 ヤキンの亡霊と共に、プラント本国を目指す幾多の連合特殊部隊を撃破してきたもう一つの
黒い部隊、ボアズの魔女。
「キャップ。MS隊抑止完了、パメラが危うく発進を……。黒い船! な、本当に魔女が……!」
 赤い制服がブリッジに上がってくるなり絶句する。

 

「NJ反応計測最大を超えます。レーダーその他計測機器は、光学系以外完全に死にました!」
「1stステーションとの通信途絶。長距離ケーブル、ノイズが乗りまくって使い物になりません!」
 いつでも特務隊の命令書は切り放題。ザフトの機材も人材も、自由に徴発出来る分室である。
基本的には諜報部隊の様な役割にあった第9から14までの”分室組”。その中であえて
実行力を持たされたのは12、13の二チームのみ。
 骸骨旗のMS。それを駆るヤキンの亡霊の率いる第12分室と、そして。今、彼の目の前で
笑う女骸骨。それを事あるごとに大げさに見せつけるボアズの魔女こと第13分室である。

 

「エターナル級からインフォワイヤー第三速度で射出を確認、キャップ!?」
 その第13分室が最新鋭最強装備を持ってここへ来る。つまり、”脱走”した第12分室の
排除命令が分室総長から出た。と見るのが妥当だ。
「逆らうな。分室組以外の連中まで危険にさらす気か? ――すまんな、分室組はただでは
すまんかも知れん。……ワイヤキャッチャ−を出して通常通りコネクト! 通信は俺に回せ」
 口封じは自分だけで良いはずだが、相手はそうは思うまい。立場が逆ならば、彼はきっと
そうしたし、なにより5分かからず一気に殲滅出来るレベルの戦力差があるはずだ。

 

「アイアイキャップ。……通信、来ました。――アイサー、だします」
 メインディスプレイに大写しになるのはウィルソンと同じく黒い服に金モール。
胸には彼と同じく、事務局所属の専任事務官を示す記章。
 赤く長い髪を無造作に肩に垂らした、妖艶でありながら嫌味に見えない美女。
【第13分室ゴルゴーン隊旗艦メデューサから12分室ヴァルキリア隊旗艦ブリュンヒルデ。
こちらは13分室長タチアナ・パルメラだ。――よぉ、亡霊の癖に生きていたか。久しいな】
「メデューサを新調したのか。……相変わらず美人で何よりだ。総長は何か言ってたか?」
 ふっ、あっはっはっは。さも可笑しくてたまらないといった風に笑う様も妖艶なタチアナ。
【穴倉に籠もったままヤキンで蒸し焼きだ。引きこもりはやはり身体に悪いな。……死んだよ】
「死んだ……? ならばおまえは今、誰の命令で動いている!? 何をしに来た!!」
【その件でおまえと話をしに来た。移乗許可、……昔なじみだ、勿論否はないよなぁ? デイブ】

 

予告

 

 ウィルソンとタチアナ。闇の世界を生き抜いてきた二人の会談。
 理想と現実の狭間で揺れるウィルソンと、それを理解出来ないフジコ。
 クルーが訝しむボアズの魔女、タチアナ来訪の目的。それは果たして何か。
 そして、ついにラ・ルース大佐が意図せぬ来客を機に、野望を形にし始める……。

 

 ゴミ溜の宇宙(うみ)で
 次回第五話 『立つべき足場』

 

【第三話 『ゴミ溜の中』】 【戻】 【第五話 『立つべき足場』】

 

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