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第四話 英雄退場

Last-modified: 2017-08-22 (火) 08:50:35

その後は特に会敵も無く、順調に2日間のパトロール任務を終ようとしていた。、
しかし悲劇はここから始まる・・・

 

ルナツーのドックに入港し、下船のための準備を整えるオハイオ小隊の3名、
しかしすぐに3人が違和感に気づく、どこかルナツーの空気が違う。物質的な話ではもちろんない、
船の中からでも、ドック内で働く作業員の視線や表情が明らかに固い、一体何があったのか?
「・・・あ、ワッケイン指令、珍しいな。」
ジャックが言う、この基地の指令であるワッケインがドック内にいるのは珍しい。
しかも下船の通路デッキの先にいる、まるで誰かが下船してくるのを待ち構えているように・・・

 

サメジマは違和感を感じながらも、先頭を切って船を下り、デッキをまっすぐ歩いて行く
顔を見合わせながらエディとジャックがそれに続く。
「指令自らのお迎えとは光栄ですな、シルバー・シンプソン所属オハイオ小隊、只今帰還しました。
やや固い笑顔を見せ敬礼をする、しかしワッケインは手を後ろに回したまま返礼をしなかった、
顔を伏せ、目線すら合わせようとしない。
「ヒデキ・サメジマ中尉、ならびに小隊所属の二名、このまま司令室に出頭のこと。」
そう言って背中を向けて歩き出す、要するに付いてこいという意味だろう。しかし一体何事か・・・

 

司令室で見た物、それは彼ら3人にとって血の気が引く映像であった。

 

−おめでとう連邦軍の諸君!我々はついに諸君もモビルスーツの開発に成功したという情報を入手した−
−しかし、喜びに沸く諸君らに、我々は悲しむべき事実を伝えねばならない!−
−兵器局発表!我々は主力モビルスーツ「ザク」を遙かに上回る新型機の開発に成功した!−
−EMS-10「ヅダ」である−
それはジオンのプロパガンダであった、そしてそこにある機体を3人は知っている。
今回の出撃で遭遇した、恐るべき機動力を誇る青い新型機!

 

−現在このヅダは、ジャン・リュック・デュバル少佐指揮のもと、最終試験を実施中である!−
−さぁ、この新型機の量産も間近だ!−
そこまで見て、一度映像を止めるワッケイン。
「・・・どう思う?」
「我々はこれと遭遇しました。敵のプロパガンダを認めたくはありませんが、これは事実です。」
サメジマが答える、今後はザクではなく、このヅダを相手にせねばならぬことを伝える。
「そうか。」
それ以上何も言わない、そしてワッケインは録画の続きを再生させる。
その後の映像を見たとき、彼らはこのルナツーに漂う空気の正体を知った。

 
 

−これは、先日の遭遇線の際、わが軍の「ヅダ」が行った戦闘映像である−
それ以上の解説は無かった、また必要なかったとも言える。それはヅダとジオンの使用する観測ポッドの映像。
3機のヅダと、オハイオ小隊の戦闘、それは捕捉修正の無い、客観的な映像だった。それがさらに事態を悪化させる。
縦横無尽に飛び回るヅダに手も足も出ないボール、しかもそのボールはまるで3流アニメの悪役のような
サメの顔が描かれている、無力な輸送船を襲おうとした凶悪なサメと、それを蹴散らす青い騎士。
そして手も足も出ずに、すごすごと逃げ出す3匹のサメ、
誰がどう見てもこの映像における英雄はヅダであり、チープな悪役はオハイオ小隊であった。
ボールが逃走したあと、ヅダは虚空に向けてシュツルムファウストを発射する、それは信号弾。
つまりこの時ヅダは、実弾を持っていなかったのだ、それがオハイオが逃げたとき追撃がなかった理由。

 

「この映像が配信されたのは昨日のことだ、そして今日の朝一番に連邦政府から通達が来た、
この映像の事実確認をし、しかるべき処置をせよと。」
その言葉の意味をサメジマは、そしてエディは噛み締めていた。

 

−軍法会議−

 

今年初頭に始まったこの戦争、それは連邦にとって「悪のジオンを打ち倒す為の正義の聖戦」に他ならなかった。
コロニー落としによる大量殺戮、進行作戦による占領、略奪、治安の悪化、物資の欠如、インフラの低下
全てはジオンによって仕掛けられ、もたらされた悲劇であると。
「正義を持って悪のジオンを打倒せよ!」これは連邦全体のスローガンとして軍民問わず叫ばれていた。
だが、このプロパガンダはそんな風刺を一蹴しかねない、連邦はまだしもジオン国民がこれを見て
自らの戦意を高揚させるのは誰にでも想像が付く。

 

「敵前逃亡、利敵行為、それが罪状だ。ヒデキ・サメジマ中尉。」
あえてサメジマにだけそう伝える。それは処刑する人員を最小限に抑えようとするワッケインの配慮だった。
「承知、いたしました。」
敬礼を返すサメジマ。エディは唇を噛み、ジャックは思わず身を乗り出し、叫ぼうとする。
「そんな!あれは逃亡なん・・・」
「黙れ!」
サメジマがそれを一喝する、せっかくのワッケインの配慮を無駄にはさせられない。
それにこの映像は決定的だ、少なくとも安全なジャブローあたりであぐらをかいている政治屋どもにとって
自らの主張宣伝の妨げになると、綱紀粛正をヒステリックにわめきちらすのは容易に想像できる、
サメジマは、自分の命運が尽きたことを悟った。

 
 

−こうしてルナツーの英雄は、1本のプロバガンダによって命を落とした−

 
 

『そん時は敵を褒めるんだよ、あのサメジマを倒すとはたいした敵だ、ってな。』

 
 

軍人である以上、死は受け入れるべきもの、殺し合いが軍人の仕事なのだから。
しかし彼は強敵に殺されたわけではない、画期的な新兵器の餌食になったわけでもない、
政治家の都合と、敵の政治宣伝によって味方に殺されたのだ。
それでも、その死に顔に無念さは伺えなかった。

 

「ねぇ兄貴、俺は一体・・・誰を、褒めればいいんですか・・・」

 
 

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