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第七話 『変節する世界』

Last-modified: 2014-03-06 (木) 19:44:20

ゴミ溜の宇宙(うみ)で
――変節する世界――

 
 

 機動要塞ヴァルハラ、そのコントロールルーム。元々監理者達が浮きドックの管理をしていた
部屋である。往時はきっと今の12分室を遙かに上回る人間が従事したであろうその部屋は
ウィルソンの他、数名の機関士とオペレーターがヴァルハラを文字通りコントロールする為に
詰めている。そして事務が本職の事務局所属である12分室にあって、たった一人の事務員。
「代理、彼女が直撃弾で死亡はわかった。で? ヴァートロゥテ担当のメカニック。死因は?」
「ニコルソンの報告に依れば、主砲起動に失敗。手動で一射目を撃ったのち誘爆、だそうです」
 ――砲雷長代理に任命。日付は20日前で大丈夫だな? 殉職後給与階級は2ランク特進。
意味があるのか? と思いつつ事務を執る彼女に声をかける。事態がどう転ぶかわからない
以上、ザフト式の記録を付け続ける事は必要だ。万が一にもプラントに復帰、等と言うことが
あれば自分が逮捕されようが、家族に遺族年金を渡すことだけは出来るからだ。

 

「イエッサー。室長(キャップ)の承認を確認、役職手当も追加。本日付けで2等級進級とします」
 金銭だけでは散っていった彼女らの将来への希望と、その無念が伝わるはずも無く、
その金銭さえプラントへ戻らなければ発生することはない。頭ではわかっていた。
 せめて文字を綴ることで生きていた証を。と思うのはタチアナの言うセンチメンタリズムか、
はたまた事務屋の習い性なのか。彼はため息を吐くと顔を上げる。
「キャップ、Bエリア臨時掃海作業完了です。――その、私などがこのような服を頂いて、
更にはゲイツまで専用機扱いで……。本当にこれで宜しかったわけですか?」
 視界の隅。丈の短い緑の服に黒い肩章と金モール、真新しいベレー帽の少女が敬礼する。

 

 レベッカ・ニコルソン。通信途絶状態で位置のずれたヴァートロゥテと、角度の狂った
3rdステーション。作戦開始直前、目視のみでそれに気付いた彼女は、通信途絶の中、
単身MSで飛び回って立て直し、時間の足りなくなった分は、自らジンハイマニューバ単機
で敵の新型ダガー部隊に飛び込む事で稼ぎきり、機体の右腕と左足。たったそれだけを
引き替えにダガー部隊の位置の微調整までやってのけた、フジコの眼鏡にかなった逸材。
 そして命令を無視して、一人ヴァートロゥテに残り、主砲を撃った後に逃げ遅れ、炎に飲まれ
消えていく、旧部隊からの友人でもあったメカニックを、作戦遂行を優先して見捨てた少女。
 一体どれだけ胸の潰れる思いをしたのか。醸し出す雰囲気だけは確実に逞しくなった。

 

「セリア隊長の一番弟子だものな、組織ってぇのは見た目も大事なもんなのさ」
 既に組織としてのザフトから離れて久しい12分室ではあるが、ウィルソンはあえて昇格した
少女達の為、わざわざ人員を割き、資材を使って制服のサイズを直し、装飾、腕章、記章の類を
作らせていた。
 見た目も何も、全員が戦闘中も専任事務官の記章や腕章を付けていた12分室である。
そしてそれを方向転換させたのは他でもないウィルソン本人である。

 

「それとゲイツは無理やり作った機体だからな。操作系がシビアだし下手くそが乗ったら危ない」
 手持ちのMSは全て黒で塗りつぶし、そうした装飾を嫌う傾向のある彼としては珍しく、本人の
機体以外に付いていなかった骸骨旗の紋章は今や旧分室組とレベッカの機体の肩とシールドを
飾っている。旧ゾディアック組の機体も黒く塗りつぶしこちらは流星のマークを書き込ませた。
「さて、オレも自分の機体を見てくるか。ペンキは乾いたかねぇ。……事務長代理、少し頼む」
 自分のゲイツの骸骨旗は、バックを赤に。大きさも1.5倍に書き直した彼である。
「イエッサー。50件程サインが残っています、お早いお戻りを」

 

「――? フゥが大声で揉める、か……。珍しいな」
 ウィルソンのその台詞が終わる前には、もう隣のレベッカは無重力を利用して“現場”へと
飛び込んでいた。
「先輩! 落ち着いて下さい、何がどうしたわけですか!? ――らしくないですっ!!」
 ――ふむ、本当に珍しいな。新調したベレー帽を飛ばし、本気でフジコの前に立ちはだかる
レベッカ。既にフジコはパメラにも羽交い締めにされ、それでもまだ目の前でしゃがみ込む少女。
それに食って掛かっている。 

 

「結構長く一緒だが、あれほどトサカに来てるのは初めて見たな。……彼女、何をやらかした?」
 ウィルソンの影を認めてレベッカと入れ違いに横に来た白衣の少女に声をかける。彼女は
一瞬の躊躇の後、彼の耳に口を近づけ、何事か喋った後、再度距離を取り改めて敬礼する。
「フジコは性格傾向が下向きなのは間違い無くて、そこは自身で認識もしています。――それに
誰でも通る道です。……そもそもが口下手の上、感情を抑えることに長けたフジコが、あの程度
の事を理由にあそこまで感情的になることの意味が……、私には理解が出来ません」
 医療班長に判らない事が彼に理解出来る道理はない。ただこの場は納めよう、と声をかける。
「フゥはとりあえず俺が見よう。お前は処理の方法をレクチャー。一生のことだ、頼むぞ。
事務的に流して先ずは休ませろ、いいな? ――フゥ、オレの部屋へ一緒に来い、緊急だっ!」
 彼の声を認めたフジコから体中の力が抜け、押さえていたパメラとレベッカが支える側に回る。
「あ…………。イエス、サー」

 

「コーヒーでいいな? ミルクと砂糖、入れっちまうぞ?」
「……ありがとう、ございます」
 何があったのかはだいたい聞いた。カップを二つ、運びながらウィルソンは言う。
「何故そんなに怒る必要がある。確かに場合によっては危機的状況に陥る可能性はあるだろう。
だが、オレ以外の全員が月に一回。不調になるのは、我々が生き物である以上仕方がない。
だいたい彼女は初めてだったそうじゃないか? なんで喰って掛かる必要がある?」
 ますます俯き、膝の上の手は赤い服を握りしめる。性格面に不安定要素有(やや抑鬱傾向)。
彼女を初めてみたときに渡された当初のパーソナルデータ。まさにそのままである。
「それにそういった生理現象は男にだってある。――まぁ、定期的ではないし、倫理的に鑑みて、
絶対に公にする訳には、いかんのだがな」
「……それは! ……その、少し違う、か。と」 

 
 

「……室長会議だったんでは? 総長、他の連中の姿が見えませんな。――面接というのは?」
「なに? いつの間にターニャまで……。逃げ足はウチの連中はザフト一だな」
 なにも逃げたのはタチアナだけではあるまい。各分室長とそれに次ぐ者。全員綺麗さっぱり
居なくなっている。逃げ遅れたか……。内心ため息のウィルソン。
 もっとも分室総長自身も自分が直接面談をするのは乗り気でない様なのは見え見えだ。
「スカウト以外での移籍願。初めてのケースだ 。有耶無耶にして追い返す手もあるのだろうが」
「第9以降の分室の話、余所でされる訳にもいかんでしょうが。――で? オレにやれ、と?」
 一般のザフト兵が分室総長を直接訪ねてきた。自分を編入しろ、その力と理念はある。硬い
表情で少女はそう言い放ち、後は一歩も引かなかった。誰も知らないはずの秘密の部隊である。
「12分室はまだまだ人手が足りん。一応おまえが面接をしてくれないか?」
 どう調べたのか無いはずの部隊のその長、彼に直接面談を求めてきた少女。果たして。

 

 面接官を仰せつかった以上、引き入れるに足る人物ならば良し。そうでなかった場合、
彼女がこの部屋から生きて出る事は面接を始めた以上、もう適わない。
「ナチュラルを躊躇無く殺せる部隊なのだと理解しています。私には非常に適切な部署です」
 そう、彼女にはその理由がある。渡された資料の一番上、名前の部分を見ただけで彼には
それがわかった。フジコ・セリア。一番楽しく暮らすはずの年代をナチュラルの異常者に
むしり取られ、それでも強引に普通の生活に戻り、優秀でありながら事務局に配置された少女。
「剣呑な話だ。そう言う部署が本当にあると? 特務隊にでも志願してみちゃどうだ」

 

「特に名家でもなく、更には幼いころにナチュラルに浚われ穢された身です。……ザフトにさえ
事務局以外の任官は拒否されました。議長直轄たる、栄光の特務隊など絶対入れません」 
 パイロットとしての正規の訓練は受けては居ませんが、シミュレーターなら某所で既に
129時間の実績があります。その他、体術も、戦術も、もちろん事務も。誰にも負けません。
 それでも駄目なら。――此処で初めて彼女の目に意志が籠もったようにウィルソンには見えた
「いま、此処で殺して下さい。私に出来る事がない以上、生き続ける必要はもうありません」
 資料の備考欄。【○性格面に若干不安定な傾向を認む(やや抑鬱傾向)】。
「こういう場面ではあまり自虐的な事を言うものではない。面接なんてのはだいたいが減点制だ。
マイナスが大きくなる。――特務隊を出し抜いて優秀な人材が確保できるか。で、拐かしとは?」
「幼少期に何があったのか、私の記憶は病院からですので具体的には資料の方が……」

 
 

「確かに彼女はノルマはこなせませんでした。しかし、必要以上に私が叱責したのも事実です。
嫉妬だったのやも、と。キャップの声を聞くまで気づきませんでした。……今は反省しています」
「ん? 嫉妬、って。なんだ……?」
 面接当時に見た個人票のページを頭の中で捲る。【女性器の外陰部、膣内他多数箇所に
幼少期に負ったと見られる人為的損傷あり。現在も治療中。(3年後を目処に完治予定)】
「その。……私は、…………月のモノの実際がどういう事なのか。私は、……知らないのです」
「あえて言おう。オレも知らん。――それが無いと、フゥの作戦遂行に何か障害が出るのか?」

 
 

「何故、私がこの服を……?」
「予想以上に似合うじゃあないか。員数外のザフトレッド、事務屋では2人目だそうだ」
 ヤキンデューエに付随する小さな衛星を模したドック、そのロッカー。実機演習から戻った
フジコのロッカーからは緑の服は消え、真っ赤な長い裾の詰め襟服のみがウィルソンの
メッセージと共に掛かっていた。【今日から着ろ。スカートが良いなら調達する。ウィルソン】
「その服を着たら、暗いフジコはスイッチオフだ。現場指揮官としてMS9機を仕切ってもらわねば
ならん。いつもクールで、でかい声を張り上げ指揮を執る。そのスイッチがその服だ」
「わ、私がザフトレッド……。そんな」
「服に負けないだけの力は十分ある。そしてスイッチ足りうる力がその服にはある。俺はそう思う」

 
 

「嫉妬、ね。……あれはあれでうざったいらしいぞ? ま、もちろん。オレも経験はないが」
 古傷が治っていない。しかも傷の内容が内容だ。彼女の年では割り切れと言う方が無理だ。
「…………あっては、困ります」
「後でで良いから声がけしてやれ。彼女は信奉する隊長からの叱責と体の事でダブルパンチだ」

 

「わざわざセリア隊長が、私なんかに謝らなくても……」
「いいの。今回は評価軸として重要視していたから、つい度が過ぎたわ。……でも、あれが実力
でないとわかって安心もした。次回から体調が悪いなら、そう申告して無理はしない。良い?」
 期待する新人相手につい力が入りすぎた。まわりにはそう見えているだろうか。あえて
個別に呼び出さず衆人環視の食堂内、フジコは作っておいた台詞を絞り出した。
「再度機会を……? ありがとうございます! 次こそ隊長の期待に添える様、努力します!」
「慌てなくても良いから。体調管理も仕事の内、先ずはしっかり休んで身体を整えて。女性である
と言う事も軍人である以上体調管理の重点目標。これからは毎月だから、きちんと管理しなさい」

 

「先輩も義理堅いというか優しいというか。……もうなんか、私の時はただの鬼教官の癖に」
「何か言った? ――あなたも悪かったわね、もらったばかりの服を汚してしまった」
 ハンガーまでの道のり。パイロットスーツのフジコとレベッカ。
「その為の予備です。それに着て見ろと言われたので着ましたが、私、実際は新しい服は一度
着る前に洗濯したい人なわけです。まぁ、だからその辺実質的な問題は無いわけでして」
 レベッカが言うなら、きっとさっきの会話はフジコの思い通りの効果を上げたのだろう。
ふぅ。フジコは一つ息を吐く。

 

「ところで私の帽子。普通のじゃなくてベレー帽なのは、どうしたわけですかね?」
「それ、帽子だけではなくて、服も特殊戦略教導隊と同じデザインよ。丈、短いでしょ?」
 彼女が将来的にエリート部隊、通称”特殊戦”入りを希望していたのはまわり中知っている
話だ。つまりキャップはレベッカにも”スイッチ”を与えたのだな。とフジコは思う。
「MS乗りでは既に指揮系統ランクはキャップ、私に次いで3番目だもの。聞いてなかった?」

 

「そう言えばなんでベルトが無いのかなって。……え!? パメラさん達は!?」
「ジェイミーは後方支援班、パメラと、今はまだ怪我が治ってないけどポーラ、ワチャラが近接
戦闘班。現場指揮はあなたと私。総指揮がキャップ。何か質問は?」
 ポ−ラ・ポォラとワチャラポン・セーナムアン。双方優秀なパイロットではあるのだがベッドの上
ではMSを操縦する訳には行かない。ワチャラポンについては復帰も見えたが、本来フジコの
サポートに回るはずのポーラは重体で、医療班長からは、ある程度覚悟を。と言われている。

 

 その中でくすぶる才能を発掘できたのは幸運だった。そのレベッカは、何事もないかの様に
功績をあげて見せた。経験値以外にはポーラに引けを取ることはないと思える仕事ぶりで。
 だから予備パーツと中古部品から組み上げられたレベッカの黒いゲイツには、流星ではなく、
風にたなびく骸骨旗が白い線で書かれた。分室組と同じく旧ゾディアック組の指揮を執れ。
と言う事だ。もちろんウィルソン本人は何も言わない。理解出来ないというならそれまでだろう? 
フジコが何かを聞いたところでそう言われるのは目に見えている
「フォーメーションの維持と変更、頭に入ってるわね? 慣熟飛行もかねて今日は実機で
行くわよ。ペナルティ一つごとに重力エリア、パイロットスーツのまま最外周5週。良いわね?」
「……鬼」

 

 再びヴァルハラのコントロールルーム。
「キャップ……。残念な、ほ、こ、うぅぅ……。も、もとい、報、告、……します」
 唇を歪めて涙目を見開いた医療班長が、白い上着をはためかせて敬礼の形を取る。
「全力を尽くしましたが、力至らず。ポーラ・ポォラが、7分前に、永眠致しま、し、た……」

 

「あぁ、声をかけるまで下がっていて良い。――ならば始めようか。艦長、最終被害報告から」
 ラ・ルース大佐はカップを3つ置いた女性下士官を下がらせるとそう言った。 
「はっ。先ずは艦艇の状況です。被害を受けたのはカエサル、ブルートゥスの2艦のみ。被害
はカエサルが第2層装甲までが5発。ブルートゥスは1番ハッチとイーゲルシュテルンが3門
損壊。甲板貫通弾が2。爆発は内部で一発。最終人的被害、25名死亡、重軽傷者計45名」
 狙いを絞っている、と? 顔の前で手を組んだラ・ルースのつぶやきに艦長が答える。
「カエサルは艦橋、ブルートゥスがカタパルトを中心に狙われている事から旗艦カエサルと
グラスパーの母艦ブルートゥス、認識した上であえて狙った物と思われます」

 

「艦長にも、やはりそう見えるか。あの状況下でピンポイント、な。むぅ……。少佐、そちらは?」
「ダガー改を5機、メビウスを6機。パイロットは9名失った。敵はたった3機のゲイツと、
超長距離射撃のみで、だぜ! どういうんだ、あいつ等!」
 落ち着け、少佐。報告の続きを。艦長の声を聞き、立ち上がりかけた腰を椅子に下ろす。
「襲ってきたネルソン級、近接視認したがブリッジに人影はなかった。お得意のリモートだ」
「メビウスもそうだろうな。ただ母艦の撃沈と同時に引いた。リモートであそこまでの動きは
出来まい。だがAIで動かしているなら、あのプログラムを基地以外で組んだことになる。
たった数週間で、しかもザフト製では無い連合のOS上で。だ」

 

 ――いずれにしろ。組んでいた指を下ろすと、足を組んでカップを取り上げるラ・ルース。
「被害は想定を大幅に下回った。今参謀達が躍起になって計算しているが、そんな数字より
今は直接やり合った君たちの意見を聞きたい」
 まるで人ごとだな。想定より少ないとはいえ、人は死んだんだぞ! 自分だってブリッジに
いたじゃないか。シェットランドはそれは口に出さずに思うのみにとどめる。
「……自信がある。それは間違い無いでしょう。今回の件についても我らの目的、強行偵察を
見抜いた上で深追いが来ないと確信している。――狙撃部隊の配置などにも、垣間見えます」
「同感だな。……デュエル(俺)とダガーLヌーボォを完全にブロック、攻撃をダガー改とメビウスに
集中させてきた。コッチの動きなどお見通し、とでも言いたそうだぜ? 但しパイロットの数が
居ないのか、若しくはMSの数がたらんのか、だな。直接来たのは実質たった2機だ」

 

「やはり私と同じ結論、か。そこでだ。……我らは決めなくてはならん」
 唐突にそう言うラ・ルースと呆気にとられる二人。
「本部に潜り込ませた諜報隊から情報が二つ入った。先ずはその一つ目」
 独自に諜報部隊までをも配下におく201艦隊。だが、現在そのリソースは全力で自らの
司令部に向けられている。艦長が常から心配する通り、その行動が公になれば反逆者。
そのそしりは、まず免れない。目的がどうであろうと、だ。

 

「その後のアークエンジェル、目撃情報が出た。これまでのルートと合わせればプラントとも
月とも真逆。木星を目指すコースだが、恐らくは最外苑から一気に戻る。あの船なら出来る。
最終的に、赤道直下かそれに近いところを目指すだろう。それに気付いたのは現状我らのみだ」
 アークエンジェルの追跡、確保が最優先。これは命令である以上ないがしろには出来ない。
「ここから全力で向かえばギリギリで間に合う。捕捉可能だ。だが、此処で2つめの情報だ」
「もしや、ジョーダン隊長が何か?」
「内部の問題だ、艦長。……例のダガー12機、正式に我が隊への配備が許可された。日付を
40日前にさかのぼってな。だから選ばねばならん。我らが追うべきは大天使か、亡霊か」

 

「な、何と言うことを。これがもし、上層部に知れたら……」
 GAT02初期生産型は、最終決戦となったヤキン攻防戦時、実は月基地で70余機が
待機していた。核ミサイルを受け壊滅的被害を負ったプラントを徹底的に蹂躙する為に。
 だがその予定は実行される事は無く、停戦協定を受け既に地上に降ろしたはずである。
「おおかた書類いじくって、01A1あたりに書き換えたか? 見に来たらどうする気だよ……」
 ブルーコスモス系の部隊に優先配備されている筈の最新鋭量産機ダガーL。その先行
量産試験機、ダガーLヌーボォが、少数とはいえ反主流派筆頭ラ・ルースに渡ったのは恫喝の
意味合いであったのだろうが、本人は意にも介さず更に追加12機をあっさりと手中にした。

 

「こんな辺境に、将官の階級章がわざわざMSの機体数確認の為に来るものかね? 少佐」
 准将相当官として艦隊を率いるラ・ルースである。もしもそう言った部隊が来訪したところで
階級章と立場を最大限利用して調査を妨害するに決まっている。だからこそ本物の将官が、
それもブルーコスモス直参の者が、直接来るより他にMSの種類など確かめようがないのだ。
 そのGAT02自体も、数は少ないが当初から配備している。誤魔化し様は幾らでもある。
 ――それも辺境の宙域にあればこそ、ではある。
「参謀達も当然考えはあるだろうが、艦隊を実質執り仕切るのは我ら三人だ。多数決と行こう」

 
 

 何か言いかけた艦長を手で制するとラ・ルースは椅子から立ち上がる。
「但し、アークエンジェルを追跡するならば。功績は挙がるが軍からのブルーコスモス追い落とし
は実質不可能になる。そして亡霊を追うなら今度こそ正面からぶつからざるをえなくなる。受ける
被害もこれまでとは比較にならないはずだ。生きるか死ぬかの総力戦になる」
 艦長とシェットランド少佐、二人の顔を交互に何度か見ると椅子へと戻り、肘をテーブルに
付くと再度顔の前で指を組んで、表情を隠す様にする。
「だが、私はそれでも亡霊狩りを押す。ここに参集してくれた者達はきっとそれを選ぶと、
そう私には思えるからだ」

 

「大天使と亡霊。……我々には既に獲物の選択、その余地は無いのでは?」
 椅子に浅く腰掛け、元々姿勢良く座っていた背筋を更に伸ばし、凛として言うのは艦長。
「そもそもアークエンジェルの消息情報は何処からもたらされたのです? 諜報隊を危機に
さらせばそれはそのまま司令にも跳ね返ります。我が艦隊は、誤解を恐れず言わせてもらえば
実質司令の私設部隊。司令に変事あらば即刻解散となりましょう。亡霊狩りに専念すべきです」

 

 ――それにさ。シェットランドが言葉を繋ぐ。
「辺境だからバレねぇってさっき自分で言ったでしょうが。月軌道まで戻れば当然他の部隊との
合同作戦になる。今んトコ、宇宙(そら)にはダガーL。ウチのヤツしか無いんすよね?」 
 停戦後。軍事力、特に物量という面において、本国侵攻さえ考えなければ、ザフトは既に
連合軍の敵では無い。ダガーLは主に地上のゲリラ鎮圧に使われている、と彼は聞いていた。
「当然ダガーとの見分けなんざぁ、シロートにだって付く。失ったダガー改やメビウスの代わり
に使うんでしょうが? そうなりゃ“同業者”の目を誤魔化せるたぁ、俺にゃとうてい思えない」
 宇宙(そら)のダガーLは公式には201艦隊の5機以外、無いのだ。結局彼の心配も、艦長と
同じベクトルである。そして艦隊が無くなっては困る。その一点で三人の意見は一致を見た。

 

「決まり、だな。――私だ。お茶のおかわりを持ってきてくれ。それと参謀達を全員此処へ……」

 

予告

 

シェットランドと艦長は亡霊と、そして自らの司令の最終目標を話し合う。
そこは果たして本当に平和の世界が待っているのか、それとも……。
そんなおり、突如アラートでたたき起こされるシェットランド達。
彼らに課される新たな命令とは。

 

 ゴミ溜の宇宙(うみ)で
 次回第八話 『希望、羨望、渇望』

 
 

【第六話 『選べないモノ』】 【戻】 【7.5話 ―分岐点―】

 
 

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