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第十一話 光芒の星々をすり抜けて

Last-modified: 2017-08-22 (火) 22:16:20

―ソーラレイ―

 

ジオンの最終兵器、コロニーそのものを砲身とした超巨大レーザー。
ジオン公王デギン・ザビを乗せたグレート・デギンもろとも連邦軍艦隊を薙ぎ払ったその一撃は
連邦主力の4割をもぎ取っていくという大戦果を、そして悲劇をもたらした。
圧勝のはずの星一号作戦は一転、どちらに転ぶかわからないほどの戦力の拮抗を招いた、未だ数的には連邦有利とはいえ。
しかし、ギレン・ザビ以下、ジオン首脳は正しく理解していなかった。このソーラレイで数的不利を覆したツケが
連邦軍全体に憎悪となって刻み込まれたことを。
数で圧倒し、降伏したものには寛大な処置をしえた思考から、憎しみに塗りつぶされた復讐戦と化したことを。
上は指揮官から下は前線の兵士まで、ジオン憎しの意識を燃え上がらせたことが、のちの悲劇につながることを。

 

戦艦マゼランの兵士待機室、その一角に座り込み、俯いて床を見つめる兵士がいた。涙は枯れ果て、その瞳は憎悪に燃える。
「ジオン・・・許さねぇ。皆殺しにしてやる。ぶっ殺してやる、一人残らず・・・」
ビル・ブライアントが最愛の人を亡くしたのはほんの十数時間前、最後に交わした言葉は、ジムの訓練中、隊長ジャックに
こてんぱんにノされたサーラに「カタキはとってやるぜ」と冗談めかして送った通信だった。
返信はなかったが、彼女のジムが親指を立てて合図したそのポーズが、その奥のコックピットにいる彼女の表情を
浮かび上がらせる、がんばって、と。
そのサーラは見ていただろう、彼が結局ジャックに及ばなかったこと、そしてそれを決して残念には思わなかったことを。
無事に帰ったなら、「やるじゃない、ウチの隊長クンも。」などとウインクを投げて言われただろうことを・・・

 

ジャックはそんなビルの前に立ち、かける言葉を探していた。ジャック自身アイランド・イフィッシュの仲間、
シドニーの家族、尊敬する兄貴、先輩、そしてつい先日には長く世話になった司令官さえ失ってきた。
しかしただひとつ、恋人を亡くした経験はなかった。その悲しみがいかほどか、それを推し量ることはできなかった。
あるいはそっとしておくべきかもしれない。戦場において彼の憎しみがプラスに働くこともまた否定はできない、
赤く燃え盛る憎悪は破滅しか招かないが、青く静かに燃える憎悪の炎は戦果と生還につながる可能性がある。
兄貴は俺をぶん殴って目を覚まさせた。しかし彼を今殴っても憎悪の質を赤い炎にするだけかもしれない。
彼は一言、ビルにこう告げた。
「サーラは、きっと見てるよ、お前を。だから・・・死ぬなよ。生きて彼女をまた思い出してやれ。」

 
 

部屋を出るジャックを追いかけて、ツバサが部屋から出てきた。
「あの・・・ジャック中隊長、その、お願いがあるのですが・・・」
「何だい?」
自分でも信じられないほど優しい声で返すジャック。先のビルとのやりとりの余韻もあっただろうが、最終決戦を前に
ただ二人残った自分の部下、しかも少女となれば自然と語句も柔らかくなる。
「その・・・コックピットで、音楽、かけてもいいですか?」
「んあ?」
「そ、その、同期の人に聞いたんです。彼の所属の隊長が、出撃時に音楽をかけるって。だから、私も・・・ダメですか?」
「・・・どこの隊、それ?」
「えっと、部隊名は忘れましたけど、確かイオ・フレミング隊長とかいう・・・」
有名どころだ。激戦区であるサンダーボルト宙域を戦い抜いてきた猛者、連邦でも数少ないフラッグ・モビルスーツ
「ガンダム」を乗りこなし、数々の戦果を挙げてきた英雄。しかし音楽を聴きながら戦闘してたというのは初耳だった。

 

「私、音楽を聴くと落ち着くんです、そうすれば戦場でもきっと冷静になれると思うんです、だから・・・」
「・・・通信は聞き逃すなよ。」
「え、いいん、ですか・・・?」
「好きにするといい。」
それだけを言って背中を向けるジャック。正直、彼女の技量では最終決戦を生き延びれる可能性は少ない。
その確率を少しでも上げられるなら、多少のワガママにも目をつぶれる。
背中で「ありがとうございます」の言葉と、深々と首を垂れる彼女を感じながら、ジャックは愛機の待つハンガーに向かった。

 

ハンガーに格納された彼のジム、その中身は兄貴のスピリットを受け継ぎ、エディさんとの研鑽の結晶が詰まっている。
そしてその盾には、その象徴である精悍なサメの顔が映っていた。
「ねぇサメジマの兄貴、それにエディさん、俺にも部下ができたんだぜ・・・」
シャークペイントに向かって語る。まるでそこに二人がいるように感じられたから。
「これで最後だよ、長いようで短かったけど、今回で最後にする、きっと!だから、見ててくれ。」
獲物をかみ砕く顎(あぎと)、兄貴のお気に入りであり、エディさんが苦笑いで受け入れた勇敢の証。
その牙に誓う。これを最後にすること、彼らから自分につながれた命を、必ず部下の二人に託すことを・・・

 
 

―宇宙世紀0079、12/31、星一号作戦、開始―

 

攻撃目標ア・バオア・クーを上方から見て4つのフィールド、東西南北を示すE、W、S、Nに区切り
うち3方向から一気に制圧を目指す。主力をNフィールド、搦め手をSフィールドに振り分け、Eフィールドには
牽制部隊が送り込まれる。とはいえどの戦場でも、戦力は連邦のほうが圧倒的に優位だ。
しかしソーラレイでの戦力減退が、安易な降伏や停戦を許さないほどには戦力を拮抗させたことは否めない、
つまりどの空間でも剥き出しの殺し合いになることは確実だ。

 

ジャックの所属する部隊は牽制のEフィールド、しかしその配置は敵索部隊によって敵にも知られている。
本命のSフィールドやNフィールドに比べ、ジオンの戦力の振り分けが少ないのは確実だろう。
となれば最初に敵の防衛線を突破し、ア・バオア・クーに取りつくのがこのEフィールドの部隊であっても
なんら不思議ではない。

 

マゼラン1、サラミス6艦から吐き出された大量のジム・ボール部隊がEフィールドに展開する。迎え撃つは数隻のムサイと
そこから発進するザクを中心としたモビルスーツ部隊。双方の戦艦は対に位置し、その間の宇宙でモビルスーツが激突する。
例えるなら艦隊はサッカーの両ゴールで、フィールド内のモビルスーツは選手といったところか。
モビルスーツの勝敗が決すれば、大量のシュートが敗れた方のゴールに打ち込まれるだろう、そしてそこでの勝敗が決する。
モビルスーツという巨人の群れ同士の殺し合いが始まった。

 

「ビル!ツバサ!絶対に動きを止めるなよ!」
激しく機動しながらジャックが叫ぶ。こうも敵味方が密集していると、狙いをつけるだけでも大きな隙となる
攻撃は適当でいい、味方を誤射さえしなければ。3機で離れすぎないように飛び回り、戦場のフィールドを横切る。
密集地を抜けたところで終結し、わずかな時間を射撃に費やし、そしてまたフィールドに飛び込む。
ジャックにとって意外だったのは、ビルが思ったより冷静だったことだ。突出して身を危険にさらすことを
心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。
爆発の光芒の中を両陣営のモビルスーツが飛び交う。そして優越が徐々に偏っていく。押しているのは連邦だ。
一度優劣がつくと、そこからは早かった。1機のザクに複数のジム、ボールが殺到し仕留めていく。
もともと数で劣勢なジオンにとって、負け始めると崩れていくのは加速を増す。やがてザク部隊はムサイ周囲まで下がり
母艦を逃がすための殿(しんがり)として最後の抵抗をする。そこに殺到するジム・ボール。

 

その側面に、大量のミサイルが降り注ぐ。正面にしか注意が行ってなかった連邦軍はこの不意打ちに大きなダメージを受けた。
ミサイルの後に来たのはモビルスーツではなかった。円筒形の、ドラム缶を横倒しにしたようなモビルポッドだった。
その数約30機、思わぬ新手に連邦の攻勢が止まる。再び戦場は互角の攻防になるかと思われた。
しかし連邦も押し返されてばかりではない。攻勢に便乗しようとしたサラミスやマゼランの艦砲射撃がザクやその後ろの
ムサイに殺到する。次々に撃沈していくムサイ。そしてザクに代わりムサイの前に立ちはだかるジオンのモビルポッド。

 
 

「オッゴってやつか!気を付けろ、先日月軌道上でボール2個小隊がこいつに食われているぞ!」
大隊長が叫ぶ。モビルポッドでもボールとは違い、アタッチメントを使用してザクのマシンガンやバズーカを搭載
動きもモビルポッドとは思えないくらい速く、なおかつ3機1組で編隊飛行しているために、今しがたまでの
対モビルスーツ戦闘とは毛色の違う戦いを強いられてしまう、頭の切り替えの遅いジムやボールが仕留められていく。
とはいえ艦砲射撃によりムサイはほぼ轟沈、残った最後の一艦もたまらず退避を始める。これによりオッゴが
補給を受けるべき母艦はなくなった。マゼランやサラミスは健在、数は互角、ボールはともかくジムは性能が上位、
未だに連邦の優位は動かなかった。

 

ここで連邦は部隊を2つに分ける。居残って戦闘を続ける者と、一度母艦に帰艦して補給を受ける者に。
一時期戦場は不利になるが、その行動自体を罠と思わせるような巧みな全体機動で敵に警戒させる、これが功を奏した。
連邦側は知らなかったが、実はジオンのオッゴ部隊は学徒兵の部隊だった、戦場において攻勢をかけるべきタイミングを
つかむためのカンが働かなかったのだ。
一度両サイドに分かれる連邦とジオン、素早い着艦で補給を済ませ、再出撃するジムやボール。
この判断をした連邦軍の大隊長は自分の判断の成功に思わず舌なめずりをする、彼は勝ちを確信した。

 

その時、その大隊長のジムを含む補給を終えた数機が、突如飛んできた光に飲み込まれた。
戦場を走るその光線は、そのままサラミス1隻を薙ぎ払い、爆発させる。
敵味方が一斉にその方面に目をやる。そのビームを放ったのは戦艦ほどもある、巨大な赤い影に。

 

「また新型かっ!」
ジャックが叫ぶ。地球軌道でヅダ、基地攻防戦でザクレロ、ソロモンで銀のゲルググ、そしてこのア・バオア・クーでの
この赤い巨大モビルアーマー、ジオンの兵器開発の速度は一体どこまですさまじいというのか・・・。
「なんだ、アイツは!」
「隊長・・・」
ビルとツバサが動揺を隠せずに発する。彼らはこれが戦場デビュー、次々変化する展開に付いてこられるか不安は尽きない。
だからジャックは機動する、その赤いモビルアーマーに向かって。部下を委縮させないために。
「お前らは離れて他との戦闘に集中しろっ!」
二人にそう言い捨てて、怪物モビルアーマーに突撃する鮫の顎。そのほかにも判断の早い者、つまり戦場の急変に動じない
パイロットたちがそれに突撃する。コイツを仕留めればもうジオンに後はないだろう、と。

 
 

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