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第十二話 赤の無双

Last-modified: 2017-08-22 (火) 22:21:48

突如現れたその巨大な赤いモビルアーマー、いきなりサラミス1隻を沈めたその巨体に連邦のジムが殺到する、
次々と発射されるビーム・スプレーガンがモビルアーマーの表面に花火を咲かせる。
だがその巨体に致命傷を与えるにはエネルギーが不足していた。おそらくメガ粒子砲クラスでないと
その装甲に穴をあけることは敵わないだろう、だがそれでいい、牽制射撃から近距離まで切り込めば
ビームサーベルで本体を切断することは可能なはずだ、ソロモンでガンダムがビグ・ザムにしたように。
だが、その目論見は外れた。巨体の側面に設置された発射口から無数のランチャーが発射される。
それはジムには向かわず、モビルアーマーの周辺で起爆、爆発は小さく、代わりに粒子がまき散らされる。
切り込んだ1機のジムがビームサーベルを抜くが、刀身部分はゆらぎ、形を成さずに消える。

 

「ビーム攪乱膜!」
ジャックが叫ぶ。ソロモンで連邦軍が使用したビーム兵器霧散システム、ビーム兵器の効力を著しく
減少する効力がある。この瞬間から火器を持たないジムはこいつに対して無力になった。
すでに戦闘が始まって相当時間がたっている、戦闘開始時にはバズーカやマシンガンを持っている
ジムも多数いたが、すでに皆使い切り、無尽蔵に使えるビーム兵器に頼る情況になっていた。
「みんな、離れろっ!」
そう叫んでモビルアーマーから離れるジャックのジム、しかし遅かった。切り込んだジムたちは、ことごとく
モビルアーマーの大型バルカン、または周囲を飛ぶオッゴの十字砲火によって爆散していく。

 

後退し、再び中隊と合流するジャック。ビルとツバサに叫ぶ。
「ビル、あいつに近づくな!ビーム攪乱膜だ、何をやっても効かないぞ!ツバサ、残弾はあるか?」
「すいません!たった今、使い切りました・・・」
無理もない、これが戦場デビューの、しかも気弱なツバサであれば、弾を使い切る前に戦死しなかった
だけでも上出来だ。
「母艦で補給してこい!皮肉だがこの戦場ではボールの砲撃が頼りだ!」
「はいっ!」
反転して母艦マゼランに向かうツバサのボール、ジャックとビルは追撃を防ぐべく援護に入り、オッゴを狙い撃つ。

 

他の隊も同じ判断だった。ビーム攪乱膜を使われた以上、あの化け物の周辺ではボールの砲撃が頼りだ。
いくつもの部隊が合流し、オッゴに対するジムと、モビルアーマーに攻撃を加えるボールの群れに分かれる。
幸いあのデカブツ、さすがに機敏さは無いようだ、ボールの機動力でも十分にとらえられるだろう。
事実、ほどなくボールはモビルアーマーを包囲しつつあった。
が、バルカンの砲門を開いたモビルアーマーは、意外ともいえる細かな弾幕で次々とボールを打ち落とす。
それでも巧みな機動で、一機のボールがモビルアーマーの側面を確保し、砲撃を加えんとコックピットを狙う。

 
 

その瞬間、信じがたい事が起きた。
モビルアーマーはその左腕を動かし、そのボールをわし掴みにする、動いてるボールを、だ。
そして球技の投球のように振りかぶり、そのボールを投げ捨てる。吹き飛んだボールは何と、
側にいた別のボール部隊に次々に激突、まるでビリヤードのように跳ね返り、当たったボールすべてが爆発した。
その信じがたい行動を目の当たりにした誰かが、通信で呟く。
「ニ・・・ニュータイプ、かっ!」
予知能力やテレパシーを有し、目で見ずとも周囲の状況を把握、念動力さえ使うと言われるエスパー、
もしそんなものが存在するなら、今の神業も十分に説明がつく。
そして、そのモビルアーマーは、そんな悪い予感を確信させるように無双を始める。

 

ボール部隊が苦戦とみるや、そのフォローに入ろうと突っ込んできたのは2隻のサラミス。
モビルスーツと違い、これだけの巨体なら戦艦や巡洋艦の砲撃でも命中は容易だ、艦砲のエネルギーなら
ビーム攪乱膜を貫いて撃沈も可能と判断したのだろう。
だが甘かった、モビルアーマーから先手を打ってミサイルランチャーが発射される。3発放たれたその弾は
曲線を描き、正面から突進するサラミスの横腹に食らいついた、瞬く間に爆発する2隻のサラミス。

 

遅れて突撃するのは旗艦であるマゼランだった、サラミスが瞬く間に散った以上、もう後戻りはできなかった。
殺られる前に殺る、戦艦の火力で撃たれる前に沈める、メガ粒子砲を赤い悪魔に向けて放つ。当たれ、当たってくれ!
願いむなしく特大ビームはモビルアーマーの頭をかすめる。ビーム攪乱膜の影響もあっただろうが
サラミスが撃つ前に撃たれた焦りが、砲手の照準を狂わせた事実もあった。
その返礼とばかりに、モビルアーマーのクチバシが開く。黄金の光が灯り、瞬時に強力なレーザーが吐き出される。
その咆哮は周囲のビーム攪乱膜を薙ぎ払い、マゼランの甲板から上を嘗め尽くし、吹き飛ばす。
あわや体当たりかというほどの近距離を、炎上したマゼランとモビルアーマーが交錯する。
操縦者も指揮官も焼き尽くされたマゼランはそのまま横を向いて爆発、炎上する。

 

わずか10分ほどの間に多数のジムやボール、巡洋艦2隻、そして旗艦の戦艦1隻がこの戦場から消滅した。
その恐るべき破壊力、パイロットの技量に、連邦軍の戦士たち全員がほぼ凍り付いていた。
例外のうちの一人が通信に向けて絶叫する。
「ツバサ!ツバサ・ミナドリ二等兵!応答しろーっ!!」
ジャックが叫ぶ。先ほど吹き飛んだマゼランは、その直前にツバサが補給に向かった戦艦だった。
どうか無事でいてくれ、その願いに対する通信は・・・無言。またひとり部下を失ったのか・・・

 
 

「ニュータイプ、赤いモビルアーマー・・・まさか、こんな戦場に!?」
誰かが発したその通信に、連邦兵の多くがひとつの事実を認識する。赤い機体を扱うことで有名な
ジオンのエースパイロット、この手薄なEフィールドに、なんという恐るべき配置を敷いたのか!
「一時後退して、部隊を再編するっ!」
戦死した隊長に代わる隊長代理が撤退を命令する。一斉に撤収するジムやボール。艦もすでにサラミス3隻しかない
全員が補給し、部隊を再編するまで多少の時間は要するだろう。
しかしそもそも敵がビーム攪乱膜を使う以上、実弾兵器の装備は不可欠だった。バズーカやマシンガンを持ってこないと
冗談抜きであの赤い悪魔に全滅させられる危険すらあった、撤収の判断は大正解だったのだ。

 

「ビル、俺の分も頼む!」
「隊長は?」
「奴を見張っている、待っているぞ。」
そう告げると、ジャックは先ほどマゼランが爆発した地点に向かう。戦艦が爆発したなら破片も多く、
身を隠すには最適だろう。しかしビルはもうひとつの目的にも気が付いていた、だから短くこう答える。
「アイ、サー!」
撤収する仲間を追うビルのジム。後ろに赤い悪魔を感じながら、待っていろ、と闘志を燃やして。

 

手ごろな破片の後ろに隠れたジャックは声をかけ続ける。
「ツバサ、応答しろっ!誰か、生存者はいないかっ!・・・」
返信はない。マゼランは完全に爆発したのだ。そのエネルギーは戦艦全体を包んで余るエネルギーを発して散った。
生存者がいると考えるほうが不自然だろう。ジャックはヘルメットを上げ、ぼやく視界を直すべく目を拭った。
やるべきことはある、敵の行動を注視し、駆けつける仲間に報告する。この短いインターバルに、
敵が罠を仕掛ける可能性は十分にある。
しかしジャックが見たのは、それとは別の意味での敵の脅威となる行動だった。

 
 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」
過呼吸にあえぎながら、赤いモビルアーマー、ビグ・ラングのコックピットで、オリバー・マイ技術中尉は
自らの仕事、試作兵器の評価をしていた。
「ビーム攪乱膜は極めて有効、しかし、ジェネレーターの出力にふらつきを認む。これはひとえに
パイロットの技量不足に起因するものと思われる・・・」
初めての実戦、殺すか殺されるかの戦場に、戦力としての参戦。それでも彼の本文は評価試験なのだ。
たとえ最終決戦でも、のちに生かすデータがなくても、彼は実戦の中で得たデータを言葉で記録する。
同時に彼は、このビグ・ラング本来の任務を遂行する。下部の巨大な格納庫にオッゴを収納し、兵装を補給、
負傷した部分を溶接し修理、次々と船内に収納し、補給、修理して船外に出す。
そう、このビグ・ラング本来の目的はオッゴの補助兵器なのだ。ただ完成間近で開発が断念され、
最終決戦用にビグロを連結、牽引させることで一応の兵器の体を取った、まさに急造兵器だった。

 

それを考えれば、彼のここまでの戦果は大健闘と言えた。母艦ヨーツンヘイムを守るべく3隻の敵艦を
破壊したのを皮切りに、この戦場に到着してからも多数の戦艦やモビルスーツを仕留めてきた。
巨大な格納庫をもつビグ・ラングは、エネルギーや格納空間のキャパシティが非常に高い。それを兵器に転用すれば
超強力なメガ粒子砲を発することも、高性能なランチャーやミサイルを多数搭載することも可能だ。
その火力と攪乱膜に助けられ、戦場初心者の彼がここまで戦い抜くことができた。
しかし幸運は長くは続くまい、とも確信していた。おそらく敵は実弾兵器を補充してくるに違いない。
そうなればこのビグ・ラングは巨大な的でしかない、撃沈されるのは火を見るより明らかだ。
それでも彼に迷いはない、彼の周りにいるのは紙装甲のモビルポッドを操る少年兵なのだ。
彼らに比べて、強力な装甲と兵器を持つ機体に乗る自分は何と幸運なことか。
ならせめて彼らを支援する、それがこのビグ・ラングの役目なのだから。彼らを一人でも多く生還させる、
その為にたとえ自分が散ることになっても・・・幾人ものテストパイロットの死を見てきた彼は、
いま自分がその立場にあり、その覚悟さえも備えつつあった。

 

補給工場となったモビルアーマーを見て、ジャックが呟く。
「なんてこった、移動補給基地だったのか、あの化け物が!」
この空間にジオンの艦艇はいない、オッゴがもう補給を受けられないだろうという連邦軍の思惑すら、
この赤いモビルアーマーに破壊されてしまった。
だが出来ることはある、こっちはその事実をつかんだ、再決戦の前に仲間にそれを伝えれば、油断や慢心からの
死と敗北を減らすことができる。ジャックは味方を待ちながら、通信の準備をする、言葉を決める、勝つために。

 

やがて連邦軍の部隊が光の点となり見え始めた。一気に距離を縮める彼らに通信をすべく、言葉を発しようとしたその時
別の回線から通信が飛び込んできた。
「一般回線」に。

 

―こちらア・バオア・クー司令部、すでに我に指揮能力なし、残存の艦艇は直ちに戦闘を中止し、各個の判断で行動すべし―

 
 

第十一話 光芒の星々をすり抜けて 【戻】 第十三話 叫ぶ宇宙

 

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