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第十話 『職分を果たす』

Last-modified: 2014-06-07 (土) 13:56:45

ゴミ溜の宇宙(うみ)で
――職分を果たす――

 

「チャン軍曹、時間は?」
「はっ、艦長。接触まで……、30時間切りました」
 自席のシートに付いた小さなモニタ−にもデータの列に重なって数字のカウントダウンは続く。
「未だパッシブセンサー各系統に反応は確認出来ず」
「まだだ。アクティブ系はまだ使うな、連中に“見られ”る。いいな?」
 ――まだ見つかっていない? 違うな、敵の動向に神経質な彼らだ。少なくとも隕石が
近づいているのは気がついているはずだ。ならば無人兵器で状況確認、それが敵なら戦力を
削ぎに来る。人員が圧倒的に不足していると言うなら、尚更お得意のその手を使うだろう。
 死角から無人兵器を使っての奇襲、それを狙うなら、デブリの位置関係を考えると数時間。
それ以内には第一波が来る。艦内放送のスイッチを入れると艦長は自席を蹴って立ち上がる。

 

「現時より各員にスペーススーツ着用を指示する。――今回ばかりは、司令もお願いします」
 一度帽子を被り直し、大きく息を吐くと立ち上がり、気を付けの姿勢でラ・ルースに向き直る。
「で、キミは着ないのかね、艦長?」
 隣の席。如何にも慣れない手つきで白いスーツに袖を通すのは勿論、ラ・ルースである。
「カエサルのブリッジを潰されれば無条件で負けです。それに艦長は艦と命運を共にするもの
であります。旗艦たる当艦艦長を拝命した以上、生き恥をさらす訳には絶対にまいりません」

 

 艦隊旗艦、それも連合でも最大級の戦艦アガメムノン級。わけてもその最新鋭艦カエサル。
その艦長に抜擢された以上軍法に書いて有ろうが無かろうがその種の責任は発生するのだ。
そう愚直に思うことさえ自身の仕事であると考える艦長である。
「ご心配には及びません、閣下。部下の統率、練度、装備。何処にも死角はない。自分は
この艦を堕とす気など毛頭ありません。……それに指揮官が部下の不安を煽ってどうします」

 

 ――ならば私もこれを着ずとも済むのではないかね? 言いながらラ・ルースはヘルメットを
首のハンガーにくくりつける。
「チェスと同じ、キングさえ取られなければ良いのです。ブリッジが潰れようが、閣下が残れば
部隊再建も容易い。……但しキングに変事あらば、艦隊もろともいとも簡単に崩壊しましょう」
 艦長は、再度大佐の階級章を襟に付けた白いスペーススーツに視線をやる。
「我らは実質司令の私兵である、とは先日も申しました。ならばこそ士気だけ考えれば閣下は
スーツなど着ぬ方がよろしい。……但し亡霊狩りの、その事後までお考えであれば有事に備え
着用を願いたいのです。――勝馬に乗りたい。そのくらいの人並みの色気は我らもあるのです」
 多少張った声にブリッジの半分がラ・ルース達を振り返る。
「私にスーツ一つ着せるにも理屈が必要かね? ふ……。如何にも艦長らしいな」

 

「お褒め頂いたものとして受け取ります。――哨戒、目視しか使えん。更に厳となせ! 
もう連中の縄張りのなかだ、既に存在は気づかれているぞ。一瞬足りとも気を抜くな!?」
 帽子のつばに手をやりながら、艦長席へと背筋を伸ばしたまま座る。
「ラジャー。索敵班を増員、警戒態勢は継続!」
 ――それに、スーツを着ないのは私の流儀です。そう言うと艦長はモニターに目を落とし、
【艦内一斉/オープン】の表示の出た画面を消して、データの羅列を睨む。

 

「――私の流儀を通す為には、今回ばかりはあなたの力が必要不可欠。……わかってるよね」

 
 

「スーツは着ない主義、ねぇ……。全く、何処までもめんどくせぇねえちゃんだよ。――それを守る
ナイトだっつうんなら、まぁ仕事のやりがいがあって非常に結構な話ではあるんだが、ねぇ」
 勿論侵攻コース上に大きな塊のないことは調査の上ではあるが、デブリの排除が出来ない
為、時折小さな破片がぶつかる音が響くMSデッキ。シェットランドはデュエルプラスの
コクピットで、強制割り込みで開いた通信画面が消えたのをみて、パラメータ調整へと戻る。

 

「改めて見ると、やっぱり人間が乗る設計じゃねぇなぁ」
 見た目こそデュエルだが二期型のGタイプと同じ機関を据え付けられた機体である。
リミッターを切れば、それこそ“歌姫の剣”ことフリーダムさえ追い回す事の出来る推力は出る。
 だがその高機動に今度は乗り手の身体が追いつかない。シミュレーターでさえ96%の確率で
『パイロット圧死/若しくはブラックアウトの上撃墜』の計算結果が出ている。

 

 実際に演習中、リミッターカットで数度転回しただけでブラックアウト寸前にまで追い込まれた
彼である。自分の限界値。シェットランドはそれギリギリに合わせてリミッターを再設定していた。
「全く、ゴリラかなんかじゃねぇとGには乗れねぇってのかよ……。よぉ、そこにチーフ居るか?」
 腕のメンテナンスハッチを開けて、端末でデータの確認をしていたメカチーフが顔を出す。
「確かにレイダーやフォビドゥンを乗り回してる連中は、ある意味化け物でしょうな……。
少佐殿、ブーステッドマンってぇ言葉に聞き覚えは?」
「それ以上は言わぬが花だ、チーフ。東洋のことわざに曰く、“壁に耳ありショージにメアリー”。
だそうだぜ? ……聞いてる相手も201艦隊(ウチ)の場合、身内だからかえって厄介だ。
“ショージ”がいったい何なのか、“メアリー”が誰なのか、と言う話は横に置いて、な?」
 歯を見せてニッと笑ったシェットランドだが、その目は笑っていない。

 

 ――失礼致しました、お気遣いを。硬い顔で敬礼をするメカチーフに、シェットランドが
気にするこたぁねぇさ。と手を振ってみせ、小声で話しかける。
「俺の知る範囲の話だが、化け物ってのはちと可哀想だぜ。――やたらガキが多い様だし。
ま、いろいろあるみたいだからな。……“力持ち”になるのも大変だっつう話だ」
 知っている情報のレベルはもちろん違うのだが、メカマン同士の雑談で機密事項の
多いブーステッドマンのことも多少は知っているチーフである。特に生体CPUならばMSの部品
の扱いである為、高級将校程ではないにしろ、ある程度の情報も公式にアナウンスされる。

 

「ま、そもそも呼称が生体CPU。ですからねぇ。――ところで設定の方はどうです? 少佐殿」
「……人間用じゃねぇ。ってな違和感を覚えるよ。半分以上どうして良いのか判らんパラメータ
ばかりだし、へんなリミッター解除すりゃターン一つで即死だし。……これを乗りこなして見せろ
って言われた俺の方が多少可哀想な気がするよ。なんてな、はは……」
 少なくともチーフがその知り得る情報を統合した限り、ブーステッドマンが可哀想。と言う
結論には至らない。
「司令じゃないですが、少佐でダメなら、あとはウチでは動かせるやつはいねーすよ。
自分以下、メカチームも総がかりで全面サポートしますんで。おねがいしますよ?」
 だが、自分の直接担当する機体を操るシェットランドが可哀想。と言うのは理解が出来たし、
“人間用に再調整”する自分も多少は可哀想かもな、とチーフは思いながら関節の調整に戻る。 
「戦術ブリーフィングに機体調整、各部隊の掌握。隊長するのも、ナイトになるにも、その前に
やることが多すぎだ! せめてDナンバーズの私生活にリミッターかけらんねぇかな……」

 
 

「戦闘体制継続! MS隊は即時出撃態勢のまま待機! 少佐、動くなよ? もう少し待て」
 メインディスプレイにはたくさんの光点が浮かび一直線に艦隊へと向かってきている。
「メビウス2、ジンが1、機動から全機AI操縦の無人機(ドローン)で確定」
「その他、例のカミカゼセンサーが突っ込んできます、総数10以上。艦長、排除は!?」
 現状はおかしな挙動を示すデブリを自動で確認に来ただけだろう。動けば存在がバレる。
「全砲座、即時射撃態勢のまま待機。ロックはもちろん照準もするな。センサーに”見”られる!」
 艦長は隣のラ・ルースを振り返るが、特に何かを指示するわけでもなく、ただ鷹揚と座って
居るのみ。つまり想定の範囲内の出来事であるから自分が何かをする必要は無い。
と言う事なのだろうと艦長は了解する。

 

「先行させたダミー隕石2番にロール毎秒3ずつ左。3番はピッチ毎秒マイナ4。先ずは先行の
カミカゼセンサーを激突させて潰せ。1番隕石は速力13%ダウン。カエサルのデッキを隠す」
 艦長がブリッジに出した指示で、自身の次の行動を理解したシェットランドから通信が入る。
『Dリーダーから艦長。カタパルト無し、自力で出る。で良いんだな?――第二小隊パック無しで
甲板に上がる準備。Dツゥは待機。――デッキにでるぞ。タイミングはCICから全機に直接くれ』
「少佐、解っていると思うが火器を使わずに拿捕しろ。無人機だから貴様らの腕ならば
そんなに手間はかからんだろう。陰になるのはせいぜい3分強。頼むぞ?」

 

「……艦長、人為的挙動だとバレやしませんかね?」
「大丈夫であります、副長。この辺りは重力のバランスが一番入り乱れているんです。
デブリのスピードの増減は何度も観測されていますのでそれをシミュレートして動かしてます
それにNJ反応もやたらに濃いんで、センサーが潰れても原因までは特定出来ません」
 艦長に代わって副長に答えるのはチャン軍曹。
「軍曹を信じよう、副長。いずれバレるのは時間の問題だが、なるべく懐深くに潜り込みたい。
単純戦力なら我らの圧勝。だからこそ、策を弄する様な時間も距離も与えたくない」
「――艦長に任せて良さそうだな。部屋にいる、終わったら呼んでくれ。……後を頼む」

 
 

「ぶっ壊さなくて正解だったってことか?」
『そうです。捕縛後にケーブルを切断したのは良い判断でした。本体が攻撃を検知すると即座に
遭難信号と共に信号弾が上がる仕掛けです。影からいきなりぐるぐる巻きは想定してない様で』
 ケーブルを切断され、甲板上にワイヤで捕縛されたMSやMAはまるで意志のある者の
様にセンサーを忙しく動かし、マニュピレーターが艦船を曳航出来るワイヤを引きちぎろうと
もがく。無人であることを知っている以上かえって不気味に写る光景である。 
「――と言う事だそうだ、艦長。どうする?」
『当面はマテウスにしまっておく。――それと擬装用の隕石がもう少し欲しい。1番の陰に
入りつつ適当にいくつか見繕ってきてくれ』

 

「艦長! Dナンバーズは何でも屋じゃねぇんだぞ? パイロットの消耗も考えてくれよ!」
『Dナンバーズでなければ出来まい。それに捕縛の方は作戦の手本を示した以上、次からは
Cナンバー各隊にやって貰うつもりだ。――なにか質問は?』
 次って、まだこんなのが? 思わず呟いたシェットランドにチャン軍曹の声が変事をする。
『恐らく最低あと2回、来ます。最大だと5回。本拠地攻略はその後、と言う事に……』
「……やること多すぎだっ!!」

 
 

「残り10時間。――今回はカミカゼセンサーのみ、か。存在が露呈したと思うかね? 艦長」
 20時間程後。201艦隊旗艦カエサル、そのブリッジ。艦隊司令フェデラー・ド・ラ・ルース大佐
とそのカエサルの艦長が腕組みをした形のまま浮かぶ。その横にはシェットランド少佐が
ドリンクチューブを手に流れていく。ブリッジクルーは全員が配置についている。
「恐らくは。少なくとも過去2回で無人のMSでは意味がない、と踏んだのはたしかでしょう」
「逃げられると困るな。あと5,6時間は時間を稼がなければ届かなくなる。――軍曹?」

 

 全天航宙図が二人の足下に立ち上がる。
「艦長の見解で大筋正しいかと。但し我々の意図するところまではまだ読まれてはいないとも
思えます。それが証拠に未だダミーの存在を気にしている様です。ダミー方向へは灯火管制
を敷いているらしく、スラスター光等も今のところ観測されておりません」

#br 
「船の形をしたゴム風船と何らかの意図を持ったと思える隕石……。なぁ、直接的な驚異を
感じるとすれば、チャン軍曹ならどっちだ?」
 それまでぼんやりしている様に見えたシェットランドからいきなり話を振られて戸惑う軍曹。
「……大隊長? いや、そう、はい。前提条件として、ダミー艦隊は彼らにとってゴム風船では
ない筈です。カメラはあってもまともなセンサーがない。そして隕石も自然のモノと人為的なモノ、
その区別は恐らく付かないでしょう。――自分ならダミーであります。距離も幾分近いです」 
 ダミー艦隊、目標までの距離は? シェットランドが航宙図の方に身体を流しながら問う。
「全速なら3時間。……ですが、近づけばもちろんゴム風船なのがバレますよ」
「……だよな、当たり前か」

 

「ふむ。相変わらず面白いものの見方をする。――現状から我が艦隊の加速は出来るか?」
 こちらは打てば響く、と言った具合にラ・ルースの後ろに立つ参謀が即座に変事をする。
「偽装解除を4時間後としても、毎分0.7%が限界であります。それ以上は動きが自然物とは
あからさまに乖離してしまいます」
「ダミー艦隊は3時間と言ったな? 軍曹。リモートが効く、と言う前提に立って良いのかね?」
 デブリの隙間を縫ってレーザー通信が使えます。これも不可視ですから連中には観測
出来ません、司令。こちらは即座に軍曹が答えをかえす。

 

「現状から加速0.3%、偽装解除を5時間後に変更し、かつ解除後最大加速でコンタクトは?」
「は? あ、いえ。……端数はともかく、えー。――7時間は切って約6時間半であります」
 風船の速度と角度が問題だな。シェットランドはそう言い残してブリッジ出口へと流れていく。
「速度か、確かにダミーには艦載機がない以上目くらましが。――! そうか、目くらましか!」
「あぁ。それで行こう艦長。――おい、目視でダミーと解るのに距離はどれだけ必要か?」
 参謀達の半分がそれを聞いた時点でブリッジを慌てて出ていく。
「要はスピード、偽装がバレ無い距離だ軍曹! 少佐と同じ質問をするぞ。隕石と艦隊、
ダミーがバレ無いと言う前提ならば! 脅威を感じるのは、それはどちらだ?」
「……艦長。出来る限り目視させずに、裏に回り込む経路を取らせれば良いのでありますか?」

 

「頭を押さえて逃げられん様にしてくれ。速度と距離は参謀達に計算させるが、コントロールの
微調整は軍曹以下のテクノチームに頼らざるをえん、頼むぞ?」
 珍しく焦って見えるラ・ルース。その言葉を遮る様に艦長の凛とした声が艦橋に響く。
「カエサルより全艦に通達、加速準備0.3%。主機は起動するな、エアで此くらいはいける!」

 
 

「諜報屋なのにまるで情報が取れんとはな……。オペチーフ、その後の状況は?」
「隕石と思われるものは、更に速度をあげつつ依然接近中。――なに? どうしたの?」
 オペレータ席に座った少女が震える指でキーボードを叩いきつつ上司を振り返る。
「敵艦隊、突如転進加速。単横陣に艦隊を組み直しつつ、ヴァルハラと直交のコースに……、
いま! 乗りました! なおも増速中。ヴァルハラとのコンタクトまで現状2400秒!」

 

 司令席から立ち上がり全員そろってもまばらにしか見えない指揮所に指示を出す。
「全隊にコンディションイエロー発令! ――っ? まさか……。オペチーフ、隕石な。アレを
連合の巡洋艦だと仮定してたった今から機関全開。この条件で、此処までどれだけかかる?」
「ネルソンタイプと仮定して全力なら……、2、000秒弱、と言ったところですが。――キャップ?」
 くそったれ……! この俺がこんなくだらん手に。額に手を当ててそう呟くウィルソン。
「挟撃? いや違う!! ――くそ! こんなゴミ溜の真ん中で、つまらん手を……!!」

 

「……キャップ?」
「現時をもって隕石は連合艦船とみなす。全艦機関始動を指示。手空きのものはヴァルハラ内で
使えそうなもの全てをオルトリンデとゲルヒルデに積み込ませろ、船倉は現状ほぼカラの筈だ!
各ステーションに駐留しているものはヴァルハラへ帰投! 全て大至急だ!!」
「それは、つまり……」
「ヴァルキリア隊全艦は1、800秒後に緊急発進。遺憾ながらヴァルハラは放棄する! 
ヴァルハラ放棄に伴い、900秒後より全体指揮はブリュンヒルデブリッジへと移行っ!」
 しかもこの状況下でどちらが囮なのか未だに完全な判断が付かないのだ。
本命が隕石だ。と言い切る事が出来ない。わめき出したいのをこらえるしかない彼である。
「あ、アイアイサー! こちら指揮所、緊急です。セリア隊長と甲板長、メカチーフにも……」
「リュンディ、オルテラ、ゲルヒィ。全艦機関始動用意! 統括機関士長に大至急連絡を!」  

 
 

「……なんて言うか、片づいてるね」
 稼働MS全機のイニシャル調整を終わらせてパイロットに引き渡したメカマンチーフは、
取るものもとりあえず資材集積所になっていた重力エリア入り口の倉庫に急いだ。
 食料と重要部品の3割も回収出来れば御の字。と思っていた彼女の前には、がらんとした
倉庫と、整然とトラクターにひかれて運ばれていくコンテナの列しかなかった。
「おおっと、居た居た。リンダ、チョイ待ち。――ここの中身、どーしたの?」
「ニコルソンから武器弾薬と資材はゲルヒルデのB倉庫とMSデッキ、食料はオルトリンデの
第2、第3弾薬庫へ移す様に昨日指示が、――チーフでは無い? では、セリア隊長では?」
 ――やるわね、レベッカちゃん。さすがはキャップに目をかけられるだけのことはあるわぁ。
どうやら敵戦艦と隕石の位置関係から先の展開まで含めて先読みしたらしい優秀な後輩。

 

 通常室長の頭が回らない程の仕事量の時は、実質の副官、フジコが指揮を執り仕切る。
だがフジコまでもが日常業務に忙殺された場合はどうなるか。
 本来はラインを持たない首席事務官がその任に当たることになっていた。実際にそれをする
だけの能力も人望もある人物ではあったのだが、そこまで追い詰められたことはなかった。 
 そしてその彼も居ない今、現状の序列から行けばメカチーフの彼女かワチャラポンが
その責を負うのが必然だろうが、彼女らにはそれをやるだけの余裕など有るはずもなく……。
「レベッカちゃんの起用は当たり、かな……? ――作業は継続、90分で全部片付けて!」

 
 

「ベッキー、気付いていたと言うなら黙っていたのは何でだ?」
「……どちらかというと、貴重な重力エリアの片付けが主な目的だったわけです。あそこは外で
拾ってきたもののうち、使い道のあるものを一時的に集積する場所でもあったわけですし
MS以外の整備は重力があったほうが楽ですし、メカニックと甲板員暇そうだったし……それに」
「それに?」
 ヴァルキュリア隊旗艦ブリュンヒルデ。その隊長室。椅子に座ったウィルソンと手を後ろに
組んだフジコが、ベレー帽を小脇に挟んで気を付けのレベッカとデスクを挟む。
「戦術的に連合がそうまでしてこちらを狙う意図が、私には理解出来無いわけです。だから
キャップと先輩、お二人とも静観してるならば、それは自然物と判断するのが妥当だろうと……」

 

「危機管理の判断基準と上司への進言。キチンと教えておかなきゃいかんところだな……。
アレは自覚がない様だがかなりの出来物だ。ただのパイロットで終わりのタマじゃあない」
 レベッカを下がらせたウィルソンが額に手を当てる。
「確かに我々が気づくべき性質の事項ではあったのですが。ただ、結果的に環境班とメカマン、
双方に正しい指示を出しています。そこは評価してあげて下さい。悪いのは教育係の私です」
「さっきので教育終了だ。ベッキーの場合はアレでもう次回からは大丈夫だろう。必要以上に
落ち込んだりもしないだろうし、読み違いは確かに俺たちのミスだから反省もしよう。……さて、
時間だ。いっちょいってみようか、セリア隊長?」

 
 

「各艦艇の割り振りは以上だ。質問は? ――無ければ次はMSに移る。先ずパメラ・ポトク。
敵MS正面から当たることになるが、ジャクリーン班を率いてCライン突破阻止を図ってくれ」
「教えた通りにね? ジャクリーン。――? 大丈夫! 船に通さなきゃ良いだけだからさ」
 ドックの中の一番大きな管制室。主だったメンバーが全員整列している。彼女たちの視線の
先にはウィルソンとフジコ。

 

「次にワチャラポン・セーナムアン。フィーネの班を連れて横に回り込みMAの殲滅、並びに
敵戦列の分断を頼む。タイミングを誤れば十字砲火を浴びる。十分気を付けてくれ」
「フィーネ、グラシアーナ。二人とも、見せ場が来たよ。二手に分かれるけど、女は度胸よ!」
 班長に指定された流れ星のMSを駆る少女達は怯えを隠せない。そしてそれを率いることに
なった骸骨旗マークのパイロット達。気がついた上であえて鼓舞している。
「ジェイミー・エラン。狙撃班としてワチャラとパムを突破した機体を確実に仕留めてくれ。
マオ=スゥ、クレメンティナの両名はこれに同行。最後の砦だ、頼むぞ?」
「二人ともぉ、ビビってどうすんの。無傷でパメラ達を突破出来るわけないでしょ。楽勝、楽勝!」

 

「最前線には俺とフジコ・セリア、鼻先に2機で突っ込んで掻き回す。……良いな、セリア隊長」
「イエス・サー」
 ――ちょっと待って下さい。手を挙げるのはレベッカである。
「私、呼ばれていません」
「当然だ、“まだ”呼んでいない。……おまえはブリュンヒルデのブリッジで全体指揮を執れ。
艦隊司令だ。無線どころか、多分テキストも流せん最悪の状況下で時間通りにナスカ級3隻を
出航させMS全機を回収してくれ。俺を含め全員の命をおまえに預ける。良いな?」
 返事はどうしたか、レベッカ・ニコルソンっ! 惚けた顔のレベッカにフジコの声が飛ぶ。
「は……ひ? い、イエッサー! 命令拝領。艦隊指揮を、と、とり……、もとい。執ります!」

 
 

予告
ついにヴァルハラ撤退戦/亡霊捕獲作戦が始まる。
黒い部隊と、201艦隊の総力戦。
ぶつかり合うウィルソンとラ・ルース、2つの正義。
歴史は語る。正義を語ることが出来るのは勝者のみであると……。

 

 ゴミ溜の宇宙(うみ)で
 次回第十一話 『正義の境界線』

 
 

【第九話 『約束を結ぶ』】 【戻】 【第十一話 『正義の境界線』】

 
 

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