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第二話 『寄せ集め』

Last-modified: 2014-03-06 (木) 19:46:52

ゴミ溜の宇宙(うみ)で
――寄せ集め――

 

「おまえが旗艦の艦長とはな。まともな人事ってのはやろうと思えば出来るモンなんだな」
「たまたま任務に就いていなかったのが自分だっただけで。本来は先任が……」
 デブリ帯の手前。アガメムノン級1、ドレイク級2、ドッグ艦1。そしてMS、MA多数。
第201特務艦隊はその陣容を整え、各艦を連絡チューブが繋ぐ。
 アガメムノン改級カエサルの会議室。艦隊幹部定期会議のテーブルの10数人の中に、
艦隊司令と4人居るはずの参謀達、さらにその彼らに付くはずの補佐官の姿はない。
 おかげで事務的な話はすぐに終わり、井戸端会議の様相を呈する会議室である。
「先任権なんぞどうでも良い、能力のある奴がやるべきだ。それに俺もアウグストゥスの艦長を
司令から仰せつかった。月面定期シャトルの機長からドレイク級の艦長だぞ。司令さまさまだ」

 

 能力は人並み以上にあるのに、冷遇され左遷されていた者達を文字通りラ・ルースが
寄せ集めたのが201艦隊である。それが故にラ・ルースへの信頼も表面上は厚い。
 本心が違おうがラ・ルース自身は気にしていない。表面上であろうと忠誠を誓ったのだ。
 『あなたの駒として働く』、と。
 だからこそあえて初回の顔合わせ、その冒頭は出席しなかった。自らラ・ルースに拾われた
のだ、と言う自覚を持って貰わねばならない。適度な時間の雑談は手法としては手っ取り早い。
だがあまり長い間、放し飼いにするつもりも毛頭無かった。時間がかかれば愚痴も出る。
 会議室へ向かうラ・ルースを下士官が追い抜いていく。
「私はツイて居るな。何かあったか……。良い頃合いだ、損耗が大きくては困るが、さて……」

 

「会議中失礼致します! ……艦長、宜しいですか?」
 かなり慌ててラ・ルースを追い抜いたことすら気づかなかった曹長の階級章を付けた制服が
艦長の耳元へ寄る。
「何事だ、会議の終了後の、……なんだと、偵察部隊が? ――緊急事態につき中座します。
副長、シェットランド少佐も一緒に来てくれ」 
「カエサルのみの変事、なのかね艦長。――少佐が、いやMSが必要なのに?」
 会議室の入り口。追いついたラ・ルースが立つ。

 

「アウグストゥスとブルートゥスはいきなり全開で慣熟航行をやって追いついた。Dナンバーズ
(ウチ)もそれなりに慣らしはしなきゃな。――艦長、吸い込まれたってのがわからん」
 G.U.N.D.A.M.の文字が連合のエンブレムに重なる。敵に奪取され多大な被害を出した
機体デュエル。戦果のみを見ればストライクの圧勝だが、ザフトクルーゼ隊に運用されつつ
常にヤキン戦役最前線を転戦、最期まで生き残った。基本性能の優秀さは間違い無い。
 そのデュエルにストライカーパックを装備できるように改装したのが彼の機体。
ラ・ルースがシェットランド用にと、あえてごり押しして一機だけ。特別に作らせたデュエルプラス。
「同じ部隊の人間ですら何が起こったのかわかっていない。現状ロスト位置以外の情報は無い」

 

「リーダーからDナンバーズ各機。初っぱなから派手になるかも知れん、気合い入れてくぞ!」
 彼の機体の後ろに控えるダガー後継機達。シンプルな構成ではあるが、故に乗り手も
選ばず、整備もしやすい。生産が始まったばかりのGAT02ダガーL。ブルーコスモスシンパ
以外で、しかも宇宙(そら)で運用している部隊は彼らしか居ない。
「ラジャー。Dワン、リーダーに続きます。派手なのは全員大歓迎ですぜ、リーダー!」
『司令より発艦許可出ました。――進路クリア。……Dナンバーズ、リーダーから発進、どうぞ!』

 

――寄せ集め――

 

『Dスリーからリーダー。メビウスが吸い込まれたって、どう解釈したら良いんすかね?』
「わからんな。一緒にいたダガーやメビウスのパイロットも何が起こったのかわからんとさ。
わからん以上はそう言う対応をするまでだ。Dナンバー各機、インフォメーションワイヤー展開、
後ろのメビウス隊、俺等とは距離を取れ。デブリからもだ」
 ――恐らくは。唐突に開いた通信画面にラ・ルースの顔が写る。
『方法は不明だが敵に拿捕されたのだろう。デブリの濃い上に、先日の戦闘でバラまいた
Nジャマーがまだ生きている。そのせいで、各種センサーもまるであてにならない宙域だ、
言葉通りに吸い込んだというのならミラージュコロイドだが、ならばこそ確認など出来ない訳だ』
 何らかの方法でいきなりコントロールを奪う。機体をジャックされた状態でコロイド粒子を
展開した輸送船か何かに取り込まれれば傍目には”吸い込まれた”と写るだろう。

 

 MAをそもそもバカにしているザフトがメビウスを拿捕する……。捕虜が欲しいのだろうか?
シェットランドは腑に落ちない。
「……捕虜なんざ、邪魔になるだけじゃないんスか?」
『欲しいのは武装だ。現にロスト機は全機ミサイルポット装備だった。ミサイルだったら面倒な
調整などは必要ない。――人間は、……捨てる。だろうな』
 レールガンや201艦隊の一部で試験的に運用しているビームガンアタッチメントの機体は
”吸い込まれ”なかった。地味に取捨選択をしているのだ。
 ミサイル起動はワンパルスのごく短い信号ですむし、条件設定さえすればその起動信号さえ
無しでも自動で設定された敵へ向かって飛ぶ。
 敵は人数が居ないのかも知れない。とラ・ルースは思うが口には出さない。パイロットの
緊張感はある程度持続した方が良い。
「捨てる、……でありますか?」

 

『この場合、殺す。と言い換えても構わんだろう。連中が欲しいのは武装だけだ』
 状況から、手間のかかる物は要らない。と言う事だろうとラ・ルースは踏んだ。もちろん
それには人間も含まれる。”吸い込まれた”機体のパイロット。もはや生きては居まい、と。

 

「戦争は止まったってのに何処まで……」
『結果的に人命が奪われたのならば、少佐の考え方も間違っては居まいが……。彼らの戦争。
それにはまだ”停戦命令”が出ていないのかも知れんな』
 確認は出来ていないがパナマで何が起こったか、知っている者ならばメビウスのパイロット。
その運命がどうなったのかは想像に難くない。
 そして味方にさえも追われて居るであろう現状、彼らの臨戦態勢は続いていると見て
間違い無い。停戦中の小競り合い、そう言う状況に201艦隊は自ら踏み込んだ事になる。

 

「ザフトが、武器を現地調達でゲリラ戦ねぇ。微妙な話ですなぁ」
 地上戦であっても滅多に迷彩服さえ着ないザフトである。その手の話はしっくり来ない。
『身内からも追われてはな。なりふり構っておれんのだろう。だからこそ気をつけてくれよ?
”吸い込んだ”仕掛けがわかっていないし、本当はMSが目当てかも知れん』
 いろいろ考えてはいるが、思いついても通信が通らんからな。そう言いながらふと表情を
ゆるめるラ・ルースはいかにも部下想いの若手高官である。
「ラジャー。だからこそ俺等が前に出る。キッチリ見極めてくるぜ。デュエルプラス、オーバー」
『期待するぞ、少佐。……カエサル、ラ・ルースからは以上だ』

 

『Dワンからリーダー。そろそろ現場宙域です』
「確かにジャミングが非道いな……。各機、有線は有事の際もギリギリまで切るな。
これでは連携が取れん。Aテン全機、密集隊形は避けろ。何があるかわからん」
 目視ではわからない程のごく細いワイヤが、MS、MA全機とデュエルプラスを複数箇所
結びつける。そうでなければ細かい戦術画面などはとうてい送ることは出来ない。
 ノイズ対策を施されたケーブルでつながれた、その画面にまで時折ノイズが入る。

 

『Aイレブン、コピー。全機散開フォーメーションF。――その、少佐殿。先ほどの司令の話……』
 A11から始まる機体ナンバーを持つのは同行したメビウスの部隊。幸か不幸か、全機
ミサイルポッド装備である。絶対わざと、だな。あけすけの性格に見えるシェットランドは
だがそれは口に出さない。さっきのミサイルポッドの話も、当然ラ・ルースならば出撃前には
気付いている筈だ。
 それを知らぬふりで出撃させるなら、それは暗におとりに使え。と言われたに他ならない。

 

 だいたいが。いわゆる“反主流派”を寄せ集めたのが201艦隊なのであり、そのボスたる
反ブルーコスモスの筆頭フェデラー・ド・ラ・ル−ス大佐。彼などは何時暗殺されても、文句の
言えない様な立場である。命を狙われるのは何も反主流派だから、だけでは勿論ない。
政治や派閥の力関係などにはまるで興味のないシェットランドでさえ、それくらいは知っていた。
 それほどに優秀で、また狡猾であることは派閥を問わずに誰もが認める所だ。
 そのラ・ルースが何をどうしたものか、最新鋭の装備と最高の人材を手中にした。当人の
柔和な顔からは何も伺えないが、反乱を警戒されても仕方がないと言える戦力である。

 

 その彼がシェットランドを、専用機まで建造してわざわざ名指しで抜擢したのだ。メビウスが
犠牲になること前提の作戦もどうかと思うが、だからといって拒否出来る道理はない。
 腕があるのに冷や飯ぐらい、彼はそんな生活に逆戻りなどごめん被りたかった。
「Dナンバーズだけじゃねぇ。メビウスもダガーも、201(ウチ)は全員腕っこき揃いだ、
ビビるこたぁ無ぇさ。それにいざとなりゃ。――その為のDナンバーズ、デュエルプラスだ」

 

『こちらDツゥ、何も反応は有りません。……リーダーの言う様に目視の方が効果的ですかね?』
 新型ダガーの試作品と共にラ・ルースが調達してきたストライカーパックは、量産試作品ではなく、
【無敵のストライク】が背負っていたものと同型3種。そして格納庫内で異彩を放つのが
ブースターとバッテリーパック以外に、巨大なレドームを装備した索敵用パックである。
 作戦のほぼ全てをMSでこなすザフトには索敵専用のジンやディンがあるのは知られた
話だが、その考え方は連合に持ってくると多少風変わりに見える。
 但しそのおかげででシェットランドの目の前にはジャミングの嵐の中、通常二割減のレンジ
ではあるが各種のセンサーがモニターした画面が映し出されている。
「肉眼ならそれで良いがな。モニター越しじゃ空間の歪みなんぞ補正されっちまうだろ?
よぉ、ボルタ。ハッチ開放して探すってーのか? 広域索敵は継続、気を抜くな!?」 

 

『Dツゥからリーダー。インディゴ3アルファからチャーリーに流動する微粒子を確認、MS移動
の痕跡と思われます。粒子の動きからグリーンセンターの廃棄資源衛星に向かった模様』
「……。メビウスとDツゥは待機。残りは俺に続け、強攻偵察だ! ケーブル切断後再構築」
 ――恐らくは、居るなら逆だ。わざと痕跡を残して移動したのだ。だが、敵をあぶり出さなくては
動きようがない。彼はチラとデータ画面を見る。メビウス隊にはすまないが撒き餌になってもらう。

 

「艦長、当艦が現状で出撃させうる戦力は?」
 艦長席の隣の席で、端正な顔に皺を寄せてモニターを睨むラ・ルース。
「――カエサル、ですか? Dナンバーズはデュエルプラス以外は、現在マテウスを母艦にして
いますので、CワンからCファイブまで、ストライク・ダガーCゼロ隊、都合5機が待機中。ですが、
アウグストゥスのコスモグラスパー4機も未だ調整中で、状況的に随伴は無理であります」

 

 ダガーLは試験運用の側面もある以上、Dナンバーズは現在武装輸送艦、マテウスを
母艦にしている。更にマテウスでは既存のダガーへのストライカーパック用のハードポイント
追加やメビウス用ビームガンアタッチメントの制作も行っている。移動工廠といった趣である。

 

「うぅむ……。宜しい、カエサルは直ちに単艦艦隊を離脱、A3、H12、G5宙域へ向かう。
Cゼロ全機はCワン指揮にて戦闘待機に切り替え。カエサル以外は現状宙域にて待機継続」
 何事もないかのように簡単に言い放つ自らの司令の顔を見返す艦長。
「艦隊指揮は暫定的にアウグストゥス艦長に、――うん? 復唱復命はどうしたかね? 艦長」
「いえ。……コピー。当艦は艦隊を離脱、発進。目標A3、H12、G5宙域。機関長、メイン始動。
当艦は発進準備に入る。各艦との連絡チューブ連結解除、収納開始。第2MS中隊Cゼロ隊は
戦闘待機に入れ。当艦以外には現状待機を伝えろ! ――司令、何をお考えですか?」

 

「敵の頭の位置を、な。やることが派手な以上、現場にいるのはむしろ不自然。私ならあの
宙域で指揮を執りたいと言う話だ。――MSを出している。動かすならカエサル単艦が限界だ」
 ――何を考えている、この男……。そう思いつつ艦長は発進準備が遅滞なく進んでいるか、
チェックの手は休めない。
「ステーションオンラインコンプリート、エンジン臨界まで残り40。オールコンディショングリーン」
「Cワンより、第2MS中隊Cゼロ隊、全機準備完了。現状で待機継続とのこと」

 

 刻々と整っていく発進準備の状況を見ながら、それでも艦長は問わずにいられない。
「我が艦が、単艦で大丈夫と踏んだ根拠をお示し頂きたい。我が艦は連合の最新鋭艦船
とは言えアークエンジェル級と言うわけではないのです。単艦特攻など、特に司令の嫌う
処ではありませんか?」

 

 確かにその通り。特攻など愚の骨頂、人的にも物量的にもリソースの無駄遣いだ。
……艦長とは考え方が近いようだな。そう言うとラ・ルースは、椅子ごと艦長に向きなおる。
「敵の本体、な。たいした規模ではないと思うのだよ。MSが多くて2機、艦船は無し。
根拠と言えば……、カン、だな。艦長には怒られそうだが」
「……司令のカンなら信じるに値しましょう。――カエサル、発進するっ! 微速で前進。発進
10秒後に転進、取り舵20。ピッチ角マイナ20。転進30秒後より出力最大で艦隊離脱!」
「ふっ、上手いな。私は艦長の手の上か。それも良かろう。……経路は任せる」

 

 何を考えているかなどやはり艦長にはわからない。ラ・ルースは何も指示は出していないが
参謀達は既に何かを計算し始めている。わからないなりに、行けば“何か”はあるのだ。
「転進完了、艦隊安全圏の確保を確認!」
「宜しい。――艦長から総員、加速に備え身体を固定。……急ぐぞ。メインブースター点火用意」
 モニターの数字が一気に大きくなり、各グラフも赤くなって頂点を目指す。振動が伝わる。
「5,4、3,2,メインブースターイグニッション! ――最大加速、ようそろぉ!!」

 

「ジェイミー、まだよ。もう少し離れてから……。ケーブルは?」
『だいじょーぶ! 逆光で丸見え。指揮官機はデュエルだね、蜘蛛の巣の真ん中にいるもの』
 シェットランド達の後方、デブリの中で黒いゲイツと、同じく黒のジン強行偵察型を改装して
長距離狙撃用にした機体が息を潜めて居た。
「パメラ、ミラージュコロイドは?」
 黒いゲイツのコクピット内、二つ目の通信画面が開く。
『今のところ順調。但しコントロール系の電圧が安定しなくなっきてる、10分くらいで何とかして。
早くなる分には良いでしょ? 放熱が上手くいかない、拾いモノはやっぱ駄目だわ。接続は?』
「ゲイツ(この子)なら届く。MS隊が置いてった分が浮いてる。捕まえるだけなら10秒、コネクタ
が付いたままだし、そっちに接続するまで20秒でやる。B−2K、いえ2Jのジャックを準備して」

 

 ケーブル自体はそもそも糸のように細いのだが、光の都合で向こうのケーブルは光学補正
を少しかければ丸見え。こちらは陰さえ見えまい。うかつなヤツらめ。黒いゲイツのコクピット、
少女の目はデータ画面をにらんだまま通信のコマンドを叩く。
「室長(キャップ)、敵はやる気です。X102と思われるGを出してきました」
 更にもう一枚、通信画面が開く。
『了解だ。こんなのはどのみち長くは続かん。手出し無用の警告も伝わっただろうし、ならば
ヤメで良かろう。デュエルは堕とさんで良いから足を止めろ。こちらは脱出路の確保を急ぐ』
「イエスサー。――キャップ。そちらこそ4機居ますが寄せ集めです、お気をつけを」
 ――俺を誰だと思ってる。ニヤリと不敵に笑うと通信が切れ、ケーブル断線の表示が出る

 

『残弾25、切るべき糸は18本。レーダー背負ったダガーも含めて全部切るのに全行程5秒』
「OK。ゴーをかけたら3秒後に狙撃開始、MAは無視してデュエルの糸を全部切って。その後は
位置を変えながら先行したMSをマシンガンで攪乱。パメラ、ケーブル接続後は任せるわ」
 了解。二人がそう言うと通信画面は全て消えた。
「ナチュラルどもは何をモタモタしている、早く。――良し距離は取った、……スタートっ!!」

 

 黒いゲイツはスラスターをふかさずにデブリを蹴ってメビウスへ向かう。そのゲイツを掠める
ように遠距離射撃の火線が飛ぶ。ゲイツはいきなりブースターを最大でフカすと一気に方向を
変え、そして消える。
『コントロール頂き! 今回はキャップじゃなくて良かったねナチュラルさん! 私は優しいもん』
 突如メビウスの隊列が乱れ、再度整然と並び直し、そしていきなり全機、一糸乱れず
パイロットを放り出す。その間にもゲイツはダガーの背負ったレドームを、ライフルを切り裂く。
「急いで! コロイド発生装置は切り離し、放棄! MAは収容しつつ全力加速を開始!」
『了解! 行くわよーっ!』

 

 元々強行偵察型のジンはその用途からスラスターの類はノーマルよりも推力が大きい。
最大加速であっという間にMS隊の横に回り込むとマシンガンを撃つ。混乱するダガーの群れ。
 その中、デュエルだけが冷静にメビウスを引き込む輸送船を認識しそちらへ向かおうとする。
「作戦を見切った!? やるじゃん。――でも残念。一機じゃ足りないし、……一歩遅い!」
 突如眼前に現れた黒いゲイツがシールドのビームクローを展開して迫る。デュエルは避ける
しかない。結果、輸送船の加速を許してしまった。
「ジェイミー! 引き上げよ!!」
 信号弾を打ち上げたゲイツは、黒いジンを引き連れ、冗談のようにあっさりと引いていった。

 

「間もなく強引にブースターを付けたポンコツ輸送船が吹っ飛んでくる。予想航路のデブリ、
片付けは終わったか!? 通過予定まで300切ったぞ!?」
『あと60秒前後で予定の分は全て排除完了です』
 ミサイルの調達と追ってきたらしい連合艦隊への警告。我に手出しは無用。通じた上で
かかってくるなら排除の対象だが。

 

「――? センサーに反応!? ……読まれるとはな。――全機に至急! 作業は放棄、
ケーブル切断! ポイントBへ緊急待避せよ!?」
『キャップはどうなさるんですか!』
 多少見込みのある者を現状で稼働可能なMSに乗せているに過ぎない。敵に襲われたならば
逃がすのが常道、その上で輸送船の通過まで時間を稼ぐのはウィルソンの仕事である。
「おまえ等よりはMSの扱いは上手いつもりだが? 死にたくないなら待避急げっ!」

 

「アガメムノンタイプが単艦で来る、だと? ちっ、腰が軽いな。行動のみならず、数まで
見すかされている……? ふふん、ちっとは出来る指揮官が居る様じゃないか。ナチュラル!」
 有線でつながれたセンサー群は連合の船とストライクダガーの姿を捕らえ、黒のゲイツに
データを刻々と送ってくる。数、武装そして接触時間。
「この状況下では苦しいな……。圧倒的ってヤツだ。相打ちにもさせてくれんか……。くそっ、
時間がまだ。――フゥ、アドバンテージはどれだけ稼げた……? 急いでくれよ!」
 彼の駆るゲイツとて完調と言う訳ではない。左の肩アーマーとマニピュレータを2本失い
小規模な不調を、ダメージコントロールの画面を信じるなら102カ所抱えた状態である。

 

 ――だが。彼のすぐ後ろをデブリバンパーに火花を散らして小さな破片を弾き飛ばしながら
穴だらけの輸送艦が通過していく。陰になる部分には黒いシグーが張り付いて、右肩と盾に
骸骨旗のマークを付けた黒いゲイツに敬礼を送るが、それもすぐに見えなくなる。
「ちょいと早いが時間だ。ご足労頂いて恐縮だが、俺は帰るぜ。コドモ達が待ってるんでな」

 

「――ただ、せっかく作ったんだ。プレゼントは受け取ってもらおうかぃ!」
 そう叫ぶとケーブルを引きちぎって、発見されるのも厭わず黒いゲイツはスラスターを吹かす。
 次の瞬間、細い糸のようなケーブルを引きずったまま、センサーがダガーの編隊へと
殺到する。細いケーブルだが、状況によっては目となり耳となるまさに命綱。それだけに
強度は高く作ってある。
 そのケーブルに絡まれたダガーは当然ながら行動不能とは言えないまでも動きが鈍くなる。
そしてそのケーブルの先には岩塊や鉄くずが結びつけてあった。無線のスイッチを入れる。
「安っぽくて悪いがな、ウチのお嬢さん達の手作りだ。せいぜい楽しんでくれ! ははは……!」

 

 致命傷にはならないがかえってそれだけに始末が悪いと言えた。パイロットが頭に来れば
来る程、ワイヤカッターの届かない部分に絡まり、動きを規制され、機体とプライドを傷つける。
 アガメムノン級カエサルは輸送艦とゲイツを確認しながら、救出の為に止まらざるを得なくなった。

 

『キャップ、ご無事ですか?』
「ジェイか? ――俺は亡霊だそうだからな、ならばこれ以上は死なんさ。フゥと一緒に
散らしたヒヨコたちを拾い集めろ。とっとと帰るぞ!」
『イエッサー!』

 

予告

 

 孤高のエースパイロット、フジコ・セリア。自分さえ忘れてしまった彼女の過去は必要以上に
 彼女を縛り、彼女の行動は無意識のうちに規制されていく。その本人さえ忘れた過去を
 覚えているたった一人の人物は……。
 一方、シェットランドと艦長は艦隊司令ラ・ルースの秘めた本心を垣間見る事になるのだった。

 

ゴミ溜の宇宙(うみ)で
 次回第三話 『ゴミ溜の中』

 

【第一話 ――為すべき事――】 【戻】 【第三話 『ゴミ溜の中』】

 

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