Top > 第二話「夢の先」
HTML convert time to 0.003 sec.


第二話「夢の先」

Last-modified: 2014-03-22 (土) 02:16:43

L4宙域に白く浮かぶクラゲのようなプラント「メンデル」。
その内部に建てられたねじのマイナスが付いた円筒が十字に伸びている巨大な円筒の塔。
この塔は「G.A.R.M. R&D」が所有する研究所。そのうちの一つだ。
私ギルバート・デュランダルは今日初めてこの研究所に、いや実際の研究所自体初めてだ。
入り口で渡された白衣姿に身を包み、胸には「G.A.R.M. R&D」に所属していることをネームプレート。ただ今はコンクリートで作られた通路の中で部屋まで案内してくれるはずの主任を警備員の隣で待っているだけの人間。
しかしいずれはこの研究所でコーディネイターの流産が起こる原因を突き止め、そしてディスティニープランを現実味の帯びたものとし、実行できる権力を得て、ナチュラルとコーディネイターとの確執を一掃して見せる。
「この日を待ち焦がれていました。これからよろしくお願いします。」
早足でやってきたここの研究所の主任であるセドリック・アンティガーに部下として初めての挨拶をすると、セドリックは研究に費やさない時間は一秒でも無駄だと思っているのか、ついてこいと言うなり速足でどんどん奥へ進んでいく。
私は、おくれないように黒いくせ毛をやや見上げながら小走りでついていく。
その私の後ろを、先ほど白衣をくれた警備員がついてくる。迷子ならないためだろうか?
進んでいくと主任は扉の前でこちらに振り向いた。
「この部屋が研究室だ」
そうゆうと主任は自分のセキュリティカードをわかるように私に見せ、カードを通した。
すぐについていこうとすると、警備員にカードを通すように注意された。
部屋の中に入ると等間隔に円筒のガラスが数個並んでいた。
円筒の中には液体が入っていてその中には、奇妙な形をした胎児が浮かんでいた。
おそらく死んだ奇形児の遺体だろう。
ゼミで遺伝子操作の危険性として教授にさんざん実物を見せられたが、こんなに保存状態がよいのは初めてだ。
更に進むと通路の脇に透き通った青い水が入った水槽が埋まっていて、中にはまるで小さい脱出ポットのような機械が入っており、その上にはモニターが乗っている。モニターにはまだ生まれる前の胎児が映っていた。
今までさっぱり美術館の存在意義が分からなかったが、何となく理解できた気がする

 

さらに奥に扉を主任が先ほどと同じようにセキュリティカードを通してあける。
その部屋には先ほど水槽に入っていた機械がずらりと並んでいた。
「・・・これは?」
「奇形児として生まれた者のクローン。勿論胎児の状態だ」
一瞬思わず身を引いたが、私は微笑を浮かべながら答えた。
「だまされませんよ」
新参者に対するいたずらとしか考えられなかった。
「クローン技術の使用は違法です。」
―クローン製造は違法だ。違反したモノだけでなくそれにかかわった者も裁かれる。実際に判決を受けたものはいまだいないが、極刑はまず免れないだろうー
昔ゼミの講義で教授が話していた言葉がよみがえる。
そんな違法行為がこのメンデルで平然と行われているわけがないではないか。
「わからなければいい。しかるべき人間以外に」
(意外に粘るな。実直な人柄だと思っていたが・・・)
私の研究者としてのスタートに立ちはだかる偽りのドアを開けようと、私は周りを見渡した。
白衣の人間が機械のモニターを除き、クリックボードに記入している。
部屋の奥には、まだ生まれて50日もたっていないちいさな胎児の遺体が小鬢のような装置の中で浮かんでいた。
後ろを振り返ったところで、私は真実のカギを見つけた。
私は警備員のネームプレートを指し、
「彼は評議会の警備員だ。警察の前で盗みを犯す奴はいないでしょう?」
(これは言い逃れできまい)
しかし返ってきたのは予想していたものではなかった。
「彼もしかるべき人間以外の、メンデルと評議会の人間だ」

 

内容からして嘘以外には考えられない。
あまりにも現実離れしている答えだったが、主任の態度がその確信を激しく揺るがす。
冗談なのか、それとも他の何か?
分かれ道に直面した私の思考を、主任の言葉が首根っこをひっつかみ引き戻す。
「私はここで嘘をついたことはない。一度もない」
その言葉に今まで幸福の奥に引っ込んでいたものが急に迫ってきた。
あの遺体は本当に遺体なのかあまりにも保存状態がよすぎる
子宮にいるはずの50日以内の胎児の遺体なんて取り出せるはずがない
でも、もしあれが意図的に生み出されたのだとしたら
もし生きているのだとしたら・・・
人間が人間をつくる
それも一つの目的のため、それも遺伝子研究のために

 

これでは我々はモルモットとして生み出されるネズミと同じではないか
「我々は、我々は進化した人類だ。こんなこと認められるはずがない!」
自分でも声が震えているのがわかる
「我々はいま現存するどの生物よりも強く、賢いはずだ。
我々がなぜこんな愚かなことを!」
いままで生きてきた私のプライドを
「我々コーディネイターの出産率は年々著しく低下し続けている。
このままでは100年もたたずに全滅だ。」
会ったときから変わらない声が打ち砕く
「彼らの犠牲なくては滅亡を回避することはできない」

 

いつもどこかの誰かがささやいていたいいわけと
「クローンといえどもコーディネイターだ。理解してくれるはずだ」
いつかの時代か、やつらを殺せと歌ったものの欺瞞が力強く響く
「ナチュラルとコーディネイターがなぜ憎しみ合っている理由などわかりきっている」
コーディネイター。その変わらないはずだった夢と誇りを
「作ったナチュラルはコ―ディネイターが滅ぶ危険性を理解していた」
ずっとすぐそばで私を嘲笑っていた現実がそこをどけと食らい尽くす
「だから彼らは我々を宇宙に追いやったのだ。「清き正常なる世界のために」と民衆を焚きつけて」
これまでずっと正しい道を指し示してくれた正義は
「君の教授がここを進めたのは正しい選択だ。遺伝子操作による出産率低下が解決すれば全て解決する。」
これからの道に広がる業火を防ぐ鎧となる。
「ナチュラル、コーディネイターと分ける必要すらなくなる。みなコーディネイターになればよいのだからな」
夢をかなえたこの日。私はコーディネイターとして本当の使命を得た。
全てのプラント市民が、無事な出産という、
地球が生まれてからここまでいきのびた種族なら誰でも持っているはずの機能を得るという使命を

 
 

【第一話「無題」】 【戻】

 

URL B I U SIZE Black Maroon Green Olive Navy Purple Teal Gray Silver Red Lime Yellow Blue Fuchsia Aqua White