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第六話 『選べないモノ』

Last-modified: 2014-03-06 (木) 19:44:48

ゴミ溜の宇宙(うみ)で
――選べないモノ――

 
 

 「チャン・ヤット・パッティ軍曹、一番質量的に大きいものはどれか?」
「G−2と呼んでいる物です。表面積、発生熱量とも他の三つよりも明らかに大きいです。
更にスラスター光と思われる物の目撃件数も一番多くなっています」
 カエサルのブリッジ。無機質に索敵データを流すモニター前。数人が集まっている。
「本命はソイツ……、じゃ、ねぇんだろ? 艦長」
「そこが悩ましいところだ、少佐。相手は明らかに策を弄するタイプだからな」
「裏の裏は表、とも言うぞ。艦長。……単純な方が確かに良いのだが。これではチェス、だな」
 端末を手にする参謀が、腕組みの艦隊司令、ラ・ルース大佐の言を遮る。
「僭越ながら単純すぎるかと。但し、考え方は悪く無いとも思います。熱源の秘匿が
上手くいかないと言う可能性も捨てきれません。そうなら全目標のエネルギー供給源かも知れず……」
 我が方のデータ収集時の妨害要素は?
 腕組みのままラ・ルースがチャン軍曹に問う。
「NJ反応、デブリの陰に各種妨害電波。数え上げればキリがありません。それに4つとも半端ではありますが
ミラージュコロイドを展開している様で、目視観測データさえあてにならない。実際の質量ベースで
果たして本当に一番大きいのがG−2であるかどうか。それすら確定が出来ない。そう言う状況です。
後は至近距離からの強行偵察くらいしか手がありません」
 詳細データの半分以上はザフトのジョーダンから送られてきたものである。
「しかも完全なランダムでないにしろ、4つが4つともまわりのデブリを引き連れたまま流動的に
位置を変えています。つまり機動力がある上、人為的に移動している。と見るのが妥当です」
 だが流動する小さなデブリまでデータに網羅されているはずもなく、更に主目標の4つの大きな物体を示す
位置データさえ移動する。
時間と共に全てのデータが刻々と古くなっていく。
 現状索敵班は総動員でデータの検証と更新の作業に追われていた。
「狙いを絞って攻撃をかけても、今度は他の三つが挟撃してくる可能性が残るな」
  艦長はそう言いながら、すっ。とその場を離れて自分の席へと向かう。
「なぁ艦長、艦隊と艦載機、バラして使ったらどうだろう? 全箇所へ一斉攻撃だ」
「Dナンバーズもバラすのか? 艦ごとの能力差も考慮すればその案は却下だ、少佐」
 シェットランドには目線もくれずに艦長席に収まると艦長は自席の端末を操作する。
「改修を受けたとは言え、2ヶ月前までMA乗りだった者の動かすダガーと、手練れの駆るジンの高機動型。
考える必要はないだろう。全機貴様が動かすのであれば話は別だがな」
「作戦としてはやはりヤマをかけての一点突破でありましょう。その意味でG−2は目標としては魅力的であります。
各目標への通信量だけを見ても、内容の解読こそ出来ませんが一番です」
 通信参謀がラ・ルースを振り返る。
「あえて罠にかかる……。亡霊の考えを見るのが目的ならば、確かに一考に値するやも知れん。
艦隊総掛かりなら、我らの取るリスクは少なくなるか?――ふむ、宜しい。直ちに作戦の立案にかかり給え。
但し条件としてリスクは最小限、G−2の強行偵察を主目的にする。良いな?」
 ラジャー。参謀達は敬礼もそこそこにブリッジを後にし、ラ・ルース大佐もそれに続く。
「つまり艦隊全艦で隕石見学ツアー、って事かい? 艦長」
「少佐風に訳せば、そう言う解釈で間違っては居ないとは思うが。――見学ツアー、な……。
見学で被害が出るなど、ごめん被りたいものだが……」

 

 標準時21:00。高級将校であるネルス・シェットランド少佐は基本的には通常時間帯勤務。
とは言え、管理職でもある彼は意外にやる事は多い。
今も普段の彼からは全く想像出来ない書類仕事の為に自室で残業。と言う行為の為に、端末を睨んでいる。
「全く、なんで全パイロットの出面(でづら)表の承認が俺の仕事なんだよ……。Dナンバーズの連中だって
定期パトロールの時以外、何やってるかしらねーっつーのに」
 ――マックの野郎。こんな超勤、認められるわきゃねーだろうが。……ったく。
煮詰まって頭を抱えた彼の部屋、控えめにノックが鳴る。
「――グリンか? 開いてるぜ、勝手に入ってくれ。今日はカードは無しだ、大隊長様はなぁ、
明後日までに106人分の今週の稼働日報チェックを大至急お……」
「……毎日やらないで、溜めるからいけないのでは?」
「なんだシエラか、てめー誰にくち……、は? 何で艦長? ――まぁ適当によけて座ってくれ」
 女性の声に反射的にそういってから声の主が別人と気付く。
 帽子と上着を取り、カーディガンを羽織った女性が微笑みを浮かべて入り口に立っていた。
「経験値も年齢も、実際はあなたの方が階級章以外全部上。個人として少佐に質問に来ました」
「先任も何も俺はパイロットだぜ、階級章は撃墜数だ。全体指揮なんぞ俺に出来る訳がない。
――個人的にきたってんなら少佐はやめてくれよ。ネルスで良いさ、お嬢さん」
 お嬢さんと言われる年でもないですよ。彼女の微笑みの裏に真摯な顔を見つけ口が止まる。
「――? 司令の事……、か?」
 頷く彼女の顔を見ると部屋をぐるりと見渡す。――盗聴されてるぞ、多分な。
「反応はないけれど、方法はいくらでもある。確かにこんなものは当てにはならない、と私も思う」
 彼女が左手を挙げると小さな計器が2つ、各々「OK」と「クリーン」の表示を出している。
「……制服でなくとも周到なんだな、かん、……キミは」
「とは言え、旗艦艦長で実質、司令の副官のキミの知らん事を俺が知ってるとも思えんがねぇ。
――インスタントコーヒーと、あとはドリンクくらいしかないんだが?」
「情報はそう。けれど考え方、物の見え方はそれぞれ。でしょ? ――ちょっと医務室から
珍しいビンを借りて来たので二人で鑑賞するというのは? 中身は痛みやすいから頂く。と言う事で」
 そう言いながら「殺菌剤 《冷所保管》 」のラベルが付いた茶色のビンを振ってみせる彼女。
絶対に中身は違うモノだろう。
 全く普段とは違う、多少小柄な女性。その彼女がベッドの隅に腰掛け、上目遣いにシェットランドを見ている。
色気の欠片もない安っぽいカップを二つ取り上げる。
 「普段とギャップがありすぎて調子が狂っちまうな、いける口だとは知らなかった。
やっぱり偉くなるモンだな。艦長ともなると、アルコールくらいあっさり持ち込めるのか……」
「これは私の安定剤兼睡眠薬。だから医務室預かりなの。ナイトキャップくらい手元になければ
旗艦の艦長なんて、精神的に参っちゃうもの」
 ――とりあえず。乾杯しましょ? と言う彼女に答えてシェットランド。
「乾杯? 何にだ? 二人の夜に、ってか?」
「私ではネルスのお相手は役者不足、でしょ? ……じゃあ、停戦条約締結と世界の平和に!」
「仕方がない、ならばグラスをあげざるをえんか。……多少残念ではあるがな」
 パコン。色気のないカップは縁をぶつけ合っても、やはり色気のない音しかしなかった。

 

  「――ニホン酒か? 確かに医務室に置かなきゃ危険だな。で? キミは俺に何を聞きたい」
 問いかけながら、艦長の腕章と帽子は見た目まで大きく見せる物なのだな、と妙なところに感心する。
大事そうにカップを傾ける彼女は、彼の脳裏にある艦長より明らかに一回り小さい。
「司令の本心。少なくとも、そこはネルスと共有しておかなければいけないと思ったの。
命令権者は確かに司令、だけど直接部下に死ねと命令を出すのは。あなたであり私だから」
「まぁ、当然キミに説明するまでもないのだろうが頭を整理したい。根本から話をさせてくれ」
 コーディネーターとナチュラル。後にヤキン戦役と呼ばれる事になる戦争。
それは双方の代表勢力、プラントと地球連合。その軋轢によって発生した物であるのは間違い無い。
 地球圏全てを巻き込んだ未曾有の大戦争は、プラント議会の内紛、と言う実につまらない理由で、
完全ではないしろ、とりあえず停戦合意までこぎ着けた。
 内紛はプラントだけではない。地球連合も決して一枚岩という訳では無かった。
連合政府成立当初からの内戦は大戦中も止まる事はなく、プラントとの停戦合意後も
それは全く変わる事は無かった。むしろ、地上展開部隊に余裕が出来たことで激化の兆しさえ見せている。
「司令に呼ばれなきゃ、俺も今頃ジャングルでゲリラ狩りしてるトコだ」
「私も地中海辺りで武装さえない輸送船の航海長。確かにね」
「もっと非道いかもな。俺も、キミもだ。事あるごとにブルーコスモスに楯突いて来たんだろ?
201艦隊(ウチ)じゃみんなが大なり小なりそうだ。昔話なんざぁ誰もしないけどな」
 反コーディネーター組織のまさに筆頭、ブルーコスモス。その勢力は既に連合上層部へと深く食い込み、
いまや連合=ブルーコスモスの図式は揺らぎのない物となった。
それが故にバレンタインクライシスや第2次ヤキン攻防戦時に、地球連合軍として核の投入も出来た。
 それは相手がコーディネーターだから。そう言う事なのだ。
「地球軍にいるとそうだね。コーディネーター自体が、仮想の付かない明らかな敵だものね」
「但し勢力はブルコスだけじゃない、俺らみたいな穏健派だって一応いる。そして……」
  親コーディネーターを標榜すればそれだけでも粛正の対象になりかねない軍内部である。
但しコーディネーターに対して独特の思想を持つもの達は少なくとも粛正は免れた。
 例えばフェデラー・ド・ラ・ルース大佐。彼などはまさにその典型である。
「司令の立場は複雑に見えるが実際は簡単なんだと思う。コーディネーターを完全に隷属させる。
コーディネーターの殲滅がお題目のブルコスとは合わないが、だからといって排除も出来ない。
だって大当初、プラント設立当時の連合政府の目的はそうだったはずだからな」
「そう言う組織がある、と? 司令がそう言う組織の……」
 ポコン。アルコールが入っているとはとうてい思えない音を立ててシェットランドがカップを置く。
「わからんがね、まぁ、あくまでバカの想像に過ぎない。……だがバカだからこそ、内情を知らんからこそ
出来る想像だってある。――あの人ぁ、全部自分で仕切る気だ。全てを、な」
 ベッドの隅にちょこんと腰掛けた女性は急に不安げに周りを見渡すと、流石に小声になる。
「盗聴の危険があると、さっきあなたが自分で……!」
「女が一人で男の部屋に入った。それをデバガメしてる変態だ、多少面白いことも聞かせてやらなきゃな。
それに、聞いたところであの人は何も変わりゃしない。むしろ喜ぶ。変態だからな」
 もう仕事出来ねぇ。明日完徹確定だ。一人の部屋。カップを片付けながらほろ酔いで呟く。
「一番の問題は、酔った女を、俺様が政治談義以外何もせずに帰したこと。だよな……」

 

「艦長、残りの機動大隊。準備はどうか?」
「Aゼロ、Aトゥエニーのメビウス、Bゼロ、Bテンのコスモグラスパー共に順調。3分で体制完了。
MSもダガー改のCテン隊に若干準備の遅れがありますが10分以内で出撃可能です」
 宜しい。ラ・ルースはそれだけ言うとモニターを眺めて後ろに控える参謀に何事か話しかける。
『DリーダーからCIC。デュエルプラスとDナンバーズのダガーLヌーボォ。全機出撃準備よろし』
「CICからDリーダー。デュエルプラスとDナンバーズは、以降別命あるまで待機を願います」
「Cサーティ隊が離れすぎている、デブリ排除の進捗状況の確認! それとブルートゥスの
コースがおかしくないか? 再度確認しろ。一艦でも艦隊行動が乱れれば命に直結するぞ!」
「コピー。双方至急再確認します!」
 現状一番大きいと目される目標、G−2へ向けて全艦で動き始めた201独立艦隊である。
「デブリの排除は現在達成率113%」「ブルートゥス、障害物回避の為の転進とのことです、
誤差の修正は45秒以内に完了」
 張り詰めたブリッジの空気、そして一番張り詰めているのは……。やはり自分か。
隣の席に収まるラ・ルースの穏やかな顔を見て艦長はため息を吐く。
「達成率は良いが何故ブルートゥスが転進しなければならん? 任務をよく考えて艦隊から
離れすぎるなと伝えろ! ブルートゥスにも司令に許可無く転進するなと言っておけ!」
「ラジャー、伝えます!」
「さーて、いよいよだな。……今回はワイヤートラップになんか引っかかるなよ!?
 バタバタしてるからそんなみっともないことになる。全機、何があっても慌てるんじゃないぞ」
 彼がパイロットを続けてきた理由、神経がキリキリと引き絞られる感覚。
それに酔いながらシェットランドはバイザーを下ろす。
『こちらCワン、ワイヤーカッターの動作を確認。前回は大隊長にも大恥を……』
「相手は伊達に二つ名を名乗ってはいない、何をしてくるかわからん。
前回は俺もあっさり後ろを取られた。しかも亡霊の部下風情に、だ。人の事は言えん」
 半分はウソだ。前回、後ろを取られることをある程度わかった上で前進した彼である。
 但し。彼自身も相手を舐めていたと認めざるを得なかった。”亡霊”本人でなければ何とかなる。
エースで隊長。その彼ですら、いつの間にかそう言う慢心があったことを、あえて部下達へ
口にするのをはばからなかった。自身の大失態であるにも係わらず、だ。
「同じ失敗はするな、俺も気をつける」
 敵はザフトの中でも異常な程、戦闘に特化した特殊部隊。前回再確認させられたことだ。
 デブリ帯さえも自らのテリトリーとし、超長距離射撃で直径数ミリのワイヤーを
一発のミスもなく撃ち抜きつつ、攪乱と格闘戦、MAのシステム乗っ取りまでをも同時に進行してみせる。
 武器が無いなら敵からMAを奪い、それすらなければセンサーの残骸で武器をでっち上げ、
中隊規模のMS全機から動きを奪った上で、被害を出す事無しに悠々と退却して見せたのだ。
「出撃全機、一瞬たりとも気を抜くな? 敵は異常者の集まりだ、ユニットは絶対堅持!
自機は勿論僚機、チーム全体の動向にも気を遣え! 全身を目にしろ! 良いな!?」
『ラジャー』
 少なくとも敵を選ぶこと。それが彼らには出来ない以上、同じ危機意識を持たなければ
被害が拡大するばかりで、チームとしての意味など無くなる。。
「俺たちゃエースパイロットだぜ……! デュエルプラス、シェットランド。出るっ!!」

 

  「わかった。オペレーターチーフは状況の把握に努めろ。――連合の艦隊はどうなった?」
 ヴァルハラのコントロールルーム。
ウィルソン以外はヒラしか居なかった筈の12分室はいつの間にか何某かの役職で呼ばれる者が増えた。
 そうなれば尻の据わりが悪いのは何もフジコばかりではなくなる。
旗艦ブリュンヒルデの新人オペレーターは艦長に、急遽思いつきでブリュンヒルデの機関長に
任ぜられた彼女は更に統括機関士長に昇進。
その他、生き残った者はそれぞれに主席管制官、砲雷長、甲板長、医療班長、主任通信士、etc。
自らの所属部署のトップを名乗る者が日増しに増えた。
「進行方向変わらず、3rdステーションを目標に進行中。――ほれ、モタモタしない、到達時間!」
 もはや”セリア隊長”を笑える立場で無くなってしまった彼女らである。
 もっとも急造部隊の4/5が実質学徒動員であれば仕方のないところもあるだろう。
彼女らの下にはその、元ゾディアック師団の少女達が着き、必死の形相で働いている。
「ハイ! ――え、と。進行速度現状ままなら、3rdステーションとの接触まで4時間切りました」
 要らない、と言われる訳に行かないのは“セリア隊長”にすがったパイロット達だけではない。
隊員個々の能力は一般の部隊を遥かに凌駕する分室組が彼女らの上司、必至にもなる。
「必要以上に緊張しなくて良い、データをそのまま読み上げろ。……センサー長もあまり煽るな。
――意外に早い。ふむ。17、いや18%か、計算を上回って来たな。オペチーフ、なんでだ?」
「ダガー1個中隊程度をデブリ排除に使っている模様。――連合としては意外な運用です」
 確かに意外だな。ウィルソンがシートに沈みながら考える。
連合はMS自体を当初こそ馬鹿にしていたが、G兵器は言うに及ばず、GAT01シリーズ量産開始と共に
優先的にエースをパイロットに割り振ってきた経緯がある。
その高級機をゴミ掃除に使うと言うのが理解出来ない。
「メビウスがあるのにゴミ掃除にあえてダガーを使うか。もはやなりふり構わず、だな」
 ――何故だ。と言いかけて口をつぐむ。圧倒的に優位なのは連合。
一方の彼らはタチアナからの”差し入れ”はあったものの補給さえままならないのだ。
慌てる理由が見つからない。 ダガーをゴミ掃除に使うのはメビウスを使うよりは明らかに合理的ではある。
が、連合としての矜持を捨ててまで強引に進行するのは何故だ。彼は答えに繋がるヒントさえ持っていない。
 『3rdステーション班、レベッカ・ニコルソン。コロイド発生器試験まで終了、待機に入りました』
『こちらカタパルト、フジコ・セリア。各班状況確認ののち待機へ移行。――、ゲイツ、出ます!』
 ただで済まないのはわかっている。敵がその気で来る以上人死に無しではもう済まない。
本陣に気付かれないのは良いが、各ステーションに配置した人員の内、
ヴァルハラへ帰って来られない者が出るのはほぼ間違い無い。
「ベッキー、ステーションの把握は済んでいるな? ミラージュコロイド発振器の調子は?」
『メカマンに感謝、です。出力は計算値の113% ヴァートロゥテ(※)が丸々隠れます!』
 彼のハーレムは、そのままのカタチを維持することは初めから出来ない宿命を背負わされた。
――彼が背負い込む荷物の数の堅持は出来ない。こぼれ落ちるモノがあるのは確定、しかし。
「攪乱の要だ、頼むぞ? ――ジェイの部隊との連携は?」
『10分前にジェイミーさんの狙撃班は配置完了報告がありました。現在は既に通信途絶』
 一人だろうと被害を減らす。それがハーレムを任された掃除係の役目だ。彼はシートから立ち上がる。
「向こうも全力では来ないはずだ。此処はウチが絞めてんだ、ジャンク屋崩れの連合軍には、
今回はゴミあさりが終わったところでお帰り頂く。さて、始めようか。……パム、此処は任せる!」

 

  「今回もデュエルが前面に出てくるか……。ワンパターンな。――ジェイミー、見えてる?」
『見えてはいるけど距離ありすぎ。弾かれるわよ? クレメンティナ、マオ=スゥも捕捉できた?』
 戦艦の残骸の陰。黒いゲイツの隣。
3機並んだスナイパーライフルを構えた黒いジンの中央、元が索敵用の強行偵察型であれば、
それを駆るジェイミーのスコープ中央には当然のようにグレイと赤のデュエルプラスが捕らえられている。
「デュエルと高性能型は無視、最終的に距離は足りる筈。――3rdのレベッカも、良いわね?」
『先輩がゴーをかけた時点から通信途絶。ではありますが、3rdとヴァートロゥテはお任せを』
「……ヴァートロゥテ、聞こえて? こちらセリア、待たせたわ。動作の掌握はどう?」
 フゥに作戦の指揮一切を任せる。――オレか? デュエルとやり合う予定なんでな。
フジコは、上司のいつも通りのあっさりした指示を思い出す。こんな時はだいたい被害が大きくなる。
この場合、一人でも帰還できない者が出れば彼女の上司は被害甚大と計算するだろう。
『MAの遠隔操作も含め動作完全掌握! ニコルソンとの連携も良好、いつでもどうぞ』
 黒衣の亡霊は見切ったのだ。この戦い、不慣れな少女達の一部は確実に犠牲になる。と。
「室長(キャップ)の位置は? ――了解。ヴァートロゥテ班、船を捨てるのを躊躇わないでね?」
 少なくとも自分が一部に含まれるわけには行かないし、出来る事ならその人数を減らす。
それが自分の仕事だ。ヤキンの亡霊、自らがヴァルハラからデュエルの足を止めに出て来る以上、
少なくとも彼女は言外にそう命令されたのだと理解している。
「以降通信途絶。レベッカ、3rdはお願い! ――連合のクソ共、只で帰れると思うなよ……!」
 ダガーLを引き連れたデュエルプラスは、突如現れたレベッカの駆るジンハイマニューバを躱すと、
3rdステーション直近まで近づき、そして多少慌てて制動をかける。
小規模の資源衛星と見えていたその物体の背後に突如、その2倍以上の巨大な資源衛星が現れたからだ。
 そして、新たに可視範囲となったその地上には、如何にもどこかからはがして来て取り付けました。
と言わんばかりのミサイルやC.I.W.Sがハリネズミのように表面を覆う。
 通常はいかなミラージュコロイドといえどもそんな事はあり得ない。
不可視であるだけで動力の振動、熱源、機器の微細な電磁波、目視時の空間の歪み。
無かった事には出来ないからだ。
「レベッカは何故? ――でも結果的に最高の角度でかかったっ! ジェイミー、いけぇ!」
 ――但し。半壊した戦艦のジェネレーターがむき出しで熱をまき散らし、大量にバラまかれた
妨害用のNJが未だにレーダー画像をゆがませ、ありとあらゆる索敵手段がデブリに乱反射して
目視角さえ限られる異常な空間。此処では自分の手が届く範囲、それ以外信用できない。
 そしてまるで見当違いの宙域から長距離射撃の火線が伸びる。
目標は勿論、後衛に付いた機動性に劣るメビウス。
正確にコクピットとジェネレーターを撃ち抜かれた数機が動きを止め、一瞬の後、火球に変わる。
ステーションの火砲も火を噴く中、滑り込んでくる黒い影が二つ。
『後方のMAを潰して戦列を分断、オレはデュエルを止める! ベッキーは何処だっ!?』
「多少位置にズレがあった模様。予定位置より26、+13。――レベッカのこと、頼みます」
 更に進行しつつある艦隊の鼻先にあり得ない物が現れる。
半壊したネルソン級を補修した『4人目のバルキュリア』ヴァートロゥテ。
連合籍であるはずのその艦は主砲を、なんの躊躇も無くアガメムノン級カエサルへと向け、
編隊を組んだメビウスが両舷に展開しミサイルを放つ。
 結果的に連合の艦隊はヴァートロゥテを這々の体で撃沈すると後は退却を選択せざるを得なくなった。
犠牲が6名出たことは、はたしてウィルソンにとって軽微な損耗か、被害甚大か。

 

 ヴァルハラの中、被害報告をまとめながらウィルソンの胸中に去来するものは
 それは果たして怒りか、悲しみか、それとも……。

 

 201艦隊のラ・ルースも、幹部会で戦闘の被害報告を受けていたが、そこで彼は
 シェットランド達に、世界の未来をも左右する選択肢を提示してみせる。

 

 ゴミ溜の宇宙(うみ)で 次回第七話 『変節する世界』

 
 

作者注
 ※戦死した勇士たちから、オーディーンの住まう天上の宮殿ヴァルハラへと迎え入れる者を
 選び、運ぶ役割を持った女神達の総称がヴァルキリア(バルキリー)。
 ちなみにワルキューレも読みが違うだけで彼女たちの事。またヴァルハラへ迎え入れた
 勇者をもてなすのもまた、彼女らの仕事とされる。日本語では「戦女神」「戦乙女」とも。
 伝承によっては9人とも12人ともされるが、オペラ『ニーベルングの指環』に登場するのは
 下記の9人。

 

 ブリュンヒルデ、ゲルヒルデ、オルトリンデ、ヴァルトラウテ、シュヴェルトラウテ
 ヘルムヴィーゲ、ジークルーネ、グリムゲルデ、ロスヴァイセ。

 
 

【第五話 『立つべき足場』】 【戻】 【第七話 『変節する世界』】

 
 

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