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第07話〜やりすぎ!〜

Last-modified: 2011-12-07 (水) 13:02:24

最初は、マユちゃんに煩悩を抱かないように何かに集中しようと始めた事だった。
でも、やはりマユちゃんはいつも一緒なわけで……
「スゴイ!スゴイ!スゴイ!スゴイ! お兄ちゃんって天才!」
マユちゃんのはしゃぐ声。あ〜癒される……以前の僕なら、我に返って自分にツッコム場面だけど……
……まあ、良いか。うん。諦めよう。
そんな訳で、マユちゃんの喜ぶ顔に調子に乗った僕は……
「じゃあ、シートに座って……」
「え〜と……こう?」
「そう、それで操縦桿を握って……」
……うん。僕はMSのコクピットを再現していた。はっきり言ってゲームなんてレベルじゃ無い。
しかも、使える機種はデスティニー。本当はフリーダムにしたかったんだけど、マユちゃんの好みを
聞いてたら、何故かこうなった。……チッ! どうせ僕は本当のお兄ちゃんじゃ無いけどさ。
まあ、兎に角、ゲームは完全にMSシミュレーターと化していた。
実際は、シートは動かないからGは無いし、子供でも安心設計なんだけどね。
だから、いきなりマユちゃんが転がってるMSに乗り込んで「えい、このスイッチだ!」なんて超展開は
ありえないんだ。
それでもコイツは、今ある、連合、ザフト、オーブを含めた全てのMSシミュレーターの中で
トップクラスの一品だった。
ちなみにジャンク屋のオジサンとも、すっかり顔馴染みになった。
「マユ・アスカ、フリーダム、いきま〜す!」
そして、MSを発進させてジンを落としまくるマユちゃん。うん。さすがにジンにデスティニーは
反則だね。圧倒的過ぎるよ。
「スゴイね。このフリーダムって」
「うん。名前が良いからね」
ゴメンねシン……格好はデスティニーだけど、マユちゃんにはフリーダムって教えてるから。

第7話〜〜やりすぎ!

「あんまり気にしすぎるなよ」
「……ああ」
トールが気遣ってくれるが、俺の心は晴れなかった。帰艦した俺を待ち受けていたのは……
『あんた…自分もコーディネイターだからって、本気で戦ってないんでしょう!』
俺は窓の外に輝く星の煌めきを見ながら、フレイの言葉を反芻していた。
「俺達は知ってるから、キラが頑張ってるってことをさ」
違うんだよトール。俺が落ち込んでるのは、彼女の言葉が図星だからなんだよ。
そう。俺は本気のつもりで本気じゃ無かった。
今までだって、アスランたちを倒す機会は何度もあった。艦を守るのが優先とか、見失ったとか
もっともな理由をつけてたけど、でも本当は殺したくなかっただけなんだ。
それに俺が苦戦したジン。たしかに良い動きをした。俺の予測を完全に上回っていた。
しかし、それだって実際は予想より強かったから混乱しただけで、俺が戦ってきたテロリスト程では
無い。つまり最初から油断しなかったら勝てる相手だ。
俺は本気じゃ無かった。……俺は窓に映る自分の姿を見る。
本気じゃ無かった理由。相手を見下してたってのもあるけど、最大の理由は俺が、この世界にとっての
イレギュラーだということ。俺はキラ・ヤマトでは無い。
だが、それを言うなら、この体の本来の持ち主、キラ・ヤマト本人がイレギュラーな存在だ。
彼も自分が本気を出す事に疑問を抱えていた。自分のような存在が本気を出して良いのかと。
そして、その事に苦しむ彼に俺はなんと答えた。戦った相手に失礼だ。アンタは神じゃない。
ただの人間だ。俺に負けることだってある。そう言ったじゃないか。
だからこそ、キラ・ヤマトはシン・アスカに心を開いた。自分を倒せる同等の存在を得た彼は本当に
嬉しそうだった。
それなのに……俺は自分が同じ存在になった途端、相手を見下し、本気を出さなかった。
たしかに今の俺は、キラさんとは事情が違う。だけど、俺は今、この場所に存在してるんだ。
明日になったら居なくなるかもしれない不安定な存在でも、俺は今ここに居るんだ。
だったら……
「キラ? 何処に行くんだ」
突然、歩き出した俺にトールが驚いて声をかける。
「艦長たちのとこへ」
俺は笑顔で答えると艦長たちのところへ向かった。
……見せてやるよ。クラインの猟犬の本気ってやつを。

「シーゲル・クラインの娘を返還しろ? 正気か貴様は!?」
「正気ですよ。少尉」
俺が話があると言って集めた艦長とフラガ、バジルール少尉。
そしてラクスを返還しようと言った俺に少尉が怒りを見せる。
「なあ、ボウズ。気持は分かる。たしかに人質なんて格好悪いさ……だが、そいつは無理な相談だぞ」
「そうね。私たちだって好きで彼女を拘束してるわけでは…」
「それは分かっています。理想は彼女を月基地まで連れて戻る事だと言う事は。ですが、同時にザフトに
 とって、1番避けたい事もそれです」
「それは……」
「このまま、俺たちが月に行くまで黙っているとは思えません」
「……まあ、確かに奴が見逃すはずは無いよな」
クルーゼという男を良く知るフラガが同意する。
むしろ、クルーゼにとっては理想的展開だろう。卑怯にもラクスを人質にとった連合に婚約者である
アスランが涙ながらに彼女ごと卑劣な連合の船を沈める。プラントの民は怒りと悲しみを胸に連合に
復讐を叫ぶだろう。そう戦争なんかじゃ無い。復讐をだ。
「だからと言って、返したところで攻撃しない理由は無い。むしろ喜んで攻撃を加えてくるぞ」
「ですが、現在彼等が攻撃してこない理由は増援を待っているものと思われます」
「増援?……アルテミスで襲ってきた連中か」
「はい。つまり、時間を置けば向こうが有利になります。それに、彼女を返せば異なる事があります」
「異なる事?……何だ? それは?」
「奴等はラクス・クラインという、チェックでいうキング。つまり絶対に傷つけてはならない存在を
 抱えたという事です」
「キング……それはそうだが……」
「まあ、たしかに返してもらったのに、調子に乗って攻撃したら、反撃喰らって、お嬢様が
 死んじまいました。なんて言えんよな」
理解してくれた。彼女を返せば敵は守りながら戦わなくてはならない事を。まあ、普段だって自分の身や
母艦は守るが、それでも思い切った行動を抑えられる点は大きい。
「分かった。だが、具体的には? 案はあるのか?」
バジルール少尉の言葉に、俺は予定通り、黙っていた事を打ち明ける事にした。

「はい。そこで、返還の際にはイージスに迎えに来させます」
「何故? そもそも先方が従う理由が…」
「イージスのパイロットは……俺の幼馴染です」
「なっ!」
「本当か!? それは!?」
「……今まで黙ってて申し訳ありません……ですが…」
「ああ、いいよいいよ。少尉も落ち着いて……言い辛い事って誰にでもあるだろ?」
「それは……」
フラガがフォローを入れてくれ、少尉が黙り込む。正直助かった。ここでアスランとの事を説明するのは
面倒だった。
でも、確かにバジルール少尉が慌てるのも無理は無い。今、最大の戦力である俺が敵のパイロットと太い
繋がりを持ってるなんて、まともな神経の持ち主なら疑って当然だしな。
「じゃあ、キラ君、話を続けて」
「はい。イージスのパイロットは、アスラン・ザラ。現国防委員長パトリック・ザラの息子です」
「パトリック・ザラ!?」
さらに俺の落とした爆弾で3人とも驚きを隠せないで居る。
「おい、待てよ……たしかシーゲル・クラインとパトリック・ザラの子供って……」
「はい。2人は婚約者の間柄です。ですから、こちらが指定してくればアスランは間違いなく来ます」
「……わかった。それで、なんだってイージスに迎えに来させる。代わりに人質になってもらうか?
 まあ、アークエンジェルまで来いと言っても、流石に来んだろ」
「はい。それに関しては中間地点で引渡しを、此方からは俺が行きます」
「妥当だな……」
フラガは視線で俺に先を促す。
「まず、引渡し前にアークエンジェルをこの位置へ。それで、引渡しポイントをここにします」
俺は航路図のそれぞれのポイントに指を差す。
「なるほどね。そこなら向こうがラクス譲を艦に収容してからだと、こっちが全力で離脱すれば
 引き離す事が出来るな。だが……」
「はい。敵が攻撃してくるとしたら、引渡し直後が考えられますが、この方法だと、敵の最大の戦力の
 イージスが戦闘に参加できなくなります」
イージスさえ戦闘に参加しなかったら、敵はジンだけだ。あるいはシグーが出てくる可能性もあるが、
どちらにしろストライクは落せない。

「それに、正直そっちの方が都合が良いんですよ。生憎ジンの攻撃ではストライクに有効打は与えにくい。
 警戒するのは艦砲射撃だけで済みます。おまけに戦闘中イージスを盾にして戦う戦法も取れます」
「お……おい?」
なんか口を挟みたそうだが無視して続ける。ここからが作戦のメインなんだから。
「なにしろ向うはお姫様を乗せてるんです。ですから、俺はランチャー装備で出撃し、イージスごと
 ナスカ級を狙撃します」
「イ、イージスごと!?」
そう。敵のナスカ級との射線上にイージスを置き、そのままアグニをぶっ放す。これで、ナスカ級からの
砲撃は無い。
「まあ、イージスは避けるでしょうが、イージスが邪魔で反撃出来ないナスカ級には当ててみます。
 そうやってナスカ級を撃沈できれば、残ったジンも片付けられますし、上手く行けば母艦を失った
 イージスの捕獲。つまりプラントの議長の娘に加え、国防委員長の息子も人質に出来ます」
今取りえる最高の作戦だと自負する。
これならば……って、空気が重いんですけど? むしろドン引きされてる?
「その……つまりこの作戦って、キラ君は幼馴染とその婚約者を盾にして……その……さらに人質に?」
艦長……その言い方は当たってますけど、その少し……
「ま、まあ、私は賛成します。良い作戦だと……その人としてはアレですが……その……外道?」
少尉まで! つーか外道って!?
「……ボウズ。お前さん……その内、後ろから刺されるぞ」
アンタは黙ってろ!……なんだよ……人がせっかく真面目にやったら……激しく欝だ。
なんか嫌になってきたよ……もうヤダ。こんな卑しい仕事……この仕事やめゆぅ……

危うく現実逃避しかけたが、気を取り直してミッションスタート!
「こちら地球連合軍、アークエンジェル所属のモビルスーツ、ストライク! ラクス・クラインを同行、
 引き渡す!」
アークエンジェルが所定の位置に付いたため、俺はラクスさんをストライクに乗せ発進した。
あとは獲物がかかるまで、通信を続ける。待つ。
「ただし! ナスカ級は艦を停止! イージスのパイロットが、単独で来ることが条件だ。この条件が
 破られた場合、彼女の命は保証しない!」
しばらく通信を続けてると暇だったのか、ラクスさんが歌い始める。
「あ、あの……」
「ええ、最後になるようですから思う存分お聞きくださいな♪」
……ありがた迷惑って言葉知ってるか?
まあ、善意なんだろうけどさ、この人の場合は、その善意で戦艦を強奪したり、テロ起こしたりと、
周りの被害が半端じゃないんだよな。ちなみに現在進行形で俺が被害を受けてます。
さらに言えば、子供好きで知られるこの方は、俺の娘を勝手に養女にしようとしたり、それを副指令に
止められると、代わりに俺達が留守の間、ステラの面倒を見てもらう事を提案。
まあ、それは助かるけどさ……でも、その後、途端に俺達の仕事が増えたり……
そんな落ち込みかけた俺を救うように、イージスがやってきた。助かったよアスラン。
それにしても、俺がラクスさんとフラグを立てずに済んだのは僥倖だ。悪い人じゃ無いとは思うけど、
如何せん、常識を遥か彼方に置き去りにしてぶっちぎってるお方だし、キラさんの姿を見てると、
本気でこの人とのフラグは勘弁して欲しい。
実は艦長たちには話していないが、この作戦にはもう1つの真実があった。
名付けて、ラクスのフラグをアスランに押し付けちゃえ作戦!
うん。そのまんま。
この後、2人を人質にしようがしまいが、これ以上ラクスに懐かれたくなかった。だから、ここは本来の
婚約者の出番。今回こうして敵艦に捕えられ心細い思いを……したと思うラクスさんが、助けに来た
アスランに惚れ直すという素晴らしいシナリオだ。
まったく、キラさんもこうしてれば良かったのに。
そんなわけで、さっさとラクスさんをアスランに引き取ってもらうべく行動を開始する。
そして多少の会話の後、ラクスさんはイージスのコクピットに納まった。
さあ! 感動の再会に震えるがいいさ! 俺の事は気にするな! だが、感極まってキスはするな。
まあ、しても構わんがその前にコクピットは閉めろ。そうしないと息苦しいなんてレベルじゃ済まない。

そして、いよいよ感動の再会シーン……
「いろいろとありがとう。キラ。アスラン、貴方も」
……あれ? そんだけ?……アスランなんかお辞儀しただけだぞ。アンタ等本当に婚約者か?
しっかりしろよアスラン! 男だったらなんか言えよ!
「キラ! お前も一緒に来い!」
…………何考えてんだ? お前って……
「お前が地球軍に居る理由がどこにある!?」
待て待て。それよりもさ、アンタ婚約者を無視して何で俺に夢中なんだ?
おまけにラクスさんまで期待するような目で俺のこと……誘ってる? あんだけの事でフラグ起ったの?
…………冗談じゃない!
「あの船には守りたい人達が居る! それを踏みにじろうとしてるのはソッチだろ!」
絶対にプラントなんかに行くもんか! つーか、アスラン! アンタ本気で昔からこうだったんだな!
「……ならば仕方ない……次に戦うときは…俺がお前を討つ!」
何を悲壮感出してる! 敵なんだから当たり前だろ! まあ、良いさ。これで敵対は決まった。
………正直、アスランは未熟とは言え、一流のパイロット。敵に回せば恐ろしい相手だ。だが……
「……本気なの?」
「え? キ、キラ?」
……だが、それ以上に味方にすると鬱陶しくて厄介になる男だ。
「僕を討つって……僕……アスランに殺されるの?」
「い、いや……そうじゃ無くて…」
忘れられないミネルバでの日々……コイツが来た途端バラバラになっていく俺達の人間関係。
「アスランは僕が嫌いなんだね?」
「ち、違う!」
クルーゼ隊の諸君にも味わってもらおうか!
「僕は君を討ちたくない。討たせないで」
「キ、キラァァァァ!」
これで、この馬鹿はいい足手まといになる。俺はハッチを閉じると、イージスから距離を取る。
さあ、これからが本番だ。来いよラウ・ル・クルーゼ!
そして、ナスカ級がエンジンを始動し、MSが発進する。良い子だ……今頃、アンタは俺を甘ちゃん
呼ばわりでもしてるのか?
だが、甘いのはアンタの…
「ラウ・ル・クウーゼ隊長!」
そんな俺に水を差す声。それは凛とした未来の上司様の声……

「止めて下さい。追悼慰霊団代表の私の居る場所を、戦場にするおつもりですか?」
……そうだった。この人の事を舐めてた。
「そんなことは許しません!すぐに戦闘行動を中止して下さい!」
……相変わらず空気を読まない傍若無人な態度………
どうする? 無視して攻撃するか?…………そうだな。ここを見逃す手は無い。 
「キラ・ヤマト、帰艦しろ!」
「な! 少尉!?」
だが、そんな俺を止める声。
「何を言ってるんです!?」
「我々の最優先の目的を忘れたか!?」
そんな事は分かってる! 無事に離脱することだって! だが、仕留められる時に仕留めるべきだ!
「お言葉ですが!」
「キラ・ヤマト! 命令だ!」
「………なんで?」
いくらラクスが戦闘中止を叫んでも、こっちが言う事を聞く必要は無い。ここは攻撃すべきだ。
それなのに何を考えてる?
「君が無理する必要は無い」
「へ?」
だけど、そんな俺に意外な言葉を、優しい顔で告げる少尉……
「無理って?」
た、たしかに前回は無様だったけど、今回は違う。今なら……
「良いんだ。君が無理してる事は分かってる。誰だって友人とは戦いたく無い」
…………も、もしかして気を使われてる?
「良くやってくれた。さあ、帰艦しろ」
そ、そりゃ無いよ……でも、ここで攻撃したら、俺はマジで外道のレッテルを貼られる。
…………優しさが痛い!

続く

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