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第10話〜シリアス〜

Last-modified: 2011-12-10 (土) 16:57:28

 
 

「新しい量子サブルーチンを構築して、シナプス融合の代謝速度を40%向上させ、一般的なナチュラルの
 神経接合に適合するよう、イオンポンプの分子構造を書き換えました」
「よくそんなこと、こんな短時間で。すごいわね、ほんと」
「とりあえずは、これでやってみて下さい。様子を見ながら調整しますから」
シモンズ主任にそう言い残すと、僕は自分の機体に乗り込む。
「さてと…自分の分もやっとかないとね」
僕用に与えられたM1のOSを、コーディネイター用に調整する。
「でも、この時代のMSってまだ飛ぶの少ないんだよな」
僕が乗ってたMSに比べると、M1は性能が低すぎる。
まあ、あまり期待はしていなかったけど、それ以上にM1では飛べないことが難点に思える。
この時代では飛べるやつの方が珍しいんだけど、それでも島国で海岸線から市街地までの距離が短い
オーブでは地上に上がられる前に撃退したい。
そうなると水中用か飛行能力が必要で、宇宙での戦闘も考えれば、空中戦に慣れてる方が望ましい。
「シュライクを作るか」
本来ならヤキン・ドゥーエ戦後に開発されるものだけど、今の技術でも充分可能なはずだ。
「シモンズ主任! ちょっと提案があるんですけど!」
「え? なにかしら?」
「ええ、M1のパーツなんですが……」
な、なんか僕が真面目に働いてるよ。凄く久しぶりな気がする……
「なんだか……シンくんって凄いわね……」
唖然とするシモンズ主任。まあ、気持はわかるけどね。
「このくらい……オーブを、守りたいですから」
おお! シリアスな雰囲気! 
今の僕をマユちゃんにも見せたいよ。

 
 
 
 

第10話〜〜シリアス

 
 
 
 

 
 

「ゴ、ゴメン……ちょっと…これ以上は…」
昨日と同じ、床に倒れ付すフレイ。
貧弱な……俺なんか重量装備で走ってるんだぞ。
まあ、今までろくに運動した事も無い女の子なんだから無理もない……と、言いたいところなんだけど…
「フレイ…」
「ん?……なっ!…なん…」
フレイが驚きに声を震わす。そりゃあ、そうだろ。いきなり頭を土足で踏まれたらな…
「ちょっと! なに……って、痛い!…」
「声が出るうちはマダ平気だ」
少しずつ、フレイの頭に載せた足に体重をかける。
「それとも、いっそ、ここで死ぬか?」
俺はフレイに対し、殺気を放つ。
……ふん、顔が見る見る恐怖に歪んでいく……
「お、おねがい……ヤメ…テ…」
……まだだ。お前の中身を…本性を引き出してやる。
「ふん! 所詮は間抜けの娘か」
「な!」
フレイは家族の…父親の復讐に身を投じた女だ。
だったら、父親の悪口が一番効く。
「そうだろ? だって、助けにきた先遣隊に乗ってきながら、何の役にもたたないなんて、間抜けも
 いいところさ。無駄死にってやつ? それとも犬死に?」
「パパの!…」
表情が変わる。恐怖から怒りへと……
「悪口を……」
頭が少し上がってきた。良いぞ! その顔だ! 
「言うな!」
そして、顔を上げて俺の足を払いのける。
俺をにらむ表情は憎しみに満ちていた。
「悪口? 本当の事さ! 娘のお前を見てれば分かる。役立たずが!」
「違う!」
「フン! だったら証明してみろ。次は腕立て伏せだ」
「……やるわよ! やれば良いんでしょ!」
そう言いながら、目に涙をためて腕立て伏せを始める。
それで良い……俺はそうしてきた。

 
 
 
 
 
 
 

 
 

さてと、体力訓練が終ったらストライクのOSを砂漠用に調整しないと……じきに虎の縄張りだ。
その前に仕上げておきたい。
「キラ!」
「ん?……サイか」
「サイかじゃ無い! お前、フレイに何をした!?」
「何って、特訓だけど」
ちなみにフレイは途中でぶっ倒れた。
完全に動かなくなったので、担いで部屋まで運び、放り投げておいた。
最後まで出来なかったので、運ぶ最中は俺の罵倒をBGMにしながら歩いたから、
ずっと泣いてたけど。
多分、今も泣いてるだろう。さらに全身が痛くて寝るに寝れないはず。
「何だってMSの訓練で、あんなに走ったり筋肉つけたりするんだよ!?」
かなり怒ってるな。冷静なサイが俺の襟首掴んで睨みつけてる。
「ああ……」
俺は、苦笑しながらサイの手首を掴んだ。
「つぅ!」
「俺が本気で握ると痛いだろ? でもなパイロットには必要なんだよ。まずGで息苦しい。まともに
 出来ないときも多い。そのためには心肺機能を鍛える必要があるんだ。  
 それにGは身体全体にかかる。とくに厄介なのが首と腕だ。胴体と違って固定出来ないからな。
 だから、それに耐える筋力が必要なんだ」
俺はサイの手を放した。
サイは辛そうな顔をしてるが、腕の痛みだけの所為じゃないだろう。
「サイ……お前は正しいよ。好きな女の子が辛そうだったら、助けたいのが当然だ」
「キラ……」
「お前は、フレイに死んで欲しいか?」
「そんなわけ無いだろ!」
「俺もだよ」
「だからって……」
「俺に出来るのはフレイが簡単に死なないように鍛えてやるだけだ。それでも、死ぬ時は死ぬけどね。
 今のフレイを見るのが辛いなら、フレイに戦わないように説得すれば良い。それが出来るのは
 俺じゃなくサイの役目だろ」
「俺に……出来るかな?」
……正直、難しいだろう。俺がそうだったから。
今のフレイは悲しみで潰れそうな気持を怒りに変えて生きてるんだから……

 
 
 
 
 
 

 
 

「なあ、ボウズ……本気か?」
「俺は、どっちでも構いませんよ」
翌日、格納庫では困惑の表情のフラガ少佐。その隣には……
「よろしくお願いします!」
パイロットスーツに身を固めたフレイ・アルスター。
目の下のクマがチャームポイント。筋肉痛で眠れなかったらしい。
俺はチラリとサイを見るが、彼は首を横に振った。やはり説得は失敗したようだ。
「まあ、食事は抜いてるんだろ?」
フレイは頷く。吐いた場合が危険だ。下手すれば吐いた物が気管に詰まってしまう。
「でもなぁ……大丈夫かよ?」
「死にはしないでしょうけど、本気でやばかったら中止しましょう」
「そうだな……なあ、お譲ちゃん。耐えられなかったら言うんだぞ!」
「は、はい」
少佐は新型のスカイグラスパーに慣れなければいけないのと、俺のストライクの砂漠での調整を兼ねて
今日はストライクとスカイグラスパーの模擬戦を行う事になった。
そして、いきなりだが、少佐の機体にフレイを同乗させる事にした。
戦闘スピードでのGを体験してもらうためだ。
危険ではあるが、ここで無理と判断できれば、サイにお任せ。
「それじゃあ、行くか。まあ、最初はボウズの調整があるからゆっくりと行こう」
「お願いします」
「よし! ボウズ、それじゃ早速使わせてもらうぞ」
少佐がスカイグラスパーにセットされたランチャーパックを見ながら言う。
俺は、戦闘距離が短い地上では、ストライクがランチャーを使う機会は少なそうだから、
少佐のスカイグラスパーの強化パーツとして使った方が良いと提案し、艦長の許可も得た。
それに最大の理由は、砂漠で色んな換装をするほどOSを弄るなんて俺には無理だし。
そんな訳で、パックはエール1本と決めた。
「それじゃあ、行ってくる」
俺はサイに告げると、心配そうな彼に何も言えずにストライクに乗り込んだ。
「俺の本心はどうなんだ?」
1人になると自問した。
俺はフレイに戦ってほしいのか、それとも諦めて欲しいのか?
もっと正確に言えば、彼女に俺と同じになって欲しいのか、それともなって欲しくないのか?
でも、自分の気持が良く分からなかった。

 
 

アークエンジェルを発進して砂漠に降り立つと、いきなり足が滑った。
「チッ! まだ甘かったか……接地圧が逃げる!……摩擦係数………砂の粒状性……これなら?」
よし、落ち着いた。
最近になって、キラさんの力の使い方が分かってきた。
要するに頭の中に辞書があるようなものだ。キラさんの知識が詰まった辞書。
自分の知識と違い、すぐに出せないのは難点だが、時間をかけてページをめくるように……
「ボウズ! どうだ?」
「大丈夫です……その…」
「こっちは平気らしいぞ。どうだ?」
「気にしないで……全然平気だから」
声には苦しさが見えてるが……強がれるなら大丈夫だな。
「では、軽く始めましょう」
何時の間にか、フラガと平気に話せることを自嘲する気持もあるが、
やはり頼れる人なのは間違い無い。
「OKだ。まずは攻撃を仕掛ける!」
「お願いします!」
最初は、スカイグラスパーの砲撃をかわす。それの繰り返しで、問題点を洗い出す。
「くっ!」
砲撃を避けるたびに足元が覚束くなる。
考えてみれば、地面に足を付けて戦うなんて久しぶりの経験だった。
「逃げる圧力が想定より高い!」
「よし、一旦止める! 調整をやってくれ」
「はい!」
俺はキーボードを取り出して、調整を変える。
「終了です!」
「よし、行くぞ!」
今度は高くしすぎた……俺って不器用だよな。
身体はキラさんのなのに……考えてみればキラさんは戦闘中に変えてたんだよな……
「どんだけ化け物なんだよ」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ! すいません! 今度は高すぎたんで!」
「いや、高いとか言われてもな……変更するで良いんだな?」
「はい」
それを何度か繰り返して満足できる状態になると、次は此方からも攻撃する手順だ。
「譲ちゃん! 今度は回避運動が入るから、そうとうキツイぞ!」
「だ、大丈夫です!」
「よし! やるぞ!」
スカイグラスパーが急降下しながら砲撃を放つ。
狙いが単調! MAの欠点だな。
「甘い!」
バックステップでかわしながら、ビームライフルで反撃。完全にヒット。正直、敵として物足らない。
さすがに攻撃するときはバランスを崩しやすいが、そのためのエールストライカー。
スラスターを吹いてバランスを取る。
「これならいけるな……だけど」
出来れば接近戦での調整をしたいが、MA相手にそれを求めるのは無理だしな。
なんか良い手は……あった。でも、俺に出来るか?
「……やってみるか」
俺はライフルを収め、ビームサーベルを抜く。
「ん? どうした?」
サーベルでは反撃できないから少佐が不信に感じ声をかける。
「構わず攻撃してください」
「は?」
「お願いします!」
「……分かったよ! まったく…」
少佐が旋回して、再び攻撃を仕掛ける。
集中して攻撃に備えろ……今の俺なら……この身体と俺の経験があれば…
「くっ!」
直撃を喰らった。
模擬専用の弾とは言え、結構キツイ。
「ボウズ!」
「続けて!」
今度こそ、見るんじゃない! 感じろ! 
砲撃のラインを……
「そこ!」
サーベルで弾を弾き飛ばす。
「嘘だろ!」
「……やれた。俺にも」
飛んでくる弾をサーベルで払い落とす。
キラさんはビーム相手にやってたんだ。模擬弾くらい。
「続けて下さい」
「お、おう!」
再び急降下に入り、攻撃を仕掛けようとする……さあ、やってやる!
「待て、ボウズ! 中止だ!」
「え?」
「嬢ちゃんがヤバイ!」

 
 
 
 
 
 

 
 

急いで着艦し、スカイグラスパーを見ると、丁度フレイが降ろされるところだった。
「フ、フレイ……」
俺はコクピットに座るフレイの姿に愕然としてしまった。
「……戦っていたのか」
そう、彼女は腕を前に置き、操縦桿を握る体勢で固まっていた。
おそらく、心の中で俺に攻撃していたんだろう。
「フレイ! しっかり…!」
サイが駆け寄ったが、フラガ少佐が彼女のヘルメットを取ると、その姿に踏み止まってしまった。
「飲んでますか?」
「いや……大丈夫らしい」
胃液を吐いて、汚れた顔。
俺は不安を質問したが、少佐は彼女の呼吸を調べ、安全を確認する。
「ボウズ……いや、何でも無い」
しまったな。不信に思われたらしい。普通はサイの反応が正しい。
それほど彼女の姿は一般の人には正視しがたいものだった。
「医務室に運びます」
「そうだな。頼めるか」
「はい……フレイ?」
俺が少佐に代わり、フレイに触れると、彼女の目が開いた。
「ころ…してや…る」
「……そうか」
吐いたばかりの胃液に汚れた顔は、苦痛と怒りに歪み、その瞳には狂気にまで昇華された憎しみの炎が
宿っていた。
「アンタ等……コーディ…イターをみな…ごろし…してやる」
「今のお前には無理だ」
「……だったら…」
「ああ、強くなれ。俺が強くしてやる。俺を殺せるくらいに」
そう言うと、彼女は再び目を閉じる。気を失ったか。
俺は彼女を抱き上げ医務室へと向かう。
「……ゴメン」
サイと擦れ違うとき、謝ってしまった。謝っても意味は無いけど……
でも、サイの望みは適わない。

 

それは俺が一番知ってるから。

 
 
 
 
 

続く

 
 
 

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